Epi2:追放者と復讐者
重厚な王城の門が、重々しい音を立てて閉ざされた。
千紘は立ち止まり、肩にかけたアカデミック・マントの襟を正す。周囲には、追放された無能な召喚者を冷やかす野次馬の視線があったが、彼はそれを「市場の雑音」として完全に無視した。
千紘「……計算が合いませんね」
独り言を呟きながら、千紘は金貨15枚が入った袋をポケットにねじ込む。
すると、門脇の影に控えていた一人の男が、音もなく歩み寄ってきた。身なりの整った執事風だが、その眼光は鋭い。
???「何が、計算に合わないので?」
千紘は驚く風もなく、横目で男を見た。マゼンタの光が、彼の網膜の裏で対象の「格」を査定する。
千紘「この国の王の知能指数です。73回成功している投資案件(召喚)で、74回目に検証もせず損切りを行う。……極めて非合理的な経営判断だ。……あなたは? 王の差し金なら、今のうちに逃げることをお勧めしますよ。僕の『線』は、まだ殺傷能力のテストが終わっていませんから」
男は、千紘の不遜な言葉に怒るどころか、貴族的な一礼を行った。
ライゼン「失礼。私は、北の地を治める辺境伯、ライゼンです。あー、敬語はやっぱり性に合わない。タメで良いかい?これだから後継者争いに負けた面もあるんだけど。ああ話がそれた。僕はね、貴女のその『マント』と『眼』を見て、こう確信した。……74回目こそが、この国の、いやこの世界の最大の『含み益』であると」
千紘「辺境伯……。左遷された元王族、でしたか。それと、今貴女と言いましたけど僕男なんですが。僕は同性愛者ではないのでこれで失礼いたします。」
千紘の脳内にある地図のデータが、即座に「黄色い国の北端」と「無人地帯」を繋ぎ合わせる。
ライゼン「おっと失礼。あまりに麗しいもので、ハハハ。私はねあなたを我が領地へ連れていきたい。確かに、貴方が今見ているように、王都からは最も遠い、呪いに凍てつく最果ての地だけど……。貴方のような方が『実験』を行うには、これ以上ない自由な場所かと。中央から罵詈雑言言われる必要も邪魔される心配もなく貴方は金の心配なく実験が行える。私は王に復讐ができる。どう?この話、win-winだとは思うけど。」
千紘は、黒いマントを翻して歩き出す。王都のメインストリートではなく、北へと続く薄暗い街道へ。
千紘「なるほど、その話、乗りましょう。僕をゲストとして扱う必要はないですけど。……ただし、僕が引く『線』を信じるだけの度胸は用意して置いてくださいよ?」
ライゼン「……いい返事だ。じゃあ、まずはその格好じゃ北の冷気に耐えられない。僕の特注馬車へ案内しよう。道中、君のその『トリロジースレッド』とやらで、どれだけ僕の度胸を試してくれるか楽しみにしているよ」




