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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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やつはさいきょーの勇者

「終わったな」

 ため息をついて私は戦いの構えを解く。


 号泣する娘たち。

 彼女たちの足元には分裂、四散した男の亡骸。

 彼は勇者だった。そして今やただの死体。


「待ちなさい、グルンガストIII世! アリオンさまの仇!」

「人殺しぃ!!」


 血涙を流して私に挑もうとする少女たちに肩をすくめる。

 私は魔族ではあるが無用な血を見るのは嫌いなほうだ。

 血と言うモノは魔神様の復活の儀式のためにとっておくべきであってくだらない私怨などで流すものではない。

 しかし憤怒に染まった瞳で私に剣を向ける少女たちは矛を収める様子がないのも明白である。


 この娘たちひとりひとりは私よりはるかに優れた戦闘能力を保有している。

 対して、私自身には大した能力はない。

『如何なる存在、強さでも等割し、即死させる』

 こんな異能の力を持っていることを除けば平均的な人間の成人男性にも劣る身体能力と魔力しかないのだ。

 我が名はグルンガストIII世。魔界九大天最弱である。



「まて。グルンガスト!」


 振り返った我々が見たものは驚くべき光景だった。

 等分割された遺骸がひとりでに浮き上がり、血潮を吹き飛ばしながらくるくる回る。

 錆びた血の香りが周囲に舞い、私はスーツが汚れないように防護の魔法を使う。

 血がスライムのようにのびて勇者だった肉片二つをつなげ、ゆっくりと再生させていく。

「危なかった。再生と融合、自己蘇生が出来なくば死んでいた」


 勇者アリオン。なかなかの傑物と思っていたが侮りがたいようだな。だが。


「ラビッ♪」


 ポーズを私がとると彼の身体は再び爆散した。

 悲鳴を上げる乙女たちに背を向けて私はその場を立ち去ろうとする。魔王様に報告せねば。


 しかし私が見たものは驚くべき光景だった。


 粉々になった肉片どもが蠢き、浮遊し、より集い、縦二つに等分された男の遺骸がくるくるとまわりつつ、立ち上がる。

 その遺骸は切断面を外に、両の手の指を合わせて叫ぶ。



『融合ッ! パッ!!』


 復活した勇者を私はすかさず八分割。

 だが自己蘇生魔法を使う勇者はまたも復活。しかも。


「今度は二人になった! もはや貴様に勝ち目はない!」

「ラビッ」


 なお、この指パッチンは気分であってやらなくても問題ない。


 等分割した遺骸を残して立ち去ろうとする私にまたも二人の勇者が立つ。


『この技だけはやりたくなかった』

『想いあう二人だけが行える最強の技!』


 融合魔法とやらは確か二人以上の人間が合体することでまったく別の、能力が倍以上ある人間が生まれる恐ろしいものだと聞いたことがあったが、私の能力は相手がいかなるものでも等分割して殺すというものである。結論から言えば彼と私の能力は相性が良い。


『ラビッ♪』


 悲鳴を上げる女たちを残して去ろうとする私に。

「さっきは油断したが融合して四倍強くなった」



 勇者の言葉を待たず能力発動。

「ラビッ♪」


 揺れ動く風。生暖かい血の香り。

「六十四倍強くなった俺の」

「ラビッ♪」


「アリオンさま。お世話になりました」

「ドン引きです」

「いつか融合する日を夢見ていましたが、気が変わりました。御達者で」


 女どもに見切られて見境がなくなったのか、勇者は融合で強化済みの身でまた襲い掛かってくる。

『ラビッ』


「まてえ」

 六十四人が六十四倍に増えて四千九十六名の勇者が両手を振り上げてポージング。更にくるりと回転して指先を合わせ、融合の儀式を次々と。


「四千九十六倍強い俺が貴様を倒すっ?!」

 女たちに振られたからって自棄を起こしすぎである。

「ラビッ」


 もう何がなんだか。融合しなくてよいのでは?

「四千九十六の四千九十六倍で……ええと」

「千六百七十七万七千二百十六人か」



「ありがとう! グルンガスト! これで心置きなくお前と戦える!」

『ラビッ』


 だから、どんなに増えても無駄なのだが。

「絶対、増えて増えて増えまくれば貴様を倒せ」

「ラビッ」


 余談だが千六百七十七万七千二百十六人のアリオン軍団は十六億七千七百七十二万飛んで千六百キログラムの自重のみで貴重な遺跡を粉々にし、王国を壊滅に追いやった。

 余談だが勇者アリオンが生まれ変わる前に住んでいたとされる異世界、『チキュウ』の重さは5.972 × 10^24 kgであるらしい。


 ああ、もちろん次だか次の増殖で滅んだ。

 何がというとこの世界がだ。


「惑星アリオン誕生! グルンガスト! 貴様を倒す」


 繰り返すが、私の能力は如何な敵対者でも殺すというものであり。


「ラビッ」


 遠くから狙撃すれば普通の人間同様死ぬ私だが、敵対者がいる限り死ぬこともないらしい。



「木星級巨大惑星アリオン登場! グルンガスト貴様を」

「ラビッ」

 勇者の融合だけでできた惑星は汚い花火となった。

 まあほとんどタンパク質と金属(鎧だった)だからだが。なお、木星とやらは1.898 × 10^27 kgちょっとだ。


 しかし、数を増やして合体融合すればいつか私を倒せると判断しているアリオンシステムはいまだ健在である。


「生体脳直結アリオンコンピュータは結論する。敵グルンガストIII世を倒すために更なる増殖を」

「貴様、王国を救うという目的はどうした」


 まあ、私も魔王様たちがいなくなって一時間たっているのだが。


「恒星アリオン誕生。グルンガスト。年貢の納め時だ」

「ラビッ」

 なお、太陽は1.989 × 10^30 kgある。

「中性子星アリオン誕生!」

「ラビッ」


「量子コンピュータアリオンシステムは旧型の生体脳システムを廃棄し、更なる」

「霊子コンピュータアリオン霊群は神を超え」



「ラビッ」

 そろそろ、増殖しなければ倒せないという思い込みをやめてほしいのだが。

「ブラックホールアリオン誕生」

 ……無駄だった。



 予測はできたがどうしようもない。

 等分割されたブラックホールはやはり接触を起こし、宇宙が消滅する。私の所為ではない。


「ダブルブラックホールアリオンドライブ搭載、アリオン宇宙艦隊は敵グルンガストを補足」

「先の敗北の原因はかつて人型であった旧世代アリオン群が自らの手で等分割をして増殖を試みた結果、等分割融合に時差が生じたためと推測」


「神を超え、悪魔をも滅ぼすアリオンシステムの強さを」

「ラビッ」


 こうして、一つの宇宙が滅び、新たな宇宙が宇宙と接触して生まれていく。

 私たちは神話となった。


 拝啓。魔王様。これが六日働いて一日休むということでしょうか。

「ラビッ」敬具。

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