4 ~少し遠出をしてくれたっ~
初夏のある日の朝。
「おっはようございま~す♪ お父さま、お母さまっ。」
「おはよう、ミリアーナ。」
「おはよう。 あら、今日は朝からずいぶんとごきげんねぇ?」
「はいっ だって今日は久しぶりにお父さまと出かけるのですものっ。」
「ミリアーナ。久しぶりで浮かれているのもいいが、今日は馬に乗るのだ。気を引き締めなければダメだぞ?」
「は~いっ。」
「さあ、したらしっかり朝ご飯を食べて、きちんと準備をしなければね?」
「はいっ、お母さまっ。」
今日は以前約束してくれていた、父アルバートと馬で出掛ける日だ。
ゆっくり時間が取れる休みに行こうという事であったが、今日はいつもより少し遠くまで連れて行ってくれるらしい。
「ごちそうさまでしたっ。」
「しっかりと準備するのよ~?」
「は~いっ。」
トトトトッ
朝食が終わり、意気揚々と出かける準備を始めに行ったミリアーナ。
「あの子は今日も元気ね。」
「そうだな。」
「あなた、今日はどちらまで行く予定なの?」
「ああ、今日は少し足を延ばして、森を抜けた草原まで行こうかと思う。
景色も良いし、たまにはミリアーナに草原にいる魔物も見せてやろうと思ってな。
まあ、それでも夕方遅くならずには帰ってこれるだろうから、心配は要らないだろう。」
「そうですか。 したら、十分に気を付けて下さいね?」
「ああ。わかっている。 ミリアーナの事だ、魔物を見て燥いでしまうだろうしな。」
「ふふふ。 そうですよ?宜しくお願いしますね?」
「うむ。」
ミリアーナは小さな頃、魔物であるスライムを初めて見つけた時、そのポテッとした姿を見て「かわいいっ」とばかりに手を伸ばし、嬉々として遊びだしてしまったのだ・・。
が、流石はお転婆娘。そのうちにスライムを投げて遊びだして――スライムにとっては何とも迷惑な話だが――しまった事があるのだ。
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「お父さまっ 準備が出来ましたっ。」
「そうか。ならば行くとしようか。」
「リリアンヌ。では行ってくる。 ミリアーナ、出発するぞ。」
「ミリアーナ? お父様の言うことをよく聞くのよ? あまり遅くならないように帰ってらっしゃいね?」
「はぁ~いっ! ではお母さま、行ってきま~す♪」
「気を付けて行ってらっしゃい。」
徐々に夏本番となりゆく天気の良い散歩日和の朝、準備を済ませ馬で出た二人。
例の事件以来、暫く振りの乗馬である。
2,3時間の道程であるが順調に歩みを進め、森を抜け草原に出た。
「うわ~ いいながめ~。」
「ミリアーナ。 少し疲れただろう? 森も抜けたことだし、このあたりで休憩にしよう。」
「はいっ。」
「どうだ、久しぶりに森を抜けてきた景色は。」
「空気もいいし、いつ見てもと~ってもすてきなながめです♪」
「そうか。 ミリアーナ、ここらは少しだが魔物が出てくる場所だからな? 十分に気を付けるんだぞ?」
「はぁい。」
森を抜けた草原で休憩する二人。
丘陵地帯で遠くに山が見えるこの場所は、夏の風を受け、とても景色の良い眺めとなっている。
ここ一帯の草原は、魔物が出るといっても殆どがスライムの場所。偶に一角兎が出てくる程度である。
この土地に出るスライムは人間にはほぼ無害であるし、一角兎も臆病で無理に追いかけたりしなければ攻撃してくる事もなく安全である。
もし仮に何かあったとしても、父アルバートが帯剣をしているので問題が起きる事もないであろう。
休憩をとる中、まずは昼食にしようと、リリアンヌが持たせてくれたものを用意する。
「お、今日はパンに干し肉をスライスした物をはさんであるのだな。」
「ちゃんと果物もあるんだねっ♪」
「さすがはリリアンヌだな。色々と用意をしてくれる。」
「だってお母さんだもん♪」
「ははは。 そうだな。」
そして、軽く昼食を済ませた二人。草原を眺めながら他愛もない話をしている。
カサカサ・・カサッ
どうやら草むらの中に隠れていたスライムが出てきたようだ。
「あっ! スライム み~っけっ♪」
カサッ カサコソッ・・ポヨンポヨン・・
危険を感じ取ったスライムが逃げ出そうとするものの、ミリアーナに追いかけられる。
「まてぇっ!」
「あまり遠くに行くのではないぞ?」
「はぁい。 スライムぅ~♪」
タタタタッ ガサガサガサッ
スライムを追いかけ戯れるミリアーナを見てほほ笑む父アルバート。
「つっかまえたぁ~っ♪」
とうとう捕まったスライム。
ミリアーナにつかまれ、グニャグニャと伸ばされたり潰されたり。
スライムにとっては災難である。
スライムを持って父の所へ戻ってくるミリアーナ。
「ねぇ、お父さま。スライムって魔物なのよね? いつも思うんだけど・・どうしてこんなにプルプルしてるのかしらね?」
「そうだな。スライムはよく雨の後に発生すると言われているよ。
その土地にあるマナ・・魔力の素みたいなものだが・・それと、水分が集まって出来たものなのだと言われているな。」
「そうなんだね。 スライムって、ほかに種類がいるのかな?」
「何種類かいると言われているよ。ここらの土地には普通のスライムだけで特に人に害をなすものは居ないが、ほかの地には熱を出すものや毒を持つものもいるというから、気を付けなければいけないよ?」
「そうなんだ。 わかったわ。」
「さあ、もう可哀そうだから逃がしてあげなさい。」
「は~い。」
ポユン ポヨンポヨン・・・
「ばいば~い。」
こうしてスライムはやっと解放されるのだった。
「さて、あまり遅くなるのもいけないから、そろそろ帰り道にするか。」
「はいっ もうちょっと眺めていたいけど、また今度にするねっ。」
「そうか。では帰ろうか。 途中また森の中を通るが、もしかしたら一角兎やイノシシが出るかもしれないから気を付けるのだぞ?」
「は~いっ。」
午後遅く、夕方前の頃から一角兎やイノシシといった魔物や動物たちが行動をし始める。
通常、追いかけまわしたりしなければ、向こうから逃げてゆくので問題は無い。
しかし、以前森の中で落馬したミリアーナ。今回は一人ではないとはいえ、注意するに越したことはないのだ。
森の中へ歩を進める二人。途中一角兎を見かけるが、すぐに逃げて行ってしまったので何事もなく進んでゆく。
そして今回は何事もなく森を抜け、邸に到着したのだった。
「ただいま~。」
「おかえりなさい。」
「うむ、ただいま。 今戻った。」
「今日はどうでした? 楽しかった?ミリアーナ。」
「うんっ! と~っても楽しかった♪」
「今日は天気も良かったし、魔物や動物とも何事もなかったよ。」
「あら、それは良かった。」
「うんっ でもね、でもねっ、草原でまたスライム見つけて遊べたんだよっ。
お父さまにスライムのこと色々教えてもらったの。」
「そう、良かったわねぇ。」
来年学校にあがる歳とはいえ、まだまだ子供である。ミリアーナは今日の出来事を楽しそうに話すのだった。