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異世界恋愛+α(短編)

あざと女子ガチンコファイトクラブ

作者: いのりん
掲載日:2026/01/08

下記の作品に影響を受けています。

『これ以上は2人じゃないと無理ですわ。』 〜婚約者の従妹がデートについてくるので、元祖あざと系の私が返り討ちにしました〜  N5290LH

作者の間宮芽衣さまから掲載許可を頂いております。

 わたくし、男爵令嬢のレオナと申します。

 いわゆる異世界転生者と言う奴でして、隣領にはガゼルという幼馴染と恋人を兼ねた子爵令息がいますの。


 彼がもう、とってもいい子でして!


 朴念仁で損得勘定なく人助けしちゃうタイプといいますか、崖に落ちそうな人を見かけたら助けようとして一緒に落ちてしまうタイプといいますか、お馬鹿可愛いといいますか。


 前世、利己的な殿方をたくさんみてきたわたくしとしては、彼の様なタイプは新鮮で、そして愛おしく思っております。

 ゆえにわたくしも彼に倣い、策を用いるような事はせず心のまま清いお付き合いをしていますの。


 勿論、僭越ながら現在はわたくしが恋人ということになっておりますので、彼のことはわたくしが幸せにして差し上げる所存です。

 ですが、お互い貴族ですし、まだ婚約している訳でもありません。彼がわたくし以上の良縁に恵まれるようなら喜んで身を引く覚悟です。


 このような幼馴染名言もあります。

『恋は勝たねばならないが、愛は勝たなくても良い』


 ですからまあ、そろそろ彼の方からプロポーズしてくれたら嬉しいなぁ、なんて気持ちもないわけではないのですが、あくまでも彼の幸せが一番です。


 やだ、わたくしったらいい事言ったわ。


 さて、今日はわたくし、そんな彼と街デートの予定なのですが……


「すまない、レオナ」

「いえいえ、お気になさらず」


 本日、ガゼルの隣には可愛らしいお嬢さんがいました。コモノー男爵家の令嬢でハイエというそうです。わたくし達よりも3つ年下、14歳だそう。

 親同士の商談についてきて、でも退屈だからって言い出して……それでガゼルが連れ出す様に言いつけられた様子。


「ハイエちゃん、こちらはレオナ。僕の幼馴染で恋人なんだ。今日は3人で街を回ろう。」

「はーい。私、この街初めてだからはぐれないようにしなくっちゃ。」


 ハイエはそう言いながらガゼルの袖を軽くつまむと、彼から見えない角度で好戦的に笑いかけてきました。


 ほう……


 その後、3人で街をまわり、ハイエは恋人のわたくしがいると言うのにガゼルにばかり話しかけます。

 これはおそらく、親からの命令で彼の心を掴む様に言われているのでしょう。外見は『かけっこが速い女の子』って感じのハイエですが、正体は『手の速い女』だったようです。


 ガゼルの領地はお金持ちで、彼自身もお人よし過ぎること以外は優良物件ですからね。加えて言えば、かっちりした着こなしの私をみて、これなら勝てると値踏みしたのがわかります。


 加えてこの可愛さを前面に押し出したアピール。彼女は自分の武器をわかっていますね。


「だが甘い」


 二人に聞こえないように、小声で呟きます。


 わたくし、彼がわたくし以上の良縁に恵まれるようなら喜んで身を引く覚悟ではあります。しかし、彼女とその実家はその器ではない。

 わたくしの代わりにガゼルの隣に立ちたいならせめて、しごできで美人で性格もよい王女様くらいにはきてもらわないとね。


 まあこの国には今、王女はいないんですけども。


 なので彼女には早いところ負けてご退場願いましょう。

 愛は勝たなくて良い……が、恋の戦には勝たねばならない。女なら幼稚園児でも知っている常識です。


 というかぶっちゃけ、ハイエはわたくしの下位互換にしか見えません。

 わたくし、前世はクラスで一番足の速い男の子から大統領まで、所属する全てのステージで一番いい男を掻っ攫ってきた元祖あざと系でしたの。そんなわたくしとハイエの間には現在、6階級統一王者と4回戦ボクサーくらいのキャリア差があります。




「ガゼル様!これ素敵じゃないですか」


 街の雑貨店。


 ハイエは雑貨を片手にガゼルに駆け寄ると、雑貨をみせ……るようにしつつ上目遣いで彼を覗きこみました。


 なるほど、堅実なやり方です。いきなりヘッドショットを狙うのではなく、確実に標的を仕留めるために、まずはボディーブローをといったところですね。


(でも、まだまだね。それではまるでモスキート級の手打ちパンチだわ。しかも単発。)


 私はそう思いながら、髪を耳へとかけ上げます。普段彼に見せない髪型、ボクシングで言うとグローブを16オンスから8オンスに変更したといったところでしょうか。


 続けて、老獪なアウトボクサーのようにガゼルを中心とした円を描くようにステップを踏み彼の死角に入りました。


「――お二人とも何を見ていらっしゃるの?」


 わざと彼の耳元に息がかかるように調節しつつ、顔に頰がつきそうでつかない絶妙な距離で肩越しに顔を出します。


「うわ、レオナ!ち、近っ……」

「きゃん!」


 ガゼルがビクッとしたタイミングで身体を軽くぶつけつつ片足を踏み出し、そこを軸に身体を回転。ハイエとの間に身体を割り込ませると、バランスを崩したかのようにガゼルの胸によりかかります。

 そして、反射的に手を出した彼の腕の中にすっぽりとおさまると、抱きしめられたかのように巧みに身体を密着させました。


「ご、ごめん」

「ううん。助けてくれてありがとう。」


 ゼロ距離。

 ボクシングで言うとクリンチの状態。


 しかし、一流のあざとインファイターはここから重いパンチを繰り出すことができます。


「ぁあ、やんっ」


 距離の近さに気づき恥じらったように彼の胸を軽く押し、拳一つ分くらいの隙間を開けつつ、関節の捻りと体重移動にて胸を腕に押し付けました。

 そうして僅かにできた隙間から、完璧な顔の角度、アヒル口、頬染めの三位一体型(△ダイナマイト)涙目上目遣い(スクリューブロー)で彼の心臓(ハート)強打(ブレイクショット)を放ちます。


「ぐお!!」


 ガゼルの膝が軽く折れます。


「んなぁ?!」


 後方からハイエが朴念仁属性(高い耐久力)をもつ彼が、上目遣い(ボディブロー)一発で!?と驚愕する気配がしました。


 当然よ。貴女の上目遣い(パンチ)はベチンだけど、わたくしのはドゴン!ですから。


 そして頭が下がったところへ追撃。


「ねぇ、わたくしのことも……ちゃんとみてね」


 カッチリした衣服の隙間からデコルテをチラ見せし、耳元でいじましい感じに吐息多めで囁き、彼の顎をツイと指で撫でてから、名残り惜しそうに離れます。


 視線誘導で無防備になった死角から 耳まわり(テンプル)(ジョー)を連続で撃ち抜かれ、脳を揺らされたガゼル。

 彼は離れるわたくしの手を反射的につかみました。


 フィーッシュ!!



 ◇◇◇


 結論から申し上げますと、続いてわたくしが「ダメ、ハイエ様がいらっしゃるわ。そう言うのは……二人きりの時に、ね。」と囁いた時点で勝負はもうついていました。


 ですが、それからも諦めずに、お出かけ終盤にガゼルがわたくしに婚約を持ちかけてくるその瞬間まで勝ち筋がないか泥臭く模索していたハイエ。

 彼女、テクニックはまだまだだけど、心は強いわね。そういうの、嫌いじゃなくってよ。


 なので、ガゼルとわたくしが結婚した後はもうノーサイド。ハイエとはその後、よき友人となりました。


 え、心が広いわねって?

 オホホ、よく言われます。


 それにほら、彼女がガゼルの隣に現れたのって、元々は彼女の父親からの命令ですもの。

 で、実はそのきっかけっておそらく、わたくしが夜会でハイエの父親にあざとく、未来の夫の領地が栄えるような『お願い』をしたからですし。


 レギュレーション違反?ノンノン。

 魔法をかけているだけですわ。


 ちなみにハングリー精神あふれるハイエは今、王太子からの結婚指輪(チャンピオンリング)を手に入れるべくトレーニングに励んでいるそうです。


 きっと、これから社交界で静かなる激闘が繰り広げられるのでしょうが……



「みてレオナ、湖がきれいだよ」

「まあ、本当ですね」


 ひと足先に血生臭い世界からは引退して新婚旅行に飛び出したわたくしには、もう関係のない話ですね。


 だって、恋は勝たねばなりませんが、夫婦愛に勝ち負けはないのですから。


「ねえ、ガゼル」

「ん?」

「大好きですわ、昔からずっと」


 耳まで赤くなるガゼル。

 小さい頃からずっと変わらない癖。お可愛いこと。


「レオナ」

「ふふっ、どうかされましたか」

「きっと君を幸せにするから」

「うぉるぐ!?」


 あ、あらやだ。格好いいじゃない

 強い想いパンチで逆転KOされちゃったわ


 そんなあなたのことが、昔よりもずっと好き

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― 新着の感想 ―
感想失礼いたします。 タイトル通り「あざとさ」を真正面からエンタメに振り切った構成がとにかく痛快でした。あざとさを心理戦ではなく“格闘技”として描き、ボクシング用語で一つ一つの仕草を可視化していく語り…
「女」はハイエナなのよ、お気をつけあそばせ。 年ごろになったら、立てば芍薬座れば牡丹。 羊の顔していても心の中は、ワニのアギトがスクリューバイトでデスロール。そう言うものよ?            …
何故でしょか このお話しを読んでいる時の 脳内BGMずっと ロッキーのテーマソングがリピートされました。 「エイドリアーン!!」  幻の叫び声が聞こえてきました
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