23 ~剣の授業っ~
今朝は少しテンションが高いミリアーナ。
今日から「剣術」の授業が始まるからだ。
父から剣術を習っていたミリアーナは、剣術の鍛錬をそろそろ再開したいと思っていたのだ。
ちなみに・・イザベラは、体術はもちろん、剣術も得意な方らしい。
それはそうだろう・・
入学式でソフィアを助けた「あの事件」を目撃した者ならば、それなりに鍛えてきたのであろうと分かるものだ。
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「ソフィアさん、おっはよ~っ♪」
「おはよう、ミリアーナさんイザベラさん。 あれ?今日は魔道具の授業はないですよね?」
「おはよう、ソフィアさん。 いえ、今日は剣術の授業がありますよね。彼女はそれを期待しているようですよ。」
「あれ?ミリアーナさんって剣術、得意なんですか? そういうのはまるっきり興味ないのかと思っていたのですけど・・」
「ええ、私もそのように思っていたのですが。」
「イザベラさんは剣術、得意そうですよね?」
「いえ、それほどでは。」
「またまた~。 入学式で私を助けてくれた時のあの感じは、とてもそうは思えないんですけど?」
「気のせいですわ。 父から少し、教わっていた程度です。」
「本当ですかぁ~?・・まあ、そういう事にしておきますね?
ところで・・、ミリアーナさんはどうして剣術の授業をそれほどに期待してるんです?」
「うんっ、あのねっ。久しぶりに剣を振るえるって思ったら、ちょっと楽しみになっちゃって。」
「あれ?ミリアーナさんって、剣術に優れた家系なんですか?」
「あっ、そういう訳ではないんだけどね~。 その、子供の頃から・・ね? 楽しそうに見えちゃってさ? お父様やお兄様に教えて貰ってたっていうか・・ あはっ、あはは~ 」
「ああ、なるほど・・」
「ミリアーナさん、さては相当なお転婆さんだったとかですかぁ?」
「うっ、あっ?!いやっ?! その・・・ あはは~・・」
「ふ~ん? まあ、なんとなく?分かってはいましたけどね~?」
「そうですね。」
「えっ?! な、なんでっ?! やっぱり私って、そんな風・・?」
「それは~・・ねぇ?」
「そうですね。普段の言動からすれば、そのように思われてしまうかと。」
「・・・(ガ~ン)・・・ そ、そんなぁ・・」
「ま、まぁ~。 そこまで気落ちしなくても・・・」
「そこはミリアーナさんの個性、という事で。」
「うっ・・」
「あはは・・ あっ、そろそろ食べちゃって学校に行きませんか?」
「そうしましょう。」
「うぅ・・ いいもん・・」
こうして朝食を食べ終え、学園へ向かうミリアーナ達だった。
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「では、今日の授業からは、剣術を取り入れていきたいと思います。」
(前世にはなかった授業だ~ あ、剣道はあったかな?)
運動の授業の中には剣術についての講義もあるのだ。もちろん専門的に行うほどではなく、あくまでも運動の一環として、基本的な動きなどを行うくらいである。
しかし、剣術や体術などをある程度習うと、その授業の一環として「魔物狩り」の授業も行われるという。
今日の授業には二人の先生が来ていた。どうやら剣術については体育のアレックス先生ではなく、剣術担当の先生が見てくれるようだ。
「私は剣術担当のラインハルト・マイヤーだ。宜しく。
今までに剣の練習をしてきた者も居るだろうが、皆にはまず、初歩としての基本の型、つまり剣の握り方や構え方、そして振り方を学んでもらう。」
生徒は皆、マイヤー先生に注目し真剣に聞いているようだ。
「ここに訓練用の木剣を用意してある。 では、皆の背丈に合わせていくつかの長さのものを用意してあるので取りに来てほしい。」
「「「「はいっ」」」」
サポートで入っているアレックス先生が生徒の背丈に合わせ、木剣を手渡してゆく。
(あれ?この剣、数字が書いてある。長さも何種類かあるのね・・)
「木剣には数字が記されているだろう。それが剣の長さの目安になっている。皆、手渡された剣のサイズを確認してほしい。そして次回からはそのサイズの剣を各自で持ち出すように。」
「「「「はいっ」」」」
こうして全員に木剣が行き渡ると練習が始まった。
「剣術と言うのは、盾を持つ場合と持たない場合それぞれに基本の型と言うのがあるのだが、それぞれに、剣の握り、腕の位置、腰の高さ、そして足の位置、それら全てが一体となって構えとなり、その構えの状態から剣を振り出すようにするのが基本の型と言うものになる。
今回は盾を持たない、両手で握る場合の基本の型の説明をしたいと思うのだが、皆の中に騎士の家系の者は居るだろうか? ・・・、居ないようなので、そのまま説明をしようと思う。」
(私の家は違うね。 みんな文官だし。)
騎士で名を揚げるなどした家系の場合、その家独自の剣術を持つ場合があるのでこのように訊いたようだ。
「まずは剣を握ってみようと思う。 右利きの基本の持ち方は右手をこのようにして握り、左手はこのように添えるようにして握る。これが基本の握り方だ。 では皆、握ってみて欲しい。」
「では次に、剣の構え方の説明をしていきたいと思う。剣の構えはこのようにするのだが、まず、腕の位置が大事になる。基本は脇を締め、こうして構えるようにする。次に足の位置だが、右足はこの様に置き、左足はこの様に置く。そして、腰の位置はやや膝を曲げ、心持ち下げるようにする。これが基本になる。
気を付ける事は、構える時、この様に左右の足が揃う様な状態で構えないようにすること。」
マイヤー先生は自分の握り方と構え方を見せながら説明し、そして生徒各人の握り方を見て回って行った。
「うむ、皆大丈夫そうだな。ではこれで基本の構えは出来たと思う。では次に、基本の振り方の説明をする。剣を振る時は、足の置き方にも気を付けるように。」
こうして、剣の基本の型を説明してゆき、実際に剣を振ってみる練習に進んでいった。
(やった~♪ 久しぶり~)
エイッ ヤッ! エイっ!
シュッ ブンッ シュッ ブンッ
生徒各自が剣の素振りをしているところへ先生たちは見回って指導している。
「よし、そうだ。」
「ここはもう少し脇を締める」
「もう少し膝を曲げて腰を落として」
こうして剣の指導が進み、今日の授業が終わる。
「よし、今日はここまでにする。 明日の授業では二人一組になって剣の当てと受けの練習、そして慣れてきたら打ち合いの練習に入ってみようと思う。」
「「「「はいっ、 ありがとうございましたっ」」」」
(あ~、久しぶりで楽しかったぁ~。 そういえば剣の型がちょっとお父様とは違うところもあったな・・)
と、今まで自分がしてきた剣の型とは違うと思ったミリアーナだった。
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翌日。
既に生徒は練習場に集まり、皆、自分に合った剣を用意して並んで待っている。
「よし。 では今日はまず、軽く昨日の基本の型をやって、そして当てと受けの練習に入りたいと思う。」
「「「「「はいっ、おねがいしますっ」」」」」
(よ~しっ、今日も頑張るぞ~)
生徒達は皆、軽く剣を振り続け、体が温まってきたようだ。
「では、当てと受けの練習に入ろうと思う。 皆、まずは二人一組に分かれてみて欲しい。」
生徒はそれぞれに分かれてゆく。今回は皆スムーズにペアが出来たようだ。
ちなみに、ミリアーナはイザベラと組んでいる。
「よし。 では、剣の打ち込みと受ける練習に入る。私が剣を当てる方の打ち込み手、アレックス先生が受け手に分かれるからよく見るように。」
ヒュッ! シュッ! フォンッ!
カンッ カンッ! カッ!
ザッ ズサッ ・・
「打ち手はこのような感じで打ち込んでみてもらいたい。そして、受け手の方はこの様な感じで剣も持って受ける様に。 何度か打ち込んだら、交代する事。 では、始めっ」
「イザベラさん、宜しくね?」
「はい、こちらこそ。」
カン カンッコン カンカンッコン
ブンッブン シュッ ブンッ・・・
カンコン カツッコン カンコツッ・・・
ザッザザッ ズサッ ズササッ・・・
生徒は皆、真剣に剣を振り、お互い交代しながら打ち込んでいる。
「では、ある程度打ち込めてきたので、次は打ち合う練習をしてみよう。 まず、我々で手本を見せる。」
マイヤー先生とアレックス先生が向かい合って剣を構え、お互い交互に打ち込んで見せる。
「このように打ち合う練習をするわけだが、打ち込む時は、今、手本で見せたように必ず相手の剣に向かって振り込む事。決して相手の身体には打ち込まないように。頭は特に気を付ける事。木剣とはいえ、大怪我をする事があるからだ。皆、良いな?」
「「「「はいっ」」」」
戦闘訓練ではないので、これで良いのだ。
「では、打ち込み開始っ」
お互い間合いを開け、イザベラと向き合い、剣を構えるミリアーナ。
「イザベラさんっ、私から行くねっ!」
「ええ、どこからでも!」
二人は随分と気合が入っているようだ。
「はぁ~っ!」
タタタタッ・・
「やぁっ!」
ブンッ
カッ!
シュッ
カコッ
イザベラが受けてゆく。
「では、そろそろ私からも行きますっ」
「どうぞっ、どこからでもっ!」
「やっ!はっ!」
ザッ!
カンッ!
シュッ!
カコッ!
(おぉ~ イザベラさんなかなかやるじゃんっ。 けど、やっぱりお父様ほどじゃないかなっ。)
久しぶりの剣の打ち合い練習なのだが、父とは違い、打ち込みは軽いなと感じてしまったミリアーナ。
「やぁっ!」
シュッ
カッ!
ブンッ
カコッ!
「はあ~っ!」
ブオンッ!
カツッ!
シュンッ!
カツッ!!
かなりの気合でお互いに打ち合っている。
ハッハッ・・・
ハァハァハッ・・・
「さすが、イザベラさんねっ。」
「いえ、そちらこそっ」
(でもっ・・)
「さっ!もう一度っ!」
「ええっ!」
「は~あっ!」
タタッ ザッ!
ブンッ!
カツッ!
「ぇいゃぁっ!!」
シュンッ!
カコッ!!
フォンッ!
カツンッ!
ミリアーナが連撃で剣を振る。
イザベラは見事にすべてを受け切り、返しの剣で攻めに回る。
「はっ!」
シュンッ!
カッ!
「やぁっ!!」
ブンッ!
カツッ!!
シュオンッ!!
カコ~ンッ!
「あっ!」
イザベラが連撃を打ち込み、剣を弾き返すと、下から振り返した剣がミリアーナの剣を弾き飛ばした。
カンッ カラカラン・・・
「参りましたっ」
「いえ、わたくしこそ。」
打ち込みが軽いからと甘く見る形になってしまったミリアーナは、技に優れていたイザベラに剣を弾き飛ばされ、負けてしまった。
そして、周りがザワザワとしている事に気付く二人。
いつの間にか生徒達の注目を浴びていたようだ。
先生方にも注目されていたようで・・
「君らは、以前に剣の鍛錬をしてきたことがあるのかい?」
「あ、いえ・・ わたくしは、特には。」
「私も、その・・鍛錬というほどではなくて・・・」
「そうなのかい? その割には、ずいぶんと打ち込みが激しいように見えたが?」
「はい・・」
「ですよね~・・・あはは~・・」
「まあ、いいだろう。 よしっ。 みんな、今日はここまでとしよう。 各自、剣の手入れをして、片付けるように。」
「「「「はいっ」」」」
そして片付けが終わり、解散となる。
「「「「「ありがとうございましたっ」」」」」
生徒たちがガヤガヤとし始め、そしてソフィアが二人のところへ。
「さっきの二人の打ち合い、凄かったよっ!?」
「あはは・・・」「それほどのものでは。」
「いやいや~、 さては二人とも、剣の練習、結構してたんですね~?」
「いえ、父に稽古をつけて貰っていただけですが。」
「ははは・・私も、お父様に・・少しだけ・・ね?」
「え~本当ですかぁ~?」
この二人の打ち合いは、しばらく話題になり続ける事となったのだった・・
いやぁ・・・西洋剣の振り方って難しいんですね・・・
それを文章に表現するのは尚更に難しくて。




