もう一度会いたい二人の距離はあまりにも遠い
「……やった、成功だ!」
「えっ? 何なの?」
私は女子高生佐藤量子。
褐色系のローブ姿の男達数人が大げさに喜んでいる。
対する私は家でポテチを食べながら寝っ転がっていたその姿勢のまま、見知らぬ広い部屋にいた。
ひやっとした床が妙にリアルに感じられるけど、何これ? どこ?
大きな窓があるけど薄暗い感じ。
照明は蠟燭とオイルランプだよね?
クラシカルというかアンティークというか。
どうしてこんなところにいるのか、わけわかんなくて混乱する。
でもそれより行儀が悪くて恥ずかしい。
ローブ姿の男の一人が私に話しかけてくる。
「勇者様。実は……」
「私が勇者様?」
いきなり知らない場所にいるということは、ドッキリの類ではないでしょ?
不思議な感覚があるし。
そして私を勇者扱いか。
あっ、ピンと来た。
これは……。
「わかったわ! ここは私の住んでいた日本とは違う世界なのね? あなた達が私を召喚したのね?」
「おお、さすがは勇者様! 理解が大変にお早い」
やっぱりラノベでよくある異世界召喚だわ。
自分の身に起きるなんてビックリね。
でも褒められるのは嬉しい。
思わず胸を張る。
「ふふん! 伊達に日本の女子高生は因数分解で苦労してないわ! 私のことは量子と呼んでね」
「はい、リョーコ様」
「それで私はどこの魔王を倒せばいいの?」
「何と聡明な! そこまでお察しでありましたか」
ざわつくけど、大した推理じゃないの。
だって私は『勇者様』として召喚されたんだもん。
ラノベのテンプレからすると、当然異世界人では手の負えない魔王が出現して、藁にもすがる気持ちで私を呼んだのだろうから。
「でも想像がつくのはそこまでだわ。詳しいことを教えてくれる?」
「では僕のほうから。僕はヴェルンヘイムの第一王子ユスターだ」
「ユスター……殿下?」
ローブを外したその顔はクシュッとした金髪の可愛い系王子様!
わあ、眼福!
テンション上がる!
つまりこの召喚計画は王家かユスター殿下の指示の下に行われているもので、怪しいってことはないんじゃないかな。
他の人達は魔道士か召喚技術者か、そんなところだろう。
ラノベの例からすると、召喚って結構な国家事業の場合が多いよ。
私のことを様付けしてることからすると、使い捨て勇者の類じゃないんだろうし。
じゃあ召喚計画を主導しているっぽいユスター殿下は、ちゃんとした王子ってことになるね。
私と近い年齢だろうにすごいなあ。
「殿下はいらぬ。リョーコは異世界の住人で、我がヴェルンヘイムの民ではないからな」
「じゃあ遠慮なくユスターって呼ぶね。ヴェルンヘイムというのはこの国の名前?」
「まあそうだ。国というか世界というか。半年前に魔族の王が現れた。やつはザルトスと名乗っている」
ヴェルンヘイムはこの世界または国の呼称か。
人間の国は一つしかないみたい。
それでおそらく魔族は敵対勢力、と。
「魔王ザルトスね。ヴェルンヘイムでは魔族がいるのね? 私達の世界には、少なくとも公的に魔族はいるってことになってないみたいだけど」
「羨ましい世界だな。ヴェルンヘイムの人口は、この半年で半分に減った。魔王ザルトスの侵略と殺戮のせいだ」
「えっ?」
人口半分って、洒落になってないでしょう!
等差数列的に減少するならあと半年で人類が滅亡しちゃう!
等比数列的なら少しもつけどって、こんなところで女子高生の数学的発想が!
「魔王ザルトスは聞く耳を持たぬ。不倶戴天の敵である。やつが人類を滅ぼすか、人類がザルトスを倒すかしかない」
「魔王って突然現れるもんなの?」
「理屈はわからぬが、数百年の周期で現れるとされているな。しかしザルトスの力はかつて現れた魔王達とは比較にならぬものだ。人類が不甲斐ないのはその通りだが、ヴェルンヘイムの戦士ではやつに対抗できぬ」
「それで異世界人である勇者の私の力を借りるってことね?」
「申し訳ない」
わあ、ユスターみたいな貴公子が私に頭下げてる。
力を貸さねば女子高生が廃るわ!
「私が召喚されたということは、私は魔王を倒す力を持っているということ?」
「さすがにリョーコは理解が早いな。そなたはちょっと考えられないほどの魔力をもった存在なのだ。空間を越えて探知できるほどの」
「私には魔力があるのね? 女子高生ヒロインだから当然ね」
魔力だって。
すごくファンタジー。
ワクワクするわあ。
「でも私達の世界には魔力が知られていないの」
「そのようだな。社会の発達の仕方が特異だという報告を受けている。エーテルが極端に薄いせいかも知れぬ」
「エーテル?」
「魔力を媒介する物質だ。エーテルがなければ魔力の影響を他に及ぼすことができない。例えばヴェルンヘイムはエーテルに満ちている。が、そなたの世界には魔力を行使できるほどのエーテル濃度がないとすると、魔道が発達しなかった理由も説明がつく」
ふうん、魔道にも理屈があるのね?
いえ、今大事なのは……。
「どうすれば魔王を倒すほどの魔力を出せるのか、私にはサッパリわからないわ。誰か教えてくれる?」
「イメージです。リョーコ様の莫大な魔力をイメージに乗せて発射するのです!」
「イメージなら任せて! 壁ドン顎クイあすなろ抱き!」
女子高生の妄想力はそりゃあ大したものですよ。
ユスターのような美形がいるところでは妄想力が加速するわ!
……あっ?
「何か出てきた……」
光る粘土みたいなものが身体から滲み出てきた?
触れないけどあるのはわかる。
思ったように変形するわ。
ローブの一人が叫ぶ。
「リョーコ様! それが魔力です! ああ、何という神々しくも濃密な魔力!」
「リョーコ、魔王を滅ぼすイメージを持て!」
「了解!」
これが魔力なのね。
大体イメージ通りになるってことか。
面白いわ。
魔王を滅ぼすということだったら、地球科学のミサイルがイメージしやすいわ。
物理を思い出せ!
モメンタムは質量と速度の積で表されるから、より重くより速くすればドカーンよ。
イメージイメージ……。
「何という荘厳な……」
「神の槍とでも表現すべきか」
「魔力を発射魔力を発射、よーし、イメージできたわ! 窓を開けて一回試し撃ちしてみるね。あそこの高い山をターゲットにしていいかな?」
「構わんがあの山は……」
「三、二、一、ファイアーっ!」
唸りをあげて超高速で飛んでったわ!
すごく気持ちいい!
大体イメージ通り、初めてにしては上出来じゃない?
着弾してピカッと光り、遠方の黒い霧に包まれた山を消し飛ばした。
わあ、すごい威力。
「山が……」
「一発で吹き飛んだぞ。考えられん……」
「魔力ってすごいのね。ビックリしちゃった」
うわ、今頃になってここまで余波が来た。
揺れるし怖い。
「こっちまで影響があるのはよろしくないね。もっと有効範囲を狭めて突き刺すイメージ……よし、コツが掴めたわ! さあ、魔王はどこ? 対策される前に攻撃しちゃおう」
「……もういません」
「へ?」
「今リョーコ様が吹き飛ばした山が魔王ザルトスの本拠地だったのです。が、すっかり瘴気ごとなくなってしまいました」
「魔王の魔力波動が感知できません。完全に消滅したと思われます」
「ご、ごめんね? 日本の女子高生ともあろう者が空気を読めなくて」
ユスターと他のローブ達が呆れたような顔をしている。
完全にやらかしちゃったわ。
そうよね、私が魔王に何かされたから、怒りの反撃を食らえというのが正しいわよね。
先制攻撃でしかも試し撃ちだったなんて、正義も盛り上がりもないわ。
視線が痛い。
「さ、さて、私は帰るね」
「帰る?」
「当然よ! だって見たいテレビ番組もあるし」
戸惑うユスターと他のローブ達。
どうしたのかしらん?
「すまんリョーコ。そなたを元の世界に戻すことは考えてなかった」
「えっ?」
「勝手で申し訳ない。いや、もちろんヴェルンヘイム救国の勇者として一生安楽な生活を……」
「大丈夫よ。召喚する側が元に戻せないなんてよくあるパターンだから」
というか巷に溢れる異世界転移転生もののほとんどは、主人公が地球に帰れないから。
でも私は魔力のイメージを掴んだ。
魔力があれば何でもできるんでしょ?
「いいのよ。そこは異世界女子高生パワーで何とかするから。帰るイメージ帰るイメージ。よし、イケる! 魔力ってすごい!」
「あっ、リョーコ様! お礼を差し上げたいのですが!」
「今度でいいよ。また呼んでね! ユスターバイバイ!」
数瞬の後、気がつくと自分の部屋に戻っていた。
ヴェルンヘイムに飛ばされた時と同じような感じだな。
転移の感覚は覚えた。
ドアがノックされる。
「はいはーい。あ、豊? どうぞー」
「どうぞじゃねえよ。姉ちゃん寝てたろ」
「寝てたわけじゃないんだけど」
異世界に行ってただけ。
時計を見ると、ほんの三〇分くらいの間の小旅行だ。
夢じゃないって断言できるのは、ポテチの袋がなくなっていることと、ユスターのカワイケメンフェイスをハッキリ思い出せることから。
でっかい魔力弾を撃った感覚も転移の感覚もバッチリ覚えてるし。
「さっきもノックしたんだけど、返事がなかったぞ」
「ごめんね、気付かなかったわ。取り込み中だったの」
「取り込み中って何だよ。今晩寄せ鍋だって覚えてる?」
「あっ、そうだったね」
「姉ちゃん呼んでこいって」
「行く行く!」
私は魔力が大きいのかあ。
えへへ、思ってもみなかった長所があるって、ちょっと嬉しい。
やっぱりイメージしてみても、ヴェルンヘイムにいた時みたいに魔力を扱えない。
ユスターが言っていたように、魔力を媒介するとかいうエーテルが薄いって本当なのかもなあ。
残念だけど、だからこそ地球は今みたいに科学が発展したのだろうし。
でもこうも思うの。
超能力者って呼ばれてる人達は、薄いエーテルの中でも少し魔力を行使できるのかもしれない。
じゃあ私だって使えるかもしれないよね。
だって魔力が大きいことは明らかなんだもん。
毎日イメージを大事に生きてみよう。
またヴェルンヘイムに呼んでもらえるかもしれないし、そうでなくとも超能力を使えるようになるかもしれない。
楽しくなってきたなあ。
何よりあの素敵な王子様ユスターにもう一度会いたい。
うふふ、あの顔を常にイメージしよっと。
「おっ、もうすぐ煮えそう」
「すぐ煮えるイメージ!」
「うわっ! 熱っ! 突沸したっ!」
……偶然かしらん?
――――――――――その時ヴェルンヘイムでは。ユスター視点。
魔力の膨張とともにリョーコの姿が掻き消えた。
しばしの後に、呆然とした神官達が我に返る。
「……行ってしまわれましたな」
「どうやらリョーコはイメージするのが得意なようだ。おそらく元の世界に無事帰還しているのであろう」
「あれほど簡単に魔王ザルトスを滅ぼしてしまうとは……」
「いや、召喚時にそれくらいの魔力量を想定してはいたのだろう?」
なけなしの魔力を全部つぎ込んで召喚したのだ。
使えぬ者を呼んだって仕方がない。
「もちろんです。しかし素質があってもそれを十全に生かせぬ者など、世の中いくらでもおりますゆえ」
「うむ、そうだな」
リョーコは突然の召喚に騒ぎもせず、自分の置かれた状況をすぐ理解した。
使ったことがないはずの魔力を、想像もできないほどの規模で行使して魔王ザルトスを滅ぼした。
礼物も受け取らず召喚魔法陣すら使わず、帰還をどうやら自らの魔力のみでなした。
笑顔と強烈な印象のみを残して。
「リョーコを召喚できたことはツイていたのだろうな」
「ええ、考えられないくらいの大成功ですよ」
神官どもの本音もわかる。
もし魔王を倒せたとしても、召喚した者が魔王以上の脅威で君臨することだってあり得たのだ。
しかしリョーコはどうだったか?
我らに安寧と平穏な未来をプレゼントしてくれただけだったではないか。
「ユスター殿下、何をお考えで?」
「もう一度リョーコを召喚できる可能性だな」
「申し訳ありません。不可能でございます」
「うむ、わかっている」
今後は人類復興のために魔力を使わなければならない。
ただでさえもう備蓄魔力はほぼ空だ。
もしリョーコが帰還せずヴェルンヘイムに残ってくれていたとしたら。
笑って力を貸してくれたかもしれないがなあ。
いやいや、それはリョーコに頼り過ぎだ。
ヴェルンヘイムの手でなすべきことを異世界人に頼ってはならない。
魔王を滅ぼしてくれただけでも十分なのだ。
「しかし殿下のお気持ちもわかります。魔力を抜きにしても、リョーコ様は聡明で協力的で、実に魅力的な個性でございました。聖女と言い換えてもよろしい」
「ハハッ、確かに」
そう、魅力的な聖女。
勇者よりもしっくりくる表現だ。
「……もう一度会えるなら、妻に迎えたいものだ」
「何か仰いましたか?」
「いや、何でもない」
積極性と強い心と弾けるような笑顔を持った少女。
ヴェルンヘイムを救ってくれた少女。
まさにあれこそが聖女なのだ。
僕はヴェルンヘイムの王になるが、リョーコに相応しい器量を具えているだろうか?
彼女は去ってまでも僕に問いかける存在になるようだ。
再会できないのは仕方ない。
救国のヒロインリョーコを語り継いでいこうではないか。
リョーコのくれた平和な未来だ。
それだけでいいんだ。
忘れっぽい自分ですが、このお話は覚えています。
いつぞやのなろうラジオ大賞に応募した旧作です。
キーワードは量子力学で、『量子力学』というタイトルでした。
当時は1000文字以内でしたが、やはり字数が少な過ぎると難しいですので、少々手を入れています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




