7 ~お母さまと王都へ行こうっ その2 ~
翌朝。
王都の朝は早い。
秋も深まってきて冷え込むようになってきているが、既に街には馬車や人の往来が始まっているようで、遠くから多くの喧騒が聞こえてくる。
「んん~っ・・」
「おはよう、ミリアーナ。」
「おはようごさいます、お母さま。」
既に母は起きており、身支度を進めているようだ。
「よく寝られた?」
「うんっ。」
「そう。 したら今日は朝、学園の見学に行って、そのあと少し街を見て回って、それからフリード伯父様の所に行きますからね?」
「はいっ。」
ミリアーナも起きて支度を済ましてゆく。
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「おはようございます、お父様、お母様。」
「おはようございますっ お祖父さま、お祖母さまっ。」
「おはよう、リリアンヌ、ミリアーナ。」
「おはよう。 二人共、昨日は良く寝られたかしら?」
「はい、おかげさまで。」
「フッカフカのベッド、すっごく気持ちよかったっ♪」
「そう。それはよかったわねぇ?」
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「それで、今日はどうするんだい。学園へは行ってみるのかい?」
「はい。午前中に学園を見学して、そのあと街を見て回りながらフリード兄様の所へ行こうかと。」
「そうか。 ならば、フリードに伝えておいてくれないか。少し、見て貰いたい魔道具があると。」
「わかりましたわ、お父様。」
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朝食を済ませ、邸を出る二人。
傍には見送りに出てきたルイーズもいる。
「リリアンヌ様。この後のご予定は?」
「今日はこれから学園を見て、そのあとフリード兄様の所へ。今夜は多分フリード兄様の所にお世話になるだろうから、明日またここに来るわね。」
「そうですか。畏まりました。 では、いってらっしゃいませ。」
「ルイーズさん、また明日ね~。」
「はい。いってらっしゃいませ。」
学園へは少し距離があるので、馬車にて移動する二人。
途中、商業地区や商人、下級貴族の住居地区を過ぎる。
少し遠くに王城を見ながら馬車を進めて行くと、目的の王立学園が見えてきた。
王立学園は、この国にある一番大きな学校だけあって、塀に囲まれた中に生徒が憩う広場や噴水があり、二階建ての校舎が何棟か立ち並ぶ中には中庭もある。
また、校舎の隣には運動場や訓練場、研究棟や実習棟などもある豪勢な造りとなっている為、外から見てもとても広い敷地に見えるのだ。
「大きな学校だねぇ~。」
「そうねぇ。 フレデリックも今までここに通っていたのよ?」
「うん。 お兄さまからも聞いていたけれど、本当に大きい学校なんだね。」
「さあ、着いたわよ。」
学園の門の前に馬車が到着する。
二人は馬車を降り、学園の門番に声を掛ける。
暫くすると案内をしてくれるという男性が出てきた。
「ウィルヴィレッジ様ですね? お話は伺っております。 では、ご案内しますので、こちらへどうぞ。」
二人は係りの男性についてゆき、学園の前庭を横目に見ながら中へと入り、校舎を案内してもらう。
そして係が窓越しに見える施設の説明をしてゆく。
「こちらが生徒が学ぶ教室となっております。で、そちらに見えるのが訓練場、その奥に見えるのが実習棟となっております。」
一通りの見学を済ませ、事務室に案内される二人。
ここで学べる事の内容と、学園が運営している学生寮について、そして入学試験についての説明を受ける。
学園での生活については兄から聞いていたので特に質問もなく、そして一通りの説明を受け終わった二人は、学園をあとにする。
「ミリアーナ。どう? ここでやっていけそうかしら?」
「はいっ すごく楽しそうなところで、ここで学ぶのが楽しみですっ♪」
ミリアーナは早くも学園での生活に期待をしているようだ。
「ミリアーナ。あなたは学生寮と下宿と、どちらが良いのかしら?」
「う~ん・・どうしよう・・・。」
学園の運営している寮は、学園から近くにあるが、他の学生と相部屋になる。
また食事についても、学生達が皆で利用する食堂で食べることになり、浴室についても、当然の様に共同の浴場を利用する事となるのだ。
しかし、下宿ではすべてが一人。もちろん下宿先でも世話をしてくれる人がいるのだろうが。
ミリアーナの学園生活を楽しみたいという気持ちは、ほかの生徒との共同生活にも魅力を感じているので、大勢か一人か、様々な期待と不安が入り交じり、心揺れるのだった。
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そして考えを巡らせながら街を歩き、商業地区に入った二人。
時間はちょうどお昼を過ぎたところ。
「へい、いらっしゃいいらっしゃい~」
「は~い、今日はイイ物入ってるよぉ~」
街は活気に溢れ、ガヤガヤと街に人々が行き交い、商人たちの掛け声が飛び交う。
露店で買い物や食事をする人々。お昼時なので、食事処も賑わっているようだ。
「ミリアーナ。そろそろお昼にしましょうか。」
「はい、お母さま。 おなかへったぁ~。」
子供連れで入るのに良さそうな店を見つけ、入ってゆく二人。
「いらっしゃいませ。 ご注文は何になさいますか?」
注文を受けにきた若いウエイトレスがやってくる。
「では、これと、これを。それから、この飲み物をお願いします。」
「畏まりました。」
店内は昼食を求めて混雑している。
暫くし、注文したものがやってくる。
「お待たせしました。」
「わっ、おいしそうっ」
「ありがとう。 では、いただくとしましょうか。」
「いっただきま~す♪」
食事を終え会計を済ませ、店の外に出る二人。
「おいしかったぁ~」
「ふふ、満足したみたいね?」
「うんっ。」
そして商業地区を見歩きながら、この地区の外れにある、職人達が集まる街の一角にあるフリードの工房へと向かう。
コン コン コン
「はぁい。」
ドアをノックして暫くすると、中から女性の声が聞こえ、扉が開けられる。
フリードの妻、エレナだ。
「こんにちは、エレナさん。お久しぶりです。」
「あらっ、リリアンヌさん。 こんにちは。お久しぶりねぇ。 それにミリアーナちゃんまで。よく来たわねぇ。」
「こんにちはっ、エレナおばさまっ。」
「こんにちは、ミリアーナちゃん。 ささっ、こんなところじゃなんだから。どうぞ中へあがって。」
エレナは職人の妻だけあって、豪快な人である。
二人はフリードのいる工房の方へ案内される。
「あなた、リリアンヌさん達が来たわよ?」
「おお。いらっしゃい、久しぶりじゃないか。」
「お兄様、こんにちは。」
「フリード伯父さま、こんにちはっ。」
ここでもしっかりカーテシーで挨拶するミリアーナ。
もう大人なんだぞ、と言わんばかりに。
「おや。もうすっかり大人のお嬢さんだね?」
「えへへ~。」
「そうよねぇ。ミリアーナちゃんも、もう10歳だもんねぇ?」
「はいっ!」
「ところで、今日はどうしたんだい?」
「ええ。来年はミリアーナがこっちの学園に入りたいっていうから、見学に。
それと、ミリアーナが魔道具の事を教えて貰いたいっていうから、それじゃあって。」
「そうかい。 ミリアーナは、魔道具に興味があるのかい?」
「はいっ! 魔道具って、不思議で。それで・・伯父さまにどうなっているのか教えてもらいたくて。」
「こっちの学園には、魔道具師のコースがあるでしょう?この子、そこに入って勉強してみたいって・・。」
「そうなのかい。じゃあ、しっかり勉強しないとだな?」
「はいっ。」
「そうそう。お父様の所にも寄ったのだけれど、何か、魔道具の事で相談があるとか。」
「そうなのかい?したら、今度時間のある時にでも寄って聞いてみることにするよ。」
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居間でテーブルを囲み、お茶をしながら談笑する4人。
魔道具についての話になり、食い付くミリアーナ。
「ねぇ、伯父さま。 魔道具って、どういう物があるの? お家にあるのは・・明かりを灯したりできる物だけど。」
「ああ、それはランプの魔道具だね。 普通は・・蝋燭などの火を使って明りにするのだけれども、それだと、火だから燃え移ったりして危ないだろう?けれど、魔道具だとね、熱をあまり出さないで明りに出来るんだよ。」
「そうなんだ・・・?」
「ミリアーナにはまだよくわからないかも知れないけれど、魔道具にはね、もっと色々な物があるんだよ?
ランプの魔道具は生活魔道具と言われる物のひとつなんだけれど、生活魔道具にも使う魔力によって色々種類があってね。ランプは主に火の魔力を利用して更に他の魔力を組み合わせて作る物なんだけど、火だけを使う魔道具なら、薪に火を着ける魔道具があるね。まずそういうのがひとつ。それと、風の魔力を使う物もあるよ。風を起こして空気を送ったり出来る物だよ。それから、水の魔力を使う物。水を汲んで来なくても、出したり、溜めたりして使う事が出来るんだ。他には、土の魔力や樹の魔力を使う物もあるのだけれど、生活魔道具にはあまり使われてないねぇ。」
「・・・・・??(・・難しい・・)」
「他にはね、魔力をいくつか組み合わせて使う魔道具もあるんだよ?
さっきのランプもそうだけれど、火と風と樹の魔力を組み合わせたもので光を出す物。水と風の魔力を使って氷を作ったり物を冷やしたり。それから・・・」
「・・・・・?????・・・・・」
「ははは。ミリアーナにはまだちょっと難し過ぎたようだね。」
「・・うん・・」
「大丈夫。ミリアーナも学園に入ってしっかりと勉強すれば、理解出来る様になるぞ?」
「ほんとっ?! 私、がんばるっ!」
魔道具の事を訊いて、かえって頭の中がはてなマークだらけになってしまったのだが、決意を新たにもっと知りたいと思うミリアーナなのであった。