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27 ~ソフィアとイザベラの帰省~


 ソフィアは寮を出た後、街の東側の乗合馬車の停留所へ歩いて行った。

その停留所からはバルテモントや北の隣国方面に行く馬車が出ているのだ。


(半年ぶりに帰るのかぁ・・みんなどうしてるだろう? ジョンは頑張ってるかなぁ?)


ジョンとはソフィアの三つ下の弟で、ジョナサンという。

ちょっと甘ったれで、小さな頃はソフィアにいつもくっ付いていたのだ。


(あ、もう来てる。急がなきゃ。)


停留所には既に馬車が停まっており、急いで歩き始めたソフィア。


(ふぅ、良かった。間に合った。)


「すみません、この馬車はバルテモント方面行きですよね?」


「ええ、そうですよ。乗るのかい?」


「はい、乗ります。  あ、すみません。この荷物をお願いします。」


「はいよ、お嬢さん。」


御者に声を掛け、持ってきたトランクバッグを預け、馬車に乗り込むソフィア。


グロシュテの町へは五日の行程である。途中途中の宿場で乗り継ぎを繰り返す旅になる。

それなりに荷物を持って向かわなくてはならないので、トランクバッグも持って来ているのだ。


そして定刻になり、馬車は出発する。


(帰ったらやっぱり忙しいのかな? これからの時期はグロシュテの町は秋祭りに向けて忙しいんだろうな・・)


ソフィアの実家、ビアンキ商会はグロシュテの町でもそれなりに大きな商売をしており、これから秋の祭りの準備で沢山の商品が入荷するようになる。それを捌く手伝いもソフィアはしていたのだ。


(ジョンはちゃんとお手伝いしてるかな?私が居なくて寂しがっていなければ良いんだけれど。)


と、色々想いを巡らせながら馬車に揺られ、最初の宿場町に到着する。


「はい、到着しましたよー。    お疲れ様。これがお嬢さんの荷物だね。」


「有難う御座います。」


(さっ、宿を探さなきゃ。)

ソフィアは荷物を受け取り、宿に向かって歩き出した。


明日朝一番に、次の宿場に向けて出発しなければならないのだ。

早めに宿を決めて休まなければと思うソフィアであった。



こうして馬車の乗り継ぎ旅をして四日目。

今日の馬車旅は昨日までとは少し様子が違う。

その理由は、これから通る道は山の中であり、途中は峠にもなっていて、道中が魔物や盗賊からの危険もある場所になっているからだ。

その為必ず、馬車二両もしくは馬二頭立ての大型の馬車に、護衛の騎士が必ず一人は乗り込むようになっている。

今回は馬車二両の様で、停留所には馬車の他に御者が二人と護衛の騎士が一人待っていた。


停留所に行くと、御者に声を掛けられる。

「グロシュテ方面行きのかたー。女性は後ろの馬車にお乗り下さーい。」


後ろの馬車には女性や子供の客が優先的に乗り、そして護衛の騎士が乗り込むことになっている。


そして定刻になり、二両の馬車はグロシュテ方向に走り出した。


しばらくすると馬車は今日一番の難所、ドライギッペ峠に差し掛かった。

ここは道が狭く、馬車には難所になるのだが、その代わりにとても景色の良い場所にもなっている。


御者が乗客に声を掛ける。

「お客さんがたー。ここからは少し揺れるからー、気を付けて下さいねー。」


そして馬車がゆっくりとなり、揺れ始める。

乗客の皆は慣れたもので、それぞれが客室のどこかに掴まって揺れをやり過ごしている。


ソフィアもその一人だ。

(外の景色は良いのだけれど・・、相変わらずよく揺れるなぁ・・)


そして馬車は魔物や盗賊に出遭う事もなく無事に峠を抜け、夕方、次の宿場に到着した。


(さあっ、ここを泊まれば、明日の夕方にはグロシュテだね。)


もうグロシュテの町が遠くにではあるが見え始めている。

もう一息だと気持ちを引き締め、今日の宿に向かう。


そして翌朝。

最後の乗り継ぎ馬車に乗り、グロシュテへと進み始める。

ここからは揺れも少ない、快適な馬車旅になる。

昨日までの山ばかりの景色とは違い、見える景色が里の景色に変わってきた。


(もう少しでグロシュテ。  早く付かないかな・・)


11歳になるかならないかの少女一人で五日の馬車旅をしてきたのだ、いくらソフィアが頑張り屋とはいえ、やはり気持ちは早く家族に会いたいのだ。


そして夕方。グロシュテの街の停留所に到着する。

ソフィアの家は街の大通りを少し入ったところにある。

ここからは歩いてもそれほど遠くはない。もう一息である。


彼女はトランクバッグを持ち上げて歩き始め、そしてほどなくすると家に辿り着いた。

家の入り口には『ビアンキ商会』の看板が出ている。


「ただいま~」


入り口のドアを開ける。すると。

「あっ、お姉ちゃんだっ!」


一番にジョナサンが気付いたようだ。


「お姉ちゃんっ、おかえりっ。」

「ただいまっ、ジョン。イイ子にしてた?」

「うんっ。 お姉ちゃんがいなくても、僕っ、がんばってたんだよっ。」

「そう。頑張ったのね?そっか~。  あっ、お母さん、ただいまっ」

「あらっ、ソフィアっ。おかえりなさい。 長旅お疲れ様。さあっ、中に入って。」

「はい。」

「ねぇねぇお姉ちゃん。僕ねっ―――――


こうして無事に家に帰り着いたソフィアであった。



~~~~~~~~~~~~~~~



 一方イザベラは、町の南側の停留所に向かっていった。

ここからはサウザンオーブ行きとリューステット行きが出ている。


(さて・・。馬車は既に来ているのでしょうか。)


イザベラが停留所に着いた時に、丁度馬車がやってきた。


(丁度の様でしたね。)


カッポ カッポ カポ カポ・・

   ガラ ガラ ガラ ・・・

「ハイッ  ドウ ドウ・・」


御者が降りてきて声を掛ける。

「お待たせしました。 リューステット方面のお客様はお乗り下さい。」


「すみません、乗ります。 この荷物をお願い出来ますか。」


「はい、お預かりしますね。 ではどうぞ、お乗りになってお待ち下さい。」


「有難う御座います。」


イザベラは御者にトランクを預け、馬車に乗り込んだ。

そして馬車が発車するまで、少しの時間だが物思いに耽った。


(お父様や兄上はどうしているだろう。)

イザベラの家族は両親と姉、そして兄がいる。その姉は既に嫁いでいるが、兄は次期当主として家にいるのだ。


そして定刻。

馬車は王都の南門を潜り、街道を西へと走り出した。

ここからは約七日間、宿場町で馬車を乗り継ぎながら、領都リュースティへの長旅となる。


王都を離れ、街道をしばらく行くと、景色は見晴らしの良い草原地帯へと入る。

王都とリューステットを繋ぐ街道は、大きな都市同士を繋いでいるだけあって道も良く整備されており、比較的快適に過ごす事が出来る。


イザベラは揺れる馬車の中、器用に本を読んだり、景色を見たりしながら過ごしていた。

そして馬車は途中途中で休憩を挿んで、最初の宿場町へと到着する。


この町は広い河沿いにあり、王都とは船でも行き来出来る位置にある。

なのでこの区間だけは船で移動も出来るのだが、料金が高いこと、そして週に何本も出ていないので、多くの人が馬車で移動している。


イザベラは荷物を受け取り、今日の宿へと足を向ける。

明日も朝が早い。彼女は街を見る事もせずに先を急ぐ事にしたようだ。


こうして一日目が終わる。



二日目。


イザベラは馬車の定刻に間に合う様に支度をし、河岸にある待合所に向かった。


西に向かう馬車は最初に河を渡らなければならない。

この町の辺りは河幅が広い為、橋が無いのだが、代わりに馬車を渡し舟で往来させる様になっている。


馬車はまず、船で反対岸に渡る。同時に馬車の乗客も別の船で渡るので、反対岸に到着次第、乗客は馬車に乗り、出発するのだ。


イザベラを乗せ、船が河岸を離れる。そして十数分。短い船旅を終え、先に到着していた馬車に乗り込んだ。


そしてまた、リューステット方面に向けて馬車は走り出す。

今日も草原が広がる丘の景色を見ながらの行程となる。



こうして快適な馬車旅は続き、五日目。


イザベラは今日も定刻に余裕を持って宿を出る。

そして停留所に到着し、馬車が来るのを待っている。


今日の馬車には護衛の騎士が乗り込む為か、少し大きめの馬車がやってきた。


御者が声を掛ける。

「この馬車はリュースティ方面、オストリュース行きです。お乗りになる方はお声を。」


「すみません、乗ります。」


「はい。 では、そちらのお荷物をお預かりしますね。  お足もとにご注意してお乗りになってお待ち下さい。」


「はい、お願いします。」


イザベラが乗り込もうとすると、護衛の騎士が手を差し伸べる。


「お嬢さん、お手を。」


「有難う御座います。」


乗り込んで待っていると、他の乗客も乗ってきた。


そして定刻が来る。

護衛の騎士が乗り込み、御者も周りの確認をし、御者席に乗り込んだ。

出発である。


しばらくは木々の多い草原地帯を走っていたが、やがて景色は森の中へと変わった。

ガラガラという馬車の響きと共に、鳥や動物の鳴き声も聞こえるようになる。

ここがリューステットへの道中での一番の難所・・になるのだろうか。

深い森を横切るように街道を通してあるのだが、やはり原生林を切り開いただけに魔物が出やすい土地になっている。

危険な魔物はそれほど多くは居ないこの世界ではあるが、それでも多少は緊張が走る。


しばらくすると、馬車がゆっくりとなり、やがて停車した。

すると、護衛の騎士と御者が馬車を降り、何やら話をし始めたようだ。

しばらくし、御者が乗客達に状況説明を始めた。


「乗客の皆様、只今前方に魔物が出ていまして、このまま進むのは危険と判断し、これから魔物を追い払う事に致しました。 申し訳ないのですが、安全が確認出来るまでお乗りになったままお持ち下さい。」


ここまで順調に街道を進んでいたのだが、行く手に魔物が出てしまったのは仕方がないと、乗客達は不安に思いつつも行く末を見守る事にするようだ。


行く手を塞いでいるのは数羽の一角兎の様だが、どうやらその中でも気の荒い火の属性を持つ物らしい。

ちなみに、どの属性の一角兎でも見た目は一緒なのだが、目の色で区別は出来る。

今回のは、目が赤い火の属性を持つ物だが、緑は風の、青は水の、という風に判るのだ。


(火属性の一角兎のようですね。あの騎士様なら問題は無いかと。)

イザベラは道を塞ぐ魔物を見ると、すぐに何か判ったようで、落ち着いて成り行きを見守る事にしたようだ。



「では、騎士様。宜しくお願いします。」


「うむ、では、危ないのでここで待っていて下さい。」


騎士は魔物の方へゆっくりと近付いて行く。

いきなり近付いて刺激をしないようにする為だ。


すると、一角兎の方も気付いた様で、騎士に向かって威嚇を始めた。


ググギィーッ

   グギギィ~ッ


そして騎士は魔物と丁度良い間合いを取り、剣を構えた。


カシャッ


  スッ・・

     タタッ


  フォンッ

      ピギャーッ・・

    シュッ・・


一匹目は、鮮やかな剣捌きの前にあっけなく斬り伏せられた。

二匹目は返す剣では斬る事が出来ず、間を取られてしまう。


グギギギ・・

    グググギギギ・・・


そしてすぐに違う一角兎が騎士に飛び掛かってくる。


トトタッ

   シャァァッ

        シュオンッ

           ピギャッ


再び剣を翻し、飛び掛かってきた一角兎を斬り付け、難なく倒した。


あと二匹いる。


  グギギィィ

    グググギィィ


トトトタッ

  トトトトタッ

      パサッ

       ガサッ

           トトトト・・・・ 

              カサカサカサッ・・・・


しかし、間を取って威嚇していた一角兎達は、始めに斬られた一角兎を見てなのか、騎士の気迫に負けたのか、森の中へとジャンプし、逃げ去ってしまった。


(どうやら終わったようですね。)

イザベラは成り行きを見守り続けていたが、斬られた魔物と逃げ去った魔物を見て、早々に席に着き、読書を始めた。


フォンッ

  スッ・・

   シャキッ・・ッ


騎士は剣を振り、鞘に収めた。

魔物退治は終わったようである。

騎士は倒した一角兎を持ち上げ、既に死んではいるが、念の為に取り出したナイフで首を切り逆さにして血抜きをすると、袋に入れて御者の所へ持ってきた。


「これを次の町で処分を。」

「有難う御座います。了解致しました。」


次の宿場町で、素材などとしてどこかに売り払うのだ。


そして御者は乗客に声を掛ける。


「お待たせ致しました。魔物は追い払いましたので、これより出発致します。」


乗客達は安堵したようで、皆それぞれ席に着き、発車に備えた。

そして馬車が揺れ始める。



夕方遅く。

御者が到着の声を掛けてきた。


「乗客の皆様、お疲れ様でした。少々遅くなりましたが、無事、オストリュースに到着致しました。」


途中魔物への対処があったことで遅くなったが、無事に馬車は宿場町に到着した。


リュースティまであと二日の行程である。

イザベラは足早に宿に向かい、残りの旅に備える事にし、早々に床に就いた。


そして次の日は何事もなく移動し、馬車旅も残り一日となった。



七日目。

早朝に目が覚めたイザベラは、朝の空気を吸いに一度外に出てみる事にした。


(・・スゥー・・   ・・・。  夕方、リュースティに着くのね・・・)


彼女は早朝の街を少しだけ散策し、宿に戻り朝食をとる。


朝食をとり終わると、早々に部屋に戻り身支度を始めた。

そして今日も余裕を持って停留所へ向かう。


馬車が来た。


「リュースティ行きです。お乗りの方はどうぞ。」


「乗ります。」


「はい。ではお荷物をこちらに。」


「お願いします。」


今日一日馬車に揺られれば、夕方にはリュースティに到着する。

イザベラはあと一息だと気持ちを切り替え、馬車に乗り込んだ。


そして昼休憩を挿んで揺られ続け、夕方前。

順調に移動出来た馬車は定刻より少し早くにリュースティに到着した。


隣国との貿易が盛んなリュースティの街はとても大きい。規模は王都に匹敵するか、それ以上か。

街をとり囲む壁の規模は王都並みだろうか。

街の入り口には門があり検問所になっている。衛兵が常に警護に当たり、門を潜る馬車はすべてチェックされるようになっている。


カッポカッポカッポ カポ カポ・・

  ガラガラ ガラ ガラ・・


イザベラの乗る馬車も検問を受ける列に並び、チェックを受けると門を潜り街中へと進んだ。


そして荷馬車も数多く行き来している街の大通りをしばらく進み、停留所に到着した。

停留所にはサンアンドレーズ国内の馬車だけではなく、隣国からの馬車も多く到着している。


「乗客の皆様、お疲れ様でした。到着でーす。」


御者が降りる乗客に手を貸し、そして荷物を手渡してゆく。


「こちらがお嬢さんの荷物ですね。」


「はい、有難う御座います。」


イザベラは御者から荷物を受け取ると、次は街中を走る辻馬車を捕まえ、ローズベルク家の邸までと告げる。

乗合馬車の停留所から邸までは馬車で15分ほどである。


そして、ローズベルク家の前に馬車が横付けされ、イザベラが降りると、邸の中から使用人が出てきた。

メイドのハンナである。


「イザベラお嬢様、おかえりなさいませ。」


「出迎えてくれてありがとう、ハンナ。」


「滅相もない事で御座います。」


ローズベルク家は子爵家であり、それなりに大きな邸を構えている。

イザベラはハンナに荷物を預け、大きめの庭を抜け、エントランスに入っていく。

そしてハンナがイザベラの父に声を掛けに行った。


「ゴットハルト様。イザベラお嬢様がお帰りになりました。」


「うむ。今行く。」


イザベラがエントランスで待っていると、父が出迎えに出てきた。


「お父様、只今帰りました。」


「うむ、良く帰ってきたね、イザベラ。 疲れているだろう。中へ入りなさい。」


「はい。有難う御座います。」



こうしてイザベラも無事、邸に着いたのだった。



この二人の実家での話・・・

どこかで閑話書きたいな・・

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