41 ~王都の冬祭りっ その3~
すみません・・、今回はいつもよりも話が長いです。
ミリアーナ達の三日分、全部詰め込んでしまいました。
~ミリアーナ達の三日間~
金曜の朝。
冬祭り開催初日である。
昨日の夕方、学園のイルミネーションが全て無事に点灯し、それを見届けたミリアーナ達三人はそれそれ達成感に満たされて朝を迎えている。
(んん~っ・・良く寝た・・・。)
「おはよ~っ」
「おはよう、ミリアーナさん。」
今日の王都は冬晴れである。
温かい日差しを受けながら、イザベラはお茶の準備をしている。
「今日から冬祭りだねっ」
「ええ、学園のイルミネーションも無事に点灯しましたし、お休み中は何をしましょうか。」
「やっぱり、王都観光?」
「そうですね。今日の夕方には教会でお祈りを捧げるらしいですし、見に行ってみましょうか。」
「うんっ、行こうっ。」
そのあと、他愛もない話をしてお茶を終え、食堂に降りる二人。
いつものようにソフィアと落ち合い、朝食をしながら話をする。
「ねぇねぇ、ソフィアさん。休み中さ、冬祭り見学に街を巡らない?」
「お? いいですねぇ~。行きましょう。」
「夕方、教会で女神様へのお祈りをするそうですので、参加してみようかと思うのですが。」
「そうなんです? 教会のイルミネーションも気になりますし、私も行ってみたいです。」
「女神様もきっと綺麗なんだろうねっ」
「したら、今日はお昼を女将さんのところで食べて、それから街を巡って、夕方教会に寄るのはどうです?」
「うん、そうしようっ。」
「決まりですね。」
お昼過ぎ。
今日は観光客で混んでいると見越した三人は、少し遅めにアルナキロス食堂にやってきたのだが、
店内は観光客と見られる人でまだまだ混んでいるようだ。
「「「こんにちは~」」」
「はい、いらっしゃいっ。」
「お昼も過ぎたのに、今日は混んでますねぇ。」
「おかげさんでね。冬祭り様様だよっ!」
「では、私達も注文しましょうか。」
「「うん。」」
店内の混みようを見て、早々に食事を済ませた三人。
店を出て、飾り付けられた街並みを見て楽しむことに。
「どこも綺麗に飾り付けていますねぇ・・」
「きっと夜はもっと素敵に見えるのでしょうね。」
「ねぇねぇっ、そこのお店見てっ!」
「あっ、凄いですねぇ、この飾り付け。」
「ええ、見事なものですね。」
商業地区を散策しているのだが、どのお店も飾り付けに凝っていて、暗くなって照明が灯されたらもっと素敵だろうと思わせるものばかりだ。
そして夕方。
三人は中央広場へと足を向けると、教会前には既に多くの人々が集まっていた。
「ありゃぁ・・、ちょっと遅かったですかねぇ・・」
「これでは教会の中には入れそうにないですね。」
「だね・・残念。」
「まあ、あとからでも見られますよ、きっと。」
「そうだね、お祈りが終わって、入れるようになったら見に行こう。」
「ええ、そうしましょう。」
すると、教会の中で動きがあるように見えた。
「何か始まるようですよ。」
「「うん。」」
これから司祭が教会の中で宣誓を行うようだ。
「これより、女神への感謝祭を執り行います。 では皆様。女神への祈りを込めて。」
教会前に集まった人々が、次々と女神へ向けて手を組み合わせ、祈りを捧げ始めた。
どうやら教会の中で祭られている女神像に照明が灯ったらしい。
すると誰ともなく拍手が始まり、辺りは祝福の声で満たされてゆく。
「凄いですね・・」
「はい・・・」
「・・・・・(感動モノだぁ・・)」
そして暫くすると拍手も収まり、集まっていた人々は皆それぞれの方向へと歩き始めた。
「どうします?」
「女神像、見に行こう。」
「では中に入りましょうか。」
「うん。」
ミリアーナ達が教会の中へと足を踏み入れると、目の前には一対の煌めく女神像が。
「「「綺麗・・」」」
三人は歩みを止め、見入ってしまう。
古くからある蠟燭での照明と魔道具を使っているであろう照明が、イルミネーションされたステンドグラスを背景に女神達を幻想的に浮かび上がらせている。
「見に来て、良かった・・・」
「ええ、本当に。」
「素敵です・・・」
この瞬間をいつまでも感じていたいと思えるほどに幻想的な空間。
いつの間にか手を組み、祈りを捧げていた三人。
ふと我に返り、「行こう?」と声を掛ける。
「ええ。」「うん。」
三人は外に出て広場の噴水まで来ると、教会の建物の方へと振り返る。
するとまた目の前に素晴らしい風景が現れた。
照明で煌めく噴水の後ろ側に、イルミネーションされた教会。
その背景には・・
城壁に明かりが灯され、その上に見える五つある城の塔も美しく照らし出され、その脇には二つの月が輝く―――
「わぁ・・・」「あ・・・」「素敵です・・・」
三人の周りにも、この幻想的な風景を目に焼き付けておきたいと、人々が集まってきている。
ミリアーナはつい思ってしまった。
(スマホ~、デジカメぇ~、ドローン~っ。うぅっ、写真撮っておきたいよぉ~)
もちろん、声には出せないのだが。
こんな素敵な風景を記憶の中だけに留めるなんて・・
と思うのだが、同時に、記憶の中だけに留めるからこそ幻想的な記憶として残るのではないか・・とも思うのだった。
「そろそろ行きません?」
ソフィアに声を掛けられて現実に引き戻されるミリアーナ。
「うんっ、行こう。」
「どうしましょうか、このまま寮へ帰りますか?」
「そうだね。まだ二日間あるんだもんね。」
「じゃ、帰りましょ~♪」
「は~いっ」
大人ならこのまま酒場へ行って、夜遊びしながら祭りを楽しむのであろう。
しかしまだまだお子様の三人。
遅くならないうちに寮へと帰るのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~
冬祭り二日目。
昨日は煌めく女神像と幻想的な王城の風景を見て大満足だったねと、お喋りで少し夜更かしをしたミリアーナ達。
今朝は起きるのが遅くなってしまったのだが、イザベラは今日もお茶を用意し、テーブルで寛いでいる。
「おはよう、イザベラさん。今朝は寒いね。」
「おはよう、ミリアーナさん。寒いですね。」
朝だというのに何故か魔道具で明りを灯し、更にカーテンがしっかりと閉まっているので、不思議に思いながら窓を開けて外を見ると、雪がちらついているのが見えた。
「ねぇっ、外、見た? 雪が降ってる。」
「ええ。先程見て気付きました。寒かったのですぐにカーテンも閉めたのです。」
「そっか。 今日は雪、ずっと降るのかな?」
「どうでしょう。それほど雲は厚く見えませんが、降るでしょうか。」
寒いので上着を羽織り、もう一度窓を開けて空を覗くミリアーナ。
「う~ん・・ わからないや。」
(天気予報・・・なんてないし。)
(寒っっむ・・ 閉めよっ。)
窓を閉めると、とりあえず寒いのを我慢しながら着替えるミリアーナ。
(寒いっ!)
「ねぇイザベラさん、寒いし、食堂に温まりに行かない?」
「そうですね。朝食もありますし。」
二人でそそくさと階段を降り、食堂へと入る。
「暖かぁい・・」
「おはよう、イザベラさん、ミリアーナさん。」
「あ、おはよっ。」「おはよう、ソフィアさん。」
「今朝は寒いですねぇ・・外は雪ですし。」
「そうなのよぉ・・、 寒いよね。」
「はい、おはよう、三人共。」
「「「おはようございます、マリアーヌさん。」」」
「今朝は少し早いじゃないか。どうしたんだい?」
「えへへ、部屋が寒くて、ここに。」
「同じくです・・」
「そうなのかい? まあ、ここは暖房があるからねぇ。」
「ここは天国ですよ~」
この世界の暖房は二種類ある。
一つは暖炉や薪ストーブ。
当然、薪などを燃料とするので火を使う。暖炉は個々の部屋には設置出来ないし、薪ストーブも危険なので子供が使う部屋には普通は置かない。
ではもう一つの方は。
魔石ストーブなのだが、こちらは直接火を使わないので危険性は低い。しかし暖房の魔道具は高いのだ。
それに温度を保つ為に魔力の消費が多く、かなりの数の魔石を使用するのでそれなりにお金が掛かる。
なので暖房の魔道具は贅沢品である。
そんな訳で、この寮で暖房があるのはこの食堂と管理人室の薪ストーブくらいなのだ。
暫くすると朝食の準備が出来たようなので、早々にいただく事にした三人。
「う~ん、美味しいなぁ・・」
「寒い日に丁度良いですね。」
「温かいスープは幸せの味ですねぇ・・」
この寮に住んでいる他の生徒達も、幸せそうな顔をして食事をしている。
やはり寒い日には温かい食事である。
「食べ終わったぁ・・ ごちそうさまでしたっ。」
「ごちそうさまでした。」「ごちそうさま。美味しかったですねぇ。」
「うぅ・・部屋に戻りたくない・・・」
「確かに・・」
今はそれでも良い、今は。
しかし、お昼はここでは食べられないのだ。
寮の食事は朝晩だけである。
食堂で過ごしていた他の生徒達も、お昼前になり部屋に戻ったり出掛けて行ったりと、皆ここを離れて行った。
「私達もそろそろ出掛けません?」
「そうだね・・」「ですね。」
そして三人は部屋に戻り厚着をすると、寮を出て雪の降る街へと歩き出した。
雪は軽く、叩けば落ちる程度である。
「今日はどうしましょう?」
「したら、まずは喫茶店にでも行かない?」
「いいですねぇ。」
王都の大通りを曲がり、商業地区へ。
小雪が舞う中、街は祭りの賑わいでどこも騒がしい。
しばらく歩き、小路を曲がると、目的の喫茶店に到着した。
チリチリン・・
ドアを開け、中に入る。
商業地区の外れ、閑静な場所にあるこのお店はいつもなら客も少なめで静かなのだが、さすがは冬祭り中である。
テーブルはほぼ埋まり、空いているのはあと一つ。
「混んでるね。」
「うん、でもあそこ、座れそうじゃないです?」
「ええ、行きましょう。」
最後のテーブルに座ると、ウェイターがやってきた。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら、お声をお掛け下さい。」
「はい。」
「何にします?」
「どうしよう・・」
洒落たお店ではいつも悩むミリアーナ。
これは前世でも一緒だ。
前世では行ってもファミレス、しかもドリンクバーとかにしてしまうのが常で、喫茶店は悩むのでほとんど利用しなかったのだ。
この世界は飲み物の種類がそれほど多くない。
飲み物と言えば紅茶がメインで、あってもハーブティくらいか。あとは季節の果実水。
ココア、コーヒー、そして緑茶はまだお目に掛かっていない。
当然なのだが、炭酸飲料は無い。
酒類は・・見た事があるのはエール(ビール)とワインくらいだ。
もっとも、まだ酒場へ行った事がないから分からないのだが。
「ん、決めたっ。」
「なんです?」
「紅茶とパウンドケーキ。それからお腹も減ってるから腸詰のスープとパンのセット。」
「食べますねぇ~。」
「イイじゃん・・」
「では私はスクランブルエッグとゆでた腸詰、それとパン、それから紅茶で。」
「私もそれで良いかな。」
ウェイターを呼び、注文する。
そして注文した物がテーブルへと運ばれてきた。
「いっただきまぁす♪」
「「いただきます。」」
まずはメインのパンとスープから食べ終える。
さぁ、お茶とパウンドケーキの番・・と手を伸ばそうかとしたところ。
視線が。
「しかたないなぁ・・ 三人で食べよ?」
「良いんです?」「良いのですか?」
「うん。 どうぞ?」
「では遠慮なく♪」「いただきます。」
パウンドケーキはドライフルーツの入ったタイプでちょっと重め。少し甘いので濃い目の紅茶にピッタリである。
三人は一口食べ、ふふふっ・・と笑い合うのだった。
外はまだ雪が舞っているので、ゆっくりと店内で過ごした三人。
午後も遅くなったので、店を出る事に。
「ちょっと市場の方に寄ってさ、そのあと学園を見に行ってみない?」
「雪景色の中の庭のイルミネーション、気になりますねぇ。」
「でしょ?」
「良いですね。行きましょう。」
三人は商業地区のメイン通りを歩き、市場を見て回る。
雪の中だが、お祭り中は書き入れ時でもあるので、どのお店も活気のある声で商売をしている。
日没が近付いて辺りが薄暗くなってきた頃に学園に着いたのだが、門の辺りに人だかりが出来ているので、どうしたのだろうかと近付く三人。
学園の生徒達も雪景色のイルミネーションが気になって見に来ている様だが、観光客と思われる人も結構な人数が居るようで、皆で中を見ている。
「人伝に聞いて見に来たんだけど、毎年ここのイルミネーションが綺麗だって噂、本当だね。」
「ええ、本当に素敵ね。」「綺麗だよなぁ・・」
どうやら冬祭り中の観光スポットとなっているらしい。
ミリアーナ達も中を覗いてみる事に。
「素敵・・」「美しい光景ですね・・」「わぁ・・こんなになってたんだ・・・ 綺麗だね・・」
小雪が舞う中、女神達が照明でほんのりと浮かび上がるように照らし出され佇む姿は、美しくも儚げに見え、周りのイルミネーションと共に神秘的な情景を生み出していた。
しばしの間見惚れていたミリアーナ達。
しかし辺りはすっかり暗くなり、雪の降りも強くなって一段と冷え込んできたので帰る事に。
寮に帰り、夕食の時間。
他にも学園を覗きに行った生徒がいたようで、食堂ではその話題で皆盛り上がったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
三日目。
冬祭り最終日である。
昨日の雪は今は止み、今朝は雲間からの日差しで窓辺は温かいのだが、積もった雪で街が輝いて見える。
見ようと思いついた所は全部巡り終えてしまったミリアーナ達。
今日はどう過ごそうかと思案する。
「今日、何する?」
「そうですねぇ・・どこも見てまわってしまいましたしねぇ・・」
「う~ん・・・ イザベラさん、何か思いつく?」
「さて・・どうしましょうか・・・」
悩んでいるとマリアーヌがやってきた。
「どうしたんだい?何を三人で悩んでいるんだい?」
「はい・・。 マリアーヌさん、もう見たい所を全部見終わってしまったので、今日は何しようかと思って・・・」
「何だい、今日はお祭りの最終日じゃないかい。 もしかして、精霊飛ばしの事を知らないのかい?」
「え、なんですか? その精霊飛ばしって。」
「精霊飛ばしと言うのはね、女神や精霊達への祈りを込めて、天精燈という蠟燭を灯した風船のようなランタンを空に揚げる行事なんだよ。今年はもう雪が降ったからね、沢山揚がると思うよ?」
「そういうのがあったんですか? それで、どこでそれを揚げるんですか?」
「祭りまでに雪が降らない年は河岸だけで揚げるのだけれど、今年は昨日も降ったから、中央広場でも揚げるんじゃないかねぇ。」
「じゃあ、今日はそれを見に行こうっ。」
「ええ。」「うん、そうだね。」
「夕方遅く、暗くなってからだからね、今はまだ見に行くのは早いよ?」
「あ、河岸と中央広場って、同時に揚げるんですか?」
「ああ、そういえば同じ時間だねぇ。 見に行くならどっちが良いのかって言うのかい?」
「はい。どうせなら素敵な方を見たいですし。」
「そうだねぇ・・、揚げる数が多いのは河岸からだねぇ。でも、中央広場の方は周りのイルミネーションがあるからねぇ、どっちが良いのか悩むねぇ。」
「そうなのか・・」
「それは悩みますね。」
「したら、今の時期は東風だから、河岸からの方が良いかも知れないねぇ。」
「どうしてなんです?」
「中央広場から揚げたものが、ちょうど河の上を通るんだよ。だから空を見上げて見るなら河岸の方が綺麗だねぇ。」
「よしっ、今年は河岸から見てみようっ!」
「そうしましょう。」
「それで決まりぃっ♪」
ミリアーナ達は午後遅くに寮を出て、遅めのお昼を露店で探して食べると、市場などを巡って夕方までの時間を埋めて、精霊飛ばしの行われる河岸へと向かった。
「みんな川の方へと歩いて行きますねぇ。」
「皆さん見に行くのでしょう。」
(ん? あの手に持っている物はなんだろ・・?)
今は商業地区の中央通りを歩いていて、観光客や街の住人達も一緒になってぞろぞろと会場へと向かっているのだが、歩いている人の中には手に何かを持っている人もいるので、なんだろうと注目してみると、どうやら天精燈のようだ。
精霊飛ばしは王都の住人も参加して皆で揚げる物なのだ。
河岸へと到着すると、既に多くの人が河岸まで降りていて、皆、手に天精燈を持って時間が来るのを待っていた。
「大勢の方が来てますね。」
「あっ、そろそろなんじゃないです? ほら、蠟燭に火をつけ始めてますし。」
日没になり、辺りには小雪が舞い始めている。
そんな中、人々が明かりを灯した天精燈を上に掲げ、一斉に手を放し始めた。
「あっ・・・」
「見てっ!」
「すごい・・」
一斉に空へ舞い上がる天精燈。
ほんのりと明るく、優しい色の燈火が雪が舞う空へ空へと高く揚がって行く。
空を見上げ、感動していると、更に街の方から揚がってきた沢山の天精燈が見えてくる。
「あっ、ほらっ!」
穏やかな東風に乗り、無数の燈火が天を埋め尽くす・・・
冬祭りの最後を締めくくる、感動的な情景がミリアーナ達の心を捉えて離さない。
「あぁ・・・」「こんな素敵な光景、初めて・・・」「ええ・・本当に・・・」
こうして冬祭り最後の行事も終わり、ミリアーナ達は大満足で寮へと戻るのだった。




