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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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物語には味がある

 物語には香りがある。


 そう語ると『何言っているんだ貴様』と言われるかも知れないが事実だ。


 多くの人間は夜眠るときに夢を見るが、彩色された夢を見ることはないらしい。彩色された夢を見ることが出来る人間でも夢の中で味や匂いを感じることはない。

 しかし夢の中ではそれを美味しいと思って食べている。いい香りだと思って嗅いでいる。

 殴られたら痛みを感じるかも知れないが感じなくても感じたことになっているかもしれない。


 夢は人を殺す。

 夢は人を絶望に追い込む。

 夢は人を飼い殺しにする。


 リアルな悪夢は心臓麻痺などを起こすらしい。

 夢と現実の差に絶望して命を絶つ若者や老人は古今東西いくらでもいる。

 また、幸せな夢を見続けている間に人は年老い、そのまま老衰して死に至る。


 君はウサギとカメの兎だ。

 生まれた時、君と夢は同時に進みだした。

 先をゆっくり歩く夢に追いつき、戯れて幼児期を過ごしただろう。

 夢と共に生きていた青年期に夢と現実の違いに気付いただろう。



 少し大人になってから、夢に向かって走らないと追い付かない事実に気付いただろう。

 老人になって、夢は遥か遠くに去って行ったことに気付く。


 それでも君は走り続けなければならない。

 夢は君を飼い殺しにしようと甘い夢を見せようとするが偽りだ。


 夢を掴むなら走れ。走れ。後ろ髪を掴め。

 たとえその後ろ髪がハゲていても。


 夢は甘い夢で若者や老いた人を飼い殺しにする食虫植物だ。その甘露を啜ってぬるま湯にどっぷりつかったエキスを夢の飼い方を少し理解している一部の人間が啜っているだけだ。

 その人間だって夢に飼い殺しにされているだけかもしれない。上澄みをうまく掬う方法を少し知っているだけかもしれない。



 夢に味はない。

 夢に香りはない。

 夢に音楽はない。

 夢に痛みはない。


 夢に色はない。



 君の夢に色を付けてみよう。

 君の夢に味を感じてみよう。

 君の夢に音楽の輝きを。痛みを伴っても。


 人は僕にこういう。


「動画見ながら新聞や本を読んでラジオも聴いているけど解るのか」


 解るよ。物語には香りがある。味がある。音楽がある。

 君には感性がある。まだ見ぬ物語の香りを感じよう。登場人物たちの声を聞こう。

 さすれば解るはずだ。複数の物語がこの世には同時に展開していると。

 物語の為に夢に飼われる意味では僕も君たちと同じだ。


 だが。

 少し鼻を研ぎ澄ませてみて欲しい。

 物語の素晴らしさに背筋を震わせてほしい。

 まだ見ぬ味にときめいてほしい。


 君の新たな夢に彩りを。

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