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26 ~夏休みっ その2~


 突然夏休み中のアルバイトを決めたミリアーナ。

この国では10歳を越えれば、保護者の承諾があれば働いて良い事になっている。

なので、学生が長期休暇中に仕事をする事も普通の事であった。

現に、ミリアーナの兄フレデリックも休暇中にアルバイトをしていた時もあったのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~


寮に帰ってきたミリアーナ達。

それぞれの部屋に戻り、帰省準備を始める三人。



「大丈夫なのですか? 急に決めましたけれど。」


「う~ん、多分? なんかさ、私も勢いで決めちゃったんだけどね? でも、一度やってみたかったのよ、お店でアルバイト。」


「・・・・・。 ミリアーナさんらしいと言えば、そうなのでしょうが・・。」


「えへへ。  まあ、とりあえず明日の午前中にもう一度女将さんとお話しして、それからだから。」


「そうですね。でも、やってみるのでしょう?」


「うん。出来るならね。

  ん~、明日は女将さんの食堂に寄って、午後にお祖父(じい)様の所と伯父様の所に寄って挨拶して・・  明後日の朝にランシュットに帰って・・ 結構忙しいかな?・・」


「なら、来月、帰ってきたらお店に行くわね。」


「うん。きっと来てねっ  ご来店、お待ちしております?   うふふっ」


「クスッ  ふふっ・・」


イザベラはそんなミリアーナに微笑むと、自分の準備に取り掛かり始めた。



~~~~~~~~~~~~~~~



翌朝。

いつものように寮の食堂に集まる三人。

今日は朝食の後、ソフィアとイザベラはそれぞれ実家に帰省する為に馬車に乗る。



「今日でもう二人共居なくなっちゃうんだぁ・・・」


「何言ってるんですか? まるでもう帰ってこないみたいな言い方しないで下さいよ。」


「そうですよ、ミリアーナさん。 私は来月半ばには戻りますし、ソフィアさんも来月末には戻ってくるのですから。」


「うぅ・・  さみしいよぉ・・  ぐすん。」


「ははは・・」「・・・。」



~~~~~~~~~~~~~~~



しばしの別れになるが、来月半ばにはイザベラが、そして夏季休暇が終わる頃にはソフィアも帰ってくる。

しかし、寂しいものは寂しいのだ。

だが、そんなことも言っていられない。ミリアーナはこの後、女将さんの待つ食堂に行って話をし、終わったら終わったで祖父と伯父の家に挨拶をしてそのあとは帰省準備があるのだ。

忙しくなる事を思い出したミリアーナは気持ちを切り替え、二人を送り出すことにした。



「それでは、わたくしはそろそろ馬車の時間ですので、行ってまいります。」


「うん、私もそろそろだね。  じゃ、ミリアーナさん、お仕事頑張ってね?私はミリアーナさんの頑張ってるところを見られないのが残念だけどね?」


「うんっ。 二人共、道中気を付けてね?」


「ええ。」「はい。」


イザベラとソフィアは寮を出ると、それぞれの町へ行く乗合馬車の停留所に向かって歩いて行った。



「さぁっ! 私も頑張るぞ~っ!」


(まずは女将さんの所に行って話をしてこなきゃ。)


とりあえずきちんと話を聞かないと始まらないので、早速女将さんの待つアルナキロス食堂へと向かう事にしたミリアーナ。



「おはようございま~すっ」


「はい、いらっしゃい。 昨日の話の続きね?」


「はいっ」


「したら、ここじゃなんだから、中にいらっしゃいな?」


「はいっ   おじゃましま~す」


店の中の事務室へとついて行くミリアーナ。

その部屋は厨房の脇にあり、帳簿などが机の上に出ている。


「そこに掛けていいわよ。」


「はい。」


女将さんに促され、椅子に腰掛けるミリアーナ。


「したら~ そうね、まず改めて自己紹介からかな?  私はこのアルナキロス食堂の女将をやっているスザンヌ・オリヴィエよ。 宜しくね?」


「私は王立学園一年のミリアーナ・ウィルヴィレッジです。 宜しくお願いします。」


「したら・・、ミリーちゃんって呼んでも大丈夫かな?」


「はいっ。 えっと・・、したら私は女将さんって呼ばせて下さい。 なんか、その方がいつも通りかなって思うので。」


「はいよぉ。 私は名前でも女将でも大丈夫だけどね?  えっと、じゃあ仕事の話ね。この店は私と旦那と二人で普段はやってるのね。でね、昨日も話したんだけれど、9月は観光客が増えて結構忙しくなるの。それで、毎年臨時で一人二人雇うのよ。で、今年はまだ決まってなくてね。」


王都は毎年9月は観光客が増えるらしい。理由は各地で夏祭りがあるからなのだが、この王都はそのついでに寄っていく場所になるから混むらしいという事だ。

ちなみに王都では毎年12月に冬祭りがある。


「で、ミリーちゃんが来てくれると助かるんだけれどね。 仕事内容は、注文の受付と配膳、あとは片付けと掃除になるんだけれど・・まあ、お給仕さんって事になるわね。お給料は基本的には時給制なんだけれど、大体一日働いて貰って・・あ、ミリーちゃんは未成年だから夕方までね。夜はお酒が出るからまだ出来ないの。それで一日・・、そうね、朝10時位から夕方5時位までなんだけれど、7時間で5千グネでどうかしら? お昼はウチで賄いを出すわ。」


グネとはこの国のお金の単位である。

このお店のランチが500グネ程なので、まあ、それなりの稼ぎになる勘定である。


(ふうん・・この国の金銭感覚がイマイチ掴めなかったんだけれど・・これで分かった感じ。前世のバイトと感覚が似てる気がする・・・)


前世の記憶を手繰り寄せ、金銭感覚を掴み直したミリアーナ。転生して赤ん坊から育ってきて、数か月前に前世の記憶を思い出したばかりだったので、親から生活費を渡されていただけの子供の感覚ではよく分からなかったのだ。


ちなみに、この国の社会人一年目の平均給与はおよそ16万グネだそうだ。



「で、どうかしら?」


「はい。大体わかりました。あとは親の承諾があれば良いんですよね?」


「ええ、そうね。」


「したら、明日家に一度帰るので、承諾書を書いて貰ってきますね。一週間は掛からないで戻ってこれると思います。」


「そう。良かった。じゃ、期待して待ってるわね?」


「はいっ」



こうして話は終わり、次の予定の祖父と伯父のところへ挨拶に向かう事にした。



(あ・・・、女将さんのお店でお昼食べてくれば良かった・・・)


時間はお昼前である。しまったと思うミリアーナ。


(しかたない・・、どこか屋台で食べるか・・)


悩みどころではある。

恐らく、このまま祖父の邸に行ってもお昼を食べさせてもらえるからだ。

しかし、これからバイトまでしようというのだ。そのまま祖父の邸に向かうのはやめ、屋台で何かを探す事にしたのだった。


(お昼っ♪ 何にしよう。  ・・・・あ。)


美味しそうな物を見つけてしまったようだ。


「すみませ~ん。 おばちゃん、これ下さい。」


「はいよぉ~。 350グネね。   はい、まいどあり。」


ミリアーナはおばちゃんに角硬貨5枚、小銀貨3枚を渡して食べ物を受け取り、屋台の傍にある椅子を借りて早速頬張る事にした。


(美味しそ~っ♪)


クレープの様な生地に、焼いて薄切りにした肉と野菜を挟んで、白っぽいソースを掛けたものだ。


(なんかケバブっぽい?   パクっ   ・・・うまっ♪)



「ごちそうさまっ。 美味しかったっ♪」


「そうかい? また来ておくれよっ。」


ほどなくして食べ終わり、おばちゃんに声を掛け、祖父の邸へ向かう事にする。



しばらく街を歩き、祖父の邸に到着する・・・と。


「こんにちは、ミリアーナお嬢様。今日はどうなさったのですか?」


「えっ?!  あっ、ルイーズさんこんにちはっ!」


門の前に来たばかりだというのに、いきなりルイーズに声を掛けられびっくりしてしまった。

どうやら、ちょうど庭に出ていたらしい。


「えっと、今日は学園が休暇に入ったので、一度ランシュットに帰る前に挨拶をしておこうかと思って。」


「さようでございましたか。 では、中へお入り下さいませ。」


「はいっ」


ルイーズはいつもブレない。ミリアーナの母と同い歳なので、ミリアーナとは母娘の様なものだと思うのだが、メイドとしての本分から決して外れないのだ。


ルイーズの後を追って邸の中へと歩いて行く。


「アインシュヴェルト様。ミリアーナお嬢様がおいでになりました。」


ルイーズが祖父を呼んでくれた。


「こんにちは、お祖父(じい)様。」


「おや、ミリアーナ。今日はどうしたのだい?」


「学園が夏季休暇に入ったので、ランシュットに帰る前に挨拶をしに参りました。」


「そうか。入学してもう半年経つのだね。 どうだい、学園は楽しいかい?」


「はいっ 毎日楽しいですっ。」


「そうかそうか。  それで、今日はお昼はもう食べたのかい?」


「はい、食べてきました。」


「そうか、なら仕方ないな。」


祖父は孫大好きなのである。昼食を一緒に出来ずに残念なようだ。


「ところで、ランシュットには休み中ずっと戻っているのかい?」


「えっと、実は王都でやりたい事が出来ちゃったんです。」


「ほう。それはどんな事なんだい?」


「9月中、食堂でアルバイトをしようかと思っているんです。」


「おや、そうなのかい? 色々頑張っているようだねぇ?」


「はいっ。 良く食べに行く食堂の女将さんが良い人で、それで、色々話してたら働いてみたくなっちゃって。」


「そうなのかい。 じゃあ、一度帰るのはアルバート君に許しを貰う為かい?」


「えへへ。まあ、そういう感じです。」


「そうかい。じゃあ、戻って来たら頑張って働くんだよ?」


「はいっ」


「このあとはどうするんだい?」


「これからフリード伯父様の所にも挨拶に行って・・、明日、すぐにランシュットに帰るつもりでいます。」


「そうか。 したらリリアンヌやアルバート君にも宜しくと伝えてくれないかな?」


「はい、わかりました。  では、今日はこれで失礼します。」


「気を付けて帰るんだよ?」


「はい、有難う御座います。 では。」


ミリアーナはカーテシーをして踵を返し、祖父やルイーズに見送られながら邸から出ると、すぐに伯父の工房へと向かった。



そんなミリアーナを見て祖父は。


「何やらこの数か月でだいぶ大人びた様だね。」


「はい、その様で御座いますね。学園では礼儀作法の時間もあるそうですので。」


「そうか。」


段々と大人になって行くミリアーナを、少し寂しくも思う祖父であった。



~~~~~~~~~~~~~~~



続いて伯父の工房に着いたミリアーナ、早速声を掛けに入り口に近付く・・と。


「うわっ?!」


「ん?! あらいらっしゃい。ミリアーナちゃん、どうしたの?」


ここでもいきなりである。ちょうど伯父の妻のエレナがドアを開けたところであった。


「は~・・ びっくりした。 こんにちは、エレナおばさま。」


「こんにちは。何だかびっくりさせちゃったみたいね?」


「あ・・はい。大丈夫です。」


「それで、今日はどうしたの?」


「えっと・・、今日は学園が夏季休暇に入ったので、一度ランシュットに帰るのでご挨拶にと。」


「あらっ、そうだったの? じゃ、中へお入りよ?」


「はい、お邪魔します。」



「それで、学園は楽しいかい?」


「ええ、もちろんっ」


「そう、それは良かったわねぇ。   あなたっ、ミリアーナちゃんが来たわよ。」


工房に足を踏み入れると、そこで今日もフリードは何かの魔道具を作っていた。


「おや、こんにちは。 今日はどうしたんだい?」


「学園が夏休みになったから、一度ランシュットに帰ろうと思って、それでその前にご挨拶をしに来たんです。」


「おや、そうだったのかい。 どうだい?半年経って、学園の方は。」


「毎日楽しく勉強してますっ。」


「そうかい、それは良かったね。 もう魔道具とかの勉強は始まっているのかい?」


「はいっ。まだほんの初歩ですけれどね? 本格的なのは、二年生になってからだと思います。」


「まあ、そうだよなぁ。」


「私は早く二年生になって本格的に勉強したいんですけどね?」


「ははは。随分頼もしいね。  ところで、このあとはどうするんだい?」


「明日帰るので、今日はもう帰って、準備をするつもりです。」


「そうかい。向こうには休み中はずっと居るつもりかい?」


「いえ、すぐこっちに戻ってきます。実は休み中はアルバイトしようかと思って。」


「あら。ミリアーナちゃん、アルバイトをするの?」


「はいっ。 いつも食べに行くアルナキロス食堂の女将さんが良い人で、働いてみたくなっちゃって。」


「ああっ。そこね。  美味しいお店よね。 私達もたまに食べに行くのよ?」


「えっ?!そうだったんですか? じゃあ、夏休み中、食べに来て下さいね?」


「ええ、そうするわね。 頑張ってね?ミリアーナちゃん。」


「はいっ  じゃあ、そろそろ帰りますね。」


「そうか。したら、みんなに宜しくと伝えてくれないか。」


「はい。 ではまた来ますねっ」


「気を付けるんだよ?」「またおいで。」


「はいっ」



こうして挨拶を終え、寮に帰り、明日の準備を始めるミリアーナであった。



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