"carbonara"
換気扇の下で、フライパンの中のベーコンに火が通るのを視続けて居る
暑い気がして、照明を付けていない
ぱちぱちと脂が跳ね、エプロンを汚す
エプロンは汚れて居た
此れから調理に使うであろう
紅く熱い躰液にも、塗れ、汚れて居た
オリーブオイル、
胡椒、
唐辛子、
白身を切った、鶏卵……
最後に隠し味
傷口からの、愛情を少々………
手首を擦り捻ったキッチンナイフを、大さじ3杯の躰液が伝っていく
眷属化が進行してからは、血液を幾ら流しても気絶しない躰質になった
或いは、出血する事に悦楽が有る気さえする
少なくとも精神的には、そうした歓びが確実に存在して居た
確実に断言出来る
僕は君に、総てを食べて欲しかった
ベーコンと共に炒め始めた、大蒜が香り始める
規定量の半分は最初に
残りは別の刻み方で、最後に投入して加熱する
聞きかじったやり方だったが、案外に風味や食味に影響する
茹で上がったパスタを投入する
完成は、もう直ぐの様に思えた
焦げ付かない様に、時折パスタを混ぜる
いつの間にか君が居て
『今日は、肉も食べたいな』と、愉しげに云った
僕の瞳孔が開いて、口の端が上がっていくのが解る
「───食べたいの?」
声が震えて居る
手も、少し震えて居た
嬉しさからのものだった
薄く切れば、火が早く通る
今から刻んでも、間に合うかも知れない
僕は、手首に巻こうとして居た包帯を床に放ると、息を荒くしながら
キッチンナイフを、もう一度手首に近付けた




