アナザーライフ!!!
梨田ちなは小学5年生。同じクラスの渡来心花は、幼稚園の頃からの幼なじみで家はお隣さん同士。
ドン。下校中、心花との会話に夢中だったちなは前から歩いてきた男性にぶつかった。
「ごめんなさい!」ちなは謝った。
「気をつけなさい」その男性、澤田誠はそう言ってすれ違った。
ちなと男性は互いに面識がないが実は父娘である。誤解無きように説明しておくとゲーム『アナザーライフ!!!』の中での話だ。さらにいうと、ちな=父親で澤田=娘の親子なのである。
ゲーム『アナザーライフ!!!』は文字通りプレイヤーのもうひとつの人生である。
ちなは心花と一緒やり始めて夫婦になった。ちなのプレイヤーネームはタクミ、心花のプレイヤーネームはアリサである。
夫婦になったプレイヤーは子供を作ることができる。子供を作る選択をすると新規プレイヤーが抽選でランダムに選ばれてその夫婦の子供になる。タクミとアリサの子供に選ばれたのがココア(澤田誠)だった。
澤田誠は商社勤めの部長で54歳。既婚で成人した子供が二人いる。若い頃から働き詰めで人生に疲れていた。そんな澤田が『アナザーライフ!!!』を始めたのは2ヶ月前。ゲームショップの店頭で「もうひとつの人生をはじめてみませんか?」というコピーが書かれたポスターを見掛け、そのコピーに惹かれて、つい買ってしまったのだ。
この世界で澤田は、パパとママが大好きで最近おしゃれのことが気になりはじめた可憐で愛くるしい、小学生の女の子ココアだった。現実世界では気にしたこともないファッションのことやパパからはまだ早いと言われているコスメのことが気になって仕方がない。おしゃれのことで頭がいっぱいで学校の勉強があまり出来なくてパパとママからは心配されているけど、友達がたくさんいて毎日が楽しいからココア本人はあまり気にしていなかった。
澤田は現実世界では有名大学を出ているし、普段から仕事上の難しい判断を迫られることも多く、知的レベルは高いと言えるのだが、ゲーム内ではとても対照的な女の子だった。
これは、プレイヤーには見えない内部パラメータが関係している。
内部パラメータの知力が低いと、難しいことを考えることが出来なくなるような電波が脳に送られてきて思うように思考できなくなるようになっている。
そもそもこの世界では現実の知識や思考がシャットアウトされるのでロールプレイせずとも年相応の少女のような振る舞いになるのだ。
「ママ、今度の日曜日にキサラちゃんのお誕生日パーティーがあるの」
「あら、そうなの?じゃあプレゼントと着ていくお洋服を準備しなきゃ!」
ココアは満面の笑顔で言った。
「ママ、ありがとう!」
それに答えて優しい微笑みを浮かべアリサは言う。
「どういたしまして♪」
暖かい部屋でうとうとしていたココアは眠りについた。そして澤田はログアウトした。