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22 ~魔物の授業っ~


 学園に入学して数か月。

馬車に撥ねられた事故以来、ミリアーナは「美奈」だった頃の記憶をはっきりと思い出す事が出来ていた。

しかし、その事は誰にも言わずに心の奥にしまって置こうと決めたのだった。

理由は・・ミリアーナとして生を受けて生きている今、「美奈」として生きる事など不可能であるし、ミリアーナとして生きている実感の方が大切だと思うからだ。

それと、「美奈」の記憶の世界と、今生きている世界があまりにもかけ離れて違うのもある。

あとは、言ったところで誰も理解出来ないであろうし、言ってしまったら悪い事が起きてしまうのではないかと不安にも思ってしまったからだ。



そして季節はもうすぐ夏本番というある日。

「魔物」についての授業が始まることになった。

もちろん、学科としてである。


聞いた話では、その内に本物の魔物を用いた「魔物の解剖」の授業も行うのだとか・・・


~~~~~~~~~~~~~~~


いつもの三人の朝が始まっている。



「今日から魔物についての授業が始まるっていってましたよね?」


「そうなのよね・・。 私は魔物があまり好きではないのですが。」


「そうなの? 私は興味アリアリよっ? だって魔物って、中に魔石が入ってるんだよ?不思議な生き物じゃん?」


「私は、可愛いければまだ良いんですけれど・・ 魔物って、あまり可愛くないじゃないですか。」


「え~、でも、スライムは可愛いじゃん?」


「スライムは見た目は良いのですが・・ 触れないですね。」


「あ、それわかります。 なんかあの、ブニブニムニョムニョなのが気持ち悪いっていうか・・・」


「そうなの? あれが面白くて可愛いのに。」


「「・・・・・。」」


「えっ?・・・ ダメ??」


「はい。」「そうですね。」



~~~~~~~~~~~~~~~



そして授業が始まる。


(どんな先生が教えてくれるんだろ?  あ、来たっぽい?)


コツコツコツコツコツ・・・


廊下から聞こえてくる足音から察するに、どうやら・・


ガチャッ


コツコツコツ・・


(あ・・・)


トン パサッ


「はい、皆さん。 お早う御座います。 本日より生物魔物学の授業を始めたいと思います。」


ヒソヒソ・・ザワザワ・・

教室が少し騒がしくなる。


「はいっ。静かにっ。 私がこの授業を担当する、エレブナ・クーリオスと言います。」


白衣を着た、黒髪メガネの女性が教壇に立っている。


ヒソヒソ・・

「おい・・、まさか女の先生とは思わなかったぜ?」

「だよな? なんかキツそうな感じするよな?」

クラスの男子数人が小声で話している。


(そっか~ 女の先生なんだね。 魔物なんて結構アレな世界の物だから、男の先生が担当なんだと思ってた。)


「では、授業を始めたいと思いますが、まず初めに、一般的な生き物についてから説明をし、それから魔物について説明をしていきたいと思います。」


この、生物魔物学の授業と言うのは、一般生物と魔物生物の両方を扱う総合学科である。

より深く一般的な生物や魔物生物について個々に学ぶのは、二年次に入ってからの専門科目である。


「それでは、一般的な生き物とは何か。 それは、皆さんと同じような生き物、そう、人間も生き物ですからね? で、その一般的な生き物というのを簡単に言うと、生殖行動をし、繁殖する生き物の事を言います。」


「一般生物、ここでは略して生物と言いますが、皆さんの周りには小さな物や大きな物、沢山居ますね?その全ての生き物には雌雄があります。いわゆる、オスメスの事ですね。その雌雄、性別の事になる訳ですが、その違いは何かと言うと、通常は生殖器の違いにより説明されます。そして―――――


と、一般的な生物が世界中にいるという事を説明される。


(ふぅん。この世界も普通なのね、その辺りは。)


そして、授業は魔物についての説明に入っていった。


「では、魔物はどうなのか。 一般的な生物は生殖による繁殖をする、と言うのが普通だと説明しましたが、魔物の場合は、生殖行動をするものも一部には居るのですが、通常は突然湧き出すものが多いとされています。」


(魔物っ魔物っ♪)

ミリアーナはだんだん目を輝かせる。


(けど・・、そうなのよね。改めて思うけど、この世界には魔物が本当にいるのよ。 前世ではただゲームとかアニメのネタだったのに。)


「例えば、皆さんが野原でよく見かける魔物としてスライムが挙げられますが、このスライム等はその良い例だと言えます。」

「スライムには良く発生するタイミングがあるのですが、それは雨の後、と言われています。」

「では、なぜ雨の後なのか。 そもそもスライムと言うのは、どのように身体が出来上がっているのかを説明しないと解り辛いので、そこから少し説明をします。」


「え~、スライムを見たり触ったりした事がある人は分かるかも知れませんが、ではここに、簡単にですがスライムの構造についてを絵で描いて説明していきます。」


エレブナ先生は黒板に向かい、絵を描いてゆく。


「このように、スライムの構造を絵で描くと、外側は水分の多い粘々とした流動性のある不定形な固体の様な物、これをゲル状物質と呼ぶのですが、そのようなものに覆われており、その中に核と呼ばれる物があり、更にその中に魔石が入っている、という構造になっています。」


(・・・、あまり上手くは・・ないんじゃ・・)


既に専門用語的な言葉が出てきているせいか、周りには眠そうな生徒もチラホラ。


「ゲル状部分には、核以外にも取り込んだ物を消化する為に必要な器官が入っていたり、外からの刺激、つまり光や音や温度などの事ですが、その刺激を受け取る為の器官もあるのですが、ここではその詳しい説明は省きます。」


(そうなのよ、前世だとスライムには目とか口が描かれてたりしてさ。でもこの世界の本物にはないよねぇ~)


「このように、スライムは主に水分で出来上がっている為、自然発生する為には水分が欠かせず、なので、雨の後に発生すると言われているのです。」


「そして、スライムが発生するのに必要な物でもう一つ欠かせないのが、魔石の元になる物があります。」


(そうそうっ、魔石よ、魔石っ♪)


「その魔石の元ですが、そこらに適当にあるのか、と言うとそうでもなく、私達が生活している場所、特に街中には殆どなく、人の手の入っていない場所、草原や森などがそうですが、そのような場所に多くあると言われます。」

「では、その魔石の元と言うのは何なのか、と言う話になるのですが、魔石の元となる物は、自然界に満ちている〈マナ〉と呼ばれる魔力の素が何らかの切っ掛けで集まって小さな魔石となり、その小さな魔石が魔物の発生し易い場所にあると、そこで小さな魔物の核が出来、さらにその核が元になって魔物へと変化し、発生すると言われています。」

「なので、満ちている〈マナ〉の量と魔物の発生条件とが都合良く合わさってしまうと、魔物が大量発生してしまう一因になる訳です。」


(う~ん・・ここまでは知ってるのよね・・ お父様に教えて貰ってたし。)


しかし教室内を見ると、まだまだ子供の生徒達には専門用語が過ぎたのか・・・

既に付いて行けずに眠ってしまった生徒が。

しかし、こういう事はエレブナ先生にとっては日常的な事なのか、意に介さないようだ。



「このようにスライムの場合は、〈マナ〉と〈水〉の二つの自然条件が揃う事で発生する、という事になります。」


こうして小難しい話をしていると、ちょうど授業終了の鐘が鳴った。


「では、スライム以外はどうなのか。その例についてはまた次の授業に説明したいと思います。」


そしてエレブナ先生は手持ちの資料を纏めると、教壇から降りて教室を出て行った。



教室内がざわつき出し、眠そうにしていた生徒が愚痴をこぼす。


「はぁ・・俺、こういうの苦手だわ・・」

「むっつかしいよな・・説明。」


(う~ん、ちょっとまだ初歩過ぎ・・?もっと詳しいのやらないかなぁ・・)


と、まあ、一部生徒には不評の講義となった魔物学なのであったが・・・

しかしミリアーナには全く物足りないようだ。



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