55 ~えっ、呼び出しっ?!~
皆に注目される実習も終わり、ヘルムートも帰った今。
「うぅっ・・ 疲れたょぉ~・・・。」
「またですかぁ?」
「今度は何をしたのですか?」
「うぅぅ~~~」
今はイザベラとソフィアと共に下校中であるのだが・・
そう、絶賛お疲れ中のミリアーナである。
「だって、だってぇ~・・・」
「ミリアーナさん、それじゃあ良く分からないですよ?」
「うん・・。 んとね、ヘルムートさんの事なんだけどね・・。」
「彼がどうかしたのですか?」
「うん。 なんで近付いてきたのか分かったのよ・・。」
「へぇ、なんだったんです?」
「それがね、ただ友達になりたかっただけだって言うのよ・・。」
「え?あのような事をしておきながらですか?」
「そうなのよ・・。」
「それはまた回り道して来ましたねぇ。 でも、もしかすると・・。」
「ええ。 もしかしたら、ですが・・・」
「えっ、何・・」
「この先もあるかもですねぇ。」
「??」
「ええ、ありえますね。」
「えっ、何、何っ・・」
「そりゃあ、ねぇ?」
「そうですね。」
「えっ・・??」
「だからぁ。 ねぇ?」
「んんん??」
「え・・。」
「え、まだ分からないんですかぁ?」
「う??」
「ええ、相手は貴族ですからね。」
「う・・・・? あ・・・」
「分かりましたぁ?」
「うん・・・」
「先は分からないですね。」
「うん、いや、でもさっ。 向こうはその気は無いって言ったよ?」
「「え?」」
「えっ?」
「それ、面と向かって言います?普通。」
「そうですね。少々アレな感じがしますが。」
「い、いや、その、ね。 なんか失礼だなぁ・・・とは思ったよ? けどさ・・」
「まあ、そうですねぇ。男の子、ですし。」
「そうですね。 貴族としてはどうかと思いますが。」
「ははは・・。」
こうしてくだらない話をしつつ、その日は三人で帰った。
そして翌日。
「ミリアーナさん、また何か注目される事したんですか?」
「え?」
「ええ、どうやら錬金術でどうの、とかと言う噂なのですが。」
「ん? ・・・あ。」
「やっぱり。」
「うっ・・」
「何したんです?」
「うん、その・・ね、集中して頑張っちゃったら、なんか凄い物が出来てたらしくて・・・。」
「それで、どんな物作っちゃったんです?」
「う、うん。 魔導術の実習中にね、魔石粉を作る練習があってね。そこで頑張ってたらさ、その、なんか凄い粉が出来ちゃってたらしくて。ははは。」
「流石はミリアーナさん、ですね。」
「えっ?いや、・・。 そんなに凄かったのかな?」
「ええ、どうやら普通は出来ない粉が出来ていたらしいですよ?」
「そうなの??」
「学園の生徒が作る事は、普通は出来ない物だったようですが。」
「相当高度な技がないと生成出来ない物だったとかって噂ですよ?」
「え??」
(マヂかっ!)
と、またそんな話をしながら寮に帰ってゆく三人だったのだが・・・。
その翌朝。
ミリアーナは担任から声を掛けられる。
「ミリアーナさん、今日の放課後、時間はありますか?」
「はい、大丈夫ですが。 私、何かしてしまったでしょうか?」
「いえ。悪い話ではないので安心して下さい。」
「はあ。」
「それでは放課後、とりあえず職員室の方まで来て下さいね。」
「はい、わかりました。」
(う・・? なんだろ・・・。不安なのだが??)
その日は剣術の時間があり、イザベラに『先生に呼び出されたから先に帰ってね』と伝える事が出来たので、安心して放課後の呼び出しに応じたミリアーナ。
今日は土曜日であり、半ドンで終わる日なのだが・・。
(なんか、お腹減ったな・・・)
と思いつつ、とりあえずは職員室へと向かう事にする。
トントントン
「どうぞ。」
「失礼します。 魔道具師科のミリアーナ・ウィルヴィレッジです。 担任のロベルト先生に呼ばれて参りました。」
「ああ、ミリアーナさん。 こっちに来て下さい。」
職員室の中ほどに居たロベルト先生が気付き、ミリアーナを応接室に呼び寄せた。
「では、中に入って下さい。」
「は、はい。」
ロベルト先生に促され、少し緊張しながら応接室に入る。
トントントン
「どうぞ。」
(ん??)
「失礼します。」
聞き慣れたようで聞き慣れていない女性の声で入室を許されたような気がしたミリアーナ。
恐る恐る入ってゆくと。
(あ・・)
「ミリアーナさん、いらっしゃい。 まあ、そこに座りなさいな。」
「は、はいっ。 しっ、失礼しますっ。」
学園長である。
座るように促されたので、怖々と下座へ着く。
「あ、あの・・。」
「ふふふっ。 そんなに緊張しなくて大丈夫よ?」
「は、はい・・。」
超絶緊張し、俯き加減ではあるが、眼だけで部屋を見渡すと・・
そこには学園長の他に錬金術のアルフレッド先生も居た。
そして、担任のロベルト先生。
(ヤバい・・・?)
三人に注目され、頭の中がグルグルし始めるミリアーナ。
学園長が執事を呼び、お茶の準備をさせている。
「失礼します。 どうぞ。」
「ん、有難う、セバスティーノ。」
執事によってテーブルにお茶と菓子が並べられる。
「あ、ありがとうございますっ・・」
「いえ。」
執事は礼を取り、部屋の片隅へと下がる。
「ふふっ、大丈夫。リラックスしなさい。 ミリアーナさん、昼食、まだなのでしょう?」
「はっ、はいっ。」
「じゃ、少ないけど、まずはこれを食べてお腹を満たしてね?」
「は、はいっ。」
(うぅ・・っ、食べて良いって言われてもぉ・・)
まあ、こんな状況で普通に食べる事が出来たら、相当のツワモノである。
「あ、あの・・。 えっと・・。」
「ほら、美味しいわよ?」
学園長に更に勧められてしまい、どぎまぎとしながらロベルト先生の方を見るミリアーナ。
先生はただ頷くだけである。
(~~~~っ・・・ はぁ~~~・・ んもぅっ・・・ えぇ~いっ、女は度胸よっ!)
「すみません、ではいただきますっ。」
意を決してお茶に手を付ける。
手は震えているが。
(うぅっ・・落ち着けぇ~私ぃ~・・・。 あ。 ・・・美味しい。)
一口飲み、少し落ち着くミリアーナ。
「どうかしら?」
「とても美味しいです。」
「でしょう? セバスティーノの淹れるお茶は最高なのよ。 さ、こっちも食べてみなさいな。」
「はい・・。 では失礼します・・」
(んまっ! めちゃ美味しいっ♪)
クッキーのようだが、ほんのりとラヴェンダーの香りがする。
「美味しいですっ!」
「ふふっ。 じゃ、他のも食べてね?」
「はいっ。」
昼食前の空きっ腹である事もあり、殊更に美味しく感じる。
隣にあるのはほんのりと紅茶の香りがする。
そしてもう一つはフェンネルシードであろうか。
どれもサックリとした触感で、ふわりと香り、そして上品な甘さが口の中に広がる。
「どれもとても美味しいです!」
「そう。良かった。 だそうよ、セバスティーノ。」
「お褒めに与り、光栄でございます。」
「あっ、いえっ、その。 あ、ありがとうございますっ。」
ミリアーナは慌てて執事の方へ向き直り、お礼を言う。
セバスティーノはそんなミリアーナにニコリと微笑んで答えるのだった。
「では、そろそろ本題に入りましょうか。」
ロベルト先生が頃合いを見計らい、話を切り出す。
「そうね。 そろそろ良いかしら、ミリアーナさん。」
( !! そうだった。お茶とクッキーが美味過ぎて忘れるところだった。)
「は、はいっ。 それで・・・。」
「ふふっ。 また緊張しちゃったわね。 だから大丈夫よ。悪い話をするのではないわ?」
「はい。」
「今日ここに呼び出したのはね、まずはこの話なの。」
学園長はそう言うと、アルフレッド先生から渡されたであろう小瓶をテーブルへと置いてみせる。
(あ・・・)
「え、えっと・・。」
「この小瓶には、見覚えがあるわね?」
「はい。 先日、私が錬金術の実習で作った物のようです・・が・・・。」
「そうね。 これ、アルフレッド先生から見せて貰ったのだけれど、凄いわね。」
「えっ、は、はい・・。」
「貴女が魔力を流したもので、間違いないわね?」
「はい、そうだと思いますが・・・」
「そう。 アルフレッド先生、説明をしてあげてくれるかしら。」
「はい。 では私から。」
アルフレッド先生がミリアーナに向き合い、真剣な表情で説明を始める。
(うゎっ・・ マジ顔だ・・・。)
「ミリアーナさん、貴女が作ったこの魔石粉なのですが、大変な性質を持った物です。」
(え?)
「はい・・」
「普通、こんなに安定して、そして純粋な魔力が引き出された物は作る事が出来ないのですよ。」
「はい・・。」
(ん? どゆこと??)
「このような能力を引き出した魔石粉は、ですね、相当に鍛錬を積んだ魔導錬金術師だけが作り出せる物なのです。」
(???はい??? って、えぇ~~~っ!)
「いっ、いや~っ、そのぉ~・・。」
学園長が話を引き継ぐ。
「ふふっ。ミリアーナさん。貴女、魔道具師になりたい言ってたわね。」
「は、はいっ。」
「貴女は、それでは駄目よ。」
「えっ・・」
「ふふふ。 勘違いしないでね。 貴女には、それ以上の能力がある、と言う話なの。」
( ? )
「なんだか不思議な顔をしてるわね。 そうよね、話が見えないわよね。 それじゃあ、説明してあげるから、私の質問にも答えてね。」
「はい。」
はてなマークだらけになるミリアーナ。
「したら、どこから話そうかしらね。 そうねぇ、じゃあ、まずは貴女の曾御祖父様の話をしようかしら。」
( ? 私の曽祖父?)
「貴女、父方の曾御祖父様の事は、どれくらい知っているかしら。」
「えっと・・・、私が父から聞いた事があるのは、王都で凄い時計技師をしていたんだよって話だけです。 あの、それが・・・?」
「そう。 そうなのね。 ふふっ、じゃあ驚かないで聞いてね。」
(う・・・)
嫌な緊張である。
「貴女の曾御爺様はね、王宮就きの王国時計技師長だったの。」
「え? えぇ~~~~~っ!? ・・・あ。 すっ、すみませんっ・・・。」
「そうね。驚くのも無理はないわね。 でも、その感じだと、本当に何も知らないみたいね?」
「はい・・・。」
初耳である。
ミリアーナの父は、あまり家の歴史には興味が無いらしく、今までミリアーナにはきちんと話していなかったのだ。
「君の曽祖父はね、この王都の時計台の設計をして、造り上げた人なんだよ。そして・・」
「これを見てくれるかしら。 これはね、王族が持つ、貴重な時計の一つなのだけれど、この時計はね、魔力で動く、全く狂う事の無い物なの。」
学園長に見せられた時計は懐中時計のようで、懐に入れても嵩張らない小型の物だ。
(え?? ~~~っ?!)
「凄いわよね。 ただでさえ、物凄く精密に作られた物なのに、それが魔力で動いて、更に全く狂いの出ない物だなんて。」
「・・・・・。」
(ははは・・ 知らんかった・・・。)
まさか、前世で言う『原子時計』の様な、途轍もない物を作っていたとは知る由もなし。
しかも超小型。前世の原子時計にもこんな小型の物は無かったんじゃないかと思う程の。
「この様な魔道具はね、魔力を引き出す能力が高くないと作り出せないものなんだ。」
「勿論、非凡な器用さも必要だね。」
「ミリアーナさん、貴女はそういった能力を引き継いでいるみたいなの。」
「えっ・・、でも、まだわからないのでは・・・。」
「そうね。まだ貴女は十二歳で、魔道具師になろうとしてこの学園に入って二年目だものね。」
「そっ、そうですよっ・・・。いやだなぁ・・、学園長・・・」
(う・・・。)
言葉が尻すぼみになるミリアーナ。
学園長の眼差しが怖いのだ。
暫しの沈黙が訪れ、そして再び学園長が話し出す。
「それとね。」
「 ! 」
(まだあるのっ?!)
「君の母上の御父上、つまり君の御祖父様の事なのだが・・。」
「はい。 この王都に住んでいる、私のお祖父様の事ですか?」
「ええ、そう。 貴女の御祖父様はね、先代王の時の戦争で大きな功績を残した騎士なの。」
「ふぇっ!?」
(~~~~っ!? そんな話知らないよ~っ!)
「あら、この話も知らなかったみたいね?」
「はい・・。」
「まあ、無理もない。 ノイマン殿はあまり自分の功績を自慢したくないようだからね。謙虚な御方だ。」
(ははは・・ 私の家系って・・・。)
「貴女の剣術の能力も、もしかしたら御祖父様譲りなのかも知れないわね。」
初耳の事だらけで、頭が追い付かないでいるミリアーナ。
しかし、これからどうなるのだろうか・・と思っていると。
「ミリアーナさん。 貴女はその持っている能力を、もっと自由に大きく伸ばす事が出来ると思うの。 だから、もっと沢山勉強をして、訓練をして、経験を積みなさい。」
「君は、魔道具師に拘らず、もっと沢山の知識と経験を得たその時に、将来の事を考えてゆけば良い。」
「そうだね。 私達もそのサポートをしたいと思うのだが、どうだい?」
「えっ・・・?」
(つまりは??)
「ふふっ。 貴女は今まで通り、自由に学園生活を楽しみなさい。 そういう事よ?」
「はっ、はいっ!」
(・・・・・。はぁ~・・良かった・・・。)
何を言われるのかと内心焦っていたミリアーナ。
自由に学園生活を楽しみなさいと言われて、一安心をするのであった。




