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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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国王からひのきの棒を貰い、スライムな彼女と旅に出る

お城に無理やり連れてこられてひのきの棒一本貰って魔王討伐に向かわされました。

 突然だが俺の手の中にはひのきの棒が一本ある。


 ひのきの棒。

 某国産ゲームでは最弱武器と言う代物である。


 丁寧にやすりがかけてある。

 断面は真ん丸。

 言うまでもないがどこにでもありそうな棒切れだ。

 長さは俺の肩ほど。


 会社休日の有る日、俺はやることもなくWeb小説を書いていたら異世界に居た。


 まて。異世界に行くのは俺が書く物語の主人公たちであって俺ではない。どんな罰ゲームだ。

 異世界トリップが許されるのははたちまでである。痛すぎる。


 だいたいトイレも無ければ風呂もない。飯も不味い異世界に裸一貫無一文で放り出されて生きていけるはずがない。

 そんな俺内面のツッコミを無視し、状況は変わらず。

 俺はぼけーっと青い青い草原で呆然と立ち尽くしていたわけである。

 都会暮らしには澄み切った風の香りが心地よい。肌にあたる風は程よく暖かくて気持ち良い。

 正直夢心地だった。



「あんた何しているの?」


 そういってぷよぷよしている奴が声をかけてくるまで。

「??? スライム??」


 それはおもちゃ屋で見るあのブヨブヨした奴に目玉があるものだった。


「今、くず(スライム)って聞こえた気がするけど、ボクはジェリー族だぞ。人間よりずっと強くて偉いんだぞ」

「あっそ」


「こら~! 無視するな~!」


 そうしてぴょんぴょん跳ねて抗議する奴を宥めすかし、夢か現かぼーっとしていると奴が唐突に口みたいなものを開いて俺の袖を噛む。


「夜はボクより強い魔物が出るからとっととこっちに」

「あ。うん。うん」


 ヤツに先導されて草原を横切り、言われるままに狩りの手伝いをさせられ、魚釣りを手伝わされて夜を迎えることとなった。おふくろどうしているかな。

「チャッカ」

 ヤツの口から小さな火が飛び出して枯草に火がつく。

 ばちばちという音とともにたき火が広がり、世闇を押し分け、暖かな熱と共に魚の焼ける香ばしい香り。

 はむはむ。もぐぼぐ。



「火がついていたらジェリー族以外の魔族はほとんど寄ってこないから」

 へぇ。

 はふはふ。

 魚の櫛を差し出すと少し驚いたようにしてヤツはそれを受け取る。闇の中、お互いの声だけ大きく聞こえる。

「魔素が強い魔物ほど天然の火を怖がるの」

「ジェリー族って」


「うっさい! 最弱とか言ったら噛むぞッ」

 拳大のチビの癖に凶暴な奴だ。もう噛んでいるし。

 そんなこんなでこのジェリーに救助された俺は彼の召使いとして生活することになったのだが。

「何故家が無い」

 俺の抗議はおそらくまっとうなものだと思う。

「ジェリー族は家をつくらない」

「ニンゲンは家が要るんだっ?!」

 いくら雨がほとんど降らないといえ雨晒しとかたまらん。

 なんか前日は当たり前のように野宿だったから気づかなかった。

「じゃ、ぼくが家になってあげよう。敬え」

 みゅっと伸びた彼の身体は一瞬で俺を覆うドームになった。便利だ……。



 この世界はジェリー族をはじめとする(註:彼曰く)魔族と人間が戦争をしているらしく、ニンゲンを見たら殺せと言われているらしい。


「じゃ、なんで俺を殺さない」


 俺が疑問の言葉を口にするとヤツは少し視線を泳がせた。

「ニンゲンをはじめてみたらデカくて怖かった」

 おい。仕事しろ。人間が首をふるようにぷるぷるするヤツ。


「それにジェリー族は元々争い事が嫌いなんだよ」

「ああ。わかるわかる」


 振り返って明るくふるまうヤツと俺。

 妙に意気投合する俺たち。


「だからさ~。お前も元の世界に戻るとか言わずにぼくと暮らしなよ~」


 仲間の魔物と会うたびに『ニンゲンの召使いを手に入れた』と喜んでいる彼を見るとそんなに魔物たちが悪い連中には見えないのだが。


「ああ。ぼく等は弱いからねぇ」

「うむ。助け合って生きないとな」


「ああ。解る解る」


「解るか。人間よ」

「おう。バッチリよ」



 魔物たちとも意気投合している俺。

 どうしてこうなる。


 そうして面白おかしく魔物たちと暮らしていた俺に珍しい客があった。


「ニンゲンだ」「ニンゲンだね」

「うむ。俺の同族だな」


 はじめて見る俺の同族は髪の色とかは地球の人類とは違うが概ねニンゲンと言っていい。


「国王様より異界からの稀びとを探して連れて来いと言われている。至急出頭せよ」


 いちいちウザいがお仕事でそうしているなら彼を責めても仕方ない。

 そういうことで俺とジェリーはのんびり兵士さんについていき、同じ日本人やらアメリカ人やらソビエト人やら果てはローマ人などの地球や別時代の人間、その他の異世界の稀びとたちと共に王城に着いた。


 そこで魔力適正だのなんだの色々調べられ、俺は『魔力なし。体力最低』のどうしようもない判定を頂いた。

 ほっといてくれ。

 現代日本のモヤシなめんな。



「ぷはは。ぼくだって魔力Dあるのに」

「うっさい」


 膝を抱えていじける俺の隣でぴょんぴょん跳ねる奴。

 向うではローマ人がさっそく習得した雷撃呪文に大喜びしてたり。

 向うの主神だったっけ。雷。


 あっちのソビエト人は格闘術で周りの人々を圧倒している。男前だよな。ラスプーチンとかなんとか言うらしい。名前の偶然の一致って怖いよな。

 あっちの日本人の女の子は居合の練習に通う途中に刀込みで来たらしく、魔法で強化された日本刀を自在に操り、氷気や水気を操れるらしい。


 国王曰く、俺たち異世界から来た稀びと達は勇者として国を救い、姫を娶って新たな王になる運命らしいのだが。


「私、女ですけど」

 刀を持った女子高生に。

「じゃ、ワシと再婚してくれ」

 頬を染める王。

 良い性格だ。


「俺、女より男のほうが」

 近寄るな。貴様。



「というか国王様。

 国を救ったら付き合ってください」

 意外とモテモテだな。王。


「しかし大したものは持たせられない。悪いが任務完了を持って報酬を払うことで頼む。あとキミたちを帰還させる魔法は一年に一人にしか使えない」


 勝手な話と思いきや、王いわく別に召喚しているわけではなく俺たちが勝手に来るらしい。

 逆に異世界や異なる時代の価値観に振り回され、国民が困惑、彼方此方で混乱がおき困っているとのこと。

 まぁ異世界にいきなり飛んでも勝手が解らんし。


「で、ひのきの棒っすか」

「うむ。君はそちらのジェリーの言うように、素直に魔物たちと仲良くしていたほうが良いだろう」


 その感触はあまりにも軽くて頼りない。

 乾いた木の香りといい重みの感触といい普通の棒だ。

 呼び出しておいてふざけんな。


 国王曰く、一応これでも丁寧に職人が作っているので大切にしてくれだそうだが。


「呼び出されて棒切れ一本ってねぇ」


 ジェリーがぴょんぴょん。からかいすぎだろう。

「うっさい。魔法も使えない、剣も使えないんだから仕方ない」



 からかうジェリーに食いついてしまう俺。

「あ、道が分かれているから左右に倒して道しるべにしよう」

「逆に道に迷うだろうが」


 魔物のジェリーが王城にいたのに誰にもなにも言われなかったのはジェリー族の扱いがその程度だからだそうだ。

 なんでも普通に人間と共存しているらしい。


「チャッカマって新魔法を習得したよ~! 強いんだぞ~」

 まぁ火をくべるよりは優秀だな。

「それより傷や疲労を治す魔法とかないのか」


 ぴたり。ヤツの動きが止まった。

「ボクの体液をかけると治るけど」

 何故赤くなる。

 良いよ。

 やらなくていい。


 そうして俺とジェリーはのんびり草原を歩いて魔物たちの棲む森に戻っていく。



 四尺の棒切れを竹刀のように持って打ち込む。


「持たば太刀」


 四尺棒はロングソードより長い。


「突けば槍」


 手を繰り、戻してそのまま伸ばし、背後からくる影に向けて突き込む。うずくまった影の足を軽く薙ぐと派手に転んだ。軽く石突でみぞおちを打つ。


「払えば薙刀」


 そのまま棒を回転させて逆手でアッパー気味に正面の敵の顎を叩く。


「打ってよしと」


 軽く戻してみぞおちに入れたら左右の敵にワンツーと突きを右左の端で入れてっと。


『突けば槍。払えば薙刀。持たば太刀。杖はかくにも、外れざりけり』


 俺たちに襲い掛かった山賊五名はあっさり戦闘能力を失った。奴らの装備はジェリーの口に。異空間にあるアイテムボックスに放り込んで後で換金するそうだ。


「意外と役立つな。コレ」


 ひのきの棒見直した。使いやすい。



「ジョージュツ? だったっけ。便利な技だね」

 まぁ学生時代はこれを必死で練習したしな。

「『疵つけず人をこらして戒むる敎えは杖のほかにやはある』か」

 山賊になった事情も知らずに改心しろとかくっだらねぇことは言わないが異世界でも身を守る程度には役立つらしい。


「ねえ。今日のご飯何~」

「クリームシチュー」


「やった~! アレ好き~」


 はしゃぐジェリー。

 並んで歩く俺。

 青い青い空にたなびく白い雲たち。

 踏みしめる靴の感触。程よい疲労に首を鳴らす。

 やさしい風を吸いこんで草笛鳴らして歩を進める。


 俺たちの旅はこうして始まった。


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