11 ~ルームメイトが出来たっ~
「私はイザベラ。イザベラ・ローズベルクよ。宜しく。」
青み掛かった銀髪の少女が椅子から立ち上がり、挨拶をしてくれる。
しかし、それきりすぐに机に向かってしまった。
(? ちょっと冷たい?・・・)
寮母さんが部屋の説明をしてくれる。
「それじゃ、ミリアーナさん、こっち側があなたのベッドと机。で、これがあなたのチェスト。 テーブルは共同で使ってちょうだいねぇ。」
「はい」
「ベッドメイクは自分でするように。 部屋の掃除は自分達でしてもらうから、イザベラさんと相談して下さいねぇ。」
「はい。わかりました。」
部屋はいたって簡素な造り。二人分のベッドと机とチェスト、そしてテーブルが一つだ。
2階の窓からはまあまあ街が見え、少し離れたところに商業地区と教会も見える。
「朝食と夕食は、時間になったら1階の食堂に来て下さいね。それと、お昼は自分で何か用意するように。 それじゃ、何かあったら、声を掛けて下さいねぇ。」
「はい。 わかりました。」
寮母さんは一通り説明が終わると部屋をすぐに出て行ってしまった。
(あ・・寮母さんの名前、聞くの忘れた・・・)
「あのぉ・・・」
・・・・・
(うぅ・・振り向いてくれない・・)
「あのっ。 すみませんっ」
「はい。 ?」
(うぅ・・なんかそっけないよぉ・・)
イザベラはつれない様子。
「あっ、あのっ、私は隣領のサウザンオーブから来ましたっ」
「そう。」
(ああぁ・・つれないよぅ・・・)
「あのっ。 イザベラさんはどこから来たんですか?」
「・・・、私はリューステットからよ。」
(そっか・・そうなんだ・・・
リューステットって、確か西の方にある街で、貿易で栄えてる有名なトコよね・・・)
「リューステットって、西の方の有名な街ですよねっ?」
「そうね。」
(うぅっ・・)
ミリアーナに全く興味がないようだ。
(しつこく話して嫌われたらイヤだし・・
しかたない・・またしばらくしたら話してみよう・・)
時間は既に夕方遅く。もうじき夕食の時間である。
夕食後。結局ミリアーナは最後まで切っ掛けを掴む事が出来ず、
この先の事を想うと少し不安を覚えながら今日を終わるのだった。
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そして翌早朝。
今日は最初の登校日であり、入学前の説明を受ける日だ。
(・・・朝だ。 起きなきゃ・・・ ん? あ・・今日こそなんとかイザベラさんと・・)
「おはようっ。イザベラさん。」
「おはよう。」
(うぅ・・今朝もダメか・・?)
「今日もいい天気だねっ」
「そうね。」
(・・・・・、はぁ・・)
イザベラは既に着替え終えており、春の優しい陽が差し込んでいる窓辺にテーブルを寄せ、読書をしている。
(私も着替えよ・・・)
ミリアーナも急いで着替え、顔を洗いに部屋を出る。
(うぅっ、つめたっ・・)
もう春とはいえ、水はまだ冷たい。
そして部屋に戻ると、イザベラがティーポットのお茶をカップに注いでいるところだった。
「貴女も、飲む?」
「いいの?」
「ええ。」
「ありがとう。」
「いえ。どういたしまして。」
(・・・親切にしてくれて嬉しいんだけど・・やっぱ、なんか・・?)
ミリアーナは急いで自分のティーカップを差し出し、注いでもらう。
入れ終わるとイザベラはすぐに読書に戻ってしまった。
「あのぉ・・」
「はい。 お茶が何かしましたか?」
(え・・?・・・)
「あ、いえ。そのぉ・・、イザベラさんが読んでいる本、どんなのなんだろうなぁって・・」
「これですか。 この国の歴史が書いてある本ですが、何か。」
(え・・・ 流行りの本とかじゃ・・ないんだ・・・)
「そうなんだ・・。すごいね。 もう、勉強始めているんですねっ」
「いえ、暇なので読んでいるだけです。」
(・・・・・)
「そ、そっか。 イザベラさんは、流行りのものとかは読んだり・・しないの?」
「そうですね。特に興味がないので。」
「そっか・・」
何とも言えない空気の時間が過ぎてゆく。
「そろそろ朝食の時間ですが。」
「あっ。そ、そうだねっ もうそんな時間だねっ。 あ・・、一緒に・・行かない?」
「どちらでも。」
(うぅっ・・・、 もぅっ 度胸よ、度胸っ)
「じゃ、一緒に行こっ?」
半ば無理やりイザベラを連れて食堂に向かうミリアーナ。
食堂に入ると、既に何組かの生徒が食事を始めていた。
昨夜夕食で食堂を利用したのだが、まだ慣れていないミリアーナは周りの様子を見渡し、とりあえずカウンターに行き、朝食を受け取るとテーブルの方を見渡した。
(どこで食べよう・・・)
ミリアーナが場所を迷っていると、既に朝食を受け取ったイザベラが席に座ろうとしているのが見えた。
その様子に気付くと急いでテーブルに行き、イザベラの向かい側に座る。
そんなミリアーナをイザベラは特に嫌がる様子もなく・・気にもしていないだけの様子だが・・食事を始めた。
「いただきま~す」
「いただきます。」
そのまま何か会話をすることもなく食事を済ませた二人は、カウンターに食器を下げてそのまま部屋に戻り、登校準備を始める。
(今日は何か持って行く必要あるのかな・・? イザベラさんに訊いてみよう。)
「あのぅ・・イザベラさん。今日の説明会って、何か持って行くもの、あるのかな?」
「そうですね・・ 筆記用具くらいで良いのでは。」
「そっ、そうよねっ、今日は説明だもんねっ。」
そして、説明会を受けに学園へ向かい始めた二人。
ミリアーナはイザベラの後を追うように歩いているが・・
(う~ん・・今日はどんな事を説明されるんだろう・・ あ。あれっ?!)
考えながら歩いていると、どうやらイザベラに置いて行かれてしまったようで、慌てて追いかけてゆく。
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説明会も無事に終わり、今日はこのまま寮へと戻る事にしたミリアーナ。
既にイザベラは説明を受けていた教室をあとにし、寮へと向かってしまったようだ。
(ふぅ・・明日は入学式かぁ・・・ どんな子が来てるんだろう・・・・
明後日の朝は授業前にクラス分けの発表だしなぁ・・・)
入学式の次の日から授業が始まるのだが、その前にクラス分けの発表がされる事になっている。
1年次は貴族平民男女みな区別なく基本的に全員同じカリキュラムを受ける事になるのだが、入学する人数が多いので、生徒は男女混合で何クラスかに分かれる事になるのだ。
もちろん、受ける科目内容によっては男女別にはなっているが。
イザベラに置いて行かれてしまったミリアーナは、一人考えながらトボトボと寮に帰って行くのだった。
食事を始める時の挨拶ですが・・この物語では現代の日本式に表現することにしました。
食べる前にお祈りとかをする事も考えたのですが、宗教観が出過ぎてしまうのも・・と思い、こうしてみました。




