9 ~入学試験っ!~
年を越し、季節は冬を過ぎようとしているある日。
王立学園への入学試験を受ける日が近付いていた。
ミリアーナはまだ寒さが身に染みるのか、多少は外で剣の練習をしたりと身体を動かす事もあるが、試験が近付いてきたこともあり、連日部屋の中で勉強をしたり本を読んだりして過ごしている。
そんなある日の事。
試験に備え勉強を重ねてはいるが、ふと不安になったミリアーナ。
(うぅ・・落ちたらどうしよう・・・)
考えたって仕方がないのだが、不安に押し潰されそうになるのだ。
因みに学園の入学試験は落とす為の試験ではなく、基本的な学力を備えていれば受かるものとなっている。
但し、誰でも入れる様に出来ている訳ではないので、あくまで「それなり」の試験は待ち受ける。
入学試験は筆記と面接がある。この「面接」もミリアーナの不安を煽るのだ。
兄フレデリックも受けた試験なので、それほど深刻に考える必要もないと思うのだが・・・。
そんな不安げなミリアーナに、兄が声を掛けてきてくれた。
「どうした、ミリアーナ。 そんな不安そうな顔をして。 そんなに考え詰めたって、ストレスになるだけだぞ?」
「うん・・・」
「大丈夫だよ。ミリアーナなら。 それに、俺だって受かってるんだから。だろ?」
「うん・・・・・」
冗談を言って慰めようとしてくれるのだが、それでも拭えない不安。
まあ、不安というものはそういう物なのだが。
「じゃあ、しょうがないな・・ どこが不安なんだい?」
「うん・・ 全部・・・」
「はははっ、そうかそうか。困ったね。 じゃあ、おまじないでも、するか。」
「おまじない??」
「そう。おまじない。 気持ちが楽になるおまじない。これはね、俺もしたんだよ?」
「そうなの?」
「ああ、だからこれをすれば、きっとミリアーナも大丈夫さ。」
とウィンクをしてくれる兄であった。
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そうして試験の日が来る。
「明後日は試験の日ね。明日、王都の宿で一泊して、それから一日目の筆記試験を受けて、翌日に面接だからね?」
「うん・・」
「大丈夫よ。そこまで心配しなくても。ミリアーナは今まで頑張って来たんじゃない。フレデリックにも色々教えて貰ったんだし、ね? それに。 王都には私も付いて行くでしょう?」
「うん・・」
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翌日。
不安な気持ちは拭えないまま、馬車に揺られるミリアーナ。
王都に到着し、途中立ち寄った食堂で早めの夕食をとり宿に入り、翌日の準備を済ませて早めに床に就く事にする・・のだが。
やはり。不安で眠る事が出来ずにいる。
「ミリアーナ。眠れないの?」
「うん・・」
「困ったわね・・
おいで、ミリアーナ。」
「うん・・」
ミリアーナは母のベッドにもぐり込む。
そして母はミリアーナをそっと抱きしめるのだった。
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そしてやって来た試験当日の朝。
学園の前まで母と一緒に来たミリアーナ。そして母に見送られ門をくぐる。
試験が終わる頃、また迎えに来てくれるという。
受付を済まし、試験の行われる教室へと案内される。
既に試験を受けに来た他の子供達が何人か席に着いており、皆、緊張した面持ちで試験開始を待っている。
そして、全員が揃い、筆記試験が開始される。
内容としては子供向けの一般的な教養問題であり、いわゆる国語や算数、常識問題という内容だ。
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一日目の試験が終わり、皆、思い思いの顔をして会場をあとにする。
ミリアーナも不安ではあるが、精一杯解答出来たと信じ、明日に向け教室を出る。
そして校門を出て周りを見ると母が待っていてくれた。
「どうだった?」
「うん・・ たぶん・・頑張れたと思う。」
「そう。なら、きっと大丈夫よ。」
「うん・・」
そのまま街を歩き、一休みをして気分を変えようと中央広場に腰を下ろす二人。
時は昼下がり、周りには街ゆく人々や子供達の遊ぶ声が響いている。
「・・・・・・・」
「・・・ミリアーナ。 これから、ちょっと川まで行きましょう。」
「?」
不安げな、そして不思議そうな顔をしたミリアーナに、母はにっこりと微笑む。
ゆっくりと、小一時間ほどかけて歩き、河岸に到着した二人。
辺りには人は居らず、広い河には荷物を運ぶ船が何艘か行き交っている。
そんな景色を見ながら。
「ミリアーナ。 ね。 なんでも良いから、大声で叫んでみなさい。」
「?」
「あの川向うに向かって、今の気持ちを叫ぶの。
不安なんて、きっと何処かへ行ってしまうから。 ね?」
「うん・・・わかった・・・
(スーーーっ)
・・・ 学園で たくさん勉強した~いっっ!!!
もっと 魔道具のことっ いっぱい、いっぱいっ 知りた~いっっっ!!!」
大声で叫んだミリアーナ。少し気分が晴れたようだ。 少し。
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翌日、面接試験が始まる。
控室には何人かの子供が緊張した面持ちで順番を待っている。
そして、順番がやって来た。
係の男性が呼びに来て、面接室に案内される。
トン トン
「しつれいさますっ・・」
(あっ・・ヤバっ・・噛んじゃった・・・)
緊張MAXである。
「はい。 どうぞ。 では、こちらに掛けて。」
面接官は男性3人、女性2人だ。
「では、まず。 貴方の名前は?」
「ミリアーナ・・ウィルヴィレッジ です。」
「はい。 では、こちらも紹介を致しますね。
まず、こちらの女性二人から。 こちらが、この学園の学園長のガブリエラ・サンアンドレーズ学園長。 そしてこちらが薬学担当のフローリア・シェーレン先生。
次に、こちらの男性が、史学担当のハインリヒ・ローエン先生。 隣が剣術体術担当のラインハルト・マイヤー先生。
そして最後にこの私、語学担当のアーネスト・シュテルです。 では、宜しくお願いします。」
「よっ・・よろしくおねがいしますっ。」
「では、まず。貴方がこの学園を希望した理由を教えてくれますか?」
「はいっ。 私がこの学園に入りたいって思ったのは、魔道具のことをたくさん勉強したいと思って・・
この学園なら、きっと色んな魔道具のことを学べると思ったからですっ
・・・あとは・・お兄さまがこの学園を卒業してて・・良いところだよって・・」
「そうですか。 はい。 では、次に、貴方が自分自身の良いと思えるところと、悪いと思えるところ。一つずつで良いので。教えてくれますか?」
「はい。 良いところは・・・(んん?なんだろう・・) 明るい・・ところ?です・・
悪いところは・・・おっちょこちょいで・・少しあわてんぼうだと・・その・・よく言われます・・・」
「・・そうですか。では、もうひとつ。 貴方のお兄さんがこの学園を卒業していると言いましたね? それでは、その、お兄さんの良いところは何でしょうか。」
「はいっ お兄さまはとても優しくて、色んなこと教えてくれて・・私の、わたしのっ大好きなお兄さまですっ!」
だんだん声が小さくなってしまったミリアーナだが、兄の事を話し、少し元気を取り戻す。
「はい。 ・・・、では、最後に。 貴方の夢は? どんな仕事をしてみたいとか、あるいはこんな人間になりたい、とか。 教えてもらえますか?」
「はいっ 将来は魔道具師になって・・私の伯父さまののような魔道具師になって、色んな物を作ってみたいですっ。」
「そうですか。 はい。」
面接官同士が目くばせをする。何かほかに質問などがないかどうかを確認する為に。
「では、これで・・ はい、学園長。」
沈黙を破るように手を挙げる学園長。
「え~・・貴女は・・、魔道具に興味があるようだけど、 魔道具の、どんなところに興味があるのかしら?」
「・・・えっと・・ はいっ。 私・・魔道具がとてもふしぎに見えるんです。魔道具が何もないところからどうしてあんなことが出来るのか。こんな小さな魔道具がどうしてって。私の家にある魔道具もそうなんですけれど・・、伯父さまの作る魔道具を見ててふしぎで。自分でも作ってみたいって。大きな魔道具も、いつか作ってみたいって。だから・・たくさん勉強して、魔力の事もたくさん勉強して・・いつかきっと、すっごい物、作ってみたいって。」
「そう。分かったわ。 有難う。」
「はいっ」
「では、ほかに、何かありますか? ・・なさそうですので。 では、これでお終いにしたいと思います。 有難う御座いました。」
「ありがとうございましたっ
しつれいしますっ。」
最後に学園長がニコッとしているところは、誰も気付いていないのであった・・・
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(はぁ~~~・・・おわったぁ・・・ 緊張したなぁ・・)
面接試験が終わったミリアーナが外に出てくると、母が来てくれた。
「おつかれさま。 どうだった?面接は。」
「うん・・・ 最後に学園長さん?に質問されたときはドキドキだった・・・」
「そう。 頑張ったわね?ミリアーナ。」
「・・・うん・・・ 受かるかな・・私・・・」
「大丈夫よ、きっと。
さあ、宿に戻りましょうか?」
「うんっ あ・・でもその前に・・・。」
「ん? なあに?」
「その前に・・・甘いもの、食べたいっ!」
「うふふふっ。 そうね、頑張ったんだもんね?」
「うんっ!」
最後に、ちゃっかりと甘いものを強請るミリアーナなのだった。
試験あるある回でした。今回で第1章はおしまいです。
皆様も、きっと入試や入社の試験の時とかの不安への「おまじない」があったのではないでしょうか・・
フレデリックのおまじない、どんなのだったのでしょうね?それは皆様のご想像に・・・




