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21 ~そう、私はっ・・~


 今日は日曜日。ミリアーナの誕生日を祝おうとしていた日である。

昨日、馬車に撥ねられてしまったのだが、大事に至る事はなく、とりあえずは平穏を取り戻している。


早朝に目が覚めたのだが、ベッドに横になったままボーっと考え事をしているミリアーナ。


(私・・・。  私は・・ミリアーナで美奈・・ うん、これは確かだよ・・)


ミリアーナは今、自分の知らない、否、知っていた過去をしっかりと思い出してた。

自分の過去の記憶に、今まで気付かなかった、もとい、思い出せなかった記憶があった事を。


(私・・、ここに居る私はミリアーナ。でも、記憶の中には美奈とミリアーナの両方が居る。)


(私はあの時・・そう、美奈だった時の最後の記憶は・・そうだ・・あの時私・・仕事帰りで車を運転してて、対向からダンプが向かってきて・・・!!・・・ うっ!・・)


あの時のぶつかる瞬間をを思い出した瞬間、寒気がし、気分が悪くなってしまったミリアーナ。

すこし取り乱しそうになるが、深呼吸をして落ち着こうとする。


・・・ふぅ・・・

(そう・・ あの時事故になってクロちゃんが・・・それで・・)


(気付いたら、身体が動かなくって・・ 息苦しかったんだ・・・ もう、痛いってものじゃなかったんだ・・・)


(それで・・・、そのあとの記憶が途切れ途切れ・・・ でも、救急車で運ばれて・・それで、そのあと・・・)


(そう、やっぱり体が動かなくって、声も出せなくって・・  うっ・・)


再び、気分が悪くなるミリアーナ。一息吐くとまた思い出し始める。


(それで・・ うっすらと明るくて・・ 耳鳴りがするような感じがして・・ ぅっ・・・)


かなり思い出すのが辛いようだが、それでも思い出し続けるミリアーナ。


(で・・ そう、色んな事思い出して・・・)


(先輩の事、沢山思い出していたんだ・・・)


(それで・・気付いたんだ・・これは走馬灯だ・・って。)


(最後に・・ なんだかビープ音が煩く聞こえてきて・・それで・・・なんとなくみんなが、そうだ、家族と先輩が見に来てくれてるような気がして・・・そのあとは・・・音が消えて・・真っ暗になって・・・)


(そしたら、今度は・・・ 明るくなってきたんだ・・・ したら・・ 

 なんか息苦しいけど、ちゃんと息が出来て・・気付いたらお母様の・・・今のお母様の顔が見えたんだ・・)



(・・・・やっぱり、私にはこの世界のではない記憶がある。今見ている世界とは全く違う世界の記憶が・・ そう、私には間違いなく違う人生を生きた記憶がある。美奈として生きた記憶があるんだ。)



(そうだ・・先輩・・・・。 お父さんやお母さん達はどうしただろう・・・今も悲しんでいるままかな・・・)


(ううん・・。  考えてもしようがないんだ・・・ 今の私はミリアーナなんだ。)



美奈が死んでから既に11年の歳月が経っているのだ。考えてもしようがない事だと思うしかないミリアーナなのだった。



(ん・・・ 起きよう・・)


しばらく考えるのを止めようと、ベッドから起き上がるミリアーナ。

隣ではいつも通り、イザベラが窓辺のテーブルで本を読んでいる。


「あ。 起きたの?ミリアーナさん。」


「うん。・・昨日は色々心配かけてごめんね。」


「ううん。・・。ミリアーナさんが無事で良かった。」


「うん。 ありがとうね?イザベラさん。」


「いいえ? こちらこそ。   ねぇ、ミリアーナさん。 お茶、しない?」


「うんっ ありがとう。」


イザベラからお茶の誘いを受け、応えるミリアーナ。

テーブルには既にミリアーナのカップが用意されていた。


しばし二人でお茶にする。

穏やかな時間が過ぎてゆく。


するとドアをノックする音が聞こえる。


トン トン


「はぁい」


「ごめんね・・?入るね~・・」


「あっ、ソフィアさん」


「あ、もう起きて大丈夫なの?・・・って、二人でお茶してるぅ~」


「ふふっ ソフィアさんも、どう?」


「いいのっ?」


「ええ、もちろん。」


「じゃっ、いただきま~す」


イザベラはしっかりソフィアの分のカップも用意してあった。


「昨日はごめんね?心配かけて。」


「ううん、それより、本当にもう大丈夫なの?」


「うんっ この通りっ♪」


「あははっ、ミリアーナさんらしいねっ」


「えへへ~」


こうして三人の時間が流れて行く。

ミリアーナに「美奈」の記憶が過ぎるが、頭の片隅に置いておくだけにするのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~


「さっ、そろそろ朝ご飯食べに行こっ?」


「そうね。行きましょうか。」


「うん、行こう行こうっ」


今日はいつもと少し違う。食堂で落ち合うのではなく、三人で向かうのだ。

なんとなく、いつもより楽しい感じがするミリアーナ。


そして食べ終わり、今日はどうしようか?と相談になる。


「このあと・・どうしようか?」


「そうですねぇ・・やっぱり私はお祝いしてあげたいな。 昨日は買い物もしちゃいましたしね?」


「そうですね。やはりお祝いをするべきでは?」


「うん・・昨日、あんな事があったのに、なんか悪いかな・・って」


「そんな事ないよぉ~。 せっかくの誕生日なんだからお祝いはするべきだよ~」


「そうですよ、ミリアーナさん。気にする事ないと思います。」


「そう・・? じゃ、お願いしようかな。 えへへっ」



こうして今日は予定通り、ささやかではあるがミリアーナの誕生パーティをする日になった。


だがミリアーナは、記憶を思い出した事への気持ちの整理がうまく付かないまま過ごしていたのだった。



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