15 ~今日は挨拶に行こうっ その1~
王都に来てから数週経ったある日。
日曜日のせいだろうか。早朝から観光客の声や騒ぐ子供達の声が普段より大きく響いている。
(んん~っ 朝だ~・・・
そうだ、今日はまだ行けてなかったお祖父さまや伯父さまのところに挨拶に行かなきゃ・・)
王都に来てからは入学式だの初めての授業だのと慣れない事ばかりで忙しく、まだ祖父や伯父に挨拶に行く事が出来ていなかったのだが、やっと落ち着いてきたので、今日こそは挨拶に行っておこうと考えたミリアーナ。
「おはよっ、イザベラさん」
「おはよう、ミリアーナさん。」
今朝もイザベラは早起きをして窓辺で本を読んでいるようだ。
(さ・・ 着替えてご飯食べて・・出かける準備しなきゃ。)
とりあえず朝食を済ませて、まずは祖父の所へ行こうと考える。
「ねぇ、イザベラさん。朝ご飯、食べに行かない?」
「そうね・・ 行きましょうか。」
学生寮では、日曜日でも朝晩は食事を出してくれる。
寮にいる生徒は、長期休暇の時期でもない限りずっと寮にいるからだが。
食堂に行き朝食を食べ終えた二人。
「ねぇイザベラさん。私ね、今日は王都にいる親戚に挨拶に行ってこようと思っているの。
でね、帰りは遅くなっちゃうかも知れないけど、マリアーヌさんには伝えてから出かけるから心配しないでね。」
「そうなのね。 わかったわ。 お気をつけて。」
「うん。 ありがとう。」
二人は部屋に戻り、そして準備が終わったミリアーナは早速出かける事にし、マリアーヌさんの所へ出かける旨を話しに行く。
「おはようございま~す。 あのっ、マリアーヌさん。 私、今日は王都にいる親戚のところへ挨拶に出かけるので、帰りはちょっと遅くなると思います。」
「そうなのかい? わかりましたよ。 気を付けて出かけなさいねぇ。 ところで、夕食はどうするんだい?」
「あっ、たぶん夕食までには戻ってきますので、晩ご飯、宜しくお願いします。」
えへへと笑うミリアーナ。ご飯はしっかり忘れないのだ。
では行ってきますと挨拶をし、寮を出るミリアーナ。
とりあえず時間は十分にあるので馬車は使わず、王都の街を散策しながら歩いて祖父の居る邸へと向かうことにする。
少し寄り道になるが商業地区を外れ、噴水のある中央広場へと足を向ける。
午前の陽を浴びた噴水の飛沫が綺麗に輝いて見える。
(きれいだなぁ・・)
噴水の周りには楽しそうに遊ぶ子供達の姿があり、それを見て微笑む彼女。
(さっ、お祖父さまのところへ行こう。)
そして再び歩き始め、昼前に街外れにある祖父の邸の前に到着する。
すると、中から使用人が出てきた。メイドのルイーズさんが気付いて出てきてくれたようだ。
「あっ、 ルイーズさんっ おはようございますっ」
「お早う御座います、ミリアーナお嬢様。お久しぶりですね。 お一人でよくいらっしゃいました。
それで、今日はどうされたのですか?」
「えっと、遅くなったのですけれど、今日は学園に入学したことのご挨拶に参りました。」
「あら、それは。 入学おめでとう御座います、ミリアーナお嬢様。
それでは、中へお入りなさいませ。」
「はいっ」
ルイーズに邸に入るように促され、ついて行くミリアーナ。
扉を開けエントランスに入ると、祖父達が待っていてくれていた。
「お祖父さまっ お祖母さまっ」
久しぶりな事と一人で来た事とで気持ちが高ぶってしまい、
勢いそのままに祖父に飛びついてしまうミリアーナ。
「おおっ、ミリアーナ。よく来たね。」
「こんにちは、ミリアーナちゃん。」
「あっ… ・・こんにちはっ。 今日は学園に入学したご挨拶に参りましたっ」
気持ちのままうっかり飛びついてしまった事を恥ずかしがりながら祖父から離れ、
今度はしっかりとカーテシーをする。
「それはそれは。入学おめでとう。ミリアーナ。」
「ミリアーナちゃん、入学おめでとう。」
「ありがとうございますっ」
そして、リビングへと進んで行くミリアーナ達。
部屋へ入るとルイーズは下がって行き、祖父祖母との三人になった。
「どうだい?学園は。 もう、慣れてきたかい?」
「はいっ。 学生寮に入ってルームメイトとも仲良くなって、お友達も出来ました。」
「そうか。それは良かったじゃないか。 そのお友達は、どんな子なんだい?」
「はいっ。 一人はちょっとサバサバした女の子で、もう一人の女の子はちょっとおとなしくて落ち着いた感じ、かな?」
「そうかい。どうやら良い子に巡り合えたようだねぇ。」
「はいっ。」
しばらく学園の話をしていたが、お昼時になるので、これからどうするのかに話題が変わった。
「ところでミリアーナ。今日はこれからどうするんだい?」
「今日はこのあと、フリード伯父さまのところにもご挨拶に行こうかなって。」
「そうなのかい? じゃあ、ミリアーナちゃん、お昼を食べてから行きなさいね。」
「はいっ、ありがとうございますっ」
そして、三人で昼食をとりながらも話は続き、食べ終わる。
「ごちそうさまでした。 おいしかったですっ」
「そうかい。それは良かったねぇ。」
「有難う御座います、お嬢様。」
側に付いていた使用人が礼を述べる。
「それで、このあとはどうするんだい。 すぐにフリードのところへ向かうのかな?」
「はいっ。 そのつもりです。 じゃないと・・夕食までに寮に帰れないかも知れないから・・・」
祖父にちょっと恥ずかしそうに言うミリアーナ。伯父のところで魔道具を見るのが楽しみな事と、見始めてしまうと止められないのが分かっているからだ。
「そうか。では、またいつでも来ると良い。待っているよ?」
「そうよ?いつでもおいでなさいね。」
「はいっ ありがとうございますっ。 では、お祖父さま、お祖母さま、また来ますっ」
そういうと、カーテシーをして部屋を出るミリアーナ。
エントランスへはルイーズがついて来てくれている。
「ルイーズさん、また来るねっ」
「はい。いつでもいらして下さいね。」
「はいっ。」
そして邸の門をくぐって振り返り、手を振ってくれていたルイーズに手を振り返すと、
伯父の邸へ歩き始めるミリアーナなのだった。




