転生チート逆ハーな主人と私との日常 ~本当にチートは尻拭いする手下A~
我が領主様は異世界の人間の記憶を持って生まれてきたという変わり者である。
その所為か無駄な武力や魔力に恵まれており、幼き時はトラブルが絶えなかったのを私は記憶している。
また異世界の政治制度を無理に導入しようとして軋轢を生むなど困った人物なのだが本人には悪気は全くなく領民を心から想っている優しい人物である。
だが! 私にかかる負担はハンパない。
もう一度言おう! 何度でも言おう!
ハンパないと!!
姫様が生まれた日、私は五歳の少年だった。
『憂国王』の治世十六年。射手の月である。
姫様の遊び相手としての任務に選ばれた幼き日の私は、初めてみる主人たる彼女を抱いたのだが。
『こいつ。睨んでいる』
睨むわけがない。
まだ目が見えない赤子のハズである。
しかし幼いころの私の直感は全然外れていなかった。
これから私の苦難の日々が始まるのである。
姫様はハイハイが得意だ。
というか成長早くないか。
父上がツッコんでいた。
一応言うがこの時期の姫様は骨がまだくっついていない。ここで無茶なハイハイなんて自殺行為である。にもかかわらず姫様は私たちの目を盗んではハイハイして本を読んでいる。
何故読める。
私もまだ読み始めたばかりだ。
父上は『まぁうちの主人の家系には時々こういう人物が産まれる』とため息。
なんでも心当たりがあるらしい。
とりあえず有害図書を引き抜いておく。当時の私GJである。
特に独身が加速してマッハになる奥方様の秘蔵の書物を処分したとき、姫様は本気で泣いておられたが知ったことではない。
骨がくっついていないのに這いずる姫様にこっそり強化魔法の手配をする父上。
ああ。当家の隠し資産が無くなっていくと父。
幼い私は「ふーん」とだけ答えたが父の仕事は早々にして私に引き継がれるのである。
とりあえず姫様が怪我をしないように床の上を片付け、怖ろしく値段の張る敷物を敷き詰め、それでも足りないところは領民に父上が『ドゲザ』をして織ってもらった敷布を張り付ける手伝いをしたことが当時の日記に残っていた。どうも私は当時から苦労していたらしい。
姫さまが歩けるようになると即座におまるにダッシュした。ダッシュである。
当然幼児にそんな運動能力があるわけが無く私は必死で彼女を止めたのはここに記すまでもない。
「……」
実は姫様は喋れるのだが異常と思われないように私たちの前では黙っている。
バレバレである。
この子はちょっとトロイ。
私がおまるの使い方を解説する前に彼女は私を叩きだして用を遂げた。
まぁ、許容範囲らしい。
父上に言わせればだが。
問題行動が発覚するのはこの後だ。
姫様、こともあろうに人糞を生で作物にかけようとする。寄生虫の温床だし、普通に作物が枯れる。
豚糞と鶏糞があるのに何をするのだ。
しかも領民にこの素晴らしい農法を広めよと私に話しかける。
うーん。こまった。
この姫様の暴挙にして妄言に父上曰く『長期にわたって腐敗魔法と光魔法で腐らせてからなら肥料になる』そうだ。
(※ 姫様の言う『元の世界』は人糞が凍らずに腐ることが出来るほど温暖な世界らしい。というかウンコが腐るのかと幼年時代は思ったものだ)
手間暇かかり過ぎであるが主人の意向である。無視するわけにはいかない。
と言うか三歳に満たないのだが。当時の主人は。
このころになると主人は広域範囲魔法をぶっ放しかけたり、素手で完全武装の傭兵団長をぶん殴って退職させたりのトラブルを巻き起こすのだがこれを温和なうちに解決するのも私たち親子の仕事である。
と言うか当時の私は一〇歳に満たない。
もう少し遊ばせてほしいものだ。
「ぼうりょくはいけないのですッ」
アンタが一番暴力だ。
キラキラ光る瞳で『せいぎのためにがんばります』と言う姫様。えっとですね。当家は地方領主なのです。傭兵団を追いだしたら当然山賊化しますよ。
妄言を繰り返す彼女に父上が軽く苦言を突っ込んだが、突っ込む気にもなれない事件が起きた。
案の定山賊化した傭兵団の皆さんが近隣の領地になることを拒んでいる村を襲ったのである。しかし領地でないならうちには関係ない。
だが姫様は厩にダッシュ。
私に盗ませた馬に飛び乗ると魔法を駆使して救いにいった。
彼女は五歳。私は一〇歳の時である。
結果?
ぼこぼこである。
五歳の幼女が魔法を駆使して傭兵団をフルボッコである。
私は胸を張る彼女を尻目に『あれは領主様の娘ではなく、神の奇跡だ』と脅える村人たちに吹聴して誤魔化した。放っておくとうちの主人の家が化け物一族にされてしまう。
村民たちはなんとか私の嘘を信じてくれた。まぁパニック状態だったからであろう。
その後、将来に危機を感じた賢明なる主人の家は彼女が異端審問官に連れ去られないよう家庭教師を雇い入れたが、家庭教師たる彼女は姫様の言で言うならばハッキリ言って大して貢献したわけではない。
そう。学問的には。学問的には。学問的にはねっ??!
「べんきょうつまんない」
姫様を宥め、この世界の常識を説く必死の努力により彼女が道を外さないように、領民に怖れられないように血涙を流す家庭教師の彼女を見ながら幼い私は『オトナって大変だ』と思ったものである。
姫様が謎の植物を持ってきた。
沼地に生える毒草でコメと言う。
姫様曰く『脱穀して炊けば食べられる』そうだが。
私と父上と家庭教師の三名は姫様が美味しく食べられる『コメ』を作るべく英知を尽くす羽目になった。
そもそもコメは赤い。粒も小さくて不味い。
姫様曰く白くて麦の一〇倍収穫するためには気温がこの国には足りず……後は解るな?
膨大な費用をかけて取り敢えず彼女だけに食べさせるためだけに作った米を食べてご満悦の姫様。
ものすっごく可愛い顔だったので反則である。
旦那様も奥方様も溺愛するわけである。
ちなみに姫様は六歳に満たない。
魔法をかけた一大プロジェクトはこの後二〇年の時を経て、姫様に敵対した魔王たちの技術も取り入れやっと実現に至った。
姫様は魔王たちに打克った要因だと認識しているようだがコメが実用化して戦争の補助になったのは姫様が魔王を聖剣でオーバーキルする直前の話である。
『と言うか、さっさと魔王を倒しに行け。逆ハーレムやってるんじゃねえ』
コレは若き日の日記の抜粋だ。
当時私は二〇歳である。
姫様はニコリと笑うと相手が惚れるらしい。
実に業が深い能力だ。
変態化した人々が危害を加えられないように必死で保護するのが我らの仕事である。
姫様が危害を受ける?
ははは。ご冗談を。
他にも脱穀機だの、印刷機だの計算機だのの開発の困難と苦闘の記録を日記から発見した。
「こういう機械が欲しいから作れ」
「構造は?」
「知らない。スタンプいっぱい」
「すたんぷ?」
「印鑑?」
「印鑑ではなく印章でしょう。印鑑はハンコを押した痕です」
「どうでもいいじゃん」
万事が万事こんな調子である。
私はほうぼうの技師やドワーフに頭を下げ、気難しいドワーフたちの機嫌を取る技術を身につけた。
幼年にして気苦労が板についたのである。
「ミンシュシュギをみにつけさせます」「学校を作ります」
働き手が減ると怒る農民を宥め、あるいは酒盛りに誘い。
前後するがこのころの私は一五歳の反抗期であり、姫様には忸怩たる思いをしたものである。
そんな気苦労の日々が終わり、あのバカ娘が王子をたぶらかして、もとい見初められて結婚するとほざいたときは流石に安堵した。
偉い偉い大臣たちが内政をやってくれるのである。
これで引退できると言う物だ。
故郷の村に戻り、美しくはないが気遣い上手と評判の娘を嫁にもらう手配をしていたその時。
「アルフレッド!」
姫様の声が聞こえた。
「アルフレッドじゃないと私の言うことの意味が解らないらしいの」
でしょうね。
半泣きで訴えるかつての主人に呆れる私。
姫様の常識を超えた妙な思想や機械に関する知識についていけるのは日常的に彼女の言動を聞いて実行していた私しかいないであろう。
「と言う訳でついてきて」
「お断りします。田舎で妻を娶って暮らすのです」
彼女は美女というには少々無理があるが、素朴で気のよい素晴らしい女性だ。
絶世の美女である姫様と容姿では比べ物にならないが、私は彼女の噂を聞いて妻とする決意を既に固めており。
「じゃ、私が嫁になるからついてきて」
「国王様を敵に回すのですか」
婚約破棄なんてとんでもない。
「倒した」
「はぁ?」
「だから王子様との初夜前にあのエロ親父が襲ってきたからついつい」
「……」
こ、こ、この国はこれからどうなってしまうのだああっ?!!




