25 ~夏休みっ その1~
季節は夏も終わりに近付いてきたが、まだまだ暑い日が続いている。
今は学園が夏休み・・秋休み?に入る時期である。
この国では学校は、前期、後期の二学期制を採用している。
なので、8月の終わりからと3月の年二回、およそ一か月ずつの長期休暇に入るのである。
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いつもの朝。
イザベラと早朝の一杯をしながら雑談をしている。
「もう前期も終わるんだね。」
「そうですね。 ミリアーナさんは夏季休暇中の予定はどのように?」
「私は一度実家に帰る予定だよ? イザベラさんは?」
「私も帰る予定でいます。」
「イザベラさんはリューステットだったよね? 帰るのにどれくらいかかるの?」
「そうですね、私の町はリュースティなので、大体一週間位でしょうか。」
「ふぇっ?! そんなにかかるのっ?! 大変じゃんっ。」
「ええ、まあ。」
「そっか~、長旅なんだね。 戻ったら何するの?」
「そうですね、入学して最初の帰省ですし、色々報告して、あとは・・特には。」
「だよね。 私もそんなトコかなぁ? こっちにはいつ位に戻ってくる予定なの?」
「そうですね、向こうでは一週間ほど過ごす予定でいるので・・何事もなければ九月半ばには戻っているのではないかと。」
「そっか。 私はどうしよ・・。 私は戻る前に王都の親戚のトコに挨拶して、それから戻って・・私も半ばには戻るようにしようかな。」
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そして朝食を食べに食堂へ。
いつものようにソフィアが居る。
「おはよ~」「おはよう。」
「おはよう、イザベラさんミリアーナさん。」
「ねぇねぇ、ソフィアさん。 そろそろ夏季休暇じゃん? ソフィアさんは帰省するの?」
「そうですねぇ。する予定ですよ?」
「ソフィアさんのご実家はバルテモントでしたね。」
「うん、そうよ。 帰るのに大体五日位かなぁ?」
「ソフィアさんも五日もかかるんだぁ・・」
「うん。グロシュテの町へは、山を越えるからちょっと掛かるんですよね。」
「みんな長旅だぁ・・ 私だけ、なんか楽チンしてる・・」
「ま、まぁ~ そこは気にしても・・ねぇ? ところで、二人も帰省するんですよね? いつ位に戻ってくるんです?」
「わたくしは来月半ばの予定で。」
「私もそれくらいにするつもり・・」
「そっかぁ。 したら私のが遅くなっちゃうかな?」
「どうかしたの?」
「ううん。 ほら、私の家って商家じゃない? 弟もいるし、少し手伝いもしなきゃだし。だからこっちに戻ってくるのは・・学園が始まる少し前位になるかな。」
「そっかぁ。ソフィアさん、色々大変なんだね。」
「ん~、まあ慣れっこだから。今年はこっちに入学したからちょっと大変だけど、家でする事はいつもと変わらないと思うし。」
「そっか~。 やっぱり私が一番楽してる気が・・・」
そうこう話しているうちに時間が経ってしまったようだ。
「そろそろ食べ終えて学校へ行きません?」
「そうですね。」「うん。」
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そして前期の終業となった。
この学園では、終業式というものは特には行わないらしい。
ミリアーナはふと思い出す。
(そういえば、前世では子供の頃は三学期制だったなぁ・・。 外国では二学期制が普通だって聞いた事はあったけどもさ。)
ローエン先生が話し始めた。
「では、今日で今学期最後になります。明日から皆さんはおよそ一か月の休暇に入ります。そして寮や下宿に居る者は帰省する人も多いと思います。馬車での長旅になる人もいるでしょうから、十分に気を付けるように。また、休暇中には羽目を外さぬようにお願いします。」
生徒達からの「は~い」の返事に、先生はもう一言。
「これから宿題を配りますので、しっかり勉強する様に。」
「え~」「マジかよ~」「うわ~・・」「やっぱりあるのか・・」
などと、それぞれではあるが、落胆の声が上がるのであった。
そして、色々と伝達事項を伝えられ、解散となる。
「では、皆さん。来学期、元気に登校してくることを待っていますね。」
生徒達はガヤガヤとし始め、教室を出る者、仲間達と雑談を始める者などに分かれて行く。
そして三人は・・
「ねえねえ、二人はこのあとどうするの?」
「私は少し買い物をしていこうかなって思ってるんですけれど。」
「なら、お付き合いしますが。」
「そうだねっ。 みんなで行こっ。」
そして街へと繰り出す三人。
時間は昼を少し過ぎた辺りである。
「ねぇっ、ちょうどお昼だしさっ、何か食べていかない?」
「何にします?」
「そうですね。 では、そこの食堂で少々。」
「いいねっ、 じゃ、そこに決まり~っ」
「はい、では、早速入りましょうか。」
入っていった店は大衆食堂アルナキロス。外見は少し草臥れた雰囲気だが、羊料理を自慢とする食堂だ。
女の子三人が入るのには少し不釣り合いな外観かも知れないが、ここは良心的な金額でお腹を満たせる学生御用達の店なのである。
この三人も、日曜日には何度もお世話になっている。
店の中に入ると、既に何組かの学生達が食事をしているようだ。
(今日は学生達で混んでるな~)
「こんにちは~っ」「こんにちは。」「こんにちは~」
「あら、三人共。いらっしゃい。」
アルナキロスの女将さんである。
「貴女達、明日から夏休みですって?」
「はい、明日から来月終わりまでです。 今日は他の学生達で忙しそうですね?」
「そうなの。 毎年、この時期になるとお店が忙しくなるのよ。」
「やっぱり学園がお休みの時期は忙しいんですか?」
「まあねぇ。 けど、他にも理由があるのよ。 王都では毎年この時期になると観光客が増えるのよ。それでね、ウチも忙しくなるの。」
「そうなのですね。 では、繫盛して良いのではないのですか?」
「そうなんだけどねぇ、今ちょっと困ってるのよ。 毎年、この時期に合わせて臨時で人を雇うんだけど、今年はまだ居なくてね。 誰か来てくれれば良いんだけれど・・」
「そうなんですか・・ 大変そうですね・・」
(う~ん・・ ん? そうだ・・♪)
「あの~。 突然なんですけれど・・・、私、ここで働いてみたいんですけど・・・ いいですか?」
「あら? 良いの? 夏休み中はお家に帰らなくても大丈夫なの?」
「はいっ。 私は隣のサウザンオーブ領からなんですけど、夏休み中の予定がなくて・・・どうしようか迷ってたんです。」
「そうなの。 したら・・どうしましょうか・・。 貴女は未成年だから・・働いて貰うのには保護者の承諾が必要なのよ。」
「あっ、したら・・ 一度家に帰って、承諾を貰ってきますっ。 働き始めるの・・何日か後になっちゃいますけど、それでも大丈夫ですか?」
「そうねぇ、本当に混み始めるのは来月からだから、それまでに来てくれれば大丈夫よ?」
「ホントですかっ! やったぁ♪」
「ミリアーナさん、なんか突然決めましたねぇ?」
「そうですね、少々びっくりしましたが。 良いのですか?」
「うんっ♪ ちょうど暇だったし、それになんか二人を見てたら私も何か頑張らなくちゃって思っちゃって。 えへへっ」
「じゃあ、そうしたら・・・、あとで少しお話をしましょうか。働いて貰うのにも、色々ありますからね?」
「はいっ。」
「ところで、注文は何にするのかしら?」
「あっ・・ そうですよねっ。 みんな、何にする?」
「では、私は―――――
こうしてミリアーナは、突然ではあったが、食堂でのアルバイトを始める事に決めたのだった。




