会社の先輩が中学生に??!
私は海瀬あむ22歳、新卒一年目の新人で、この会社に入社してそろそろ半年になる。
突然だが私は今、恋をしている。相手は会社の先輩で私の教育係の平井新さん34歳。
年齢はちょうど一回り違うけど、とってもとっても大好きな人。
最初は、厳しい人だなぁと少し苦手意識を持っていたくらいだけど、先輩は私のことを諦めなかった。
私は馬鹿で学校の成績も悪く、先生からも親からも諦められていた。自分自身でさえどうせ社会人になったって変わるわけないと諦めていたのに先輩は違った。私がどれだけ失敗を繰り返しても先輩だけは私を諦めないでいてくれた。
だから私は平井さんが好きだ!だけど平井さんは私のことをただの後輩としか思ってない。
なんとか振り向かせたいなぁ。
ある日の夜、会社にスマホを忘れたことに気づいて取りに行くと平井さんは一人で残業をしていた。
「お疲れ様です!」
「おー、海瀬か。どうかしたか?」
「スマホを忘れてしまいまして、、」
「マジかー、気をつけろよ」
自分のデスクの上にあったスマホをバッグにしまい平井さんに挨拶をして帰ろうとしたその時だった。
突然、平井さんのいた場所が強い光に包まれた。
光はすぐに収まった。
「大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だ」
聞こえてきたのは想像してたのよりも高い声で、そこには先ほどまでの平井さんはおらず、平井さんの面影のある中学生くらいの男の子がいた。
「もしかして平井さんですか?」
「そうだ」
どうやら平井さんらしい。
平井さん自身も今の自分が普通ではないことに気づいているようだ。
平井さんに立ち上がってもらって、平井さんの体の変化の仔細を調べてみる。
まず目線がいつもと違う、いつもは私が平井さんを見上げているのに今は逆に平井さんが私を見上げている。顔立ちもだいぶ幼く中性的で可愛らしい。
まじまじと観察していると平井さんのズボンの前のほうがピンと張っていた。平井さんは耳まで赤くなった顔をプイとそらし恥ずかしそうに前を隠した。
私は平井さんにそーゆー目で見られているんだと分かり、つい、にやついてしまう。
「おい、何笑ってるんだ!」
可愛らしい声でそう言われてさらに口角が上がりそうになったが堪えて言った。
「ごめんなさい。平井さんが可愛くてつい」
その言葉を聞いてますますほっぺが赤くなり熟れたリンゴみたいに真っ赤になった。
「っていうかスマホは持ったんだろ!そろそろ帰れ!」
「本当にいいんですか。他の人に見つかったら勝手に会社に入ってきた中学生としてつまみ出されますよ」
「うっ」
平井さんは痛いところを突かれたという感じでこちらをにらんでくる。でも残念ながらこれっぽちも怖くない。
「大丈夫。お姉さんが一緒にいてあげますよ~」
「誰がお姉さんだ、誰が!」
こんなに可愛い先輩と喋ってると無性にいじわるしたくなるのはなぜだろうか。
普段の先輩の前では嫌われたくない気持ちが強すぎて猫をかぶってしまうのに、今の先輩は嫌われてもいいから猫可愛がりしたいと思ってしまう。
平井さんがいつもの平井さんではないように私もいつもの私ではない。
一旦、冷静になろう。
「平井さん、一緒に元に戻る方法を探しましょう!」
「あ、あぁ。って急にまともなこと言うんだな」
「だから、とりあえずうちに泊まりに来てください!」
「は、はぁ?どうしてそういう話になるんだ!」
「だって、その姿でずっと会社には居られないでしょう?」
「自宅に帰れば済む話だ」
「中学生の男の子が家に一人きりなんてお姉さん許しません!」
「だから、誰がお姉さんだ!確かに体は中学生くらいになったが俺は大人だ。心配はいらん」
「帰り道、不審者に襲われでもしたらどうするんですか!今の平井さんじゃ抵抗できないですよね!」
「不審者って、、、俺は男だぞ」
「分かってないですね~。今は男の子も狙われる時代ですよ!それに今の平井さんは可愛いですし」
「俺が可愛いだと」
「そうですよ!中性的で幼い顔立ちでとっても可愛いです!!一人で夜道を歩かせるなんてとてもじゃないですが、出来ません!」
「それは、その、お前もだろ」
「はい?」
「だから、海瀬の方こそ、その、か、可愛い、、だろ」
平井さんの顔がまた赤くなった。というか私の顔も熱くなってきた。
「平井さん、今私のこと可愛いって、、」
「だから、その、夜道を歩くことの危険性はお互い変わらないはずだ!」
「だったらなおさら一緒に帰ったほうがよくないですか?一人でいるより二人のほうが安全です!」
「それは」
「それは?」
「それはその通りだが。。。いやダメだろ。いくら若返ったと言っても俺は男だぞ。若い女性の一人暮らしの部屋に男を入れるなんて」
「平井さん!」
「な、なんだ?」
「平井さんは私に手を出すんですか。そーゆーことするような人なんですか?」
平井さんになら手を出されても全然OK。むしろウェルカムなのだがそんな思いはひた隠しにして、どうなんですか、と疑念のこもった目で詰め寄る。
「そんなことはしない!」
「絶対ですか?」
「絶対にだ!」
「なら、問題ないじゃないですか!」
そんなにきっぱりと言い切らなくてもいいじゃないかと思いつつそう言うと平井さんは二分ほど悩んで答えてくれた。
「分かった。海瀬が嫌でないならその、泊めてもらえるとありがたい」
一時間後、どうにか誰にもバレずに私の部屋に着いた。
「どうぞ、上がってください」
「お、お邪魔します」
平井さんは脱いだ靴を揃えて端の方に寄せると部屋に上がった。
「とりあえず、今日はもう遅いですし、寝ましょう」
「そうだな、ソファー借りていいか?」
「ダメです!一緒に寝ましょう!」
「駄目だ!」
「冗談です。それじゃこの毛布使ってください」
「そうか、悪いな」
「私がいつも使ってるやつなので私のにおい、いっぱい、かいでいいですからね」
「そうか、じゃあ、そうさせてもらおう」
「え?」
「どうかしたか?」
「や、やっぱりお客様用のでいいですか?」
「ふふ。すまない冗談だ。今日はずっとからかわれていたからな」
「も、もう先輩は意地悪です!」
「海瀬もなかなか意地悪だったよ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
次の日、目が覚めるとおいしそうな匂いがした。
「おはよう」
聞き慣れた声で平井さんがいう
「おはようございます。ってあれ?」
いつもの平井さんがキッチンに立っていた。
「おかげさまで元に戻った」
「よかったですね!っていうかご飯まで作ってくれたんですか?」
テーブルの上にはトーストと目玉焼きと野菜サラダ、コーンスープ、ミルクが並んでいる。
「ああ、泊めてもらったし昨日はいろいろ助けてもらったからな。そのお礼だ」
「ありがとうございます」
元の姿に戻ってホッとした反面、少し残念な気持ちもある。
けど、これで良かったのだろう。
始業時間まではずいぶん時間があるが、いったん家に戻るらしいので平井さんは早々に帰ってしまった。
なんだか夢のようだったなと思いながら私は支度を始めるのだった。