表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の国の物語  作者: たくぼあき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

ラリ



「戦場でただ1人倒れていたのです。近くに家族の姿はなく放っておけば死んでしまった事でしょう」

「かわいそうに。こんな幼い子どもが」


ムラサメ将軍が、アマリエ王妃の陣営にもの心ついたかつかないかというくらいの幼い子供を連れて帰ってきた。


「可愛い小さな子。あなた、お名前は言える?」


王妃がその少年に優しく話しかけると、


「ラリ」


と自分の名札のような物を差し出してきた。 


衣装にも名前がある。


他にもいろいろ聞き出そうとしたがあまり覚えていないようだった。


幼すぎる。


二人は聞き取りを諦めた。


戦争になると聞いて母親が織り込んだのだろう。

それだけが、彼の彼たる証なのだ大切ににぎりしめていた。


名前だけやっと言えたこの男の子は、そのほかの家族の名前や住まいなど何一つ覚えていないか話が出来ないようだった。


「こうやってムラサメ殿が助けてきたのも何かの縁です。私の手元で息子のライズ王子と共に育てましょう。この子も醜い政争の犠牲者です」


この男の子が後に王位継承戦争の勝敗を左右する名将に成長することになるのだが、まだ誰もそんな事はしらない。


戦場でただ一人生きるか死ぬかのただ中にいた幼い少年は、初めて会う王妃と呼ばれているアマリエの優しさにホッとしていた。


そして、それまでの記憶が不思議なことに全くなく、実の母や父やきょうだいなど生きているのか死んでしまったのかなど何もわからないのだった。


そして彼は偶然与えられた役割を全うすべく様々な困難に立ち向かう。


当初は赤ん坊のライズの遊び相手としてアマリエ王妃の元で育てられることとなり、おそばさらずの小姓として王子とともにたくましく成長していく。



このラリという少年は、子どもの頃は王子の遊び相手、勉強相手、剣技などの練習相手であり成長してからは武術の腕と賢さを見込まれてライズの側近兼護衛として常に彼のそばにいる若者。


年齢的には王子より二つ、三つ上くらいの若者だがきちんとした年齢については誰も知らない。


そう、彼は、自身がどこの生まれなのか親が誰なのか生まれた日はいつなのかについて全く分からない戦災孤児なのだ。


彼の記憶は、ムラサメ将軍に助けられた凄惨な戦場を彷徨ってさらに倒れていた瞬間から始まり、その後王妃アマリエ様の陣営に連れて行かれて美しく優しいその高貴な女性に抱き上げられた瞬間に更にはっきりと鮮明になる。


自分について分かっている事は、3歳くらいの時にムラサメ将軍の領地がバルの軍勢に壊滅させられた際の戦場で一人倒れていたということだけ。


自分は一体本当にどこの何者であるか、知りたい気持ちが全くないわけではないがライズ王子の撫育官のムラサメ将軍、王母アマリエや困ったところもないわけではないが無邪気でわがままなライズ王子のことも心から大切に思って尊敬しているためラリは幸福だった。


寂しさも心もたなさもあるけれど。


居場所があり幸せも感じられ必要とされ、血生臭いけれど、やるべき事もあった。


かつて、ムラサメ将軍は、主君が暗殺された後に亡き主君の妻子を救う為手勢を率いて王妃の館に急行し、2人と関係者を安全地帯に脱出させた。


そのまま軍備を整えて王妃、王子を守っていると彼の元に悲劇的な知らせが届く。


ムラサメ将軍の領地ラルトに逆らった報復としてバルの軍勢が攻め寄せた。


そして一族を皆殺しにしいくつかの城砦などを含め一般の人々もかなり住むラルトの地を攻め滅ぼしてしまったのだ。


将軍が、援軍を引き連れて自分の領土にたどり着いた時にはすでに遅く砦も竜の牧場も領民たちの生きる糧として羽衣を生産していた織物工場も破壊し尽くされ将軍の妻、息子夫婦孫たち、娘一家、皆殺害されていた。


 大切な人を全て失った老将は、口に出して後悔はしないものの喪失感と悲しみから涙を止めることが出来なかった。


そして変わり果てた故郷で見つけたのがラリという3歳くらいの子どもだった。


たまたま彼が倒れているのをライズ王子の扶養育官だった老将に助けられたのだ。


その土地は、代々彼のムラサメの一族が守ってきたらるとの領地である。


単なる占領ではなく、捕虜にするでもなく皆殺しに近い王の軍団が自国民に行う仕打ちとはとても思えないほどで、人々は震えあがって、バル王治世に不安をかきたてられた。


国民への言うことを聞かなければ、どうなるか、という見せしめということは明らかであった。


ライズ王子に味方したからはの報復の為に、攻め滅ぼされた。


彼のおいたつま、立派に育った息子達、それぞれの子供たち。


妻も息子も孫も、彼の一族は攻めよせてきた大軍に一夜にして殺されてしまった。


その後、大軍は引き上げた。


戦上手のムラサメ隊が到着する前に逃げ去ったのである。


ムラサメ将軍の妻と子どもは、人質にしようと連れて行かれそうになったそうだが、自害して果てたときいた。


それは凄惨な報告が生き残ったわずかなものから伝えられた。


呆然として破壊の限りを尽くされた故郷に佇む。


主君への忠義から、自分の部隊を率いて王妃と王子を助けたことに後悔はないが、それがこんな酷い結果をうむとは。


覚悟はしていたが、自分が残り戦えば一族も逃すことはできただろうに、とたとえようもなく胸が痛み可愛い孫たちの笑顔を思い出すと涙が滲む。


そんな中で生き残っていた、幼い子をどうしても見捨てられなかったのだ。


子どもの身なりは比較的よく、高価な風の羽衣をまとい、瞳の色と同じ翠玉の勾玉の首飾りも身につけていた。


彼が大切に育てられていたことは分かった。



「よく連れて帰ってくれました。ライズの小姓として私の元で育てましょう。そして、私とライズの命を救ってくれてありがとう。ムラサメ殿の御恩は決して忘れません」


と、王妃アマリエが涙ながらに感謝の気持ちを伝えた。


当初はムラサメ将軍の手元で育てるつもりだったが

こうしてラリはライズ王とは兄弟のように育てられた。


理由は、はじめは小姓を、やがてその賢さと立ち居振る舞いの見事さから王子の護衛、学問から逃げ回る王子の大変困難な勉強相手、堅苦しいことが嫌いな王子が嫌がる儀式での影武者、身の回りの世話係と文字通りなんでもこなす大変頼もしい少年だった。


彼は賢く目端が効く少年で一をきけば十を知るような賢さと常に自分が周囲の大人達から何を必要とされているかごく自然に感じ取り、その通りに振る舞うことができる。


更にもう少し成長するとライズ王子派の有力な武将になる。


戦上手のムラサメ将軍について出陣し、戦いの中で少年のうちから戦いの術や戦略を学び、副官を命じられるとメキメキと頭角を表す。


彼が挙げた戦果は、わずかな手勢で敵の城を攻め落とす、少数の手勢で相手の大軍を翻弄する。

敵に囲まれた危険な死地から王子を脱出させる、物資搬送の危険な任務を見事に成功させる、など枚挙にいとまがない。


そして我儘で勉強嫌いのやんちゃな王子ライズと兄弟以上の親しさで育ってきたため、ライズと上手く渡り合い、丸め込む事を得意としており、時にはライズと本気の喧嘩もしながらも彼を立派な武人に見せる為に陰に日向にフォローもかかさない。


そんななんでも出来る器用な人間のラリ。


そして、彼とライズ王子はいつも一緒にいる。


ケンカもするけれどまるでお互い空気のような存在。


時にわがまま王子に変わりよく似たライズ王子と背丈が変わらない影武者を立ててラリがそばにいるとそれだけで王子の代わりになる。


この2人の間には他の誰も入り込めないような絆があり、普段は敬称も使わず、対等に軽口を叩き合い子供の頃は取っ組み合いの喧嘩までするほどの仲であったから、まあ、成長してもそのままの関係だった。


それはわがまま男ライズの問題行動が全ての原因であるが悪いことばかりなのだが。


辛い過去と生い立ちの持ち主であるが、やはり王妃の元で育てられた他の戦災孤児の子供達の


優しい兄貴分として非常に頼りになる。


戦をまさに実地で学んだ。


王子について水の国にも同行し、祖国風の精の国に戻れば影武者をしたり、バル国王の軍隊を少数の手勢でうちまかしたり、とにかくすこぶる戦に強い男となって頭角を現す。

と同時にライズ王子の気まぐれ行動に振り回さられる日々もおくる。


そんな彼の人生の転機になったのはやはり水の国への留学だったろう。


ライズ王子の護衛として、国境越えを果たして水の国に入国した時もそれなりに物語になりそうな危険な出来事物語だったが、「子供達の視野を広げさせてほしい」という依頼でライズと自分と3人の小姓たちを羽衣売りのキチジに預けたのは彼の大切な王妃アマリエ様だった。


ラリは、命の恩人たる、ムラサメ将軍と王妃アマリエ様に誰よりも忠誠心を抱いているつもりであった。



ラリは、本当の気持ちとしては風の国にとどまり王妃やムラサメ将軍を支えて戦い続けたかったのだが、戦しか知らない彼のことを案じてくれたアマリエの優しい気遣いに応えて水の国に入国する。



そこでの体験は確かに戦争しか知らない彼の視野を突然バン!と開かせるような、刺激的なものだった。


学問の都、夢のような世界、平和で豊かな異国文化の爛熟ぶりに驚愕してしまったけれど、やはり懐かしい王母さまもおられる、そして風が強く吹いて自由自在に飛び回れるこの国を自分は深く愛しているのだと思い知ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ