52 ~えっ、そういう事だったのっ?!~
翌週。
新入生が登校するようになり、学園内が初々しい雰囲気に包まれていて、ミリアーナも去年の自分を思い出して少しウキウキしながら講義を聞いていた。
今は魔導錬金学の講義中である。
自分のクラスと同じ棟にある錬金術師科の教室で、アルフレッド先生の話を聞きながらメモを取る。
――――魔導錬金術では、このように素材の錬成を行う際、自らの魔力、或いは目的の素材を得る為に見合った魔石の魔力を錬金坩堝に注ぎ込みながら、物質を生成させるのです。」
(ふんふん・・ ・・・ふん。)
ふと、先週の出来事を思い出す。
(・・・。 彼はどうして色々絡んでくるんだろう・・)
そんな事を考え、何となく教室を見渡してみる・・と。
(ぅ・・)
そう、この講義にはヘルムートも受けに来ているのである。
(ははは・・、私は空気・・・。うん、空気よ、空気。 そう、彼も空気よ。)
と、気付かれないように、且つ、彼の事も気にしないように目を逸らして・・
・・・などと上手く行くはずもなく。
ヘルムートはミリアーナの目線が来た事に気付くと、ペンを持った右手を軽く振ってくるのであった。
(・・・・・。)
次の時間は今受けている講義の実技実習である。
ヘルムートに絡まれるのは嫌な訳ではないが、ちょっと面倒臭いな・・と思っている(失礼かも知れないが)ので、また絡まれるのかなぁと考え始めてしまう。
(ううぅ・・ ダメだ・・)
そのまま講義の方に集中出来なくなってしまったミリアーナ。
次の時間にヘルムートがまた話しかけてくるのではないかと考えてしまい、気になって仕方がないのだ。
そして時間が過ぎ、終了の鐘が鳴ってしまった。
ミリアーナはモヤッとした気持ちを抱えたまま、休憩も兼ねて隣の実習棟へと移動を始めるのだが・・。
先に行くミリアーナを追いかけて来たのか、ヘルムートが後ろから話しかけてきた。
「ねえ、ミリアーナさん。ちょっとイイかな?」
「んはっ?! う、うん。 な、何?」
(うっ、いきなり来たか・・。変な声出ちゃったじゃない・・・)
「さっきの講義なんだけれどさ、魔導錬金術って言うのはさ、結局のところ魔導術を応用して素材の生成に特化したものって考えるのかな?」
「う、うん? えっと・・。」
(ヤバい・・、さっきの講義、ヘルムートさんの事を考えていて全然頭に入ってない・・。 これじゃまるで、意識してるみたいじゃん・・・)
いやいや、違うぞと心の中で頭を振ると、さっきの講義の内容を必死に思い出すミリアーナ。
(えっと・・なんだったっけ・・?)
と思ったのだが、さっきの時間は途中からヘルムートの事を考えてしまってから講義内容が全く頭に入って来ていなかった事を思い出し、なぜか顔が赤くなってしまうミリアーナ。
そんなミリアーナを見てか、ヘルムートのにっこりとした顔にはてなマークがついている事に気が付き、焦りから更に顔が赤くなってしまった。
「どうしたの? なんか顔が赤いけど・・大丈夫かい?」
「はわっ・・、えっ、ちっ、違うのっ。こ、これはあなたの思うような事ではなくて、そのっ・・」
「本当に大丈夫? 体調が悪いのなら医務室に行って診て貰った方が良いよ?」
「あっ、いや、だからそのっ、ちがっ・・・」
「血がどうかしたのかい? やっぱり医務室に行った方が良いんじゃないかな? なんなら、一緒に行こうか?」
あたふたすればするほど恥ずかしさが増してきてしまい、余計に顔が赤くなってゆくミリアーナ。
別にヘルムートの事を意識しているつもりはない・・いや、そうでもない?のだが。
まあ、傍から見たらそうは見えないのだろう。
そんな自分達を、周りの生徒がチラチラと見ているのだが、その事には気付いていないミリアーナ。
(ふぅ、・・一旦落ち着こう、私。)
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、改めてヘルムートに向き合う。
「えっと・・うん。 私は大丈夫。 それで・・・、さっきの講義の内容の事だっけ?」
「ああ、うん。 そうだけど・・ 本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫だから。」
そうは言うものの、さっきの講義内容が頭に入っていない事実は変わる訳でなく。
何と言って切り抜けようかと思案していると、ヘルムートが続けて話してきた。
「あ・・、んと。 先週は無理言ってごめんね。 剣術の時間、手合わせをして貰っちゃって。」
「う、うん・・・。」
変に間が空きながらの会話になり、そして暫しの沈黙が走る。
ちょっと気まずいかな・・・、と思っていると、またヘルムートが話し出した。
「えっと・・。 ミリアーナさんって、魔道具好きなんだよね? だから魔道具師になりたいんだよね?」
何か急に話が変わったな?と思って更に?マークが付き、話を待つ。
「僕さ、本当はね、ミリアーナさんが純粋に魔道具の事が好きなんだろうなって思ってさ、君と話をしてみたくなっちゃったんだよ。」
「はあ。」
「僕も、純粋に魔道具の事が好きなんだ。 けど、僕が魔道具の事を話して、いきなり君に近づいても相手にされないんじゃないかって思ってさ。」
「うん。」
「僕の家ってさ、魔道具子爵って言われているの、知ってるだろ?」
「あ、う、うん。」
「だからきっと、ただ親に言われて勉強に来ているだけだろうって思われて、相手にして貰えないんじゃないかって思ったんだ。」
「うん。」
「それで、全然魔道具とは関係ない剣術の時間に君と話してみようって思って、それで先週手合わせを申し込んだんだよ。」
(何よそれ、男子が女子に剣術の手合わせを申し込む時点で、かなりおかしいと思うんだけど?)
と思っていると更に続く。
「ただ、女の子に剣術の手合わせして貰うって変だよなって思ってたんだ。馬鹿な事言ってるなって。だから、きっと断られると思っていたんだ。 けど、君は受けてくれて。」
「・・・。」
「いやぁ、君、本当に強いね。まさか僕も本気で剣を振る事になるなんて思っていなかったよ。」
「は、はは・・。」
(まあ、私も結構危なかったけど・・)
「でさ。 なんか変な話の流れになっちゃったんだけど・・さ。 改めて。 えっと、僕と友達になってくれないかな?純粋に魔道具の事で。」
「はぁ。」
(なんか回り諄かったな・・・。 それならそうと、始めからはっきり言えば良いのに・・。)
「どうかな?」
「う、うん。 別に私は良いけど・・」
「本当? ありがとう! あ、そうそう、それ以外の気は無いから安心してね。」
なんか今、サラッと酷い事を言われたような気がするのは気のせいだろうか。
しかし、今まで変に色々考えさせられていたのが一気に解決はしたのだから、まあ、イイか・・と気を取り直すミリアーナ。
「次の時間、そろそろ始まっちゃうね。 ミリアーナさんは、次は魔導錬金術の実技かい?」
「う、うん。」
「そっか。じゃ、僕も同じだから一緒に行かない?」
「別に良いけど・・。」
「うん、じゃ、行こうか。 でさ、さっきの話なんだけれどね、魔導錬金術ってさ、結局のところ魔導術を応用して素材の生成に特化したものって考えて良いのかな。君はどう思う?」
「ん? え、あ・・ う、うん、そうね。 きっとそれで良いんじゃないかな? ははは。」
(~~~~~~~っ! 急に話を戻すな~っ!!)
ヘルムートに振り回されっぱなしのミリアーナである。