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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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Mockumentary(モキュメンタリ―)

 かしゃこん。ぎっこ。

 油の切れたチェーンがたわむ音が妙にやかましい。

 星々が居座っていた空は徐々に青さを取り戻していく。

 片手にジュース缶を持ち、その脇に開いたビール缶をもった不安定な状態で坂を上る。


 かしゃこん。ぎっこ。

 今日もお仕事頑張りました。

 ぬるくなった発泡酒を煽ってにんまり。

 わずかな炭酸の名残を舌に受け甘ったるい息を吐くこう。

 自転車籠のジュースの缶を手に取り、ビール缶を脇にまた挟む。


 珍しく呑んだな。

 早く帰って寝よう。


 踏切をよろよろ通り過ぎようとすると警察の人が見えた。お疲れ様です。


「君。片手運転は危険だよ」


 朝から大変ですね。俺は曖昧に頷きつつ『片手と言っても缶持った手はハンドル押さえているぞ』と心の中で呟く。まぁあちらさんもお仕事だ。

 それよりちょっと気になったのは腋に挟んだビール缶。ぺこんと音立てるビール缶。



『君、飲酒運転は犯罪だと知っているよね』


 相次ぐ自転車事故の影響で今年七月から自転車保険が義務化されたのは知っているし、自転車の危険運転が講習を伴う罰金刑なのも知っている。


 だからって工事で使うような結束バンドを手にはめてネズミ捕り搬送を待つ俺たちの姿はシュールすぎるだろう。爺さん婆さん若い娘にヤンキー風のおにいちゃん。そして俺。若い娘は二十歳くらいか。


 なぜ自転車ごときで捕まらなきゃならんと叫んでいる爺さん。俺も問題だが普通に今では犯罪である。

 彼は『風を感じるため』と抜かしてブレーキなしのビストを乗り回して急カーブ。前方を走る自動車を止めかけたところを警察に見つかって検挙されたらしい。警察グッジョブ。

 それで飲酒運転とかありえない。

 今どきビストとかもっとないわ。


「大学どうしよう」


 涙目の女の子は学生さんらしい。

 どうしようもない。俺たちはこれからドナドナらしい。何が面白いかって『はい。バンドつけて~~』と警察の人が言うと自主的にお縄につく日本人特性である。

 ヤンキーの兄ちゃんが『あ、はい』とか可愛い。



「即逮捕なんて知らなかったな。

 講習だけだと思っていたぜ」

「講習ってなに」


 ずっこける俺とヤンキーの兄ちゃん。

 あ、兄ちゃん知っていたのか。


「知らんのか?! おばちゃん?! 危険運転行為を三年間に二回以上した人は講習受けないといけないんだよ」

「講習手数料五万円だったっけ」


 兄ちゃんの話を聞いておばちゃんは血相を変えた。


「五万円?! ぼったくりじゃないの?!」

「あの。講習の額は確かに五万円ですが」


 俺は警察に食ってかかろうとするおばちゃんの背中に呟いた。


「受講証明書と筆記用具と身分証も必要で、あと危険運転の罰金や実刑は別途だったと思う」


 ちなみに飲酒運転は極めて罪が重い。

 罰金なんと一〇〇万円以下。

 これとは別に殺人になったら賠償額が億いったりする。自転車保険に入りましょう。

 朝っぱらからなんて日だ。



 ため息をつく俺。騒ぐおばちゃん。

 たたき起こされて近所の人まで集まってきた。


「あ、山田さんちの奥さんよ」


 これは晒しも良いところだ。

 なんとかならないのか。


 あ、また捕まった。

 結構自転車の飲酒運転知らない人多いのだな。

 今まで自転車の飲酒運転に対して注意だけで警察が済ませていたのは理由がある。

 運転免許証を必要としない軽車両である自転車は法律上いきなり実刑を受けてしまう。交通刑務所の扱いも同じだ。いきなり前科持ち一直線。


 だからといって今まで通り注意だけで済むだろうと乗り回すおバカさんの中にうっかり呑んじゃった俺も含まれるわけであり。

 なんで自転車屋が酒飲んでいるんだ。

 ああ。お客さんに恥ずかしい。


 地球が回って朝が来る。

 前科一犯飲酒運転の俺達の髪やハゲ頭を太陽光線が焼きだした。

 え? 前科二犯? ヘルメットなしもダメですか。

 ふんだり蹴ったりするのはペダルだけにしてくれ!

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