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風の国の物語  作者: たくぼあき


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生存戦略



「アマリエさま。水の国からキチジ殿の荷物が届きました」


水の国から遠く離れた風の王国。

ライズ王子の母にして、風の国の元王妃アマリエという美しい未亡人が、この日も寸暇をおしんで機織りをしていた。



彼女は、激しい戦闘の合間は、常に風の精の女性の嗜みとしての機織りをしながら過ごし、更に戦況報告などを受けて頭の中で戦略をたて味方の武将に作戦や敵方とのやり取りを伝え必死で遠く異国に赴いた息子の留守を守っている。



ところで風の国という国は空に岩礁や島が浮かんでいる。


その岩礁を苦労してくり抜き建築資材を運んでは城砦を造り上げ何世代にもわたって改築しながら住み続ける、それが風の精達が城や砦と呼ぶ棲家である。


そんな浮島や浮岩礁が数千ほどありそれらが基本風の国の国土とされる。


また、この国は上下風の国、という言われ方をするが空に浮かぶ部分ではなく地上にあたる部分にも人々が住み、そこもまた王家の属領なのだが、支配権をめぐり争いが絶えない紛争地域も多くそれもまた風の国の民族問題や王位継承問題をややこしくしていた。



また、やはり他国と異なるのは風に身体を乗せて飛び回る風の精たちの生き様というか本質である。

彼らは死を迎えると風の中に溶け込むように消え去る。

最もこれは他の精霊も同じで火の精は一瞬真っ黒い焔となって燃え上がるし、水の精たちは白い霧のようになって消え去り地の精霊たちは文字通り大地に還るのだ。


そして、とにかく、この風の精たちには浮力と推進力という概念に近いかもしれないが空を身一つで飛び回っての移動は当たり前のことだった。火の精が炎を操り、水の精たちが水の中に棲まうことと同じように。風の精は自分の身体を風に乗せて飛び回って移動する。

人間達は、自力で風になる能力も空を飛ぶことも出来ない。


よって自然が豊かなこの未開の地が多い国でたくさん生息する竜というやはり空を飛ぶがっしりとした頑丈で頭の良い野生生物を捕まえて改良や調教をして使役動物に使うのだった。


その空に浮かぶ城塞の一つでアマリエは、時に全軍に伝令を飛ばし、時に戦場に繰り出し戦時の女性として気を張り詰めていた。


また、戦乱の風の国で命を狙われる息子の居場所を知られないよう、表だっての手紙や使者のやり取りを出来る限りしていない母子であるが、それでもやっとのことで輸入品の薬や物品に紛れて説明書やそれと分からないように近況を知らせる手紙や木管が入っていて届けられることがあり、それに符丁のようにさまざまな事が書かれているのだった。


今回の届け物には水の国の人気の布地の枚数や意匠についての注文と宝石についての謎の暗号がほってある。

それを読み取り在庫の確認と輸送ルートについてを参謀達をよんで意見を聞き実働部隊に指示を出す王妃。


だけれど風の国から異国の水の国に愛する一粒種を送り出した母のアマリエはいつもいつも我が子ライズの無事を祈り、いつか再会する日を待ち望み、このまま無事に何事もなくつつがなく成長してくれることを願いつづけていた。


そして戦費のかさむ中、暇さえあれば侍女達とともに製作した美しい布地を小分けにして敵方に知られないように水の国の息子の元に送るのだった。


ちなみに手先が器用なアマリエは織物名人としても有名であった。


風の羽衣の説明をすると基本的に風の国に生息する竜の幼獣が成獣になる時にぬけかわった産毛を集めておりあげる柔らかくて丈夫な上空に浮かんでいるようなふわりとしたまさに羽衣といってよい特産物である。そして風の羽衣の色は、竜の幼獣の色の白とされていて、それが風の精の衣装の決まりというか伝統でありライズ達は異国でも常に白い民族衣装にみをつつんでいる。

それが彼らにとって当たり前だった。


したがってアマリエの機織り場でも白い布地ばかり生産されている。


白色にも沢山の色味があるとはいえ純白に近い銀糸を織り込んだ最高級の羽衣がやはり高価だが良く売れるのだという。


そして水の国にいるライズ王子は水の国の言葉の習得は誰よりも速く通訳のキチジに驚かれるほどだが、仲良くしてくれる水の精たちとはとてもスムーズに話ができるほどになっている様子が伝えられて王妃はホッとする。


もしも夫が暗殺されず上下風の国が平和なままであったなら彼女は、美しい織物上手な優しく気高い妻で母として王妃としての人生をおくることになっていただろうに。


運命は彼女に過酷な試練を課した。


そもそも彼女は、夫である国王の未亡人であるから既に王妃ではなく、息子の王子も即位していない今は王母の称号もうけていない。

だが人々から慕われ突然殺害された前国王派の人々は彼女をずっと王妃様と呼び続ける。

そしてか弱い彼女が強き母となって幼い息子を抱えながら戦う姿を支持するのだった。


そのように、戦いと羽衣製作工房の経営や取りまとめなどで忙しいアマリエの心の支えといえばやはり、遠い水の国に密かに逃した息子からたまにくる知らせである。


それは闇貿易の荷物に紛れ込ませ、敬称も宛名もなく、ただの説明書のようにみせかけて息子や支援者のキチジが送ってくる手紙も貪るように読んでは息子たちの無事を感謝する母。

自身もびっしりと我が子の無事や健康や諸注意を書き送りたい気持ちを抑え、我が子を信じて、母の想いを短い詩にしておくる程度におさめているのである。



そんな母の心配や恐れをよそにライズ王子は実に水の国生活を謳歌していた。


生まれついて人の上に立つべく生まれたこの少年には、高いコミュニケーション能力と共に大変商魂たくましい一面があったからだ。



古い古いどこか遠くの幻の国の言葉で「タニンノメシヲクウ」というものがあって

肉親のもとを離れ他人の家で暮らすことをいい、世間にもまれてさまざまの苦労をしてこそ、やっと一人前になれる、という意味の言葉だが。


ライズ達は、王子とその随員なのによその国に大した後ろ盾もなく世話になって肩身の狭い思いをし苦労をし続けた。


その苦労が彼らを随分と成長させる事になった。

まさに実地で強制的に訓練させられたという事だろう


風の国から来た他の四人少年達は、シャイな性格、何より言葉もうまく話せないからという理由で社交は控えめで学問書にばかり向かう日々であった。


大変勉強熱心な彼らがそこまで言葉に苦労するとも思えなかったけれど、それは少しでも、自分達の身元を隠してひっそりとしていなければという亡命者としての当然の保身のためだった。


ライズ王子の明るさや社交性と目立ちたい気持ちは、少しは控えろとお付きのラリが進言するほどである。



だが、ライズがこうしてたくさんの留学生と仲良くなり風の国の評判を上げていくことも誇らしく思うこともある。


戦ばかりしてきた風の国の人間がここで平和を知り学問や楽しい娯楽に触れていることになかなか慣れなかったが。



その他にも商才があるライズはその船遊びで親しくなったローレヌ姫に引き合わされた他の若者達とも出会い自国の産物をいろいろ紹介し、更に彼らの好みをきいて簡単な注文までとりキチジの商売につなげてしまう。


キチジは風の国から異国に品物を持ち込んでは売り捌く商売をしている風の精の商人である。


出身地がライズの母の実家が治る地方だった事から面識と信用があり、国を二分する争いになった現在は、元王妃アマリエの派閥に物資の補給などをして支援している。


火の国や地の国に行く事もあるが最も景気が良く高値で売れるのが水の国の市場なのでよく水の国に滞在しており、言葉も完璧に覚えて通訳もこなす。



そんな彼の伝手でライズ達は戦乱の中国境を越え、この水晶宮までたどり着くことが出来たということもある。


だが、水の国の国王陛下の厚意により生活費や滞在費は無料とはいえ、生活するにはそこそこ多額の水の国の銀貨が必要だった。


亡命中のライズ達は生活費の銀貨が足りなくなるとライズの母が持たせてくれた羽衣や宝石類を売って資金を作る、という貧しいともいえる生活をしていた。


そうやって私物を売るだけでは当然先行きは暗い。

資金的に厳しいのは支援者のキチジも同じ。

の仕事を手伝ってもいる。


ライズは、水の精にと楽しく船遊びをしながら、この土地では風の羽衣が高く売れるということをキチジから聞いていた話を思い出していてそれを身をもって知る事になる。


ローレヌの周囲にいる水の国の上流階級の人々からは彼の身につけている固く透明な金剛石という宝石や風の羽衣の話が出てくることが多く皆かなりの関心を持っている事は確かだ。


ライズは決して守銭奴ではなかったが、生まれついての王者の勘というものか、必要とされる物を与えられる者こそが勝つ、この品は儲かる、と直感で考えた。


そんな商売の教育を受けた事など一度もないのに。


これはまさに体当たり訓練とでもいうものだった。


これが幼い頃からの戦場に身を置いてきた逞しさというものか。


ライズは、故郷の敵対する現国王の支配が及ばない裏ルートで祖国の母や知り合いに連絡をとり、風の国の貧しい人々に資金援助をして風の羽衣を生産する道筋をつける事にした。


元手になるその費用を水の精の商人に宝石を担保に借り入れたりもした。


彼らは商人の子弟ということになっているから水の精相手に商売をする事自体には矛盾はなかった。


だが、彼ら5人は、風の国の国王に対して闇貿易に関与していたとも言える。


だが、風の国の現政権には無関係な水の国の関門は、きちんと通過して通行料を払っていたから問題ないとされた。


水の国暮らしは快適な分持ち出しが多く滞在費は無料とはいえ常に水の国の銀貨を必要とするのでキチジの商売の利益に頼りがちなのだ。




「母上のお手による見事な織物の数々はこの地で多くの人々に賞賛され愛されております。

ところで、羽衣の色について我らは驚いている事がございます。

我らにとっても白は全てを内包し全てを包み全てを表す至上の色でした。白は全てに染まるとも二百色以上あるのだとも、すべてに染まるとも申します。しかし、その至上の色がこの友好国たる水の国では、白ではなく青色、それも空に溶けるような淡く澄んだ水色なのでございます。

私はこの国で最もご婦人方に人気のある青の顔料を手にいたしましたので輸送いたします。母上のお手でおられたその至上の羽衣の布を青色に染めていただきたいのです。さすれば我らの布がこれまでの数倍の価値で取引され風の国により多くの利益がもたらされる事でしょう。何卒よろしくお願い致します。拙い筆ではございますがこちらのご令嬢がどのように風の羽衣の布地を身につけておられるのか画にしてお送りいたします。 あなたの息子」


という珍しく長い手紙が届いた。



その手紙がどこに記してあったかといえば同封された小さな画布である。

美しい水色の衣装に長い髪、宝玉のティアラ、ニコニコ微笑む可愛らしい少女の肖像がなかなか巧みな筆捌きで描かれていた。

「ただ一つ溶けない色よ君の色青」

という短い詩まで添えてある。


署名もないけれど器用なライズがよく絵を描いて遊んでいたことは覚えているし、ライズ王子の手によるものなのだろうけれど、かなり気合を入れてこんな可愛らしい女の子の絵を描いてくるとは。

こんな姫君とも知り合ったりしているのだろうと思うと母としては微笑ましい。


共に機織りをしている侍女たちに

「ライズが描いたものなの。このような色合いの布地が人気になるのですって」

と見せる。

しかし、侍女達がまず目を奪われたのは

かなり気合を込めて描かれたお姫様の風貌だった。


繊細で優しげでパッと華やかな柔らかい微笑み水色のまっすぐな髪、額に輝く瑠璃色の宝玉、裳裾をひいたふんわりとした水色のローブのようなドレス。


衣装の見事さもとらえた筆の運びは見事だった。

「王子様は絵がお上手でしたものねえ」

「それにしてもお綺麗なお姫様。水の国の民族衣装は本当に優雅で。どんな方なのでしょう?お友達になられたのでしょうか?」

「絵は益々お上手になられて。さすが水の国で学ばれているだけのことはありますね。本当に美しいお姫様」

「そうねえ。ちゃんとラリ達を困らせないよう学問をしてくれていると良いのだけれど」

とお姫様談義を始めた。

しかし、白の布地より青の布地の方が売れるというデータをえた王妃の頭の中は


「顔料の青もこんなに鮮やか。さすがは水の御国ね。瑠璃という岩を砕くのですって?それを使ってまずは糸から染めるのでしょうか?その手間をとる時間がないので今ある布地を染める方が時間は短くなるはず」

と作業工程のことですぐいっぱいになった。


そして侍女たちに指示を出す


「一人は糸から染めて。もう一人はすでに織り上げた布を青く染めて試供品にしなさい」

王妃はすぐに指示を出した。


王子やキチジが水の国でなかなか手広く商売をしてくれて明らかに利益が出るようになったのは嬉しいことだ。

そしてその利益をライズはきちんと母に申告して風の民の生活を良くするようにと基金のようにして送ってきてくれるのだ。


なんと親孝行な息子、アマリエは我が子を心から誇りに思う。

その商売が軌道に乗るにあたり大切な生産責任者としてアマリエの腕がかなり役に立っている。


風の国の王位継承戦争は益々泥沼化しているが風の国の生産国として他国と繋がりができれば辺境として見放されることもなくなるのではないかと考えるアマリエなのだった。



清書前の下書きを投稿しておりました。

大変失礼いたしました

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