閑話 ~ミリアーナの実家では~
すみません。第三章に入る前にちょこっと閑話を。
「ミリアーナは元気にやっているかしら?」
「何も連絡がないんだ、元気にやっているさ。」
ミリアーナが学園に入学してもうじき一年が経つ。
夏休みに一度帰ってきて以来、何も連絡はない。
ただ、何か問題があるなら学園から何かしらの連絡があるのが普通であるし、ましてや王都にはミリアーナの祖父や伯父、つまりリリアンヌの実家や兄が住んでいるのだ。何かあれば頼っているであろう。
ここはランシュット。ミリアーナの実家では、父アルバートや母リリアンヌ、そして兄フレデリックが毎日平和な一日を送っている。
年が明けて二月になり、ここも雪が降る事はなくなっている。
それほど王都から離れていないこの土地だが、雪が降る事はほとんどなく、降ってもチラホラと舞う程度である。
ただ、気温は下がるので冬は暖房が欠かせない。
今朝も少し冷え込んでいて、朝早くから暖炉用の薪を取りに行くフレデリックが。
ガチャッ
「う~寒っ。 早く取りに行って暖炉で温まろう・・」
タタタタ・・・
ガサッ カコッ カラン・・ カコッカコンカラン・・
「こんなもんでイイかな。」
両脇に薪を抱え、家の中へと急ぐ。
ガチャ・・
パタン。
「うぅっ、寒かった。」
「あらフレデリック、おはよう。薪を取りに行ってくれてたのね、有難う。」
「おはようございます、母様。 起きたらちょうど暖炉の薪が少なくなっていたから、補充しようと思って。」
「おはよう、フレデリック。朝からすまないね。」
「おはようございます、父様。 薪なんですけれど、割ってあるのが減ってきてるので、あとで割っておきますね。」
「ああ、宜しく頼むよ。」
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「ミリアーナは今頃どうしているんだろうね、母様。」
「そうねえ、あの子の事だからちゃんと勉強してるでしょうし、来月には元気に帰ってくるんじゃないかしら?」
「ははは、そうだね。 帰ってきたらきっと『たっだいまぁ~っ』とか言ってバタバタと入ってくるんだろうね。」
「今までも向こうからは何も連絡はないからな。まあミリアーナの事だ、順調に進級も出来て、4月から魔道具師科に上がるって報告してくるのだろう。」
「ええ、きっとそうでしょうね。 父様はミリアーナが帰ってきたら何かする予定などあるのですか?」
「あなたの事ですからね、ミリアーナが帰ってきたらまた甘やかしてしまうのでしょうねぇ?」
「おい・・・―――
などと平和な会話が続くのであった。
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そして春休みの三月。
ミリアーナはイザベラとソフィアが帰省した事を見届け、自分自身も里帰りの準備を進める事に。
(さっ、二人は帰っちゃったしなぁ・・、私もお祖父様と伯父さまに挨拶してランシュットに帰ろうかな。)
ミリアーナはこのあと挨拶を済ませてランシュットに向けて馬車に乗り込むのだった。
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アルバートは時々、出勤途中に管轄している農地を見て回る。
麦踏みの時期が終わりとなり、畑の小麦が青々と伸び始める時期へと変わろうとしている。
畑仕事に勤しむ農民達と会話を交わすアルバート。
「おはようございます。麦の調子はどうですか?」
「おはようございます、アルバート様。 お陰様で冬も無事に越しまして、ここまで順調に育っておりますです。」
「そうですか。それは良かったです。」
見回りを終え、領主の下へ出勤してきたアルバート。
見回りの結果を早速書類に纏める為、職務室に入り、机に向かう。
そこへ領主がやってくる。
「アルバート君、ちょっと良いかね。」
「はっ。何か御用でしょうか。」
「いや、何と言うほどではないのだがね。三月に入ったのでね、農民達はどうしているか聞こうかと思ってね。」
「はっ。その事でしたら、今ちょうど書類に纏めているので、後程報告に上がろうかと思っている所です。」
「おお、そうかね。では、その報告を待つとしようか。」
「はっ。」
「ところでアルバート君。 君の娘はどうかね。 王都の学園に上がって一年になると思うが、元気にしておるかね。」
「はい、お陰様で。三月に入りましたので、そろそろ帰ってくるのではないかと。」
「そうかね。それは楽しみであろう?」
「はは。そうですね。」
狭い田舎の事である。アルバートが娘に対し親バカである事は皆に知られている事である。
こうして領主にも話を振られるくらいである。
かくしてアルバートの一日が終わり、退勤時間となる。
厩に行き、愛馬に跨り家路へと向かう。
途中、息子フレデリックと落ち合い、今日も何事もない一日が終わろうとしている。
そして通りを行くと、丁度乗合馬車が村の停留所に泊まろうかとしているところであった。
「あれ?こんな時間に誰かこの村に降りる人がいるようですね。」
「そのようだな。 珍しい。」
「ん? ミリアーナじゃないですかね?」
「はは、かも知れんな。」
「俺、ちょっと先に行ってみてきます。」
「ああ。」
そう話しながら馬を歩かせ、近付いてゆく父と息子。
すると。
見慣れた長い髪の女の子が降りてきた。
「はい、君の荷物ね。忘れ物はないかい?」
「ありがとうございます。 大丈夫です。」
「そうかい。 では出発します。」
カッ カポッ カッポカッポカッポ・・
ゴロ・・ガラ、ガラガラガラ・・
「ん~っ・・ ふぅ、着いたっと。」
「おかえり。良く帰ってきたね、ミリアーナ。」
「ふぇっ?! あっ、お兄様っ!」
不意に声を掛けられ驚くミリアーナ。
「はは、元気なようだね。」
「んもうっ、お兄様っ! いきなりで驚いたじゃないっ。」
そこへ父もやってくる。
「おかえり、ミリアーナ。どうやら元気にしていたようだね。」
「あっ!お父様っ。 ただいま帰りましたっ。」
と言いつつ、ちょっと不思議な顔をしているミリアーナ。
「はは、丁度帰りが一緒になってね、今家に向かっているところなんだよ。」
「なぁんだ、そうだったのね。なんでお父様とお兄様が一緒なのかと思っちゃった。」
「ミリアーナ、荷物を持ってやるからこっちに載せな。」
「うん、ありがとうお兄様。」
「少しだが、一緒に乗るかい?ミリアーナ。」
「良いのっ? やったっ!」
久しぶりに父の前側に乗せて貰い、少し嬉しいミリアーナだ。
すぐに家に付いてしまい、ちょっとつまらない気がするが、荷物を持ってすぐに玄関へと向かう。
「只今帰りましたぁっ♪」
「あらっ。 おかえり、ミリアーナ。元気そうね。 さっ、中へ入りなさいな。」
「うん。 あのね、ちょうどお父様とお兄様に逢ったから、一緒に帰ってきたの。 もう来るんじゃないかな。」
「あら、そうなの?」
「ただいま、リリアンヌ。」
「只今帰りました、母様。」
「あら、ほんと。 おかえりなさい、あなた。 フレデリックも。」
「馬車が停留所に泊まっているのを偶然見かけてね。丁度ミリアーナが降りてくるところだったんだよ。」
「急にお兄さまが声を掛けてくるものだから、誰かと思って驚いちゃった。」
「ははっ、元気そうなミリアーナを見てね、少し驚かせてみたくなったんだよ。」
「え~っ、わざとだったのぉ?んもぅ!」
「まぁ、これだけ元気があるのだから一安心というものだよ。」
「そうねぇ。 さっ、こんなところで話してないで、中へ。」
「ああ、そうだね。」
「ねぇっ、お母様っ。あのね―――
こうしてミリアーナが帰ってきた事を家族で喜び合うのだった。
この次の更新から第三章です。




