帰省中の彼女
やっと学校が終わって、愛車のマイチャリにまたがり、金色に髪を染め上げた男子高校生が向かう場所。
それは一つしかない。
ここ、駄菓子屋『ひまわり』だ。
他にロクなアミューズメント施設がね~から仕方が無い。
「駄菓子屋をアミューズメント施設として認識するのか? 君は」
「それだけこの村は何にもね~の。仕方ないだろ?」
本当はお前に会いに来たなんて言える訳が無い俺は、嘘を付いた。
店の外にある、手作り間バッチリな割りに蚊取り線香を内蔵した、どっかメカニカルなベンチがお気に入りの場所なのは、半年経っても変わらないみたいだった。
ノーブラ主義なのも変わってないみたいだけど、東京でもそんなハレンチな格好してるのか、問い詰めたい気持ちでいっぱいだったが、聞ける訳なかった。
でも俺の目線は、理性で制御しきれず、何度も彼女の二つの柔らかそうな巨山が作り出す深い谷間に何度も迷い込んだ。
のぼせきった頭を冷やすために、棒アイスを一つ買った。
俺は店の中から、あいつに声をかける。
「なんかいるか~?」
「炭酸が飲みたいな。久しぶりだと、ここの暑さは堪えるんだ」
コーラーを追加購入すると、店番の婆ちゃんが教えてくれた。
あいつは、本日十二本のジュースをのんでいるそうだ。
「ほれっ」
俺はジュースを彼女に渡し、
「婆ちゃんが心配してたぞ。飲みすぎだって」
「大丈夫さ。余分な栄養は、ココになる」
と彼女はたわわな胸を持ち上げる仕草をするので、
「お、俺も心配だ。別に太っても良いけど、健康でいろよな」
と俺はやたらと早口で答え、慌てて意味もなく遠くにそびえる山へと視線を動かした。
意味はあった。
照れてしまったんだ。
「で、どうなんだよ? 東京は」
とりあえず話題を変える。
「人が多い。みんなお洒落だ。人だけじゃないんだ。車も多くて、そしてお洒落だ」
「ふ~ん」
「店も多くてお洒落で、駅も同じ」
「ここは何にも無くて、ダサいよな」
「でも、私はこっちのがずっと好きさ」
「俺は早く卒業して、こんな村から出たいけどな」
「何にも無いからか?」
「おう。無いからな」
……お前もいないからな。
「私は早く卒業して、ここへ戻って来たい」
「静かな方が好きなのか?」
「それもあるが……」
彼女は途中で喋るのをやめた。次の言葉を待つのだが、無言のままだった。
「お~い。続きはどうした~?」
ちょっと苛立ちながら彼女を見る。
彼女は微笑んでいた。
「東京には、君もいないからな」
それは余裕のある微笑で、彼女が間違いなく実年齢的にも精神年齢的にも俺より大人なんだと教えてくれるものだった。
だけど、彼女の色白の顔で、頬だけはピンクになっていて、発言前から決して俺と目線をあわせようとしなかったりで、大人な微笑とは裏腹にそんなに余裕がある訳じゃぁなさそうだった。
ちなみに、俺にも余裕なんて無い。欠片も無い。
「聞いているのか。君がいないから寂しいんだ。東京は」
「し、仕方ね~よ」
いつもそうだった。
彼女は俺より少し前を歩いていた。
だけど、時々振り返って言うんだ。
寂しいと。
そんな彼女に対して、俺はいつも何も出来ないでいた。
アニメキャラに憧れて金髪にしてみても、スーパー地球人にはなれなかった。
仕方ない。
年齢の差が作る二人の距離は、たった一年なのに果てしなく遠かった。
そう、抗えない。
でも、そんな必要も無い。
「黙って待ってろよ。もう直ぐ追いつくから。そのうち追い抜いてやるから」
「追い抜くなよ。私は君と並んで歩きたいんだ」
今日も俺は顔を赤くする事しかできなかった。