交渉アポを取る裏側で
なんだか続きます。
歴史的瞬間とは、常に多くの人の目にさらされると言う事はなく、誰にも気付かれる事なくすぎて行く事が多い。
それに比べれば、例え少人数であろうと、人の目にさらされると言う事は、歴史の年表に記載される可能性が大きく膨らむ事になる。
そして、赤井紅葉と桃井桜の目の前で突如としてその出来事は起こり始めた。
数瞬前、遠くの空から雲に大きな穴を開け海へ落下する物体を二人が目撃する。
遠目で見ても10m以上の水柱に衝撃波を波紋の様に広げ、海面には、海中から浮かんだ数多くの魚や海鳥達が、命を散らせ漂う。
遠く離れた赤井達にもその余波が波紋で広がる波となって砂浜に押し寄せてきた。
突如起こった事に二人は、言葉を失い、お互い顔を向き合わせる。
事態は、二人が視線を外している間にも起きている。
水柱が収まり海面から光り輝く直径1mほどの物体が現れ、海岸へと向かってくる。
我を失っていた二人は、近づいてくる光り輝く物体にしばらく気付く事も無かったが、流石に周囲にピリピリとした緊張感を当てられ、そちらに視線を向けると、目の前でまで迫ってきた光り輝く物体を見て数歩後退る。
後退りながら距離を取り、お互い顔を向き合わせ、それだけで意思が繋がる。
そして、お互いが頷くと同時に走り出そうとした瞬間、頭の中に声が響き出す。
「待ってください」
「ん? 桜何か言った?」
「んーん、もみちゃんが言ったんじゃないの?」
突然聞こえた声に、お互い行動を停止させ顔を見合わす。
「こちらです」
その声の方向は、まさしく迫り来る光り輝く物体の方角からのもので、二人は、意を決してお互いうなずき、光り輝く物体へと顔を向ける。
「んなっ!」
振り向き、驚きの声を出すタイミングを失い、漏れ出た声が言葉を形成せずただ、口を開いたまま目を見開き其れを見つめる紅葉とは対象に、口に両手を当て、指の隙間から目を見開いている桜、どちらも、次の言葉も絞り出せず、目の前の現実を受け入れる事が追いつかない。
目の前には、直径1mの球体の上に身長30cmほどの人間こちらを向いて立って居た。
「私は、パークン・パワードと申します。 すでにお気付きでしょうが、こことは違う星からやって来ました」
パークン・パワードと名乗ったその人物は、茶色の頭髪に愛らしいつぶらな瞳、特に目を引く特徴は、頭の上にあるリス耳が常にピクピクと動き、お尻には、フサフサとしたリスの尻尾が生え、何処か愛玩動物のような雰囲気を感じさせる姿だった。
その姿に、二人の警戒心が薄れてしまい、何となく、話を聞く体制になって居た。
「マジで、宇宙人?」
紅葉が半信半疑に漏らす言葉をキッチリとパークンは拾う。
「あなた方の言葉を覚えたばかりなので、不理解な部分もありますが、確かに私は、地球外生命体です」
「もみちゃん」
グイグイと紅葉の袖を引っ張りながら桜は、紅葉の意識を向けさせる。
紅葉が桜へと顔を向けると、桜は、紅葉の耳元で小さく「可愛いね」と囁くのだった。
まるで、場違いな囁きだが、この一言で、紅葉は落ち着きを取り戻し、相手の話を聞く体制を整える。
「で? 俺たちに何か用事があるのか?」
警戒心を表にしながら桜を自身の背中へと誘導するその姿は、正しくナイトである。
姫を守る騎士!地球の中世のヨーロッパと呼ばれる地方の物語を思い浮かべ、パークン・パワードはわずかに笑みをこぼす。
その笑みにより、さらに警戒心を強め、パークンを睨みつける紅葉。
「あなたの警戒は解りますが、怖い顔をせず、少し私の話を聞いてくださいますか?」
どんなに可愛い容姿をしてようが、友好的に話しかけられようが気を抜くことはない!
一瞬の気の緩みが死に繋がる。
其れが、祖父によりもたらされた経験だった。
「とりま、話しを聞こうか」
「はい! 有難うございます」
嬉しそうに礼儀正しく頭を下げ、る異星人パークンに紅葉は怪しさを拭えず、警戒を更に強める。
そもそも、現時点での立場として、紅葉たちの科学力に大きく差を感じさせるパークンにとって、もっと高圧的な態度で交渉を行い、此方の拒否権を奪う事が定石である。
なのに、何故か対等な立場での交渉の姿勢を示し、こちらの拒否権を残す姿勢に紅葉は、逆に怪しさを隠しきれないでいた。
「私達は、地球から120光年離れた銀河からやって来ました」
予想通りの内容に納得気味に話を聞きながらも、紅葉は相手の真意を確かめようと感情を抑えじっとパークンを見つめている。
その後ろでは、紅葉とは対象的に驚き、「やっぱりー」などと桜が声を漏らしていた。
「何しに来た? 何て思うでしょう、私達の星は、そもそも資源が豊富にあり、緑豊かな星でした。 私達の星αは、主系列星から数えて第四惑星に位置するのですが、第五惑星であるβにも人類がおり、その星は、我々の星に遮られ、太陽の光も届かず極寒の大地に乏しい資源の星でした。 やがて、化学が発達し、βの人々は、資源の豊かな我らの星に何度も攻め込み、何とか我々も耐えて来たのですが・・・」
目頭を押さえ涙を隠すように下をむくパークンをみて、どこか冷静に紅葉は、こういう仕草は自分達と一緒だなと一人納得して居たが、桜はパークンに同情的なのか、瞳を潤ませている。
其れを見て、わずかに紅葉は動揺する。
桜が同情的になれば、自分は桜の意見を優先するだろう事が目に見えて解る。
普段は、紅葉の意見を優先する桜だが、自分の感情に素直なところがあり、一度決めたことは曲げない頑固な一面を持っているからだ。
このままでは、冷静な判断が出来ない事を紅葉は諦める。
桜にお願いされれば自分は断れないのだから、だからこそ引き時を見極める事で被害を最少に押さえる努力を惜しまない。
「すみません」
一言謝罪を挟み、話を再開するパークンを油断なく観察を続ける紅葉、その一方で、同情的な表情の桜を見てわずかに、尻尾を揺らす。
もし、紅葉がパークンと同じ種族であれば気付いたであろう。
しかし、元々尻尾のない種族である紅葉にとってその変化を捉える事は、種族の性質を理解しない限り無料である。
「β人に故郷を追われ、我々は、宇宙の漂流者となり、長い旅の末、この星にたどり着きました。 ですが、何故か、あと数日でβ人もこの星にたどり着く事が我々のレーダーで捉えたのです。
β人は非常に交戦的な種族なので、我々としては、この星の人々とゆっくり交渉している余裕がなく緊急事態に備えなければと思いあなた方と接触したのです」
「何故、俺たちを選んだ?」
「そうですよね、こんな話を聞かされて誰もが疑問に思う事でしょう」
納得と呟きながら、両手を組んでうなずくパークンに苛立ちを抑えながら紅葉は先をうながす。
「で?」
「はい、申し訳ありません。
あなた方を選んだ訳ですが、我々が開発したバトルスーツとのシンクロ率が高い事と我々では、β人と太刀打ち出来るだけの身体能力が無いのです」
「β人ってのは、そんなに危険な人種なのか?」
「ええ、我々にとっては悪夢と言って良い程驚異です。
彼らは、我々とは異なった進化の過程を送り、体長が此方の単位で5m程、厳しい環境下で生活してきたせいか、力なども強く、口はしに未だ退化の兆しを見せない牙を持ち、相手を落とし入れるために平気で嘘を付きます。
その嘘に何度我々が騙されたか・・・」
悔しそうに顔を歪ませうつむくパークンの姿は、何処か白々しさを感じる紅葉ではあったが、桜が同情的になため、何も言わず事の成り行きを見守っていると、桜が意を決した表情でパークンへと歩み寄る。
「任せて! 私達が力になるからね!」
両拳を胸の前で上下に小さく振りながらやる気を見せる桜を普段なら可愛いと思うのだろうが、この時ばかりは、諦めた表情で眺める事しか出来なかった紅葉は後に後悔する事になる。
こうして、ヒーロー誕生は、歴史的瞬間で在りながら千葉の九十九里浜で紅葉と桜以外に誰も知られることなく地球の歴史に刻まれるのであった。
文章力なさすぎな自分にうんざりです。