46 ~魔道具師になるぞっ! 入科式??~
昼休み。
午後の事を思うと気持ちがグッタリとしてしまったミリアーナ。
(うぅ・・私が代表だなんて・・。)
食堂に着くとイザベラとソフィアはもう来ていて、ミリアーナを待っていた様子で手を振って呼んできた。
「ミリアーナさーん。こっち、こっち。」
ミリアーナは手を振って返事をすると、二人の待つ春の日差しが暖かそうなテーブルへと向かう。
「お疲れ様~。」「お疲れ様です。」
「お疲れ~。 二人とも早いね。」
「ええ、午後にする事もありますし。」
「そうなんですよぉ。イザベラさん、午後の式典で士官科新二年代表として壇上でバッジを受け取る役になったそうですよ。」
「え?イザベラさんもなの?」
「あれ? そういうって事は・・ミリアーナさんもなんです?」
「あ・・うん。なんだかそうなっちゃった。あはは~。」
「良かったじゃないですかぁ。それって名誉な事なんですから。」
「う~ん、そうなんだけどねぇ・・」
(面倒だなんて言えそうにないね・・)
「では、ミリアーナさんも魔道具師科新二年代表として壇上に行くのですね?」
「うん。そういう事になる・・ね。」
「呼ばれる順番って、どうなんでしょうね?」
「最初は文官科、二番目が士官科ですね。 魔道具師科は恐らく商学科の次、五番目になるのではないかと。」
「さすがはイザベラさん。そういう事はしっかり把握していますねぇ。」
「そうなんだ。」
(良かったぁ・・。したら真似すれば良いだけだから、まだ気が楽だね・・)
「あ、じゃあ、早く食事にしません?午後はすぐに移動だと思いますし。」
「ええ、そうしましょう。」
「あ、うん。」
ソフィアに促され、昼食を取りに行くミリアーナ達。
まだ新一年生が入ってきていないので、少し空いている食堂である。
今日のおすすめのメニューを選び、テーブルへと運び食事にする三人。
「「「いただきます。」」」
とりあえず、サクッと食べてしまう事に。
食べ終わると、ソフィアが訊いてくる。
「ところで、どうでした?新しい教室の感じは。」
「そうですね・・、クラスのほとんどが貴族出身でしたね。」
「そうなんですねぇ。私のクラスは逆に平民の子ばかりですねぇ。まあ、貴族で商学科なんて、余程の事がなきゃ来ないと思いますけどね。」
「ふうん。 私のクラス、ちょっと変だった。」
「変と言うと?」
「うん。貴族の子が多いみたいなんだけれどね、それよりもさ。 先輩達と一緒のクラスなんだよね。」
「え?そうなんですか?」
「うん。なんかね、生徒が少ないから、クラスとして纏めるのに二年から四年までみんな一緒なんだってさ。」
「へぇ。面白そうじゃないですか。」
「何かあっても先輩に聞けるというメリットはありますね。」
「うん、そうなんだけれどね。 ちょっと予想と違ってたからさ。 もっとこう、人数の少ないこじんまりしたクラスなのかなって思ってたから。」
「私のクラスなんて人数が多過ぎて、もう誰が誰だかよく分からないくらいですけどねぇ。」
「私のクラスは今までと同じ人数ですね。」
「ところでさ、ウチのクラスマスターをしている先輩がね、レオナール・ヴィアディックって言うんだけれど・・・」
「ヴィアディック、ですか?」
「ヴィアディックといえば、侯爵家のヴィアディック家ではないでしょうか。」
「え?」
「あっ、そうですよ。 確か王宮勤めの魔道具師で結構有名ではないですか?」
「あ・・どうりで・・・」
(聞いたことがあったな~って思っていたんだよね・・)
「レオナール様といえば、確か、ヴィアディック侯爵家の三男だったと思いますが・・」
「さっすがイザベラさん。よく知っていますねぇ。」
「ヴィアディック家と言えば、確かフォンディック公爵家を源流にしているはず・・」
「えっ、そうなの? 知らなかった・・」
「いやいや、ミリアーナさんも貴族なんですから、そこはしっかりとしないと・・・」
「うっ・・。 すみません・・・。」
新しいクラスの印象などを話し合う三人。
しばらく話し、時間を気にするイザベラ。
「そろそろ戻りませんか。」
「そうですねぇ。午後一番に授与式ですもんね。」
「うん、私も戻って様子見しなきゃ。」
「じゃ、また放課後ね。」
「うん。」「では放課後に。」
こうして三人は教室に戻り、午後の授業が始まると共に講堂へと移動していった。
魔道具師科の他の新二年生と一緒に講堂に入ってきたミリアーナ。
自分達の席を確認し、着席する。
(こうしてみると、ほんとに物作りの科は人が少ないんだね。)
周りの様子を見ると、魔道具師科もそうだが、錬金術師科なども人が少ないのが分かる。
キョロキョロと周りを見渡していると、準備が整ったのか、壇上に先生がやってきた。
「えー、ではこれより、入科式及び徽章授与式を始めます。」
「では、学園長より挨拶です。」
いつものように学園長が颯爽と壇上に立ち、挨拶を始めた。
「新二年生の諸君、今日から君らは各科の生徒として―――――
学園長のいつものカッコイイ挨拶が終わり、続けて徽章授与に移って行く。
手始めに文官科の徽章授与が始まり、続けて士官科の番になる。
「士官科代表、イザベラ・ローズベルク君。」
「はい。」
イザベラが登壇し、学園長の前に立つ。
「イザベラ・ローズベルク。 これより君を士官科の生徒として認める。」
「ありがとうございます。」
そして胸にバッジを取り付け、更にイザベラは横に向く。
なんだろう?と見ていると、肩に赤いマントを纏わされている。
そして一礼して戻ってきた。
士官科の徽章授与に続けて、執事使用人科、商学科の授与が終わる。
(あ・・次私っ!)
「ミリアーナ・ウィルヴィレッジ君。」
「はいっ」
どことなく落ち着かない様子で壇上へ向かうミリアーナ。
しかし気合を入れ、学園長の前に立つ。
「ミリアーナ・ウィルヴィレッジ。 これより君を魔道具師科の生徒として認める。」
「はいっ、ありがとうございますっ。」
そして胸にバッジを付けてもらう。
次に横向きになりなさいと言われ、とりあえず指示された通りにしてみるミリアーナ。
すると今度は肩にマントを纏わされた。
濃い緑色のマントである。
(おぉ・・カッコイイじゃん♪)
そして席に戻るように指示されたので、一礼して、壇を降りることに。
続いて錬金術師科、鍛冶師科、薬師治療師科の授与が終わり、授与式が終了した。
バッジに付いては、登校時などは必ず身に着けるが、マントなどは式典などで着用するのだそうだ。
(ふえぇ・・終わったぁ・・・)
式典の間、なんだかんだとずっと緊張していたミリアーナ。
講堂から退席となり、今は教室へ向かっているのだが、ぐったりと精神的な疲れが襲ってきているところなのだ。
そのまま魔道具師科の教室に入ると、ちょうど午後の講義が終わり、これからホームルームが始まるところだった。
「ご苦労さん。」
「あっ、レオナール様。」
「どうだったかな?代表で登壇した気分は。」
「凄く緊張しました・・」
「ははっ、そうか。それは大変だったね。 まあ、今日だけだよ。明日からは普通だから。」
「はい・・ (じゃなきゃ困りますって・・・)。」
「ところでさ、僕に『様』は付けなくて良いからね。」
「えっ・・。 でも・・・。」
「そういう堅苦しいのは好きじゃないんだ。 君だって、平民の子に『様』付けで呼ばせてはいないんだろう?」
「はい、確かにそうですけれど・・。 では・・、レオナール先輩、・・で宜しいのでしょうか?」
「うん。いいよ、それで。 宜しくね、ミリアーナ君。 ほらっ、ホームルームが始まるよ。席に着いてね。」
「あ・・、 は、はいっ。」
レオナールに『様』は付けるなと言われ困惑するミリアーナ。
『先輩』と付けるだけとなってしまった事を気にするが、ホームルームの時間になってしまったこともあり、流れで仕方なくそういう事になってしまった。
そしてホームルームの中で担任に「ご苦労さん」と言われ、解散となった。
噴水前でイザベラとソフィアを待つミリアーナ。
「お疲れさまーっ。」
「お疲れ様。」
「お疲れぇ~・・」
「どうしたんです、元気ないですねぇ?」
「いきなり代表振られたり、レオナール様に『様』付けするなとか言われて精神すり減りました・・・」
「そうだったんですか。それは大変でしたね・・。」
今日の出来事を色々話し、二人に同情されるミリアーナ。
ぐったりしているとイザベラから提案が出る。
「では、帰りに少し寄り道して行きませんか。」
「どこ行きます?」
「そうですね、少し甘いものが食べられるところが良いのではないかと。」
「ん?! よしっ!行こうっ!! 二人共、早くっ♪」
急に元気になるミリアーナ。
「甘いものっ、甘いものっ♪」
サッサと門の方へと歩き始める。
「ふふっ、さすがですねぇ。」
「ええ、ミリアーナさんが元気がない時は甘いものですよ。」
「ですね~。」
「では私達も行きましょうか。」
「はい、行きましょ~。」
甘いものに釣られて元気を取り戻したミリアーナ。
そんなミリアーナの後姿を見て「ふふっ」と笑い合う二人であった。
ちょっと解説です。
魔道具師と鍛冶師と錬金術師の区別について。
魔道具師は魔力を用いた道具を作る職人。
鍛冶師は農具や刃物などを作る職人。
錬金術師は物質や素材などを作り出す職人。
となっています。
魔道具師の中には魔導武器を作る職人もいます。
鍛冶師の中には魔力を用いて魔剣を作る職人もいます。
錬金術師の中には魔力を用いて特殊な材料を作る職人もいます。
※注:この世界での錬金術は、あくまでも物質や素材を扱う術なので、
錬金術では道具などの構造物を直接作り上げる事は出来ない事になっています。
次回からミリアーナの魔道具師への勉強が本格的に始まります。




