32 ~もうちょっと夏休みっ~
イザベラが帰ってきて素直に嬉しいミリアーナ。
翌日は早朝から起きて、二人で朝の一杯を楽しんでいる。
もちろん、イザベラは読書をしながらだ。ミリアーナはそんな雰囲気がやっぱり落ち着くと思うのだった。
そして朝食を済ませた二人。
部屋に戻り、ミリアーナはバイトに行く準備をする。
「では、お約束通り、お昼にアルナキロス食堂へ食べに行きますね。」
「うんっ、待ってるね。 あ、でも、お昼時は凄く混んでると思うから、もし良かったら、時間をずらしてきた方が良いかも。」
「では、午後少し遅めに。 午前中は旅の片付けを。」
「うんっ、わかった。 じゃ、いってきまーす。」
「はい、頑張って下さいね。」
送り出してくれたイザベラににっこりと笑い、ミリアーナは今日もバイトへと向かう。
イザベラは午前中に馬車旅で着替えた服などを洗っておこうと考えたようだ。
そして昼下がり。
お昼時の混雑も一段落したところへ、イザベラが食べにやってきた。
「こんにちは。」
「おや、いらっしゃい。 もう実家から帰ってきたのかい?」
「ええ、向こうに戻っても、たいしてする事は無いので。」
「そうなのかい?」
女将さんとイザベラが話しているところへ、賄を食べ終わったミリアーナがやってきた。
「あっ、いらっしゃい、イザベラさん。」
「お約束通り、食べに来ましたよ。」
「うんっ、来てくれてありがと♪ では、何になさいますか?」
「それでは、子羊のスープとサラダとパンを。」
「はいっ、子羊のスープとサラダとパンですね。 畏まりました。 では、少々お待ち下さいね。」
すっかりウエイトレスモードのミリアーナ。イザベラの前でもそのまま体が動いてしまう。
「ふふふ。」
そんなミリアーナを見てつい笑ってしまったイザベラ。
「ふふっ、ミリーちゃん、すっかりウチの専属ウエイトレスになっちゃったわね。」
女将さんもミリアーナを見てつい笑ってしまう。
「そのようですね。」
「でも、夏季休暇中だけなのよねぇ。 残念だわ。 ミリーちゃんならずっと雇い続けても良いのに。」
「ふふっ。 でも、駄目でしょうね。ミリアーナさん、魔道具一直線ですから。」
「そうよねぇ。フリードさんの姪っ子さんだものね。私、この間初めてそれを知ってびっくりしたのよ。」
と、話しているところへ、ミリアーナが戻ってくる。
「あ~、今何か言ってたでしょう?」
「ねぇ、ミリーちゃん。ウチでずっと働かない?」
「駄目ですよぉ。 私は将来魔道具師になりたいんですから。」
「ふふっ。 だそうですよ? 女将さん。」
「やっぱりダメか~ ふふふ、そうよねぇ。」
そこへフランツから出来上がりの声が掛かり、料理を取りに向かうミリアーナ。
「お待たせしました。 子羊のスープとサラダとパンで御座います。 ごゆっくりどうぞ。」
「うふふっ。」
「えへへっ。 なんか、すっかり板に付いちゃって。身体がこう、勝手に動いちゃうっていうか。」
「では、女将さんの要望にお応えしても良いのでは?」
「もう、イザベラさんまでそう言うんだから。 駄目でーす。私は絶対魔道具師になるんでーす。 はいっ、もうっ、ゆっくり食べていって下さいね?」
「ええ、では、いただきます。」
そんなやり取りをしていると、また新しく客が入ってきたようだ。
「いらっしゃいませ~ こちらのお席へどうぞ。」
女将さんとイザベラは、それを見て微笑むのだった。
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そして今日もバイトが終わり、寮に帰ってきたミリアーナ。
部屋に戻り、一息つく事にする。
部屋では、イザベラが窓辺で本を読みながら何かを書いている。
「ただいま~」
「おかえりなさい、ミリアーナさん。 アルバイト、お疲れ様。 お茶でも飲む?」
「うん。ありがとう、イザベラさん。 ん?イザベラさん、何してるの?」
「休暇中の宿題を少し進めているところですよ。」
「あ~・・・ そうだった・・。 ちっとも進んでないや、宿題。」
それほど沢山は出ていないのだが、ほとんど手を付けていないのはまずい。さすがにそろそろ進めていかないと終わらなくなってしまう。
「はぁ・・仕方ない、進めようかな、私も。」
「間に合わなくなってしまう前に、いい加減に進めた方が良いですよ。」
「うん、そうする・・」
休暇もあと二週間ちょっと。間に合うのか?ミリアーナ。
課題は、前期に学んだ内容のレポートなので、毎日きちんと授業内容をノートに纏めておいたミリアーナにとってはそれほど大変ではない。
しかし、毎日バイトをしているミリアーナにとって、時間はそれほど沢山は無いのだ。
危機感を感じたので、本格的に宿題を始める事に。
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そして、毎日バイトと宿題を頑張ったミリアーナ。
9月ももう終わりになる。
「ふぅっ! 終わったっ!! これでバッチリっ♪」
「お疲れ様。無事、間に合ったようですね。」
「うんっ。 イザベラさんのおかげかも。 居なかったら今頃泣きを見てたかも知れないもん。」
「ふふ。 9月も終わりですね。 そろそろソフィアさんが帰ってくる頃でしょうか。」
「そうだね。あと二、三日で帰ってくるのかな?」
「おそらくは。」
「私も明日でアルバイト終わりなんだなぁ・・。 なんか、ちょっと寂しい感じ。」
こうして無事宿題も片づけたミリアーナ。
その日は安心して眠りに着くのだった。
次の日、ミリアーナは最後のバイトを勤め上げ、女将さん達に挨拶をする。
「今日もお疲れ様でしたっ。」
「ふぅ・・今日でミリーちゃん、終わりなのね。 ちょっと寂しいわね。でも、ほんと、助かったわよ?ありがとう。」
「いいえっ。こちらこそ、毎日楽しく働かせて貰えて、本当にありがとうございました。」
「また、いつでも雇うからさ、また働きに来てね?」
「はいっ。ありがとうございますっ。」
「それじゃ、フランツさんも、ありがとうございましたっ。」
「お、おうっ。 また、いつでも来てくれよな。」
「はいっ、また三人で食べに来ますね?」
「おう。待ってるからよ。」「ええ、待ってるわね。」
「では、お疲れ様でしたっ。」
こうしてバイトも今日で無事に終わり、少し寂しくも感じつつ、しかし勤め上げた充実感を胸に寮に帰ったのだった。
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次の日、朝遅めに起きたミリアーナ。
「ん~~っ おはよう、イザベラさん。 気持ちの良い朝だねっ。」
朝の空気がすっかり秋の心地よい風に変わっているのを感じる。
「おはよう、ミリアーナさん。 ええ、もう秋もすぐそこですね。」
もちろん、イザベラはそんな心地よい風を受けながら、窓辺で本を読んでいる。
「宿題も終わったし、あとは学園が始まるまでゆっくり出来るね。」
「そうですね。 はい、ミリアーナさん。」
お茶をカップに入れ、差し出すイザベラ。
「ありがと、イザベラさん。」
「いえ。」
「今日辺り、ソフィアさん帰ってくるかな?」
「ええ、そんな感じはしますね。」
「ソフィアさん、家ではどんな事して過ごしたんだろうね?」
「確かバルテモントは秋祭り前の筈では。ソフィアさんのご実家は商家ですから、きっと毎日お忙しかったのではないかと。」
「そっかぁ・・ そうだよね。」
そして夕方になる。
なんとなく窓から外を見ているミリアーナ。
建物に夕陽が差して反射し、綺麗に輝いている。
「あ・・」
窓の下を覗くと、小路を歩くトランクを持ったウェーブの掛かった茶髪の女の子が見える。
(多分ソフィアさんだ。)
「ねぇ、あれ、ソフィアさんだよね?」
「ええ、恐らく。」
「迎えに行こっか。」
「そうですね、行きましょうか。」
二人で寮の入り口まで出迎えに行くと、ちょうどソフィアが帰り着いたところだった。
「おかえりっ、ソフィアさん。」「おかえりなさい、ソフィアさん。」
「あっ、ただいま。 二人とも出迎えに来てくれたんです?」
「うんっ。窓から外見てたら、ソフィアさんが帰ってくるのが見えたの。」
「お疲れ様。馬車旅、疲れているでしょう。 荷物、持ちますね。」
「私も持ってあげるねっ」
「ありがとう、二人とも。」
そしてソフィアの部屋まで持って行くと、『またあとで食堂でね』と言って別れた。
その後、三人で夕食をし、少しお互いの話をすると、今日は疲れているだろうからまた明日お話ししましょうと約束をして、それぞれ自分達の部屋に戻っていったのだった。




