タヌキと俺と俺と狸達
『結婚してください』
『無理言うな』
俺の前に現れたのは巨大なキン○マを持つ信楽焼きの狸だった。帰れ。
「結婚して下さい」
「無理」
狐の嫁入りと言うものを御存知であろうか。
昔の人は晴れているのに雨が降る日をそう呼び、狐が嫁入りに行っていると表現したそうだ。
だが、ぼくの目の前にいるこやつは狸である。
タヌキである。
大事な事だから二回どころか三回言う。
タヌキだ。
「貴方の優しさに惚れました。結婚してください」
「だから、それ以前になんでタヌキが喋っているの?」
「タヌキですから」
「答えになってないッ?!」
ぼくの目の前には信楽焼きのタヌキの生身版みたいな謎の生物が突っ立っている。ご丁寧に帳簿まで持って。
「というか、キサマ股間に凄いものがついているんだが」
「きゃ♪」
ぼくは思わず彼を蹴り飛ばしかけたが、そそり立つ逸物を想像してしまい自重した。種族が違うのに求婚してくるコイツは可也のドMである事が推察される。
獣臭さに閉口しつつ、ぼくは抜本的な問題を指摘した。
「まず抜本的に。俺は男だ」
「えっ? 花柄のズボンを着ていらっしゃるじゃないですか。髪型も顔立ちも少々エキセントリックですけどまぁ私はタヌキですので許容範囲ですよ?」
要するに、ぼくの顔はさして美形とは言いがたい普通の野郎の顔だし、髪型だって角刈りである。
少々ウエストが激減して、知り合いの女子高生とお姉さんにユニクロで買ったという花柄ズボンを押し付けられただけである。何故にそんなズボンがユニクロにあるのだ。今日日なんでも揃っているなッ?!
(ちなみにぼくのウエストは63である。男物のズボンは二枚三枚重ねて着ている)
「まぁ。そこはいいでしょう」
「良くないよっ?! 信楽焼きのタヌキが話しかけてくる異常事態の解説プリーズッ?!」
意外と冷静なタヌキと冷静さなんて皆無のぼくのやり取りの末わかったことは。
いち。
彼には変身能力がある。
にぃ。
時々人間や猫に化けて人間界に出ては食べ物を食べたり日雇いのバイトをしたりしている。
さん。
ある日、罠にかかって難渋していたところ、通りすがりのハイカーに助けられたことがある。
しぃ。
ある日。トラックにひかれそうになったところを助けてもらったことがある。
ごう。
ある日、猫状態の彼を抱き上げて可愛がってくれたり、餌をくれたりした人がいる。
ろく。
小動物になって生活を覗いてみたが、番となる異性はいないようだ。
なな。
ならば自らの番にするしかない。
はち。
オ○ホなどの無機物にもなれます。
「待て。貴様何処まで俺の生活をストーキングしていたッ?!」
「一日に五回いけるなら人間の中ではなかなかの……むぎゅ?!」
思わず蹴りが出てしまい、伸びて普通のタヌキに戻った彼を捕縛。警察に通報して引き取ってもらったとしても僕に罪はない。
数日後。
僕の目の前に若い娘がいる。
「助けてください。貴方の力が必要なのです」
「タヌキの尻尾が見えているぞ」
「あっ?!」
娘を辞めて少年となった彼と連れ立って歩く僕。
尻尾と耳がふわふわ動いているので周囲の女学生がキャーキャーと『可愛いぃ』とか言っている。
ちなみに勝手についてきているのであって断じて僕が連れ歩いているわけではない。足に抱きつくな。
「ね。ね。大道芸人を一人でする場合、やっぱアシスタントが必要じゃないかと思うのです」
「化けろ。化けるのが下手なお前でも下手ゆえに受ける」
「いや、ここは人間なら人間の芸で受けないと」
妙に律儀だ。タヌキの癖に。
「報酬は払いますよ。五百万円ほど」
「葉っぱをこの季節に五百枚集めたのか」
春一番が吹いているとは言え、青々と木々が葉をつけるまではまだ少し待たねばならない。
「ええ。凄いでしょ」
「はい。紙幣偽造。警察いきな」
僕は手を振る。
パトカーに乗せられて少年は何処かに去っていった。ドナドナである。
また数日後。
「どうかタヌ吉を貰ってやってはくれんだろうか。女装しだしたり、女言葉で喋りだしたり奇行が目立つと思ったら」
「……」
僕の目の前にはアレより更にでかい股間のアレを持つでっかい信楽焼き共が。
「まさか人間の殿方を女と間違えて」
「ここまでつれなくされても、女ではないと知っても添い遂げる覚悟で死の危険も顧みず化学に打ち込むとは」
およよと泣き出す彼の家族たちに僕はほとほと参ってしまった。どうも彼らにとって化けることは命がけらしい。
つまり彼にとっては本気だということで。
「アレです。いっそ女性に変身してみます? 世界が変わりますよ?」
「えっ?!」
可能らしい。
上級者は周囲の空間を歪ませたり、他人を変身させたりもできるそうだ。
「美女なら一日くらいいいかな?」
興味はある。TSものの小説とか大好物だ。
「おおおっ?!」
妙に喜ぶタヌキ共。
後で知ったことだが、この一日だけの変身は『ある条件』を満たすと所謂十月十日間女のままになってしまうらしい。可愛く見えるので忘れていたがこいつらは『ケモノ』なのである。
要するに、レ○プにきた尻尾を持つイケメンのそそり立つ股間に僕改め私はハイヒールキックをかましたのである。
悟った。容姿と体構造だけ変わっても中身は僕のままだ。コレは精神にも肉体にも負担がでかい。貴重な体験だった。
妙な違和感を感じたのはさておき。
……癖になっちまったかな? まさか。
「警察さんお願いします」
「警察嫌いですッ?!」
今度は厳重に網目の小さい檻に入れるように念を押したが果たして。
「いやぁ。今回は酷かったです。タヌキの出る隙間もない警備体制で」
「帰れ」
『普通の』タヌキが喋るのはどうかと思うが、彼曰くもう力を使い果たして化けることが出来ないらしい。
呆れる『私』は黙って彼を抱き上げた。
「でも満足です。貴方に身体を洗ってもらって、優しくしてもらっています」
「……」
ぼろぼろで傷だらけで。ほんとばかじゃない?
「貴方が男でも、人間でも。私は良かった。でももう人間の言葉すら喋る力が……」
もういいわよ。
『私』は久方ぶりに『毛皮』を脱いだ。
『そういえば、お母さんにこの毛皮を脱ぐなって言われていて忘れていたわね。自分がメスだとか』
狐だとか。
『き、狐さんだったのですか』
『戸籍まで持っているほど昔から私たちは人間の世界にいたから自分が狐だったとか性別とかすっかり忘れていたわ』
『に、人間で男性よりショッキングです』
『でも貴方の声は聞こえるわ』
大体、貴方には戸籍が無いのよ。
人間の世界で生きていけないでしょ?
「あ。ママ。綺麗に晴れているのに雨が」
「キツネの嫁入りって言うの。世界一幸せなキツネの花嫁さんに天の神様がプレゼントをくれるのよ」
空を渡る人の子に見えない山車に乗り、白無垢を着た私のそば、着物を着て照れた様子の彼が座っている。
キツネの仲間たちは不倶戴天のライバルのはずのタヌキの婿を貰った私に戸惑いながらも音楽を奏で、
タヌキの彼の親族たちは歌い踊り舞う。狸火なんてはじめて見たわ。
本日は快晴也。
ただし優しくて暖かい豪雨中。




