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36 ~校外授業っ その3~

トラブル回です。

魔物を殺すシーンもあります。

苦手な方はお気を付けを。


 生徒達は思い思いの場所で昼を過ごしていると、午後の授業が始まるのかラインハルト先生が声を掛けてきた。


「では、午後の授業を始めたいと思うので、集合して下さい。」


生徒達が集合し、説明が始まった。


「午後は予定通り、希望者参加の一角兎狩りの指導を行います。」


「よしっ、魔物狩りの授業だっ♪」


ミリアーナは段々と気持ちが乗って来たようだ。



「ではこれから、一角兎の狩猟実習に入りたいと思います。危険が伴う実習になりますから、希望者のみで実習をします。その他の者は見学ですから、どのように狩りをしているのか、よく見ておくように。では、希望者は前に出てきて下さい。」


各クラスから希望者が五、六人ずつ出てきた。

もちろん、Bクラスからは女子代表でイザベラとミリアーナ、そして男子の中からはパトリックも参加している。


「希望者が出揃ったようなので、これから狩場へ移動します。」


生徒達が狩場(フィールド)へ移動し終わると、見学組と実習組に分かれ、帯剣していない実習者に剣が手渡される。

そして早速説明が始まった。


「では、説明します。これから行うことは刃の付いた本物の剣を扱う危険な実習です。皆さん気を引き締めて取り組んで下さい。」


「「「「「はいっ」」」」」


そしてラインハルト先生、アレクサンドル先生、そしてハンターのダニエルの指導が始まった。

護衛の騎士達は見学組の方で待機している。


ダニエルから説明が始まった。


「では、今このフィールドに一角兎がどこに居るか、そしてどれくらい居るのかを確認する事がまず必要です。闇雲にフィールドに出て魔物を刺激して逆に襲われたり、逃げられてしまっては意味がないので、必ず行います。」


ダニエルはそう説明すると、腰から望遠鏡を取り出した。


「これは遠くを見る為の望遠鏡です。肉眼で確認をしても実際に何匹いるのか良く見えなかったりするので、ハンター達の間ではこれを使って確認をするのが普通になっています。」


ダニエルが望遠鏡を構えた方向には確かに魔物の影が見える。少し離れているが三匹ほどいるようだ。


「では、確認出来たので、実際に狩りをしてみたいと思います。」


ダニエルは小走りで一角兎のいる方へ駆け出してゆく。

するとそれに気付いたのか、その中の大きめの一匹がダニエルに向かって走って近付いて来て威嚇を始めた。



(前世じゃウサギが人間に向かってくるなんて有り得なかったよね。ウサギなんて臆病だから、野生の物なんか捕まえるどころか、見るのだって難しかったよ。)


ミリアーナはこの光景を見て、ふと前世と今の世界の違いを感じてしまったのだ。



ダニエルは剣を抜き、一角兎と対峙する。

すると威嚇していた一角兎が走り出して攻撃をしてきた。


グギギギギッッ

    トトトッ・・ダッ!


ズサッ

    シュンッ!

              ブギャッ・・

   ドサッ・・ 

 

ダニエルは一歩足を踏み込むと鮮やかに剣を一閃し、一角兎を仕留めた。


「おぉ~っ、すごいっ!」


生徒達からも拍手が起きる。


他の一角兎はそれ以上向かって来ないでそのまま距離を取り、離れていった。

その事を確認したダニエルは、仕留めてグッタリとしている一角兎を掴んで戻ってくると、再び説明を始めた。


「今はうまく行きましたが、初心者には間合いを掴むのが難しいので決して無理をしないように。」


そして腰からナイフを取り出すと、皆の前で一角兎の首にナイフを突き立てて切り、そして後ろ足を持って逆さにぶら下げた。


「これは血抜きをする為です。かわいそうかも知れませんが、これは狩りですので、商品としての価値を落とさないようにする為に必ずしなければいけません。」


生徒達の中には目を背ける者もいるが、これは仕方がない事である。

あくまでも狩りは狩りである。食べ物や素材として命を狩っているのだから。



ここでラインハルト先生から指示が入った。

「それではこれから、班を二つに分けて指導したいと思います。Aクラスはアレクサンドル先生とダニエルさんに付いて行って下さい。Bクラスは私について来て下さい。」


ここからは二班に分かれての実習になるようだ。


「本当に本物の剣を振るのか・・。 訓練みたいに出来るのかな。」


「大丈夫でしょう、ミリアーナさんなら。」


「うん、ありがとう、イザベラさん。」


ミリアーナは当然前世では剣なんか振った事はない。今世だって、刃の付いている剣で戦った事なんてないのだ。

背の低い者の為の短めの剣とは言え、本物の剣は手にズシリと重く感じる。

その剣を使って、これから魔物と対峙するのだ。いくらミリアーナが魔物好きとはいえ、これからする事は命を奪う行為である。

ミリアーナは少し気持ちが揺らいでしまった。


「それではみんな、これから狩りの指導をするから、しっかりと付いて来るように。」


「「「「「「はいっ」」」」」」


ミリアーナ達Bクラスの生徒達はラインハルト先生に付いてフィールドの中へと移動していく。


「よし。みんな、あそこに一角兎がいるのが見えると思う。今からそこへ向かう。」


魔物の方へ小走りで向かうと、一角兎が5匹ほどいて、こちらを警戒しているようだ。

こちらに気付いた魔物達は威嚇しながら近付いて来た。


「ではみんな、剣を構えるように。」

「「「「「「はいっ」」」」」」

攻撃の間合いに入ってきた一角兎が三匹、こちらに向かって駆けだして来た。


「よしっ!みんな、来るぞっ!よく見て斬り掛かるんだっ!」


ヴギギギッ

  ブギギッ

 グギギギギッ


ガサガサッ

   タタタッドダッ!!


攻撃してきた三匹はそれぞれミリアーナ、パトリック、イザベラに向かって飛び掛かってきた。


「今だっ!」

       「うぉりゃっ!」

    「はっ!」

 ブンッ

       フォンッ

   シュンッ!


 グギャッ

      ギャッッ   

   グギィッ!


「やったっ!」

   「おっしゃっ!!」

 「やりましたね。」


三人は見事に一角兎を仕留める事に成功し、喜びの声を上げる。


あとの二匹も他の生徒達の手により狩られ、ひとまず皆で喜んでいると、先生から一言が。


「これは魔物狩りだが、命を奪う行為であるし、本物の剣を扱う訓練だ。燥ぐものではない。もっと気持ちを引き締めるように。」


「「「「「「はい。」」」」」」



二手に分かれて実習をしてしばらくすると、遠くの方に不穏な影が近付いてきた。

どうやらフレイムフォックスハウンドのようである。初心者にはちょっと危険な魔物だ。

それもちょっとした群れ、五匹ほどである。

このベルコル草原ではほとんど見ない魔物なのだが、どうやら隣の森の方から迷い込んできてしまったようだ。


近付いて来た事に気付いた先生や騎士達は、見学組や実習組の生徒を馬車の方へと誘導していく。

しかし魔物達の足が思ったよりも速く、Bクラスの実習組が魔物によって囲まれ、分断されてしまった。

囲まれている人数はミリアーナとイザベラを含むBクラスの生徒六人とラインハルト先生、そして避難誘導でこちらに付いてくれていた騎士のテレーザだ。

実習中のAクラスの生徒達五人は、近付いて来たフレイムフォックスハウンドとは離れたところで講義を受けていたおかげで、囲まれる事なく馬車の方へと退避出来たようだ。


ラインハルトとテレーザは剣を抜き、実習組を守るように魔物と対峙している。


「まずいな。」

「ええ、まずいですね。どうしますか?」


「こうなってしまった事は仕方のない事なのだが・・。 逃げるか、狩るか。」


少し間が空いて先生が話し始める。


「みんな、良く聞いてくれ。これからフレイムフォックスハウンドの狩りを始める。落ち着いてやれば、皆なら出来る事だ。」


先生が魔物に目線をやりながら、生徒に指示を出し始めた。


「よし、ではまず生徒達は二人ずつ組みになってくれ。」


「「「「「「はいっ」」」」」」


魔物に注意を配りつつ、ミリアーナとイザベラ、パトリックと他の生徒達の二人ずつ三組に分かれ、身を寄せ合う。


「よし。それでは私とテレーザさんで魔物の注意を惹くので、皆は落ち着いて間合いを取って攻撃する事。危険だが、このメンバーなら出来るはずだ。」


「「「「「「はいっ」」」」」」


「すみません、テレーザさん。この子達のサポートもお願い出来ますか。」


「分かりました。」


そしてラインハルト先生が剣を構えると、間合いを取られ焦らされているハウンド達の一匹が、威嚇から攻撃の姿勢に変わった。


グルルルル

   ガウルルルル


「来いっ!」


グヮゥッッ

  ダダダッ

   ガァァッ!


 フゥォンッ!

   ギャイィィンッッ

      ドサッ


ラインハルト先生の剣が一閃し一撃が通ると、飛び掛かってきたフレイムフォックスハウンドが倒れた。


「すごい・・・」



グアウルルルッ


見惚れている場合ではない。

ミリアーナ達の方にもフレイムフォックスハウンドが近付き、今にも飛び掛かろうかと唸りをあげている。


「来たわね。」

「うん。」


グルルルルッ

   グワウッ!!

     ドドドダッ!!!


ブゥォンッ!

    シュヴァッ!!

       

 グギャァンッ


「うわっ!  えっ!?」


イザベラが今、ミリアーナの眼の前で薙いだ剣は、白く一閃し空を切ったように見えたが、魔物にしっかり攻撃が通っている。

何が起きたのだろうかとミリアーナが驚いて見ていると、イザベラが魔物に目を合わせながら説明し始めた。


「この剣は属性魔力を纏える剣なのっ!だから平気よっ!」


「初めて見た・・」


イザベラが繰り出した剣の一薙ぎは、風の属性魔力を纏っていたのだ。


そうこうしていると、パトリック達の方に魔物が激しく飛び掛かっていくのが見えた。


  ガウルルルッ グガァァッッ

       ダダッ!

    ヴォンッ!

        グギャギャンンッッ!


なんと、パトリックの剣から炎が見えたではないか。

何事なのか・・・


「うぉっ!凄いな、パトリックっ!」

「ああっ! 短めの剣だけど、これは我が家伝統の魔剣さっ!」


彼が放った剣の一閃は炎の属性を纏ったものだったのだ。


パトリックは普段は高圧的な態度をとる事が多いが、彼は彼なりに貴族としてきちんと向き合って訓練を重ねているのだ。

そして今は魔物と対峙する事に真摯に向き合っている。



ガウルルルッ

  ガァァッッ!


ブンッ!

  フオンッ!


「ちくしょぅっ!」

    「はぁはぁ・・、くそっ!」


もう一組の生徒の方へも魔物が飛び掛かってきて応戦しているが、一撃が入らず苦戦をしていると、そこへテレーザが割って入った。


タタタタタッ

     シュンッ!

ズァッ!

 ギャヒィンッッ


「君達っ、大丈夫かっ!」

「はいっ」「大丈夫ですっ」


こうして皆が応戦しているところへ、援護に駆け付けた騎士が。

エドワード隊長である。


「君達っ! 援護に来たっ!」


グガァァッッ!

  ブゥォンッ!!


  ギャヒヒィンッッ・・

            ドサッ


もう一匹いた魔物は一撃で討伐されたが、


「君達っ!まだだっ! 終わっていないっ!」


イザベラ、パトリック、テレーザの目の前にいる魔物達は、傷を負って血塗れになりながらも立ち上がり、まだ威嚇し続けている。


「「はいっ!」」「「くそっ!」」


それぞれに再び飛び掛かる魔物達。


グガァッ!

     ガルルッッ!

  グワルルッッ!


シュバッッ!!

     ヴゥォンッ!!

 フゥォンッ!


ギャヒィンッ・・

    ギャァァンッ・・   ドスッ

 ギャァンッッ!・・        ドサッ

              ドスンッ


全ての魔物が動きを止め、最後に騎士二人とラインハルト先生が止めを刺してまわった。


「みんな、よくやった。ご苦労だった。」


「「はい。」」「「はいっ!」」「「はいっ」」


男子達4人は討伐が終わり意気揚々としているが、ミリアーナは何かモヤモヤとした気持ちが残ったのだった。


そして馬車へ戻ると、戦いを見守っていた生徒達に拍手で迎え入れられ、次々と声を掛けられてゆく。


ワァァッ!!

  パチパチパチパチ


「凄かったよっ!」「すげぇじゃんっ!」「お疲れさまっ!」「お疲れっ!」

   「おうっ!」 「俺、頑張ったぜっ!」 「すげえだろっ!」 「おうっ、ありがとよっ!」



ミリアーナとイザベラも、もちろん他の女子生徒から拍手や声を掛けられているのだが、イザベラは微笑んで応え、ミリアーナは『うん、うん』と答えるだけで、どこか浮かない顔をしている。

そんな中、ソフィアが声を掛けてきた。


「お疲れ様、二人とも。凄かったよ?」


「ありがとう、ソフィアさん。」

「うん、ありがとう。」


「どうしたの?ミリアーナさん。何か嬉しくなさそうだけど・・」


「うん・・・  ごめん。大丈夫だから。」


「そっか・・うん。」


ソフィアはそれ以上触れないようにしてくれたのだった。



そして今日の校外授業は終わりになり、学園へ向けて馬車は走り出したのだった。



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