48 ~講義中っ やっぱり魔物学は難しい~
(次は魔物生物学の時間だねっ。 教室はっと・・・。)
次の時間は魔物生物学を選んでいるミリアーナ。
講義が行われる教室へと足を向ける。
魔物生物学と言えばエレブナ先生の講義である。
一年次では簡単な内容の授業で、普段目に付く魔物について主に取り上げたものだった。
二年次以降では専門科目となるので、どんな講義が行われるのか楽しみなミリアーナ。
意気揚々と講義室に足を踏み入れ、周りを見渡す。
既に生徒が席に着いていたり、これから入ってくる者もいたりである。
(おぉ~、こんな感じかぁ・・)
魔導学の時もそうだったが、魔物生物学でも生徒の顔ぶれは様々である。
魔道具師科の生徒だけでなく、そのものに触れる機会があるだろうと思われる各科の生徒が講義を受けに来ているのだ。
なので、この講義には士官科や薬師治療師科、商学科の生徒も受けに来ているようである。
とりあえず様子を見て、先輩と思われる人に声を掛け、座れそうな場所が分かったので、自分の席を決めて座ることにしたミリアーナ。
(さて、初めての講義はどんなかな・・)
コツコツコツコツコツ・・・
期待して待っていると、エレブナ先生が講義室に入ってきた。
ガチャッ
コツコツコツ・・
トン パサッ
「はい、皆さん。 お早う御座います。 それでは魔物生物学の講義を始めたいと思います。」
(あ・・・やっぱり。)
そう、一年次の授業でもそうだったが、エレブナ先生のペースは決して乱れない。
一年次の『生物魔物学』と、この『魔物生物学』とは、言葉の順番が違うだけのように見えるが、全く違うものである。
『生物魔物学』は、一般生物から魔物までの全てを含めた、生活していて一般的に見られる生き物の事を扱う学問だったが、
『魔物生物学』の場合は、この世界に生きる魔物の生態、身体の構造、保有する魔力、利用方法など、魔物に関する様々な事を扱う学問である。
魔物について扱うので、一般的な動物の様な魔物から植物の様な魔物、そして神話に出てくるような魔物までを扱うようになる。
今回ミリアーナが受けている『魔物生物学๑』は、その中でも一般的に見られる魔物について取り上げているものである。
普段見られない珍しい魔物や神話級の魔物については『魔物生物学๒』で取り上げられる。
ただ、『魔物生物学๒』は初等科で受ける生徒は少なく、殆どの者は高等科に進学してから学んでいる。
「では、本日から魔物生物学が始まりますが、内容は非常に多岐に及びます。全てを理解する事は非常に困難です。皆さん、努力を惜しまない様に。」
(あはは・・、つまり、簡単には単位は取らせない、って事ね・・。)
『魔物生物学๑』は内容が広範なので、ミリアーナのように週二本での講義では一年間で学びきれるかどうか微妙なところである。
もっとも、ミリアーナの場合は二年以上の期間を掛けて詳しく学ぼうと思っているので問題は無いのだ。
実際、講義を受けている面々を見ると、学年がごちゃ混ぜのようで、二年生から四年生まで居るようである。
「それでは、今日の講義は魔物とはどういう存在なのかについて話したいと思います。
一年生の時に少し触れた内容と被る所もありますが、もっと詳しく踏み入っていきます。」
(おぉ~っ、そうよ、これ、これを待っていたのよぉ~♪)
既にミリアーナの心は魔物に囚われて(笑)いるようである。
「では魔物とは。 魔物とは一般的には身体の中に魔石を持ち、殆どの場合、気性が荒く、生活への被害が出たりするような生物の事と理解されますが、実際にはそうでもなく、魔石として明確に体内に存在しないものもいますし、気性がおとなしかったり、人間に利益を齎しているものも存在します。」
(ほぅほぅ・・・)
そして講義が進んでゆく・・・
ミリアーナは没入するように講義に聞き入っている。
「そもそも何故魔物と呼んでいるのか。一般的な生物同様、この世界に生きている事に何も変わらないものをどのように『魔物』と『そうでない生き物』に分けているのかですが、我々人間には普通には理解出来ない生態や身体構造を持つものに対して、総じて魔物として呼んでいるのです。」
(ふんふん・・)
「なので、本来精霊や妖精と言うべきものまでが魔物の中に入ってしまっています。
精霊や妖精と呼ばれるものも、やはり我々の人智に及ばない存在なのですが、いわゆる魔物との区別は大変難しい為、全てを纏めて魔物と称してしまっているのです。」
(そうなのか。)
「この魔物と精霊、妖精の区別については様々な議論があり、区別出来なくなっている事があります。
魔物は人に害悪を及ぼす、で括ってしまうと、妖精はどうなのか。妖精は人に悪戯をする事が多いとされるので、魔物に入るのかも知れません。ですが妖精は人に利益を齎す存在でもあります。そして、いわゆる魔物と称されるものにも人に利益を齎すものが少なくないのです。では、そういう存在は精霊なのかというと、そうでもないとされるのです。一般的に精霊とは人智に及ばない神に近い存在と言われたりもします。精霊の中には人間の理解を超えた、災害を齎すとされる存在もあり、そのようなものは魔物に当たるのではないかという意見です。」
(へぇ・・)
更に講義が進み、話が深くなって段々とややこしくなってくる。
(えっと・・・つまりは・・??)
そして午前の部の終了の鐘が鳴り始める。
「では、今日はここまでとし、次回は魔物の分類について触れていきたいと思います。」
トントン
スッ・・
カッ・・コツコツコツコツ・・・
エレブナ先生が教壇から降り、講義室を出てゆく。
(ん~、結構難しかったな。 でも面白いっ♪ 次回が楽しみぃ~♪♪)
ミリアーナは気分良く昼休みを迎え、昼食にする為に学食へと向かうと、ちょうど入り口にソフィアが来ていたので、手を振って呼びかける事にする。
「ソフィアさ~ん。」
「あ、ミリアーナさん。」
「おつかれっ♪」
「お疲れさま。 何やら気分良さそうですねぇ?」
「えへへ。 午前の講義が面白くてさ、夢中になっちゃった。」
「ふふっ、ミリアーナさんらしいですねぇ。」
「ソフィアさんはどうだった? どんな講義を受けてきたの?」
「経済学と簿記会計学だよ。」
「ん? なぁに、それ??」
「ふふふ~、ミリアーナさんには難しいでしょ~?」
「ぐぬぬ・・ はい、わかりません・・・」
「実際、難しいよ。でも、頑張って勉強するんだ~。将来の夢に向かって!なんて。 ふふっ。」
こうして入り口で話していると、イザベラもどうやら午前の講義を終えたようで、こちらに向かってきた。
「イザベラさーん。 お疲れさまっ。」
「お疲れ様です、イザベラさん。」
「お疲れ様。」
「ちょっとお疲れのようですねぇ?」
「ええ、まあ少しだけ。」
「午前は何を受けてきたの?」
「前半は体術で体を解し、後半は剣術です。 では、とりあえず中に入りませんか?」
「あっ、そうだねっ。」
「ご飯にしましょ~。」
イザベラに促され、昼食にする三人。
いつものように今日のおすすめ料理を手にし、日当たりの良いテーブルへと向かい、一息ついた。
「よしっ、食べようっ♪」
「「「いただきます。」」」
これまたいつものようにまずは黙って食事をする。
料理と作ってくれた人への感謝を込めて。
「「「ごちそうさまでした。」」」
そしてお茶を一杯持ってきて談笑を始める。
「でさ、午前中の授業、どんなだった?」
「そうですね、訓練初日としては、楽な方だったかと。」
そういうイザベラは士官科なので、基本は身体を動かす訓練主体の日程を組んでいるようだ。
「私はそうですねぇ、普通? 講義内容が難しくなるのは分かっていたから、毎日予習復習が欠かせないかな・・。」
「そうなんだ。二人とも凄いね。 私なんか、ただ楽しいって思っちゃっただけだもんなぁ。」
「いえ、楽しいと思えるからこそ良いのでは?」
「そうですよ。楽しい、好きな事はすんなり頭に入るものじゃないですか。」
「う~ん。 好きこそ物の上手なれ。って事なのかなぁ?」
「なんです?その、好きこそもののなんとかって。」
「あ、うん、その・・」
(しまった。こっちの世界じゃこんな慣用句はないのか。)
「んとね、お父様の口癖?(ごめんお父様っ)かなっ?好きな事は何でも良く覚えられるって。あははっ。」
「ふ~ん、そうなんですね。」
「良いではないですか。素敵な御父上で。」
「ん、うん、ありがとう?」
とりあえず誤魔化せたらしい、と一安心するミリアーナ。
しばらくお互いの午前中の事を話し、午後の話になる。
「ねぇ、午後は何を受けるの?」
「私は国内史と地政学ですね。」
「私は算術と会計管理学ですねぇ。」
「うゎ・・ 二人とも難しそう・・・。」
「そんな事はないですよぉ。」
「ええ、普通ですね。」
「はぁ・・ 私にはさっぱりの内容なんですけど・・・。」
前世でも今世でも、そういう学問に全く興味がないミリアーナである。
話しているうちに昼休みは過ぎ、午後の予鈴が鳴り始める。
「あっ、もうこんな時間ですね。 じゃ、また放課後に。」
「ええ、ではまた放課後。」
「うん、また放課後ねっ。」
放課後の約束をし、三人は講義を受けにそれぞれの教室へと向かって行った。
魔物って、なんでしょうね?
私も異世界転生出来たら本気で研究しようかな(笑)。