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57 ~初めての鍛冶作業っ♪~


 担任から呼び出され、そして学園長から色々と話を聞かされたミリアーナ。

まさか自分のルーツにそんな人が居たとは知らず、おまけに祖父まで凄い人だったとは知らなかったので、話を聞いて凄く驚いた。

しかし、だからと言って実感は何もないのだった。



「なるほどぉ。 ミリアーナさんが凄いのは、そういう血筋もあったんですねぇ。」


(わたくし)もそれで納得しました。なぜそれほどの剣術センスがあるのか、不思議でならなかったので。」


「う~ん・・・。 でもさ、私、全然知らなかったんだよ?曾お爺様(ひいおじいさま)がそんな人だったなんて。 それにさ、私、お祖父様(じいさま)に剣術なんて教わった事、一度もないし。」


「だから、そういうのを()()って言うんじゃないですかぁ。」


「そうかなぁ・・?」


「「そうですよ。」」


(う・・)


「でも、それだけじゃない感じがするんですよね、ミリアーナさんの場合。」


「そうですね。ミリアーナさんは、そう、何か違うというか・・。」


「??」

(それは良い意味なのか?)


「でもまあ、ミリアーナさんですからね。」


「ええ、そうですね。 ミリアーナさんですから。」


「はい?」

(なんじゃそりゃっ!)



ミリアーナは、誰にも自分が前世の記憶持ち(異世界からの転生者)である事を話してはいない。

尤も、ミリアーナ自身、自分がそうである事を意識して生活などしてはいない。

この世界に突然転移してきた訳でもないのだし、勿論途中で前世の魂が憑依したとも思っていない。

そして何か特別な、神から祝福されたような存在だとも思っていない。

自身がこの世界に赤子として生まれ、普通に育ち、そして十歳の時に何となく前世の記憶を思い出し、去年はっきりと思い出せただけのこの世界のただの住人、そういう認識でしかないのだ。


ただ、考えた事はある。

自分がこの世界に生を受けた時の記憶について、前世でのラノベ的知識で考え、これは異世界転生あるあるなのだろうか、と。

そして、転生前後の記憶で思い出せたものは、生まれた時に母に抱かれていた記憶はあるのだが、その前に特に何か神託を受けたとか、神様に会ったとかの覚えもないし、勿論自分から何かお願いした記憶もないという事。

前世の転生直前の記憶の部分を辿っても、事故の瞬間と、病院で治療を受け、そして医師の努力も空しく家族に看取られた、ただそれだけの記憶しか残っていない。

なので辿り着いたのが、『自分の魂がこの世界で再び生を受け、偶々前世の色々な(美奈だった時の)記憶を思い出しちゃった』だけであると。

もっとも、生まれた直後の記憶が薄っすらとでもある事は、自分でも驚きはしたが。



~~~~~~~~~~~~~~



時は少し進み七月初め。

新一年生も学園に慣れてきて、生徒達は皆穏やかな学園生活を送っている。

ヘルムートとも、まあ、付かず離れずな友人関係として、学園で一緒に勉強する仲間として接している。

彼と放課後や休日に会う事も今のところ無いので、別に何か気にする事もないのだ。


そして今日もいつも通りに学園で勉学に励むミリアーナ。


今は冶金学の講義中。


この世界の冶金とは、一般的な素材を作り出す技術であり、魔導術を用いる錬金とは異なるものである。

勿論、錬金術でも一般的な素材を作る事は出来るのだが・・・、農機具や生活道具に用いる素材を作るのにその様な高度な技術は必要ない。

錬金術師という職業に就ける人間は、魔導術に長けた一部の者に限られ、また、錬金術で素材を大量生産するのは効率が悪く、不向きである。

なので、大量生産を求められる素材を製造する職人として、冶金師という職業がある。


では、何故ミリアーナが錬金術だけでなく冶金術まで学ぶのか・・と言えば、そもそも一般素材を扱えずに特殊素材を扱うなんておかしいよね?と言う、ミリアーナの拘りである。



「 ―――の様に、鉱石から有用な素材である鉄や銅を精練する為の技術として――― 」


(やっぱ、普通の素材の方が馴染めるねっ♪)


そりゃそうだろう。

そもそも美奈だった頃(前世)は自動車整備士なので、そういう素材工学も知識としてあるのだ。

尤も、それをしっかりと整備の実践に持ち込んでいた人間はごく一部だが・・・。


因みに、この世界での一般金属とは、鉄、銅、亜鉛、錫、鉛、である。その他に、宝飾品や貨幣として利用される金と銀くらいだろうか。

まだこの世界では、アルミニウムは物質として知られていても精錬技術が乏しく、金属として扱われていない。

勿論、その他の鉄に似た金属(美奈の居た(読者の皆様の)世界で遷移金属にあたる物)である、クロム、バナジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、そしてチタンやタングステン、プラチナやロジウム、イリジウムなんて、利用出来ない物(スラグ)として廃棄されている・・のである。無論、アルミニウムのお仲間のケイ素も然りである。

尤も、特別な物質は錬金術で作ってしまえ、と言う世界なので、合金が~とか、軽量な金属が~なんて考えてないので、それでも良いのだろうが。


余談だが、この世界で樹脂と言えば、木材の(ヤニ)(にかわ)の様な物はあるが、天然ゴムはまだ知られていないし、合成ゴムなんて・・未知の物質。当然硬質樹脂(プラスチック)類など在る筈もなく。

そして塗料としてのシェラックや漆の様な物は知られているがまだ高価、若しくは遠い異国の物(珍品)。なので木材や布の防水は油脂や蝋を染み込ませる手法を取っている。



「 ―――このように、農具や刃物に使用される為、鉄は大量に必要とされており、鉱石を採取して精練し、鍛冶産業へ供給する事は非常に大切な事であり――― 」


「 ―――そして製鉄に於いて必要な大量の空気を供給する為には大型送風機が必要となりますが、その動力源に於いても、我が国は幸いにも山間国であるが為に中小河川が数多く在り、水車を利用する事で賄う事が出来ます。また、その動力を用いて鋼の鍛造精練を効率良く行う事が出来、大量に供給が出来るのです。」


(ふ~ん・・・、だよねぇ・・・。溶鉱炉での溶融製鉄なんて、まだこの世界にはないんだろうな・・・。)


ミリアーナは講義を聴きつつ、自分(前世)の知識と比べて考えていた。


(う~ん。でも、必要だもんね、鉄。 無かったら・・困るわな。 でもさ、この手法だと薄物は大量生産出来ない気が・・・。 鉄板・・・あ、そか。叩いて伸ばして作ってるのか・・連続圧延出来ないかな。 パイプは? ・・、鋳造でイケる・・のか。)



「 ―――このように鍛造精練によって鉄を大量に作るのですが、現在も昔ながらの製法で原料鉄から精練し、武器等を作る職人もいます。」


(だよねぇ。中には拘りで、大量生産品の鉄からでは良い物にならないからって、一から精練する人もいるんだろね。  ん~、たたら製鉄? そういえば日本刀の鋼・・玉鋼って、絶妙な炭素含有量なんだったっけ?)


「 ―――では、次回は昔からの製法である精練方法についての講義をしたいと思います。」


などと先生の話をを聴きながら前世での知識を思い出していると、いつの間にかに講義が終わりになってしまった。


(よっし、次の時間は鍛冶加工術か・・ 今日も楽しみ♪)


と、既に次の時間に興味が移っているミリアーナ。

今は次の実習に向けて準備をしつつ何となく休憩を取っているのだが、こんな風に無防備であると・・・


「ねえっ、ミリアーナさん!」


「ふぇっ!?    ・・・、なんだ、ヘルムートさんか。」


「なんか冷たいなぁ。」


「急に声を掛けてきてビックリさせるから悪いんでしょ?」


「ははは、ごめんごめん、悪かったよ。」


「で、なあに?」


「あ、うん。 次の時間、ミリアーナさん鍛冶術でしょ?一緒に行こうかなって。」


「そう、べつに良いけど。」

(確かさっきの時間、別の講義に行ってた筈よね・・・)


そう、彼、ヘルムートとは同じ魔道具師科ではあるが、いつも同じ時間に同じ講義を聞いている訳ではない。

彼は彼なりの時間割を組んでいて、さっきの時間は別の講義室に行っていた筈である。

特に彼の事を気にしている訳ではないのだが、やはり少し面倒臭いなと思っているミリアーナ。

なるべく途中で会わないように、そそくさと移動しているつもりなのだが、今日みたいに何となく他の事を考えていると何故か捉ってしまう事が多いのだ。


「今日からナイフを作る実習だったよね?」


「うん、先週、シャルム先生がそう言ってたね。」


そう、今日からの実習はハンマーを振って刃物を作るのだ。

尤も一時限、たった一時間半の時間で区切りながら出来る作業でしかないのだから、簡単なナイフを作る程度ではあるのだが。

本格的な鍛冶術の実習となると、朝から夕方まで丸一日ぶっ続けの作業となる。

なので、来学期以降にそのような時間割を組んでみたいと思っているミリアーナだ。


話しながら鍛冶師科の実習室に入る二人。

簡単な物を作る実習室は、長時間かけて作る刃物などの鍛冶場の隣である。

勿論その場所では、鍛冶師科の生徒達が朝から入って作業をしていて、一日中何かしらの音が鳴り響いていたりする。

そんな鍛冶場を横目で見ながら実習室に入る。

実習場の中は小さめだが本格的な設備が整っており、鉄などを使っての小物の製作を出来るようになっている。

今この実習に集まっているのは、鍛冶師科一年目の生徒とその他魔道具師科一年目の生徒の様だ。

ただ、実習場があまり広くないので、この時間を選んで受けている生徒は5人である。


始まるのを待っていると先生がやって来た。

鍛冶師科の担任、シャルム・コンパウノ先生である。


「今日から鍛冶の基本として刃物を作りますが、短い時間、少しづつの作業で行うので、簡単で手頃な大きさのナイフを作成していきます。 使用する素材をここに持ってきましたが、今回は小物を作るのにちょうど良い大きさの物を用意しました。」


シャルム先生はそう言いながらその材料を見せる。

鉄の小さな塊であるが、その形は既に大体の大きさに整えられており、平べったく細長い棒状の物である。


「では早速始めようと思いますので、皆さん、素材をこちらに取りに来てください。」


とりあえず言われた通りその素材を取りに行き、手にしてみるミリアーナ。


(ふぅん。今日からこれでナイフを作るのね。この感じだと・・果物ナイフくらいの大きさになるのかな?)


「それじゃあ、早速始めていきましょう。今みんなが持っている物は市販されているもので、冶金師が刃物などの作成用に作っている鉄の塊です。 ここから作りたい形に叩いて仕上げていくのですから、それほど難しい作業ではありません。」


(ふうん、便利だねぇ。丁度良さげな大きさにして売ってるんだね。)


そしてミリアーナ他生徒達5人は鉄を加熱する為の炉の前にそれぞれ移動する。

炉はきちんと火が入っており、直ぐに使用出来るらしい。

まあ、当然である。このような加熱炉は一度火を落としてしまうと、次に使えるようになるまで非常に時間が掛かってしまう。

なので、実習があるその日の朝には火入れがされており、火を落とすのは全ての作業が終わった後、夕方である。

今日だって、この炉はすぐ前の時間の生徒達が使っていたそのままを引き継いで使用するのだ。


(よ~し、頑張って作業するぞぉ~っ!)


ミリアーナはこれから毎週、この炉の前に立って鉄を温めては叩いて伸ばす、と言う作業を頑張るのだ。



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