3 ~もっと体力づくりよっ!~
シュッ ブンッ シュッ ・・
「えいっ やっ! えいっ!」
落馬してからというもの、次は失敗したくないという思いから体力作りに励んでいるミリアーナ。
いつもは父や兄が休みの日に剣の稽古をつけてもらうのだが、今日は午後から一人、庭で剣の素振りの練習をしている。
「えいっやっ! えいっ!」
ブォンッ シュッ!
「やっ! えいっ! やぁっ! やっ!」
はぁ、はぁ・・
「あら、あら。今日はずいぶん頑張っているのねぇ。」
「あ、お母さまっ。」
母が気分転換にと、うららかに晴れ渡る午後の空気を吸いに来たようだ。
「元気に運動をするのもいいけれど、ほどほどにね?」
「お母さま? わかっていますぅ。 でも、このあいだみたいになりたくないから、きちんと体力つけなきゃって。」
「はい はい。 あなたは言い出したら聞かないものね?」
「もうっ お母さまっ?」
この国では武門の家系でもないかぎり、女性が剣を振るうというのは珍しい事なのだが、それでもミリアーナが剣の練習が出来るのは、偏に両親の「自由に」生きる事は良い事だという思いにほかならない。
思えば、5つくらいにはもう馬に乗せてみたり、7つくらいからは剣術の練習をさせてみたりと、ミリアーナが「やってみたいっ」という度に挑戦させてくれていたのだった。
もちろん、兄がやっている事が楽しそうに見えてしまったので、真似てみたくなったのだろうが。
その兄、フレデリックといえば、馬術も剣術もそれほど筋が良い訳ではない。
しかし、男子ならばその程度の事はきちんと身につけなければいけないと言う父の方針で、フレデリックには稽古させていたのであった。
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ブンッ! シュッ ブンッ!
「えいっ やっ! えいっ!」
「ミリアーナ。」
「お父さまっ。」
「今日も素振りの練習をしているのだな?」
「はいっ もっと体力つけなきゃって。」
今日、父アルバートは休みの日である。
近頃ミリアーナが剣の練習などをして体力作りに励んでいるのを見に来たようだ。
「よし、では少し稽古をつけてやるとしよう。」
「ほんと!? やったっ! ありがとう、お父さまっ。」
ここのところアルバートは忙しくしていた様で、ミリアーナに稽古をつけるのは暫くぶりだ。
「では、始めよう。 どこからでもかかって来てみなさい。」
「はいっ! では、いきますっ! やあぁっ!」
タタタタッ
「やぁっ! えいっ!やっ!」
カン! コンッ カンッ
「ほら、どうした? もっと強く踏み込まなければダメだぞ?」
「はい! やっ! えいっ!」
カンッ! コン! カツンッ!
はぁ はぁ はぁっ!
「やぁっ!! えいやぁっ! あっ!」
カンッ! コンッ! カコンッ!
まだまだ小さな女の子、木剣を頑張って振り回してはいるが、大の大人である父に届く訳がなく。
しばらく頑張ってはいたものの、とうとう剣をいなされて弾かれてしまい、飛んで行ってしまった。
「頑張ってはいるが、まだまだだな。 だが、よくやっているようだな?ミリアーナ。」
「はいっ ありがとうございますっ、お父さまっ。」
「よし、少し休むとしよう。 ミリアーナ、おいで。」
庭の片隅で少し休憩をとる父娘。麗らかな午後の日差しを受ける庭に、初夏の穏やかな風が吹き向ける。
「ミリアーナ。 どうだ、最近は。 ずいぶんと剣の稽古を頑張っているようだが、少しは体力がついてきたか?」
「はいっ 自分でも、だいぶ頑張れるようになったかなぁ?なんて。」
「そうか。 ならば今度の休みにでも、久しぶりに一緒に馬に乗って散歩に出かけてみようか。」
「ほんとっ!? やったぁっ!」
「ははは。 しかしあまり燥ぎすぎて、このあいだのようにならないようにしないとな?」
「はぁい・・」
しっかりと父に窘められてしまったのだが、ポンと頭を撫でられ、にっこりとするミリアーナであった。