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24 ~魔物の授業ぱーと2っ~


 ある程度魔物の授業が進んだある日。

それは夏も真っ盛りの時期・・・

なんとこの暑さの中で、魔物の解剖・・解体?の授業を行うという。


内容はスライムの解剖。そして普通のウサギと一角兎の両方を解剖して、違いを見るのだとか。

もう一度言う。この暑さの中で、である・・・



~~~~~~~~~~~~~~~



寝苦しい夜を越え、陽が高くなるにつれ夏の気怠い暑さを含んでくる風が窓から入ってくる。

イザベラはカーテン越しの光で、いつもの様に読書をしている。


「おはよぉ~。 最近暑いよね~・・」


「おはよう、ミリアーナさん。  ええ、夏ですから。」


前世の気候よりは幾分マシなこの国の夏だが、やはり暑いものは暑い。

残念ながら、伯父が作ったような冷風が出る魔道具など、この部屋にはないのだ。


「うぅ・・暑いっ。   あ~つ~い~っ」


「騒がしいですよ? 余計に暑くなります。」


「イザベラさんだって暑いんじゃん・・」


「・・・・。  朝食に行きますわよっ。」



暑さにイライラしている二人である。

ミリアーナが着替え終わると、食堂に向かう二人。


「おはよ~ ん? お二人ともどうしたんです?」


「ソフィアさん、おはよぉ・・」


「おはよう、ソフィアさん。 ミリアーナさんが暑さにやられて朝から煩いんです。」


「あぁ、それで。   ミリアーナさん、今日は大好きな魔物の授業があるじゃないですか。それで元気が出ませんか?」


「あ・・」


「え? あっ・・・」


「今日は・・  確か解剖の授業では?」


「そうでした・・・」


「そうっ! 今日はっ・・・嬉しいけど嬉しくない気がするのよぉ・・・」


「ですよね~・・」


「この暑さで魔物の・・  うっ・・」


「や、やめましょうっ、この話っ・・」



何やら不穏な空気になってきたところへ、マリアーヌさんが来てくれた。


「おはよう、三人とも。  なんだい?みんな。何だか顔色が悪くして。 はいっ、元気出しなさいな。 今朝は料理長さんが気を利かせてくれて、冷たいスープにしてくれましたよ?それ食べて元気に登校しなさい。」


「はい。」「ありがとうございます。」「は~い・・」



~~~~~~~~~~~~~~~



今日の魔物の授業は午前中である。

午後でなくて良かったと思うミリアーナ。


午後だったなら・・・うん?オホン。言うまでもないだろう・・



エレブナ先生が教室へやってくる。


「はいっ。今日の授業は魔物の解剖です。 魔物の中に、どのように魔石が入っているのか、実際に解剖して確認していきたいと思います。」


生徒達は皆、微妙な顔で聞いている。


「では、この教室では解剖は出来ないので、場所を魔物の解体場に移したいと思います。

  それでは、各自必要な物を持って移動をするように。」


教室が少し騒がしくなる。

生徒達の中には既に想像をしてグッタリとしている者もいるようだ。



そして教室を解体場に移し、先生が説明を始めた。


「では、今日はスライムと一角兎、そして比較用に普通のウサギを解剖していきます。」


「全員がすべての物を解剖出来るほどの数を用意してはいないので、それぞれの生徒で、スライム、一角兎、普通のウサギ、のどれか一匹を解剖して頂きます。」


「ちなみにっ 今朝早くにハンターさんに頼んで狩ってきてもらった物を使用しますが、今回はウサギと一角兎については、既に死んでいるものを用意しました。 スライムについては死んでしまうとすぐに痛み始めるので、弱らせてあるものですがまだ生きている物を使用します。」


皆、ざわつく。


「えっ・・マジかよっ」

「俺、まだスライムの方がイイ・・か?」

「私・・どうしよう・・どれも嫌かも・・」


誰もが戦々恐々である。


「はいっ!嫌がらずに注目っ。では、スライムと一角兎を20匹ずつ、普通のウサギを10匹、ここに用意してきたので、誰がどれを解剖するのか振り分けたいと思います。」


「嫌だよ~」

「逃げていい?」


泣き言を言いだす生徒も。


(う~ん・・どうしよう? スライム?一角兎? どっちにしよう・・)

「ねぇねぇ、三人でどれやるか決めようよ?」


「ぅっ・・・。では私は・・」

「はいっ 私は普通のウサギにしますっ。」


「では・・私は一角兎で。」


「はやっ?!  仕方ないなぁ・・じゃあ私はスライムで・・」


イザベラが言い掛けたところをソフィアが一番に決めたようだ。

続いて仕方なく決めたイザベラ。

そしてミリアーナはスライムになった。


ソフィア達は、ウサギなら・・食用として流通しているので、なんとかいけると考えたようだ。

スライム。簡単なように見えて、実は・・・結構大変なのである。


ミリアーナ達が取りに行ったのを見て生徒はみな覚悟を決めたのか、順番に取りに並んでいった・・が、それでも何人かは嫌がっている様子。

その何人かは、最後には無理やり割り当てられてしまった。


「うぅ・・嫌だよぉ~」

「仕方ない・・」

「あっ、お前それなのっ?!」

「おうっ!これに決めたぜっ」


生徒それぞれの反応である。


「皆さん、行き渡りましたね? では解剖に入りたいと思いますが、まずその前に気を付けてもらいたい事があります。 今回使用した魔物や動物は、あとで素材や食用にする予定があります。ですので、丁寧に解剖するようにお願いします。」


解剖後は回収され、業者による解体処理がなされるそうだ。

命は粗末にしない。この世界でも当たり前の事なのだ。


「それでは、始めたいと思います。 各自、解剖する物に見合った手引き図が手元にあると思います。その手引きに沿って解剖を進めて下さい。」


ここまで何事もなく進んでいるように見えるが・・実は、この部屋、結構獣臭くなってきている。

今朝狩猟したばかりの物とは言え、元々臭うのである。

ちなみに・・生きているスライムはあまり臭わない。しかし・・解剖すると分かる事が。



ソフィアの前にはウサギが、そしてイザベラの前には一角兎がそれぞれあるのだが、どちらも見事な腕前のハンターが狩ったのだろう。傷はほぼ無く、綺麗に血抜きの処理が為されている。



(ス~ライムっ プ~ニプニっ♪ さっ、始めてみようっ♪)


そしてミリアーナの前には今、スライムがあるのだが、一見すると動かないが生きているものだ。

水が主成分だからか、死ぬとすぐに腐り始めたり溶け出してしまったりと不都合なのだ。

なので、動かないようにする為にスライムには麻痺薬を施してあるとの事だ。


生徒達の手元には魔物の解体によく使われるナイフとハサミ、そして大きめのトレーが用意されている。

そして皆、それぞれに用意されたトレーに魔物などを乗せ、ハサミを持ち、皮を切り開き始めた。

今回は解体ではないので、皮をはいで肉や素材に加工する訳ではない。なのであくまでも、魔石がある部分の胴体部分を腹部から解剖するだけである。


ソフィアもイザベラも、他の生徒と同じように、トレーに乗せたウサギの解剖を始める。

既に死んでおり、血抜き処理も済んでいる物なので、それほど血塗れになる事はない。

そして腹部の皮を切り開くと、独特の臭いが・・・


獣の臓物は臭うのである・・・


「うっ・・・」


「いやぁ~・・・」


もちろん、声をあげてしまうのはイザベラやソフィアだけではない。

生徒のほとんどは、一様に悲鳴や嫌悪の言葉が出てしまう。

ただ、数人の生徒だが、恐らく実家が精肉業や魔物解体業か何かなのだろう。平然と作業をしている者もいる。

そして中には強者もいるようだ。死んでいる一角兎の瞼をわざわざ開いてみて、目の色を見てみる者もいる。


「おっ俺のは風の属性持ちじゃん。」

「こっちのは火のだぜっ」


一角兎の場合、目の色と魔石の色が同じような色をしているから分かるのだが、今回の解剖では目の色は関係ないので、殆どの生徒は気持ち悪いのでわざわざ目の色は確認しようとはしていない。

どの道解剖して魔石が出てくれば、魔石の色で分かるからだ。



一方、ミリアーナは。


(ん~? スライムの解剖なんて初めてなのよね・・ 前世じゃさ、ゲームでは魔物は殺すと消えて魔石だけドロップして・・なんてのもあったけど。)


とりあえず、ハサミでスライムの表皮に切れ目を入れてみる。


「うわっ?!  わわわっ?!」


スライムは生きているのだ・・・

一瞬忘れていたので、少しだがモゾっと動いたスライムに驚いてしまう。


「うえぇ~・・」


(これ・・・やるの・・?)


「・・・ふぅ。 よしっ!」


気合を入れ直し、切れ目を入れる。

すると、表皮が弾ける様にむけ、中からゼリー状の物が露出する。


(おぉ、意外ッ! 形がそれほど崩れないんだ・・・)


生きていたものなので、ゼリー状の内容物が形を保っているのだ。

これが死んでいる物だと、切ったとたんに形を保てずに液状になり、中身が流れ出してしまうのだとか。


しかしここからが。

中身が出てきた途端に、何とも言えない臭いが・・・


「うぇっぷ?!」

(えっ?!クサっ?!)


真夏の炎天下の中で草刈りをした時のような、それをもっとヤバくしたような臭いがしてきたのである。


(うえぇ~~っ・・  何よ・・このドクダミとパクチーと栗の花を混ぜたような妙な臭いは・・)


ミリアーナは引き気味である。


(いやいやいや・・  こんなだったの?   ヤバい・・この部屋もっと換気してくれないかな・・・)


一応、解体場の窓は空いており、そこから真夏の生暖かい風は入ってきてはいるのだが・・


(あ~っ、もぅっ! やるしかないっ!)


もう始めてしまっているのだ。先に進むしかないので、もう一度気合を入れ直すミリアーナ。


スライムのゼリー状の中身にナイフを入れて行く。

一応半透明なので、なんとなく核が見えているのだ。

その核の近くまでナイフを進ませる。


(よし。ここまでは順調・・と。)


そして次にゼリー状の物をナイフで片側半分だけそぎ取って行く。

ゼリーの中には核以外の器官が入っているのだろうが、今回はそれはスルーである。

ただし、これも取っておくようにとの事だ。


そして、核が出てきた。。


(おぉ~ ついに出てきた・・・)


何か宝物を見るような気分で見ているミリアーナ。


(これをスケッチしなさい、か・・・)


指示された通り、スケッチをしてみる。


(お~ 我ながら綺麗に描けたかな?)


(したら・・・、次に核にハサミを入れ、中にある魔石が見える様にする、と。)


核から青い魔石が出てきたようだ。

ごく普通にいる、水の属性の物である。


(お~!やった~。ついに魔石っ♪)



そしてイザベラとソフィアは・・・


「うぇ~・・・ もう臭うんですけど・・・」


「・・・・。 進めますわよ。」


ハサミで腹部の毛皮を切り終えたので、更にハサミで腹膜を切って開いて行く。

今回は胸部も開くので、ハサミで丁寧に肋骨の真ん中を切り、胸郭を開いて行く。

すると、内臓があらわになる。

今回はこの、まだ内臓が収まった状態のスケッチと、腸などを外に引き出した状態、一角兎では胸部に納まっている魔石が見える様にして、スケッチを描くという作業だ。


「切り終わった・・・ うぅ・・」


「次はスケッチですね。」


ウサギの方がスライムよりは臭いが我慢出来るようだ・・・



解剖作業は気持ち的には中々にハードである・・・

ただ、比較は出来るし、実際に魔石がどの位置にあるのかを見るのには良い教材ではあるのだが。



生徒全員が指示されたスケッチを描き終えるのを待って、エレブナ先生の説明が始まった。


「え~、みんな、スケッチまで終えたようですね。  では皆さん、自分がおこなった物以外の解剖された物を見学してみて下さいね。それぞれ魔石がどの位置に入っているのか、そして石の色についてもよく観察するように。」


生徒は皆、他の生徒が解剖した物を見て回っている。

すると、再びエレブナ先生が説明を始めた。


「皆さんが観察した通り、スライムでは核の中に魔石が包まれるように入っている事、そして、一角兎では、魔石が胸郭の下部、心臓と肝臓の間の辺りに位置している事が分かります。」


「そして、魔石の色が違う物がいる事も判ると思います。魔石の色によって属性が違うのですが、赤いものは火の属性、青いものは水の属性、緑の物は風の属性になっています。」


「このように、魔石は魔物にとって大切な器官、臓器の一部になっているという事、更に魔石の色で持っている属性が違うという事も分かりましたね。」


「では、今日の解剖はこれでお終いとなります。 皆さん、お疲れ様でした。 それでは、使用した道具をここの籠に入れ、解剖した魔物はそのままトレーに入れておいて下さい。このあとすぐに業者の方に後処理をお願いしてありますので、皆さんはこのまま教室の方へ移動して下さい。」


生徒達はそれぞれ、やっと終わった・・・と安堵の顔を見せる者、気分が悪いのを我慢している者と様々だが、皆ガヤガヤとしながら教室の方へ移動してゆく。


「やっと終わりましたね・・」


「ええ。もうしばらくウサギは遠慮したいですね。」


「うえぇ・・スライムがあんなだったなんて・・・」


そしていつもの三人はそれぞれの思いを吐露しつつ教室へと向かっていったのだった。



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