自称猫被りな悪役令嬢の奮闘
もし、生まれ変わることができるのなら。
一度もそんなことを考えたことがない、と言えば嘘になる。
ただし記憶を保持したままの転生が本当に起こり得るとは思っていなかったし、ましてや転生先が前世でプレイ経験があるゲームの中の令嬢に生まれ変わるなど、誰が想像し得ようか。
しかも、悪役の令嬢だなんて。
本当に……本当に、どうしてよりによってロザリンド様に転生しちゃったの、私ー!!
本当なら『転生』の時点でいろいろと突っ込みたいけれど、もはやそんなことを気にしている場合じゃない。
ロザリンドが登場するのはSRPG『私の子猫は王子様』である。
十五歳の建国祭で魔女によって子猫化する呪いをかけられてしまった王子の呪いを解くため、主人公である主人公が奮起して様々な困難に立ち向かうという心温まる成長ストーリーを踏襲する一方、シビアな戦闘でプレイヤーの心を遠慮なく折りにくるという試練多きゲームだった。
しかし主人公を含め登場人物がとにかく美しいこともあり、多くの支持を得て続編の発売が決定していたほどの人気があった。
ちなみに敵役であるロザリンドも相当美しい。
現在四歳だが、その片鱗は見えている……というか、現時点においてもかなり美人だ。
そしてゲームのタイトルだけを見ると主人公の恋のお相手が王子であるように見えるけど、普通にプレイしていると友情エンドしか発生しない。主人公は子猫化した王子を王子と知らずに拾うので、一応タイトルにも偽りはない。
王子や協力者などの誰か一人に肩入れしているとエンディングでお相手とのスチルを背景にラブストーリーを読むこともできたそうだけど、生憎私はそこまでやり込んではいない。
だって私、戦闘に心を折られたプレイヤーの一人だもの。
だから王子友情エンディングしか見ていないし、一周しかプレイしていない。
それでもロザリンドのことは知っている。
だって彼女はどう転がっても物語の進行上避けては通れない王子の婚約者という立場なのだから。
ロザリンドは別に王子のことを恋愛的な意味では好きではなかった。
損得勘定がはっきりしているため政略結婚には肯定的であったものの、人情も大切にする王子とはあまりそりが合っていなかったが、周囲の期待の高さもあり自身が王妃になることは当然の責務であり、一切の疑いを持ち合わせていなかった。
しかしその状況は王子が魔女に猫にされたことで一変する。
それは魔女の呪いの解除条件が「相思相愛である人物との口付け」であることが判明したからだ。王子への愛情などみじんも持ち合わせていなかったロザリンドは『王子をもとに戻せる者こそ妃に相応しい』という意見が出たことで、婚約者の立場から外れてしまう。
しかしこの件に対し王族側からの勝手な都合で不利益を被らされたと判断したロザリンドは魔女と通じ、再び魔女を王宮に招き入れるという大罪を犯すのだ。
え? 別人エンドも存在するのに王子とキスは必須なのかって?
実はキスが解呪に必要というのは誤情報だったんだよ。実際は多くの呪いと同様、術を発動させた魔女を倒せば解呪できるから。じゃあロザリンドが婚約者を降ろされる必要なんてなかったじゃん、ほかの人でも無理だったじゃんって思われるかもしれないけれど、それが判明するのはもっと後なので仕方がない……とも言えてしまう。
ただ、個人的には政略結婚に恋愛感情を持ち合わせろというほうが無理難題だと思うんだけどね。想い合えたらそれに越したことはないかもしれないけど、自分たちで選んだわけでないんだし。仮に友好的でも戦友的な雰囲気であっても恋愛感情じゃないこともあるだろうし。
しかし逆恨みで魔女の仲間になるという行動力は凄いと思うけれど、それは倫理的に問題だと思うから庇い切れないんだけど。
何にせよロザリンドの中身が私であるなら当然魔女の手助けはしないし、王子と主人公の仲がどうなろうが口出しする気はないけれど、何もしないことを貫くだけだと残念ながら私の未来に影を落とす可能性がある。
だってさ、十年以上結ばれていた婚約が撤回されるんだよ? 相手は王族だよ? 普通にロザリンドが悪いからって周囲に思われそうだよね。
そんな令嬢が再び良縁と巡り合えるかといえば難しい。
仮に好きな人ができてもアピールする前から「あー、あの王子の元婚約者」なんて言われるのは辛すぎるし。
もっとも、前世でも恋愛なんて経験していないんだから今生でも縁のない話かもしれないから、気にしすぎって言えばそれまでかもしれないけれど……!
だったらそもそも王子と婚約しなければいいんじゃない? と思うけれど、これはほぼ婚約が確定したって先日お父様が仰っていたのを聴いているんですよね、このロザリンド。
荷が勝ちすぎているからやっぱり止めてほしいと言っても、今から学べばどうにでもなるって言われるのは明白だし。四歳ってまだまだ可能性秘めてるもんね。うん、わかる。でも、そういうことじゃない。
じゃあ、この先どうしたら安全な未来を作ることができるだろうか?
「……いっそ、王子を守ってみせようか」
十五歳になった年の建国祭初日、魔女は王城の大広間でダンスが始まった時に護衛が反応できない速度で王子に攻撃する。
間諜だと疑われたくないので誰かに直接的な対策の相談をすることはできないが、私がそれを防ぎさえすれば、不意打ちから逃れることはできるろう。
そうだ、魔法を究めよう――。
どこかのキャッチコピーのような言葉が頭の中を巡り、私はすぐさま行動に移すことにした。
「お父様、私、魔法を学びたいのです!」
どちらかというとこれまで必要最低限の物欲以外に要望を伝えたことがなかったロザリンドの言葉に激甘の父親は感激し、すぐに旧友だという魔法使いを手配してくれた。
師となった魔法使いはもともと宮廷魔法使いとして王城に勤めていたらしい。
その話を聞いたとき、私は将来自分も就職するという可能性を考え始めた。
王子を守ることが出来たら婚約が白紙になることはないかもしれない。
けれど、主人公が登場したらどうなるだろう? 場合によっては二人が恋仲になるかもしれないし、その場合は私が引くことに躊躇はない。だって、王道だし、めちゃくちゃお似合いだし。むしろ私が二人が並ぶ姿を見たい。写真の魔法、今から開発したほうがいいかな?
王子を助けていれば口添えもあるだろうし、一方的に悪い印象を周囲に与えない可能性もあるけど、そもそも私が恋愛をしない可能性もある。
それなら一人で自立するために就職するのは悪くない。そもそも、魔法の勉強はすごく楽しい。一日十時間くらい勉強しても飽きない。しかも、レベルというものがゲームのときと同様に存在していて、レベルアップのときや経験値の溜まる様子を見たり、実際にレベルアップしたりするのは凄く楽しい。
そして前世の知識のおかげで効率の良いレベル上げをするので、初期は面白いほどレベルが上がった。……まぁ、大冒険にでも出ない限りここからは毎日の積み重ねになるんだけど。
それでも順調に上達していると、度々実地訓練と称して師匠の魔物討伐に同行させてもらえるようになった。最初は慣れていないから役に立たないのに、パーティーにいるだけで経験値が入るものだから養殖されているような罪悪感があったけれど、数をこなすと役に立てるようにもなった。やっぱり慣れって大事だね!!
そして一年後には『鉄壁の守り姫』なんて全然可愛くない二つ名がついてしまった。加えて属性にもよるけれど、低級の魔物どころか中級の魔物も単独で倒せるようになりました。
でも……ちょっと待って欲しい!
ロザリンドって行動こそぶっとんでいたけど、全然顔は可愛いんだよ!?
だから、もうちょっと綺麗な二つ名を付けてくれても良くないかな!? 鉄壁ってなに!? 妖精とか精霊とか、もっとファンシーな二つ名があってもよくない!?
なんて思っているうちに、正式に王子の婚約者になってしまった。
王子の名前はディラン。同い年の五歳。
正直、婚約が撤回になる可能性があるから付き合いは必要最小限に留めようと思っていた。
王子が嫌いではないが、私は王子に会うより魔法の訓練に励みたいし、仮に王子が主人公に惹かれたときには私に気を遣う可能性を減らしたい。周囲も婚約がダメになったって、もともとそこまで関係が良好でなかったのならと諦めがつくだろう。
仲良くしていたのに振られたみたいに見えるのは、互いのためにも絶対によくないし……。
そう思っていた……こともありました。ええ。
それなのに私のその決意はディランと顔を合わせると一瞬で崩れ去った。
だって、ほんと。
ほんと、待って、無理、天使がいたんだもの……!
こんなの、仕方がないよね!?
ゲームで見ていた王子のことはあまり興味がなかったけれど、眼前のディランには、たとえ将来襲撃があると知っていなくても守りたいと思ってしまう愛くるしさが満載だった。
もう、国宝! 国宝だよ! この御方こそ国宝に違いない……!
しかもディランにはゲーム内の優しい好青年になりそうな要素は感じられるものの、ゲームとは違って人見知りで少し怖がりで、それでいて時折ふわりと零れる笑みがとても可愛い。
鼻血を出すことなく冷静に観察した私を褒めてほしい。
本当に光属性満載の王子なのだ。
結果、お茶に誘われたらとっておきのお菓子を手に勇足で登城してしまうよね!
だって仕方ないじゃん!!
断って涙目になったディランを見たことがある人だけ私を罵っても構わない。あれは、反則! 生じさせてはいけない表情!!
ただしはっきり言えるのは、私にはディランに対する恋愛感情はない。
さすがに成人越えの経験がある私が、五歳に恋することはない。
気持ち的には年の離れた弟を愛でるというものが近いのかもしれない。いや、むしろ母親としての気持ちだろうか。王子の母親って自称するのはおこがましいとは思うけれど。
でも、そういう意識があるからついつい年上ぶった振る舞いをしてしまうのは仕方がない。
もともとの私に姉という属性は存在していなかったし、どちらかといえば『しっかり』と対極な性格をしているので、だいぶ格好を付けている自覚はある。つまり猫を被っている状態だ。
王子がどんなに可愛らしくても、そんなことに気を取られていませんよ、とつんとすました顔を心がけている。これは婚約者としての対策ではなくて、ディランに引かれないためだ。
王子じゃなくとも自分にテンションを上げる幼女がいたら、たぶん引く。だから猫を被り、しっかりお姉ちゃんだと見せることは絶対に崩せない。
周囲も私が年上ぶった対応をしているように見えていたみたいだけど、どちらかといえばそれは推奨されている雰囲気だ。
特にディランの勉学の時間の前などは顕著だった。
本当は理解できるので何の問題もないはずなのに恥ずかしがっているディランに対し、ほら、ロザリンド様もご一緒にいてくださるんですからと保護者のように扱われることが多々あった。
「ロザリンドは、本当に一緒にいてくれる……?」
「ええ。しっかり学ばれましたら、あとで一緒にお茶とお菓子を楽しみましょう」
「うん、約束ね」
この時のディランの笑顔を撮影できない私の無念を誰か理解してほしい。今しかないこの表情、絶対貴重だから……!
でも、王子が幼少期ここまで気弱だったのは可愛さと同じくらい知らなかったな。
だからよくゲーム内のイケメンでスマートな性格にまで成長したなと思う。
王子は何かをきっかけに性格が変わったのだろうか。それとも積み重ねがあって成長に伴い変わったのだろうか。
いずれにしてもここまで内気だと王子としては幼少期苦労したのだろうなと同情はする。
ゲーム内の王子、大変だったね。
でも、現実のディランは私がお手伝いするから安心してね!
「ディラン様は何かご不安なのですか?」
「不安というより先生の話が理解できるか、自信がなくて……」
「そのようなことなら、何も心配ございませんよ。大丈夫です。だってディラン様はいつも予習なさっているじゃないですか。もし間違っていても、どうして間違えたのか知る良い機会だと思えば良いのです」
間違い自体は失敗ではない。
そう伝えていると、後ろのメイドさんにぼそっと「ロザリンド様はどうして達観されているのかしら……」と呟かれたけど、気にしない。達観はしていない。ただ、前世で授業中に先生から当てられた際にいくら間違っても、テストの点数さえ良ければ特に問題にならないと経験してきただけだ。
というか五歳児に全問正解を求めるほど常軌を逸した指導は行われていないはずなんだけど……ディラン、自分に求めるハードル高すぎない? それが原因で失敗が怖いんじゃない?
なんて思っていると、くいっと袖を引かれて「本当に?」なんて尋ねられたから心臓が締め付けられるかと思ってしまった。
可愛い。本当に可愛い。潤んだ目が宝石みたい。
でも、だめだ。
ここで黙りこくってしまえばディランを不安にさせかねない。
そう思った私は気力を振り絞った。
「大丈夫です。私はディラン様の味方です」
それからふにゃりとした笑顔を向けられると、やっぱりどうしてこの場に写真撮影できる環境がないのだと思わずにはいられなかった。早く写真技術を作らなくちゃ。
「ロザリンドは同い年なのに、まるで姉上ができたみたいだ」
「それは、とても光栄です」
「そう? ロザリンドが嬉しいなら、私も嬉しいな」
こちらのほうがもっと嬉しいですとも!
自称姉だったのが、本人公認の姉になったことを喜ばずにはいられない。
こういうやりとりもあった、さらに一年後。
後々まではっきりと思い出せる、印象深い出来事が生じた。
六歳になったことで、私たちもそろそろ乗馬を練習しようということになったんだけど、ディランは馬に乗ることにかなり抵抗を感じていた。大きいし怖い、と口にしていたので見た目からあまり得意ではなかったのだろう。
だから私は毎日厩舎にディランを連れ出した。
「では、ディラン様、今日はあちらの仔馬に人参を与えてみましょう」
「ねえ、ディラン様。馬の目はとても綺麗ですよ」
「見てください、ディラン様。あちらで駆けている馬。風を切る走りは気持ちよさそうですよね」
決して乗ろうとは言っていない。
けれど接してい居るうちにディランも乗馬をしている人を格好良く思い始めたらしい。
「明日、乗ろうかな」
そう言ってくれたときは思わず拳を握りしめそうになった。だめだめ、令嬢なんだから。
しっかり猫を被っておかないと。
ただし乗るとは言ったもののディランはやっぱり緊張していたし、怖がっていた。
その怯えが伝わったせいなのか、他に原因があったのかは私には分からなかったけれど、馬が想定外の大きな動きをし、同時にディランは宙に放り出された。
けれど、そこは私がとっさに発した風の魔法で救出することができた。
魔法を学び始めて二年が経ち、私は風の魔法と土の魔法なら中級程度を扱えるようになっていた。
中級って微妙に聞こえるかもしれないけれど、六歳で二属性を中級まで使えるのはこの国ではとても凄いことだ。何なら宮廷魔法使いとして通用するレベルらしい。
ほかの属性も修得できそうな雰囲気があるから、まだまだ伸びそうなんだけど……もしかしなくてもロザリンドってすごい高スペックキャラなんじゃない? と思わずにはいられない。わくわくするよね!
って、話が逸れた。
そう、私がディランを助けたんだけど、ディランは驚いていた。
そりゃ投げ出されたんだから驚くよね。
でもここで二度と馬に乗らないなんて言われても問題だと思った私は、すかさずディランに伝えた。
「お怪我はございませんよ。絶対私がお守りしますから、大丈夫です」
だからこれからも絶対ケガはしませんし、将来猫になることもございません! この国の生きる国宝を傷つけるのは、何人たりとも許されない。
そういう想いを込めて言い切った。
ディランははじめ呆けたような表情を浮かべていたけど、そのうち首を振って、何かを決意した表情を浮かべていた。
「大丈夫、もう」
そう言い切ったディランは、これまでになく強い感情を瞳に宿していた気がした。
これは……失敗したことに対するやる気の向上、みたいなものかな?
それとも秘めていた負けん気が、爆発したのかな?
そう思ったけれど、以降はいつものディランとあまり差がないように感じられた。
だから見間違いなのかなと思ったけれど、それでも時折強い意志を持って何かに向かうような様子があるのでやはり間違いではなかったと思う。
なぜかはよくわからないものの、ディランは何か深く考えているのだろうなと私は思った。
もしかするとこれがディランの成長時なのかもしれないな。
ディランが成長するというのなら、私も負けてはいられない。
ディランほど、私も私で魔法を磨き続けた。
そして、落馬事件から二か月後。
私は学校に入学することになった。
え? 学校なんてあるの? って私は驚いた。
ゲーム本編で学校の話なんて一回も出てきたことがなかったから、てっきり家庭教師がずっと教えてくれるものだと思い込んでいた。主人公も学校には通っていなくて、街中で猫姿の王子を拾っていたしね。
学校に通うこと自体を厭う理由はなかったけれど、テストがあったら嫌だなぁと最初は思っていた。やっぱり点数がつくものはしっかり頑張らないといけないしね。
幸い願い通りテスト自体はそんなに多くなかった。ただ、レポートがびっくりするほど多かった。
このほうが時間かかるじゃん……!
これならテストのほうがよかったよ……!
……なんてことを思っても、やらないわけにはいかないよね。
私はディランのお姉さん役だ。
お姉さんぶり続けるためには勉強で遅れを取るわけにもいかない。
あと、将来宮廷魔法使いになるためにも良い成績を修めえておきたい。
魔法力があってもおバカな成績では試験に通らないかもしれないからね。仮に合格しても、恥ずかしい思いをするかもしれない。
そうなると、やっぱり全力で取り組まないといけないよね!!
どうせやるなら未来の私のために公用文書の書き方も調べて、それで仕上げてやるわ! なんて思ったけど、レポートと公用文書の形式は違ってたので断念した。ま、まぁ、きっと未来で使うことになるから無駄にならないと信じたい。採用まで十年はあるけど、形式が変わらないことを願うばかりだ。……っていうか、私も覚えておけるかな。
学校生活はやっぱり前世の経験とは大幅に違っていた。
ランドセルを背負って小学校へ登下校していた前世とは違い馬車で送迎されるので、これだけでもなんとなく落ち着かない。いっそ馬に乗って一人で登校するほうが気楽だろうなと思いながら、私は毎朝馬車でぐっすり寝てしまっていた。え、落ち着かないって言ったの誰? 私です。でも朝ってあんまり得意じゃないんだよね。魔法で振動を抑えていることもあって距離が短くてもよく眠れる。
そして学校に到着すると上品そうな学生ばかりの間を抜けて教室に向かう。学校のシステムは基本大学と同じで、少数の必須教科と選択教科で構成されている。だからいわゆる所属クラスのようなものはない。
ディランも同じ学校の学生だけど、必須授業でも別のクラスが割り当てられているし、特に同じ授業を選択しているわけではないので滅多に会わない。
ディランにとって学校生活は友人というか、側近と仲を深める場であると思うので、別々に過ごしていることは特に気にしていない。まだまだ魔女に襲われる予定じゃないし。
それにディランが同年代の男の子と過ごしているのを見るのはこれまでになかった貴重なシーンだと思うので、私は影からこっそり見守るのがとても楽しい。
あと、私の魔法技術も向上したから想定外の何かがあっても、この距離なら何とか対処ができるので実利も兼ねている。まあ、さすがに魔女の襲撃から守るのはまだ厳しいけれど。
あ、昼食はびっくりするほど美味しい食堂がある。ただ、人目が気になるので私はテイクアウトや弁当持参で人目の少ないところで食べることが多い。食べてる時くらいゆっくりしたい。
基本的にはそんな生活だけど……時々、二、三人ご令嬢から呼び出しを食らう。
いやぁ、こういった呼び出しってフィクションの中だけだと思っていたし、そのフィクションでだってもう少し成長してからだと思っていたのに、年齢一桁ですでに呼び出しを食らうってすごくない?
内容はいわずもがなディランとの婚約のこと。
私が普段誰かとつるむことがなく一人で過ごしているから、ぼっちで気弱に見えるんだろうね。
でも残念、私はボッチだけど気弱じゃないよ!
ただ、大人しいタイプだと見られたことなんて今生でも今までなかったから、ちょっとむず痒くて恥ずかしいよ!
なんて謎の感動をしていると、ご令嬢たち私に毎度似たようなことを告げる。
だいたいは婚約者には相応しくないとか、辞退すべきだとか、譲るべきだとか。
だからだいたい同じ言葉を私も返す。
「私にも荷が勝ちすぎていると思うのですが、私に決定権はございません。いかがいたしましょうか」
「私も何か問題があるようでしたら婚約は解消されると思いますし、その時は皆様のどなた様からか選ばれるかもしれませんね」
「え、余裕でございますか? 滅相もございません。ただ、破談になったとしても驚きはないと思ってはおりますので」
「もしかすると、未来の婚約者はこの中にもいらっしゃるかもしれませんね?」
そう口にすれば、もごもごとよくわからない言葉を口にしたり、わかっているならいいのよと言わんばかりの強気な態度を崩さず去って行ったり、とにかく早く話が終わるので助かっていた。
まあ、破談になるならやっぱり主人公と並んでいる姿を見たいんだけどね!
まだ主人公が現れていないし、私が魔女の攻撃から王子を助ける予定だから原作改変を目指しているけど、あの子は凄くいい子だし、戦闘以外の能力も高い設定だったからいつか王子と出会うことにはなると思うんだよね。
そして私自身が婚約者を降りることに抵抗はない。
ディランが幸せになるなら花びらを撒き散らして祝福できる自信がある。あんなに小さな天使だったきみがこんなに立派になったんだね……って、涙をちょちょぎらせる自信もある。
でも、たとえ主人公がディランを助ける可能性があっても、やっぱり魔女からは絶対に守らないといけない。
私の未来のためもあるけど、主人公がそもそも魔女に辿り着けるかどうかも賭けになる。性格の良し悪しと戦闘センスは別物だ。
絶対ディランが幸せになるというのであれば心苦しいけど猫になってもらうことは歯を食いしばって容認するけど……。あの心を折りに来る戦闘を確実にクリアしてくれるって保証がないとやっぱり不安が残るよね……!
それにやっぱり単純にディランが呪いにかかって悲しむのは嫌だし、確実な幸せが保証されていない以上放っておくことはできない。
そうなるとやっぱり私は魔法を鍛えることに集中するから、ご令嬢たちの御呼び出しを気にしている暇なんてない。
ただ、貴重な体験をしているとは思うけどね!
こうした日々の生活は基本ぼっちでも、放課後は時々ディランがやってくる。
いや、あれだけ一緒にいたんだから、まったく一緒に行動しないなんてことはないと思うけど……一緒にいると、やっぱり周囲からの注目がすごい。王子って凄いなぁと思わずにはいられない。私なら絶対隠れたくなる。
ディランも長年の付き合いがあるため、私が周囲からの興味本位の視線は嫌っていることを察してくれている。
だから一緒にいるときも人目を避けられる図書棟へ向かうことが多い。
場所が場所だけにあまり話はできない……と思いきや、ここでは当たり前のように話ができる。風の魔法の応用で声が周囲に届かないように仕掛けがしてあるのだ。
おまけに私単体ならいざ知らず、ディランを王子だと知った上で無断で近づくような輩はいないし、そもそも離れたところでディランの側近が見張ってるからやって来れない。実質的に私たちは二人きりだ。
学園ものなら鉄壁の守りを偶然抜けてでも平民の主人公が登場するはずなのにと思うと、少し惜しい気がするけども。
だって、学園版主人公とか絶対可愛いじゃん。
まだまだ愛らしさを残すディランと組み合わせたら、昇天せん勢いで萌えられる自信がある。
やっぱり成長した姿とはまた違う萌えがあるよね!
「……ねぇ、考え事?」
「え、あ、申し訳ございません」
いけない、いけない。
本人を目の前にして意識を飛ばしてしまっていた。
「何を考えていたの」
「大したことではございませんよ」
「大したことがないから言えるよね?」
むしろ大したことがなさすぎる妄想なので絶対に言えない。
ただ、誤魔化し方のバリエーションには自信がある。
「少しお腹がすきまして、夕飯はなにかと考えていただけです。……内緒ですよ?」
……どうして私はこの回答をしたのかな。
ほかにも誤魔化せる候補があったはずが、率直な感想を口にしてしまうあたり少し精神年齢が身体年齢に引っ張られ始めている気がしなくもない。頑張れ、私。大人な対応ができる令嬢の振りをしなければ、帰宅後の魔法漬け生活は送らせてもらえないよ。色々頑張っているし大人びているから判断を間違えないっていう理由で好きにさせてもらっているんだから、子供っぽく振舞うわけにはいかないよね。
でも、言ってしまったものは仕方がない。
それに今日は授業のあとに先生と魔法談義をしていたら昼食を食べ損ねちゃったんだから……。
「……それは、一大事だね。もう集中も切れてしまった?」
「ええ。でも、もう終わりましたから」
もともとほとんど終わっていたので、レポートは無事完成だ。
だから帰るだけなのに、ディランは何とも言えない、難しそうな顔をした。
「何かわかりにくいところが?」
「いや、そうじゃなくて……。最近、ロザリンドは嫌がらせを受けていない?」
どこからの情報なのだろうと私は真剣に考えた。
考えたけど……わからない。
多分呼び出しのことを言われているのは分かる。
だからこそ、誰でも目撃できただろうなと思うから、誰が伝えたかなんてさっぱりだ。
一応私はできるだけ人目につかないように周りの目を気にしていたけど、呼び出した子がそれをできていたかは分からないもんね。ディランの耳に入っても仕方がない。
でも、実際嫌がらせっていうほどのものじゃないし。
もともとボッチだから仲間外れにされることもないし、持ち物がなくなったり、足を引っかけられたりといったこともない。
ということで、呼び出されたからと言って嫌がらせであるとは言えないよね?
「特にございませんよ」
「本当に?」
「ええ。嫌がらせの類はございません」
「でも、呼び出しがあっただろう?」
「あることはありましたけど、普通にお話するだけで、意地悪とかはございませんよ」
まあ、あの呼び出しも精神年齢が実年齢であれば圧に負けた可能性もあるが、今の私では特に気にならない。
けれどディランの顔は憂いよりも疲れを帯びた表情にも見えなくもない。これはどういう心情なのだろう。
「……頼ってほしいって思うんだけど、本当に気にしてないみたいだから何も言えないんだけど」
「え?」
不貞腐れたような言葉に、私は目を見開いた。
え、だって。
まさかディランが私の心配をしてくれたというの……!?
お姉ちゃん、なんだか感動してるんですけど!!
心配するのは私の特権だと思っていたのに、いつの間に成長しているの…! っていうか、成長するために頑張ってるのは知ってるけど!!
「……ロザリンドがもっと困ったときには頼られるように、頑張る」
そう、妥協のようにぼそっと呟かれた言葉に緩みかけた表情を私はぐっと引き締め直した。
ここで笑ってしまうと馬鹿にしているように見えかねない。絶対だめだ。
でも、無言も辛い……!
「……私も、もっと魔法を磨いてディラン様をお守りいたしますからね。護衛の方よりも、確実に」
頼りになるように頑張ってくれるというのなら、私はその目標に向かって進むディラン様を守れるように絶対魔女から守って進ぜよう。
絶対に!!
そう誓ってからさらに年月が過ぎた。
小さなイベントを挟みながらも、やってきました十五歳の建国祭!!
魔女が現れるのはダンスが始まり会場の雰囲気が盛り上がってきたころだ。……といっても、ゲームだと時間の進みが正確にはわからない。だってゲーム内でのこの描写はオープニングで流れるムービーと、王子の回想と、仲間の証言だけだ。
でも、これが分かってるだけでも警戒を高められる。
だからディランからのダンスの誘いも断ると決めていた。
ゲームで王子とロザリンドが踊っていたのかどうかは分からない。
もしかしたら襲撃前に踊っていた可能性はある。一応婚約者だしね。
でもダンスで警戒を怠り襲撃の反応が遅れた場合はディランを守り切れないかもしれない。
そう思った私は、足を怪我したことにしようとした。
けど、そんなことは出来ないよね。
どうしてって?
そりゃ、簡単な怪我なんて魔法薬で治ってしまう世界だからですよー……!!
普通の怪我なら魔法薬がもったいないって考える人が大半だけど、良家の令嬢は大概薬で治す傾向がある。ていうか、私も適性は低くとも簡単な治癒魔法なら使えるから自分で治せってなるよね。
だから決意はむなしく、提案を受け入れざるを得なかった。
おかげで私はダンスの練習三昧だった。
普通には踊れるけれど、礼儀作法を完璧にこなしているディランがダンスが苦手なんて思えない。つまり、無難程度であれば私は浮いてしまう。
魔法と違って、私はダンスが好きになれなかった。
三拍子は日本で馴染みあるリズムではないためワルツの音が掴みづらい人も少なくないって前世で音楽の先生が言っていたので、なんて言い訳を頭の中でしつつ、靴擦れを魔法で治しながらひたすら稽古した。
おかげで何とかダンスは褒めてもらえるレベルでこなせるようになっていた。
頑張った。偉いぞ、私!
ただ、こんなことになるなら自動でダンスを踊る魔法の開発でも取り組んでおくんだったと思ってしまう。……私には難しそうな魔法だけど!!
十五歳になった今、私は五属性の高等魔法を習得できている。
そして扱える属性が増えるごとに、無属性と分類される雑魔法も上達した。ついでに無属性魔法って実は無属性じゃなくて複合属性の結果なんですね、という話を魔法学の教授と話をし、論文を発表し、魔法学の権威と称される魔法学会からちょっと自慢できる賞をいただいたのは12歳の時だ。
おかげで今の私は『鉄壁の守り姫』以外にも『魔法の申し子』とも呼ばれるようになったんだけど……なんていうか、この二つ名はいずれ挫折しますというフラグをまとわせているような気がするので、あまり嬉しくはない。
「ロザリンド、考え事?」
「はい。……いえ、考え事とは異なりますね。緊張しております」
いや、本当に緊張しているわけではないけれど。
ダンスを失敗したときの言い訳にもなるしと思っていると、ディランが笑った。
「ロザリンドでも緊張するんだね」
「あら、私が緊張しないと思っておられますか?」
確かに緊張しないように振舞っているけどね!
それが見破られていないということはそれだけお姉さん役が板についてるっていうことなんだろうけどね!! でも、緊張なんて珍しくないことだし!!
しかも、今回なんてディランのダンスの相手でしょう。
緊張しないわけがないじゃないですか。
ダンスが上手いっていうのはもちろんだけど、成長したディランと超近距離で向かい合うわけですよ。そう、成長したディランと!!
普段はあまり気にしないけど、さすがにこれだけ格好良く成長しているディランを意識する距離だよ、これは!!
あー、お姉ちゃん、やましい気持ちを抱くことは致しません。
そう自分に言い聞かせ、集中して魔女を探すのだからと現実的な思考に意識を切り替えた。
実は魔女は別に個人的な理由でディランを害そうとしたわけではない。
仮にその程度であればもっとお気楽な敵になったことだろう。
魔女がディランを連れ去りたいのも、世界の崩壊を止めるための生贄として差し出そうとしただけだ。聖女の血が入った王家の血が流れていて、弟がいるため国家の継続に影響がなさそうで、それでいて世界の崩壊を止めるための人選としてディランが適格だと判断されたのだ。
けれど、その世界の崩壊って結局主人公が止められるからね。
あと連れ去られる際にディランが猫にされた理由は、魔女が使える魔法の中で即解除される心配がなく運びやすいだろうと判断した結果、だったかな? 結局ゲームでは猫にした後に逃げられちゃうんだけどね。そして、そこで主人公と出会うのだ。
だから失敗になったけれど、実際人を猫にする魔法の選択は悪くはないんだと思う。だって必要性の少ない魔法を初見で解明出来る人なんていないだろうし。いくら魔女が強くて強力な魔法が使えても、麻痺とか睡眠だと魔法使いに解かれてしまう可能性も高いし。
ただ、今はゲームの詳細は関係ない。
ここで大切なのは、私がディランを守ることだ。後のことは後で考えればいい。
できればここで魔女と協力関係を築けたら将来も楽になると思うけど……まあ、今日対話することは残念だけど不可能だろう。世界の崩壊の話を知っている、なんて公言したら周囲を恐怖に陥れるだけだし。
何にせよ私は一番近くで護衛できるのだ。そのアドバンテージを活かして、今日は絶対に守り切る……!! ちょっと予定より距離は近すぎるけれど!
「やっぱり、ロザリンドは上手いね」
「お褒め頂き光栄です。けれど、ディラン様のリードがお上手だからですよ」
「謙遜しなくてもいいのに」
いえ、これは本気です。
穏やかな笑みを浮かべてはみるけど、謙遜が過ぎるのはディランのほうだ。
けれどこんなことを彼から言われれば、本当は自分が上手なのかなって勘違いをしてしまう女の子も出てくると思う。
「でも、嬉しいな。ロザリンドに褒めてもらうのは」
「ディラン様を賞賛するお声は多いことはご存知でしょう?」
「良い風に捉えてもらうのは嬉しいんだけど、一番はやっぱり昔から私のことを知っている婚約者殿からの言葉だよ」
それは幼い天使の頃からの成長を見ているから、という意味なのかな? でも、昔から努力家だったとは思うよ。怖がりだけど、決意さえすれば絶対に逃げない人だったから。
守ってあげなきゃ、っていうお姉さんスイッチが入ったのは間違いないけど、それがずっと継続したのは何も外見だけの話じゃない。
だからこそ余計に推せると思ったんだ。
……でも、婚約者か。
ディランを守ったら当面は婚約者の立場は継続だよね?
うーん、嫌ではないけれど……私とディランが結婚するというのはやっぱり解釈違いな気がする。主人公のことを抜きにしてもディランだって姉弟程度にしか思っていないと思うから、本当に結婚ってなってしたったら気まずくない?
「……ところで、ロザリンド。今日のドレス、とても良く似合っているね」
「ありがとうございます。ディラン様の御蔭です」
今日のドレスはディランから贈られたものだ。
贈られたこと自体は初めてではない。
婚約者という立場上ディランの装いと合わせたほうがいいとのことで、いつも金銭的負担に後ろめたさを覚えつつ任せてしまっている。
でも、ほんとセンスがいいのよね。
いつもロザリンドのために作られているというドレスが届く。
私が選ぶよりも絶対に似合うドレスだ。
ただ、私の言葉にディランは眉根に力を入れた。
「……いや、それだと自画自賛しているみたいじゃないか」
「そういう意味ではなかったのですけど」
「知ってる。でも、素直に言葉のまま受け取ってほしいんだ」
「褒めてくださっているのはとても嬉しいですよ」
「揃いのデザインで本当に良かった。そうじゃなかったら、変な虫が寄ってくるかもしれないからね」
そう茶目っ気を交えたディランに、私は『この子って冗談言えたのか』と思ってしまった。
ディランって軽口を叩くタイプではないはずだから、びっくりだ。
ただ誤魔化しは得意でも、冗談をうまく切り返すのはあまり得意ではない。
だからごくごく普通の、平凡で事実を告げる回答を、軽く笑いながら言うくらいしかできないのだ。
「そのような変わった御方がいらっしゃるなら、是非お目にかかってみたいものですね」
だって、いるわけないよね?
いや、ロザリンドは美人だよ? びっくりするほど美人だよ?
でも『鉄壁の守り姫』だよ。『魔法の申し子』だよ。
ゴツイ二つ名に加え、貴族女性は夫を支えるべきという考えが根強い中での職業的称号だよ。
後者は例のフラグがありそうなこと以外は嫌ではないけれど、結婚しないで研究しますっていう風に見られてもおかしくはない側面もあるからね。
まあ、それ以外にも現状王子の婚約者であるわけだけど。
そんな中でそんなもの好き、いると思うの?
魔法談義のために来てくれる人はいるけれど、『虫』と呼ばれるような輩が寄ってくることはないと思う。
「いっぱいいるから、絶対に気を付けて」
「ふふ、かしこまりました」
「……絶対わかっていないでしょう」
だって、ありえないことだから。
そう思ったけれど、面白い返しではないので笑って誤魔化した。
そうしているうちに、一曲目の終了が近付いた。
今のところ魔女の気配は感じられないが、感じてから動くのでは間に合わないかもしれない。
気は抜けないと、私は自分を鼓舞することにした。
だって、今の段階では魔女のほうがレベルが高いんだもの。
私だって出来る範囲で鍛えてはいた。
ちなみに私のレベルは現在39。
これは周囲の警備担当者より明らかに高いレベルだけれど、それでもまだゲーム終盤で主人公が魔女と対峙するようなレベルじゃない。本当はもっと上げたかったし、効率も良かったはずだけどさ! それでも! 令嬢という肩書が私のレベル上げの邪魔をする!!
だからこそ、机上で魔法の理論を解く時間をたくさん取ったということもあるけどね!
ゲーム内で魔女に安全に勝とうと思えばレベル50は欲しいところだ。戦闘が得意な人だとレベル45くらいから楽に感じられるって聞いたことがある。アイテムを惜しみなく使えば、ビギナーでもレベル40でも倒せるっていう話も聞いたことはある。
ただ、これはあくまで主人公を操作した場合なんだよね。
ほら主人公って一番使う都合上結構設定盛ってあるから……。だいたいドレス姿でアイテム満載にして持ち込むって不可能だよ。回復薬何十本も仕込むとか、ゲームの画面じゃないとできないから……!
うん、やっぱりぎりぎり。本当にぎりぎり。
満載とまではいかずともある程度アイテムは隠し持ってるけど……そもそもリアルタイムの戦闘ってアイテム使ってる暇ないしね!!
ただ、今回は短期の防衛戦だ。耐久戦じゃない。
使ってくる魔法の内容もわかっているし、その対処用の魔法陣も用意した。それでいて魔法使いの援護が受けられるまで攻撃を食い止めればなんとかなるはずだ。
だからレベル不足も補える……なんて思っていた時だった。
私は一人のドレス姿の女性に目が釘付けになった。
……え、あのエグいほどの美女って、魔女じゃない?
知ってるビジュアルと衣装や髪型が違うけど、顔はそのままの超絶美人。襲撃の時の衣装はこれじゃないけど、魔女なら早替えもできるよね……なんて悠長なことを言っている場合じゃない!!
その直後、急激に彼女から魔力の気配が膨れ上がったことを感じた私は、ディランの手を振りほどき、魔女と彼の間に割り込んで自分の力を解放した。
いきなりすぎるって! 私、不意打ちは得意じゃないんだから……!!
とにかく、間に合え……!!
そう願いながら私は防御結界を発動させた。
幸いにも相手の魔法は全力じゃなかった。
不意打ちを狙うための早打ちだったからだろう。全力だと攻撃までに魔力を集中させることで隙が生まれるもんね。警備兵が配備されている状態では、本来適切な力加減だったといえるものだったとは思う。
事実私さえ気づかなければ、ディランは猫になっていたと思う。……なんて言ってみるけど、相当きついけどね!!
耐変身魔法に特化した防御結界を用いたにも関わらず、即破られかねないって思うくらいキッツい攻撃だったけどね!! なんだか腕ももげそうだし!!
でも、大丈夫。予想通りこれは長時間継続する攻撃じゃなかった。
ゲームだとエフェクトは画面が光って、次の瞬間に王子は猫になってしまってたってくらい一瞬だしね!! まあ、なんだかんだの解呪の腕輪で日中は人間の姿に戻ることができるようになるんだけど……とりあえず、一瞬で終わる攻撃でよかったよ!!
「何事だ!?」
「今の光はなんだ!?」
「殿下は無事か!?」
周囲の人々のそんな声が聞こえた。
ええ、無事ですとも!! だって防いだ私が無事なんだからね!! 褒めて!!
魔力同士がぶつかり白い煙が視界を遮る中、私は目に魔力を纏わせて魔女の表情を覗くと、そこには驚愕した表情が見えた。
はっははー、残念でした!
ディランは猫になんてさせないからね!
でも、ここからどうしたらいいのかな……!
想定ではすでに宮廷魔法使いの皆さまが動き出すはずだったのに、誰も魔法の発動に移ってない!! ゲームだったらディランが猫になってすぐに応戦していたのに、驚いて固まってるみたいじゃない、っていうのを0.1秒くらい使って確認した。不意打ちに慣れていないな、魔法使いさんたち!!
唯一騎士団長さんは反応しているけれど、すぐに魔女を退かせるのは難しい。
いかんせん距離がある。彼が近付けば魔女は自分が不利だと判断して撤退してくれると思うんだけど……! だって、魔女は王国軍の戦力をよく理解していて相手のリーチに入らないようにしていたし! だからこそその中に入っていない私が防げたんですけどね!!
だから、もう一撃くらいは来るだろう。
うん、あったとしても、もう一撃だけだと……思いたい!
私と魔女のレベル差から考えても何発も打てる術じゃないとは思う。
でも、その時に状況を見てディランの防御だけに徹している場合じゃないと気が付いた。
ゲームの時と違って、彼女の周囲には招待客が多くいる。
仮に彼女が周囲の人たちを巻き込もうとしたら、誰も守ってあげられない。人質に取られても困る……!
そう思った私は少し乱暴になったけれど、魔女の周囲にいた人たちを魔法で無理やり下がらせ、人々の前に魔法の防護壁を作った。
これでひとまず大丈夫……!
その状況に舌打ちをした魔女は、しかしそのまま引いてくれることはなかった。
魔女はこちらに向かって攻撃を放ってきた。
別の動作を入れていたから、私の反応はさっきより遅れている。
ただ、魔女の攻撃自体はさっきと同じ……よりちょっと強いかな!!
けれど、何とか耐えられた。
攻撃が終わると同時に魔女が遠ざる気配が感じられる。
「とりあえず……っ撤退、させられた……!」
私は息を吐くと同時に膝をついた。
うん、無理。10㎞全力で走るよりきつい。あと、精神的にも普通にきつい。
いや、嘘です。相当きつかったよ……!
今回の反省を生かした今後の護衛はたぶん偉い人たちがいろいろ考えてくれると思うけど……って、ディランがすごい顔をしてる。
うん、状況的にびっくりしないわけがないんだけど……。
「お怪我はありませんか、ディラン様」
無事に終わったよ。
怪我がないことは知っているけど、終わったことを強く認識してもらうために尋ねてみた。
「ロザリンド……」
「ええ、ロザリンドでございます」
「み、」
「み?」
「耳が……」
みみ……? みみって、耳……?
なぜ耳なのかって思ったけど、その視線が私の頭頂部に向かっている気がした。
なので、ふっと手を頭にやった。
「え、なにこのふわふわした三角」
思わず素の声を出してしまったが、それに構っている場合じゃない。
これは……私の頭部に猫の耳がついているではないか。あ、人間の耳も残っている……じゃなくて!!
「ディラン様、ちょーっと失礼いたしますね! ええっと、ドレスが汚れましたので!!」
苦しい言い訳なのはこの際どうでもいい。
ちょっと待って、猫耳? 猫耳?
会場から走って把握している空き部屋に入り、私は頭を抱えた。
「これ、呪いをもらっちゃってるじゃない……!!」
相殺、成功していなかったー!!
絶対に大丈夫だと思ったのに、猫耳って!
二回目の防御間に合ってなかったんだね!!
猫被りは散々やってきたけど、本物の猫耳が自分に生えることはちょっと考えていなかったかな!!
まあ、ロザリンドに猫耳って意外と合うけど!
……うん? これはこれで私的にはあり……だけど! 異端すぎるよね、この風貌!
でも、あれ?
私に猫耳が生えた程度だと困ることってない気がする。
だって、猫の呪いって一時的にアイテムで封じられるじゃん。
かなり希少性が高い『破魔の腕輪』という名前のアイテムなんだけど、実は私、この十年で一つ完成させてるんだよね。失敗作が百個くらいできてしまってるけどね。
一応作らなくても手に入れる方法はあるのだけれど、万が一私がディランを守り切れなかったときのために頑張って構造から何から考えて作ったんだ。
猫耳も結局は呪いの一部だから、腕輪で日中は耳を消せるよね。ディランを守れたなら、私が使っても問題ないよね?
猫耳が人の目に入っている可能性はあるけど、治しましたと伝えれば見かけ上納得はされるだろうし。
ただ、呪いを受けた者が王家に連なる者の婚約者を続けるのは難しいかもしれないから、婚約は早々に撤回になるかもしれない。
でも、呪いのことを公表せずとも、私が周囲に悪く思われずに婚約者から降りるための理由は何とかなるでしょう。
例えば私が今回の件を通して『未来の王妃ではなく魔法使いとして国を守りたい』と強く申し出たことにすれば、それで通るかもしれないし。王妃様って忙しそうだし、魔法の研究に没頭している暇なんてないよね? うん、きっと言い訳として成り立つはず。そうすればディランを側で守り続けることもできるし!
「あれ、それじゃあ本当に困ることってなくない……?」
そう思いながら猫耳にちょっと意識を集中させてみた。
これ……なんか、普段聞こえない音が聞こえてるきがするんだけど、猫の特性かな。猫って高音が聞けるっていう話だったし。
って、あれ? 嗅覚も凄く上がってる気がする。会場の美味しそうな料理の匂いがここまで感じられるし。
もしかしたらほかの猫的な能力も上がってるかもれいない。
試しにちょっとジャンプしてみたら、想像以上に体が軽い……!
「え、じゃあこれ、私身体的にも優れたつよつよ魔法使いになるってことじゃない?」
外見に恥ずかしさは多少あれど、この実利は悪くない。
妙な魔力を猫耳だけに感じるけれど、こちらの魔力に干渉されるような、悪い影響はなさそうだし。
あと、この耳の力を使えば魔女との実力差を埋められるかもしれない。猫っぽい能力がないかも、あとで試そう……!
っていうか呪いじゃなくてもっと簡単に解けるもので、身体の一部を動物化させて能力を得る魔法の開発も出来るかもしれない。新しい研究テーマにできるかも!
私が前向きにそんなことを考えていると、部屋に控えめなノック音が響いた。
「ロザリンド、入っても構わない?」
「あ、大丈夫ですよ」
部屋に入ってきたディランは時々見せる難しい表情を浮かべている。
めちゃくちゃ心配してくれている。
というか、心配せずにいられるわけがないよね。
原因が自分を庇ったことにあるんだし。
気まずいだろうに、すぐに来てくれるのは本当に優しい子だ。幸い私は落ち込んでいないけれど。
「今……大丈夫、って聞くのは違うと思うんだけど……」
「大丈夫ですよ。これは呪いの一種みたいなものなので解呪の腕輪をすれば見えなくはできそうですし」
「そう、なんだ……」
安心してもらうための言葉は、まったくディランの声を明るくはしなかった。
……ディランだし、やっぱり気にしちゃうよね。
でも、そんなに落ち込まないで……! 私はきみが守れて嬉しいくらいだよ!
「ディラン様、大丈夫ですか?」
「私は全く問題ないよ。ロザリンドが、守ってくれたから」
唇を噛みしめるディランを、私は『あ、この表情も可愛い……』なんて一瞬思ったけど、ぐっと意識を戻した。今はそんな場合じゃない。自重、大事。
だってこれは問題がないといえる表情じゃない。
「私も元気ですよ。広間は……ちょっと散らかってしまいましたが、多分怒られないはずです。だから問題はありませんよ」
「それは心配してない。でも……どうしてロザリンドはそんなに明るく振舞っているんだ。私のせいで、このようなことになっているのに」
「ディラン様のせいではなく、魔女のせいです。ディラン様のせいなら怒りますけど、これはディラン様も怒っていい話です」
「そういうことじゃなくて!!」
「それに、私、お約束したじゃないですか。私は魔法を磨いてディラン様をお守りいたします、と」
そもそも呪いも魔女を倒せば解けるものだ。
術者を倒せば呪いは解けるというのは、この世界の一般常識で、魔法に縁のない人でも大概は知っている。
ゲーム内では魔女を倒す以外にも、二週目以降の王子ルート限定でかなり厳しい条件をクリアし続けていけば最終決戦前で主人公が覚醒して『浄化魔法』を会得し、王子の呪いを解いて一緒に戦うなんてストーリーもあるらしいけど、生憎私はそのルートをクリアしていないし、他人(主人公)の動きに期待するなんて意味がないと思うから正攻法で行こうと思う。あれって確か相手を思う強い心が引き金になったはずだから、主人公も私相手に発動させるのは難しそうだし……。
「ロザリンドの言葉を忘れたことなんてないよ。でも、私もあの頃のように小さな子供じゃないんだ。それなのに……」
「大丈夫です。私は今でも問題ありませんし、魔女を倒し呪いを解かせますから」
「そうじゃなくて! 私は、きみを守れるようになりたい。そう、ずっと思っているのに……ごめん」
……え?
ディランって、私を守りたいって思ってくれてるの!?
お姉ちゃん感動するんだけど……!? これ、動画に収めておきたいくらい尊くない!?
と、いけないいけない、テンションを上げすぎてはいけない。
だって、ディランは本当に真剣なんだから。
「ロザリンドは私は悪くないと言ったけど、私が強ければよかった。だから……私があの魔女を倒し、ロザリンドを元に戻す」
……うん?
聞こえてはいけない決意が聞こえた気がする。
都合がいい聴き間違いだったらいいんだけど……ディランが魔女を倒すって言った?
「え、ダメですよ。あの魔女はディラン様を狙ったんですよ」
「だからだよ。私を狙って再び姿を現すかもしれないだろう」
「ダメですって!」
「どうして。私だって修行をしてきた。……一度目の攻撃に反応できなかったから、ロザリンドより強いとは言えないかもしれない。けれど、あきらめざるを得ないほどの力ではないはずだ」
ディランが修行をしていたのは知っている。
どんな修行なのかはわからないけれど、王族もある程度武術ができなければなめられるという話も聞いたことがある。
でも……そういうのは、人と戦うことを想定しているよね?
少なくとも最強の魔女と戦うことは想定していないと思う。
そもそも、ディランの強さってどれくらいなんだろう?
私は少し迷ったけど、ディランのレベルを覗き見ることにした。
魔法を究めたおかげか、私には相手の真名とレベル・HP・MPを見る術が使えるんだよね。正確に言うと術が使えるんじゃなくて、情報遮断の術を使わないと常に見えている、かな。正直、プライバシーの侵害だ。口にしなければ気付かれないだろうけど、この表示が頭上に出るからずっとON状態だと周りが見にくくなるんだよね。ちなみに攻撃力などは見えていない。もしかしたら今後見えることになるかもしれないけれど、これ以上視界が悪くなることは要らないと思う。
……って、え。ディランのレベル……高いんですけど。
レベル42って何!? 私よりも3つも高いし!!
ステータスはHPに偏っていてMPは少ないから、魔法適正は低そうだ。それだと魔法探知ができないから、魔女の存在に気付けなくても納得できる。
それでもこのステータスなら魔女の間合いに入りさえすれば勝負ができるんだろうけど……でも、これじゃ、状態異常への抵抗力は皆無だね。猫になる呪いへの抵抗力はない。助けてよかった……!
あと、これではっきりしたのは魔法使いの同行は必要不可欠だということだ。状態異常からの回復や抵抗力上昇の魔法が存在するから、助けになる。
「ねえ、ロザリンド。きみが私をずっと弟のように見ているのは、よく知っているよ」
「え? ええ、その通りです」
姉のようだと言ってくれたディランの言葉、そしてあの時の可愛い表情を忘れるわけもない。
「でも、私はそれだけだと嫌なんだ。……私のことを、意識してほしい。男として」
「……え?」
ディランを女の子だと思ったことは一度もない。
でも、ディランが言っているのはそういうことではない気がする。
いや、多分違うんだろうけど今の今まで考えたこともなかったがゆえに確証が持てない。
「ほら、やっぱり。その顔。かけらも考えたことがなかったって顔してる」
「考えたことあるほうがおかしくありませんか!?」
「婚約者なんだから、おかしくないでしょ」
いや、それはいつか解消もあり得ると思ってですね! ていうか今の猫耳がある状態だと王家に変な呪いを持ち込むわけにはいかないから解消すると思うんですけど!! いや、呪いは解くけど!!
「魔女を倒したからといって、決して好感度が上がるとは思っていない。そこは安心してほしい。けれど私を原因とした呪いは私が破らなければ、スタートラインにも立たないと思う」
そういって、ディランは私の両手を掴んだ。
記憶の中では白くてぷにぷにした可愛らしい手だったけれど、今のディランの手は私よりも大きく、マメで硬く、しっかりとしていた。
え、なんだか急に男の人って感じがするんだけど…!?︎
そう思っていると、手から急に白い光の珠がまるで噴水のように溢れ出した。
あ、すごくこれ落ち着く……って、あれ。
これ、もしかしなくても…………猫耳、消えた!!!
つまりこれ……浄化魔法だよね……!?
「ロザリンド、どうしたの?」
「あ、はい。猫耳消えました」
「え!?」
ディランは浄化魔法を使った自覚はなかったらしい。
いや、知ってたらとっくに使ってるよね!!
ていうかディランは浄化魔法を使う素質があったんだ。聖女の血を引く王家の者っていう設定があるから、そのあたりの都合かもしれないけど……嘘でしょ、と言いたくなる。
素質があったことを疑いたいわけじゃない。
ただ、覚醒条件の相手を思う強い心がディランにはあるわけで。
一瞬吊り橋効果だとか、幼いころに決められた婚約者だから好きな相手だと勘違いしているって思ったけど……これって、え、本気なやつですか!
「よ、よかった……」
私の脳内なんて知らないディランは心底安堵した様子だけど、私はそれどころじゃない。
「あ、の。ディラン様。ディラン様って私のことがお好きだったんですか?」
「え、今聞くの? 言ったよね? いつもなら私の言葉は疑わないのに……信じられないの?」
確かにタイミングとしてはおかしいかもしれない。
しかし私にとっては初耳だ。噓でしょうと言いたいところを浄化魔法という証拠に黙らされた状態だ。それでも間違いの可能性はあるかもしれないので、口頭でも確認しておきたい。あと、聞き間違いの可能性も捨てきれないし。
「私はずっときみの隣に立ちたいと思っていたよ。弟じゃなくて、男として、婚約者として」
「え、あの、冗談ですよね?」
「嘘じゃないよ。隣に立ちたいのに追いつかないから、必死で追いかけていたけど」
あれ、今までお姉ちゃんを追いかけているっていう感じじゃなかったんですかー!!
張り切っていた姉モードが今更ながら恥ずかしいんですけど!!
そしてレベルだけなら私もう後塵を拝していますけど!
武術タイプと魔法タイプの違いがあるから、気づかないだけだよね、これ。
普通他人のレベルなんて知るはずがないわけだし。
「私は今、お話に頭が追い付いていません」
「いいよ、わかってたことだし。はっきり言われるとけっこうくるけど……警戒されないし、ちょうどいいかなって利用してたところもあるから」
苦笑するディランは、どこか今までよりも吹っ切れたような表情に見えたけど……あれ? 後半、なんだかピュアな弟分らしからぬ言葉が聞こえた気がするけど……気のせい?
気のせいだよね? ディランが猫被りとか、ないよね?
でも、今のディランはなぜかいつもより少し大人びて見える。苦笑いもいつもとちょっと違うような……。上手く説明できないんだけど、今日でディランって3年くらい年取った? と思うくらい、いつもの遠慮がちな雰囲気はない。決して老けたように見えるっていってるわけじゃなくて、急に色気が出てきたように見えるとでも言えばいいのかな……!
「……聞いてる?」
「え、ええ」
「ならいいんだけど。……魔女は私が倒すから、こんなことは二度と起こらないようにするから」
「あ、その話ですけど、やっぱりディラン様が強くてもダメです」
「なんでここで止めるのかなぁ」
「だってディラン様がどんなに強くても魔法耐性がないでしょう。ディラン様は私が守ります。だから心おきなく戦ってください」
一瞬心ときめきかけたけど、ディランの言葉に私は急に現実に戻った。
どうも私は一方的に守られる側は性に合わない。そうでなければ今までディランを守るつもりで生きてなんて来なかったはずだし。どう考えても守ってもらう御姫様にはなれないタイプだ。
それでもまだ、一方的に守れるだけの力がないこともわかっている。
私より忙しいはずのディランが隠れて訓練していたことも、自分よりレベルが高くなっていることにも気づかなかったし。正直、自意識過剰だった部分もあるのかなと思う。反省。
だから共闘が一番効率がいいんだと思う。
魔女に立ち向かうという私の希望もディランの希望も叶うし、二人とも相手に大人しくしてほしいと思っていることについては妥協となる。うん、おあいこ。そう、おあいこ。やっぱり……急に守られるというのはちょっとむず痒いしどういう顔をしていいのかわからないし!
「魔法耐性がない自分が恨めしいよ」
「魔力が高いと筋肉がやや付きにくいって聞いたことがありますよ」
「……それは困るかな。剣は振りたい」
少し拗ねた様子のディランに私は調子を取り戻した。
大丈夫、いきなり何かが変わったわけじゃない。
「笑わないでくれないか」
「いえ、ディラン様はディラン様だと思って安心したんです」
いきなり恰好よくなるなんてことはない。格好いい面が見えたとしても、知っている面があると思うと安心する。
「じゃあ好きなだけ笑っていいよ。これからわかるまで伝えるし」
……そういうことをいきなりいうのはやめてほしい。
心の準備をしていないと、思わず息を止めそうになる。
「とりあえず、魔女退治だな」
「そうですね。魔女に会わないといけませんね」
ひとまず、いろいろ終わってから考えよう。
すぐに考え始めたら私の心臓は持たないし。
しかし、そんな私の考えは甘かった。
心臓が異様に早く動いたり、止まるかと思ったり、なんなら口から出てきそうになるなんてことが何度も起こるなんて、思ってもいなかった。
諸々の出来事はあったが、後に登場した主人公は目を輝かせながら「お二人は運命の赤い糸で結ばれているんですね…!」なんて口にしながら「護衛を務めさせてください!」と心強い申し出をしてくれるし、魔女は魔女で「王家の末裔より貴女のほうが適性がある」と標的を変えてくるし、なんだかんだで意気投合して共闘のための勧誘を割と簡単に成功させられるなど考えもしていなかった。
けれどそれらの出来事よりなにより、隙あらば口説こうとしてくるディランに毎度驚かされ心臓が持たないと思わされたり、どう反応するのが正解なのか悩み尽くしたりする羽目になり、世界の破滅を防ぐほうが簡単だったということになるなど、思いもしなかった。
最初から惚れていたらこんな悩みを抱かなくて済んだのかなぁなんて現実逃避もしたけれど、そうして悩んでいることにすら気付き考えを口にしやすい雰囲気を作ってくれるディランに惚れずにいるなど、ロザリンドの中身が私である限り不可能だと思わずにはいられなかった――。
はじめましての方も、いつもお越しくださっている方もお読みいただきありがとうございました!
他作品(書籍化・コミカライズ化作品含む)もいろいろと書いておりますので、
よろしければそちらもご覧いただけますと嬉しいです!