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39 ~王都の冬祭りっ その1~


 12月。

王都にも初雪が降り、寒さが一段と厳しくなってきたが、それでも街は寒さを跳ね返す様な勢いで活気付いている。

それもそのはず。

もうじき王都の冬祭りが始まるからだ。



イザベラと二人、今は部屋でお茶をしている。


「ねぇ、イザベラさん。こんなお茶の仕方があるの、知ってる?」


ミリアーナは自分の棚から瓶を取り出すと、テーブルに置いた。


「これね、私がぜ・・あ、家でね、良く飲んでいたんだけど、エアドベリーのジャムを紅茶に混ぜるの。 寒いときには身体が温まる感じがして良いのよ。」


淹れたての濃い目の紅茶にジャムを少し入れ、スプーンで混ぜた。

いわゆるロシアンティーである。

大人は強いお酒でジャムを伸ばすのだが、彼女らはまだ子供なのでジャムだけである。


「うん、いい匂い。  どう?イザベラさんも飲んでみる?」


「そうですね、試してみましょうか。」


「ちょっと甘く感じるかもだから、入れる量は加減してね。」


「ええ。」


イザベラはジャムを少しだけにしたようだ。

彼女は普段から紅茶に砂糖は入れないのだから、当然なのかもしれないが。

イザベラは一口飲み、少し微笑む。

どうやら気に入ってくれたようだ。


「もうじき冬祭りだね。」


「そうらしいですね。」


「イザベラさんは王都の冬祭りって観に来た事あるの?」


「いえ、今回が初めてです。ミリアーナさんは?」


「うん、私は小さい頃に一度かな? 王都にお祖父(じい)様がいるから、呼ばれて観に行った事があるの。あんまり憶えてないんだけれどね、ふふっ。」


「そうなんですね。 私は、リュースティから出た事がなかったので。 リュースティにもお祭りはありましたし。」


「そっか。 ねぇねぇ、リュースティって大きな街なんでしょ?隣の国にも近いから、もしかして異国情緒があったりするの?」


「そうですね、王都とは少し違うかも知れません。」


「そうなのかぁ・・。  いつか行ってみたいな、イザベラさんの住む街に。」


「ええ、良い所ですよ。その時はご案内しますね。」


「うんっ。」




王都の冬祭りとは。

元々はサンアンドレーズ王国が建国されて、この土地に王都が拓かれた時に建国記念祭として始められたものなのだそうだ。

今では建国記念の意味合いよりも、この国で広く信仰されている女神への感謝祭としての色合いが濃くなっている。

祭りは毎年12月の第三週末の三日間で行われ、学園もこの祭りの日はお休みとなる。

そして王都はこの祭りへの想いが醒め止む間もなく、年明けを迎えるのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~


冬祭りまであと一週間と迫る中、学園内でも生徒達が祭りの事で燥ぎ始めている。


今は昼休み。

温かい陽だまりが心地良い、食堂のテラス席。

いつもの三人でそこに座ってお喋りをしていると、エド達がやって来た。


「来週は冬祭りですねぇ。」


「だね~。みんな燥いでるね。」


「どれほどのものなのでしょうか。」


「どうなんでしょうねぇ?私も王都のお祭りは今回が初めてだから、ちょっと楽しみですけれどね?」


「やぁ、こんにちは。  そっかぁ、君達は学園でも冬祭りのイルミネーションをやるの知らないよねぇ?」


「え?そうなんですか?」


「そう、毎年恒例行事でね、生徒達が学園の表の庭をイルミネーションで飾るんだよ。」


「それで先輩方はみんな騒いでいるんですね?」


「へぇ~、なんか凄そうですねぇ?」


「私達一年生も何か手伝うのでしょうか?」


「うん、そうだねぇ、特にどのクラスがこれをやる~とかはないんだけれどぉ、恒例行事として生徒会が中心に動いて飾り付けているよねぇ~。」


「そうなんだ、それでみんな動けるのが授業が終わってからだから、結構忙しく準備してるね。」


「多分~、今日辺りぃ、生徒会の誰かが一年生の方にも声を掛けに行くんじゃないかなぁ?」


「そうなんですか?」


「なんだか面白そうじゃないです?」


「そうですね。お声が掛かるのならば私達もお手伝いしてみましょうか。」


「うん、そうだねっ。 どんなイルミネーションするんだろう?」


「歴代の先輩達が残していってくれた魔道具の照明を使って飾るんだけれど、毎年、魔道具師科や錬金術師科の生徒達が新作を作っていたりするんだよ。」


「へぇ~。それじゃ、今年も新作があったりするのかな?」


「ミリアーナさん、魔道具大好きですもんねぇ?」


「えへへっ、そりゃぁ、ね。」



女神への感謝として、この国では祭りの夜の間、蠟燭を灯すのが習わしである。

理由は、女神が闇夜を灯す月光――光属性の神様と信じられているからである。

近年では蠟燭の炎の代わりとして、魔道具のイルミネーションが盛んになってきている。

学園でも昔は蠟燭で飾っていたらしいのだが、休みの三日間、蠟燭の面倒を誰が見るのかを考えるより、魔道具の照明を使った方が面倒がなく、しかも火を使わず安全なので、今では学園で用意する物全てが魔道具の照明となっている。



そして夕方。

ホームルームの時間にハインリヒ先生が話しているところへ、生徒会の役員と思わしき男子生徒が教室にやってきた。


「みんな、ちょっと良いかな。これから生徒会から連絡があるそうだから、聞いてやってくれ。」


「あ、すみませんです。  え~皆様、来週王都で冬祭りがあるのはご存じですね?毎年学園でも、表庭を魔道具でイルミネーションしているのですが、明日の放課後から魔道具を設置する作業を始めます。そこで生徒会から一年生の皆様へのお願いなのですが、お手伝いをして下さる生徒を募集します。人数は多い方が手早く終わるので、なるべく多くの方のご参加を期待しているのですが、強制ではないので、やってみたいって人がいたら是非参加して頂きたいと思います。参加して下さる方は明日の放課後、お昼に食堂に集合して下さい。   以上です。ではすみません、お隣にも連絡しないとですので失礼します。」


生徒会の男の子は連絡事項を話すだけ話すと、バタバタと隣の教室へと移動していった。


「みんな、だそうだ。毎年生徒会が主体になって、冬祭りの三日間、表庭を照明で飾るのを恒例行事にしているから、皆、参加出来る者は協力してやってほしい。」


生徒達は「は~い」と返事をし、ホームルームが終わって解散となった。

教室に残った生徒達がガヤガヤと話をしている。


「俺、どうしようかな。」「俺は参加だな。」「すまん、俺はパスで。」

 「私は参加する~」「あ、私も私もっ。」「ごめぇん、私、今回は無理だぁ・・」


生徒の反応は様々だ。


「お声が掛かりましたね。」


「うん。私は参加したいな。」


「私も参加で~。」


「では、三人で参加という事で。」

「「うんっ」」


明日は土曜日である。今週の土曜は午前中で授業が終わるので、それで昼食も兼ねてなのか食堂に集合となったようだ。



そして次の日の放課後。

いつもの三人で食堂にやってきたが、既に結構な人数が集まっている。

いつもの午前中で終わる土曜なら食堂は閑散としているのだが、今日は飾りつけ希望者で大体300人位の生徒が集まっているようだ。

厨房のコックも、今日はいつもと違っているのを意識して昼食の準備をしていたようだ。

先輩方の一部は慣れているのか、既に食事を用意してテーブルに座って食べ始めている人もいる。

一年生達は皆どうすれば良いのか分からないので、とりあえず食堂内に集まって次を見守っている。

すると生徒会の誰か・・、多分生徒会長であろう男子生徒が、食堂の片隅、少し段が高くなったところに上がって話し始めた。


「皆様。本日は学園の冬祭り準備の為にお集まり頂き、誠に有難う御座います。」


なんだかお堅い始まり方であるが。


「あ、すみません。一年生は分からないと思うので自己紹介を。え~私は生徒会長をしている、ローレンツ・アーデンハイトと言います。高等課程の文官科一年に所属しています。宜しく。」


(うん、知らない。)


学園生徒会の役員は、やりたい生徒が自主的に立候補し、辞めるか卒業するまでは改選しない。

名誉な事なので、改選時には立候補者がそれなりに居るそうだ。

今代の生徒会長は初等科四年で立候補して、今は二期目である。

ちなみに生徒会は初等科(一般の生徒が初めに入る課程)と高等科の合同で運営されている。


「では、今日ここに集まってくれた生徒の皆様は、冬祭りのイルミネーション設営を手伝って頂けるという事で良いでしょうか。  はい、それでは。説明を始める前に皆様、昼食の方を進めて頂きたいと思います。」


と、生徒会長に言われたので、まだ食事を始めていない生徒も食事を取りに並び、皆、思い思いの場所で昼食を始めた。


「どんな風に進めるのでしょうねぇ?」


「どうなんだろう?」


と話していたら、生徒会長が話し始めた。


「では、昼食をとりながらで良いので聞いて下さい。 え~、まず、今年のイルミネーションには飾りに魔道具師科からの新作があります。」


「「「「「おお~~っ」」」」」


「えっ?ほんとっ?!」


「お? 早速ミリアーナさんが食い付きましたねぇ~」


「どのような物なのかは、飾り付けて点灯してからのお楽しみだそうです。なので、新作の飾りつけは魔道具師科の生徒さん達にお願いするとして、他の生徒の方は我々生徒会の指示に従って頂けると有り難いです。」


「へぇ~。楽しみだなぁ・・・」


「昼食が終わりましたら、一度表庭の噴水前に集まって頂き、そこで皆さんの役割を割り振りたいと思います。」



そして昼食を食べ終えた生徒から表庭へと移動してゆく。


(うぅ、ちょっと寒いな・・)

「セーターか何か着てくれば良かった。」


「少し寒いですね。」


「ですねぇ・・」


晴れて日差しが温かいとはいえ、12月である。

たまに吹いてくる風が体を震わせる。


「まあ、これから作業でしょうから、動いたら暖かくなりますよ、きっと。」


「うん、それに期待する~。」


と、寒さに少し震えているところへ生徒会長が話し始めた。


「では、皆さん。これから役割分担を割り振りたいと思います。一年生の方は先輩に付いて手伝ってもらう形になりますので、宜しくお願い致します。」


生徒会の役員達が手伝いに来ている生徒達を割り振ってゆく。

そして一年生がその割り振られた先輩達に付けられるように割り振られて行く・・と。


「あ、先輩。」


「やぁ、今回は君らが付いてくれるんだぁ。」


「おや、君らだったか。では手伝い宜しく頼むよ。」


またしてもエドとジークのペアである。


「はい、では宜しくお願いします。」


「「宜しくお願いしまーす。」」


全体が割り振られたところで、生徒会から指示が出る。


「では、これから飾りつけの魔道具を取りに行く班と、飾りつけ場所の整備をする班に分けたいと思います。それぞれの組に班の番号札が渡されていると思いますが、今から呼ばれた番号の班は、これから飾りの魔道具を取りに向かうので、こちらの指示に従って下さい。」


そして番号が呼び出される。


「では、今から1から20番までの番号の班は魔道具を取りに向かうので、こちらに付いて来て下さいね。」


「私達は何番なんですか?」


「ん、おぉ、うちらは16番だな。」


「では、魔道具を取りに行く係ですね。」


「んじゃ、みんな、行くよ~。付いて来てねぇ。」


「お~っ、魔道具だぁ~っ。」


係の生徒会役員なのであろう女子生徒を先頭に、呼び出された番号の班の生徒達が付いて歩き始めた。



ロシアンティー。

飲み方ですが、本来は濃く出した紅茶にジャムを別に添えて、舐めつつ飲むのだとか。

ここでは淹れた紅茶に直接混ぜる飲み方にしてみました。

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