接触を待つ月の裏側で
まだ、続きました汗
人類が始めて月面着陸を果たしたアポロ11号は、1969年にその荒野に星条旗を突き立て、そこがアメリカ合衆国である事を主張すかのように、その旗は薄い重力と気温の中で、はためいている。
しかし、ホライゾン計画の凍結と共に、無人の荒野は未だそこに住民たる人類は、居ない。
月の所有を主張するよりは、そこまで安全かつ気軽に到達する手段を確保する事が、現代の地球の技術力の目標と言えるだろう。
夜の闇夜に優然とその存在を主張する月、その裏側に長旅を終え、移住可能な星を見つけた惑星βの移住船の一部が停泊していた。
そこは、丁度地球から見て、月の裏側に位置する場所だった為、地球側からは、気付かれる事は無かった。
NASAのスペースシャトルの内装を見れば、沢山のレバーやボタンで、一目見ただけで素人が簡単に動かす事など出来ない事を実感できるが、技術が進めば、宇宙船の操作などはそれ程難しい物では無い。
スイッチなどの類は最低限に減らされ、殆どの操作は音声入力で足りる。
始動と停止の手順さえ覚えてしまえば、館長と操縦士の二人だけで足りてしまう。
やはり艦内もメインモニターに向って、操縦士が操作するコクピットと、その後ろに艦長が鎮座する椅子が据えられ、各々サブモニター付きのデスクに操作パネルが取り付けられている。
その二つの席を中心としてサブモニターつきのデスクと椅子が周囲に据え付けてあるが、それらは、戦闘時に稼働するのみで、普段から争いの少ないβ人にはあまり縁の無い装置である。
だが、今はそれ以外の目的で艦内の座席は埋まっていた。
数時間前に超光速航行を終え、母星から離れること120光年、モニターの向こう側には青々とした地球の姿が映し出されており、目の前にあるはずの月の姿は何故か消えていた。
「ステルス航行継続中。 ジャミング素粒子散布終了!アンカー発射準備入ります。 艦長、発射許可を」
操縦士が停船の準備を整え、艦長に許可を求める。
「発射を許可する」
艦長は停船を許可し、わずかにため息を漏らす。
「アンカー発射!」
空気の圧縮が開放されたような音をさせながら碇が船の四方から発射され、どの様な原理なのか、碇は鎖を張ったまま無重力空間を微動だにせず、船をしっかりと固定していた。
操縦士は、この航海で何度も行った停船を終えメインモニターに映る青い星を見つめる。
実際この航海で移住可能な星を見つける為に、何度も繰り返してきた捜査で、今度の星にも期待は殆どのして居ない。
それ程彼らの期待を裏切り、移住可能な条件を満たした星を見つけるのは大変だった。
「移住船アルカディア停船しました」
操縦士が停船を確認して、艦長に伝える声が艦内に響くと、がやがやと艦内が騒がしくなる。
「さて、今回は大丈夫だろうか・・・」
その声は、艦長席後方に、他の席より一段高い位置に据え付けられた席から聞こえてきた。
「将軍」
将軍と呼ばれたその男は、短く刈りそろえたれた黒髪に階級を表す帽子を被り、口の両端に髭を蓄え、眼つきは鋭くい40歳前後の将軍職に着くには若い年齢の男だった。
将軍の顔は、はっきり言えば鋭い、いや恐いと言った方が適切だろう。
争いの少ないβ星の中で、ごく少数が在籍して居る軍の実質上最高責任者である彼は、β星から植物の種子の様に飛立つ移住船の一つを任され、移住先では人々を導く為アルカディア内の最高責任者でもあり、その強面の顔に似合わず、軟らかい人柄で、福祉などに積極的で、彼を知る人物などは、軍などに在籍して居る事に首を傾げるのであった。
そして、永い航海に彼の人となりをこのばに居る人物は皆理解していた。
「将軍、探索君NANOを降下させます」
「うむ、許可ししょう」
探査君NANOとは、探索特化に改造されたナノマシンであり、惑星βの人間が生活可能な環境を調べるために作られ、様々な情報を入手出来るように、常にアルカディアと一部の機能がリンクされているため、リアルタイムで情報を入手することができる。
「探査君NANO投下準備!」
「探査君NANO投下準備開始!」
操縦士が復唱するが、実は艦長の命令発令時に音声入力は艦長の声でされており、操縦士は、実行ボタンを押すだけであった。
アルカディア内のコアが対象となる星の体積を計算し、投下する量を算出しナノマシンの投下準備に取り掛かるまでのわずかな時間をただ、サブモニターの待ち受けをずっと見つめる操縦士、その待ち受け画像は、恋人である女性であった。
アルカディア内には、居住区があり、住人が10000人程度住んでいる。
本来、β人は身体が大きく、平均身長が5mを超えるのだが、星自体の資源がとても少なかったため、食料を増やそうと研究が行われていたのだが、その研究は思いの外上手くいかず、頓挫していた。
そこに、ある天才が現れた。
その天才は、食料を増やせないのなら、人間が縮めばいいと考え、数年の研究で、人体圧縮技術を開発した。
この技術により、本来5mの身長の人物は、2m弱まで縮むのであった。
これにより、ある程度の食料事情は解消されたが、星全体を覆う貧困やを救うまでには行かなかった。
しかし、人体圧縮技術は、大型であるアルカディアの中に居住スペースを有効活用することができ、さらに航海中に天才科学者は、培養プラント技術にも力をいれたらしく、本来の植物の成長速度を5倍にする技術を開発していた。
これにより、航海中に貧困に苦しく事のなく無事に120光年も離れた地球までたどり着くことができた。
「艦長、投下準備が完了しました」
「よし、探索君NANO投下!」
「探索君NANO投下完了しました」
投下された探索君NANOは地球全土に散らばり、太陽エネルギーにより数十年間その活動を続け、時間が経つと土に帰りその活動を停止させる。
これは、その星の環境を壊さないための処置であり、本来は半永久的に活動を続けることができる。
各地に散らばった探索君NANOは、常にアルカディアへ情報を発信しており、アルカディアのサーバーでその情報は統括され、結果をメインモニターに表すようにできていた。
その結果、メインモニターをその場にいる全員が祈るように見つめ続けていた。
そのメインモニターには、空気の濃度や、紫外線量などの様々なβ人が生きていく上で必要な環境情報が表されており、そして、母性との比較、さらに生活可能指数がパーセンテージで表されるようになっている。
そして、サーバーからの情報統合がメインモニターに送られ、生活可能指数が表されるのであった。
人々は歓喜の声を上げ抱き合う者や、涙する者など、それぞれ喜びを表していた。
だが、その次に表された情報によりわずかばかりの動揺を見せる。
モニターもは、生活可能環境83%と表されており、不適合要因、気温10%、大気4%、紫外線1%、酸素濃度1%、その他1%と記されており、追記、先人類ありとされていた。
そう、誰もが気になったのは先人類ありの部分であった。
しかし、すでに何光年も旅を続け、人々の間には精神的な疲弊が現れ、大地に足をつけたいという願い、そして、旅の途中に生まれた二世に星の素晴らしさを肌で感じてほしいという願いがひしひしと伝わってくるようだった。
それを感じ、無視できるほど将軍は図太い神経も、傲慢な性格でもなく、常に休日は孤児院へと視察へ行ったり、福祉団体の手伝いなどをして過ごす善良な人間だった。
だが、軍人たる決断力、そして、規律を守る厳しさも兼ね備えているため、今の地位にいるわけである。
そして、将軍の決断は早かった。
「共存しよう!」
それが、彼が下した決断だった。
命名なんて適当NANO