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31 ~まだ夏休み中っ バイトその3~


 9月も二週目に入りアルナキロス食堂の客足もかなり増え、ミリアーナも疲れて帰る日が続くが、充実した毎日が過ぎていた。


そして今日もお昼時。多くの客を相手に奮闘するミリアーナ。


「いらっしゃいませ~っ。 あっ。」


「こんにちは、ミリアーナちゃん。」


「やあ。忙しそうだね?頑張ってるじゃないか。」


「伯母様っ伯父様っ。来て下さったんですねっ。いらっしゃいませっ。」


どうやら伯父達がお昼を食べに来てくれたようだ。

そこへ女将さんも来た。


「おや、魔道具師のフリードさんじゃないかい。いらっしゃい。  ん?お互い知り合いなのかい?」


「こんにちは、女将さん。知り合いも何も。姪がここで働くって言うから、食べに来たんですよ。」


「おやまあ! ミリーちゃんがフリードさんの姪っ子だったとはねぇ!」


「はいっ 私、伯父様みたいに魔道具師になりたくて。それで王立学園に入学したんです。」


「おや、そうだったのかい?それは初耳だねぇ。」


などと話していると、他のお客さんから声が掛かる。


「すみませ~ん。」

「は~い。 ごめんなさいね。今忙しくてね。  ミリーちゃん、あとはお願いね。」

「はい。  それでは、伯父様、伯母様、ご注文は何になさいますか?」


「それじゃあ、子羊のソテーとサラダと・・パンとスープのセットを貰おうかな。」

「私も同じで良いわよ?」


「はいっ。有難う御座いますっ 子羊のソテーとサラダとパンとスープのセット、各お二つで宜しいでしょうか?」


「ええ。」「ああ。」


「畏まりました。では、少々お待ち下さいね。」


注文を受けると、厨房に居るフランツさんにオーダーを出しに行くミリアーナ。

そのまま他の客へ飲み水のサービスやテーブルを拭きに回るのだった。


そんなミリアーナを見て。


「なんだかすっかりウエイトレスが板に付いた感じだね」

「ふふふ、そうねぇ。頑張っているじゃない。」



しばらくし、フランツさんから声が掛かる。


「あいよっ、子羊のソテー、出来たよっ。」


「はいっ」


伯父達の座るテーブルへ運ぶミリアーナ。


「お待たせしました。子羊のソテーとサラダとパンとスープのセット、お持ちしました。」


「はい、ありがとう。」


「ごゆっくりどうぞ~」


と、すっかりウエイトレスに馴染んでいる。



「いらっしゃいませ~っ   ご注文は如何になさいますか?」


まだまだお昼の時間は続いている。客足は増すばかりだ。



そして。


「ごちそうさま。」「ごちそうさまでした。」


伯父達が食べ終わり、帰るようだ。


「ミリアーナちゃん、また来るわね?」

「頑張るんだよ?」


「はいっ!   有難う御座いました~っ 」


伯父達はミリアーナの働く様子を見て、感心して帰っていったようだ。


~~~~~~~~~~~~~~~


そして昼下がり。客足が緩み、一息つくミリアーナ。


「ふぅ。 今日もお昼どきは忙しかったですね。」


「そうだねぇ。 でも、ミリーちゃんのおかげで助かっているけどね?」


「いやいや、私なんてまだまだですよ。」


「そんな事ないよぉ? もし居なかったらって思うと、ねぇ?  さっ、今のうちに賄い、食べとくれよっ。」


「あ、はいっ。 じゃ、いただいてきますね。」



そして夕方になり、今日もミリアーナが上がる時間になる。


「はい、今日もご苦労さんっ。」


「はいっ、お疲れ様でした~ お先に失礼しまーすっ。」


今日も忙しく働いたミリアーナである。



そして、帰りながら思い出す。

休憩時間中に女将さんが話してくれたことがあったのだ。


『ウチの厨房の魔道具はねぇ、実はフリードさんに作ってもらった物ばかりなんだよ?』

『そうだったんですか?』

『私達がここに新しく店を出す時だったんだけどね、あんまり資金がなくてねぇ。その時、フリードさんが色々と助けてくれてね。 本当に良いもの作って頂いてねぇ、感謝してるんだよ。』


アルナキロス食堂の魔道具が伯父様が作った物だったなんて。

初めて知った事であった。



~~~~~~~~~~~~~~~



そしてまた時は過ぎる。

イザベラが寮へ戻る予定だと言っていた9月半ばである。



「ふわゎゎぁ・・・  ん~~~っ」


(起きた・・・ はぁ、今日は良く寝れた。  朝はもう暑くなくなったな・・ 昼はまだ暑いけど。)


早朝の風が爽やかな空気に変わっており、秋ももうそこに来ているように感じる。


今朝は少し早めに起きたミリアーナ。

連日のバイトの疲れもあるが、もう夜は涼しくなり熟睡出来るようになったせいか、早起きしたのだ。


せっかく早起きしたのである。

一人ではあるが、久しぶりに早朝の一杯(モーニングティー)を楽しむことにしようと、早く着替えるミリアーナ。


着替え終わり、お茶の準備をする。


「♪♪~ んふふ~ ♪~」


準備が終わり、一人窓際のテーブルでお茶を楽しむ。


「ふぅ~・・・」

(んっ。 優雅だ♪  これで紅茶じゃなくて、ハーブティーだったら最高なんだけれどな~)


こっちの世界に生まれてから、これと言ったハーブティーには巡り合えていない。

そこらの雑貨屋や食料品店にも一応取り扱っていたりはするのだが、あまり風味が良いものではなく、種類も少ない。何よりも、そもそもハーブティーと言うより薬草茶に近いものばかりなのだ。

風味の良いものを手に入れる事は出来るのだが、例えばバラなどを使った物は少々お高い。なので、普段は紅茶になってしまうのである。


(もう9月半ばかぁ・・ イザベラさん、そろそろ帰ってくるかな?)


そうこう考えていると、朝食の時間が来たようだ。

どこからともなく、お腹に響く良い匂いがしてきた。


(さっ、今日も朝ごはん食べてバイトに行こうっ!)


今日もテンション高めのミリアーナであった。



~~~~~~~~~~~~~~~


そして今日も忙しく働いたミリアーナ。

帰りがけに、なんとなく王都の中央広場、通称「噴水広場」に来てみる。

丁度、夕刻を知らせる教会の鐘が鳴り始めたところだった。


カコ~ン

   カコ~ン

      カコ~ン・・・


まだ陽が沈むには少し早い時間。噴水の飛沫と共にやってくる、秋の気配を含む夕方の風が少し冷たく感じる。

しばしの間、広場のベンチに腰を掛け、ゆっくりとする。


(ん~・・っ 今日も働いたなぁ・・    ん?・・・)


広場から南の方に目をやるミリアーナ。

その先には少し重そうにトランクを持ちながらこちらの方に歩いて来る少女の姿が見える。

傾きかけた陽の光を浴びて、青銀色の髪の毛が揺れている。

間違いなくイザベラだ。


(あっ・・)

「イザベラさんっ!♪」


 歩いてくる方へ駆け寄るミリアーナ。


「お帰りっ、イザベラさん。」


「ただいま。ミリアーナさん。」


「馬車の長旅、疲れたでしょ? トランク、持ってあげるね?」


「ありがとう。」



「辻馬車、捕まえれば良かったのに。」


「いえ、少し歩きたくなったので。」


「ふふっ。」


「ふふふ。」


なんとなく、イザベラらしいなと思ってしまったミリアーナであった。


~~~~~~~~~~~~~~~


一緒に寮に帰り、マリアーヌさんに帰ってきた事を伝え、部屋に戻った二人。

久しぶりに二人で湯浴みをしようと、大浴室へ向う用意をしている。


「あの、ミリアーナさん。」


「ん? なあに?」


「ミリアーナさんにプレゼントがあるのですが。」


「えっ? ありがとう。」


イザベラに小さな包みを手渡されるミリアーナ。


「開けても、良いの?」


「どうぞ。」


「なんだろう・・?」


包みを開けると小さめの箱が。何やら良い香りがする。

箱を開けると、小さめだがとても質の良い、バラの香りがする石鹼が入っていた。


「あっ・・ これっ!   良いの?」


「ええ。 向こうに帰っている間にたまたま手に入ったものですが。  良ければ、このあとお使いになってみたら如何でしょうか。」


「うんっ。 使ってみるっ♪」


どうやらイザベラも同じ物を持っているようだ。

貸し切り状態の大浴室で夕食前の湯浴みをする。

薔薇の優雅な香りに包まれ、少しの間だが上流階級の気分を味わう二人。


「すっごくイイ香りっ♪  ありがとう、イザベラさんっ。」


「いえ。喜んでもらえて良かったです。」



そしてお互いの背中を流し、湯浴みを終える。


♪♪♪~~~

本当に気分が上がる香りだ。


二人は部屋に戻り、髪の毛を乾かす。


(うぅ、ドライヤーが欲しい・・  この世界には無いのかな?  無いのなら作りたい・・)


ミリアーナもイザベラも髪が長いので、湯浴みの後は少し面倒なのだ。


(せっかく異世界転生したのにな。風魔法でフワ~っと乾かすとか出来ないんだもんな・・)


この世界では、呪文を唱える魔法などの様に、何も無い所に直接何かしらの現象を顕現させる事は出来ない。

魔力があっても、使う為には発動させる為の魔道具がなければならないのだ。


(ま、仕方ないか。 無いならいつか作ろう。)


丁寧に布で拭いて乾かし、更にブラッシングをしてゆく。

この、布がまた面倒である。毎度、タオルが欲しい・・と思ってしまうミリアーナである。


(あ~もうっ! クイックドライタオルっ!!  はぁ・・)


無いものは無い。

前世の記憶があるのも、困りものなのである。


もちろん、隣で髪の手入れをしているイザベラは、普段通りの事として黙々とこなしているのだ。


イザベラから気分が上がる石鹼を貰ったのにこれではいけないと、自分も落ち着いて髪の手入れをする事にしたのだった。


そのあと三週間ぶりに一緒の夕食を食べ終わり、部屋に戻ってお互いに居ない間の出来事を少し話すと、馬車旅で疲れているイザベラと連日のバイト疲れのミリアーナはすぐに床に就いたのであった。



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