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最終話 姫には幸せになってもらいたいから



 皇室に龍の(つがい)が生まれる時、姫は唯一人しか生まれない。


 歴史家によって知らされた、遥か遠い昔の物語。

 昔の人は書物に残したのだ。人が残すことの出来る数少ない、時を超える手段だから。




 だが今の世、そのことを知った皇族は皆で考え込んだ。



 姫は生まれ変わりというものの、かつての姫その人だとどうしたら分かるのだろう。


 孤独を抱えながら生まれてくるのだろうか。

 龍の(つがい)であり、得難い一対だと即座に理解するのだろうか。




 誰にも分からない。 


 分からないのなら、

 見守ろう──姫を。




 そうして姫の兄である皇太子は言う。

「龍の(つがい)であるということを、姫には成人の儀まで伏せていて欲しい、と願ったのだ」


「ええ……っ?」

 神にも等しい龍に、人が願い事を?なんだかそら恐ろしい気がして姫は震える。


「そ、それはどうして……」


 わたくしのせいで国が滅ぼされてしまったらどうしたらいいのだろう。

 それくらいならわたくし一人が犠牲になれば……

 


 きりっと唇を固く結んで顔を上げた表情に悲壮な決意を察したのか、いつもより数段優しく兄はそっと言った。



 姫は一生その言葉を忘れないだろう。



「姫の運命と人生は姫のものだ。幸せになってもらいたいのは龍も人も同じだから」




 兄の言葉に自分の耳を疑った。

 皇族なのに?そんな我儘が許されるの?


「幸い国は安定している。龍がずっと国を守護してくれていたからね。成人までに、姫に好きな者が現れなかったなら、本来あるべき形である、龍との婚姻で話を進めようと思ったのだよ」


 二人の様子を眺めていた龍は顔を伏せてしまって、青い瞳に何が浮かんでいるのか知ることは出来ない。 

「鱗が抜けるほど悩んだよ……。もし貴女に好きな人が現れて……そう考えるだけでも心臓が抉られるように辛いのだけれど……それが貴女の幸せならば、伴侶が私ではなくとも見守ろうと……ね」


 その言葉に、姫は大きな愛情が隠されていたことを知った。

 背の高い龍が顔を伏せても、背がそれほど高くない姫からは、その表情が手に取るように分かる。


 龍の青い瞳には、キラキラとひたすら輝かしいはずの光彩が不安定に揺れ動いている。

 しゅん、と項垂れたその様子に、いつものような堂々とした佇まいは欠片も無く、姫は思わず龍の頭を撫でたくなってしまった。

 



 何よりも、大事なことを言葉にして伝えていない。


(わたくしはこの乳母(?)のことは嫌いではないのだもの)




 姫の目の前にいる龍の表情がぱっと変化して、喜色満面になった。

(本当かい?)


(ええ。だって今回のことだって、乳母というものが普通女性が担うものだと知ったからで、気になってしょうがなかっただけなの)


(そうだったのだね)



「やっぱり、わたくしの心の声が聞こえているのね?」


「……そうだね。……不気味かい?」


 ふふっ、と表情をやわらげた姫はまっすぐ龍を見つめた。

「だって、いきなり掻き消えちゃうところとか、たまに貴方の心の声が聞こえちゃうとか。変異はいくらでもあったし、それが日常だったし。今さらだわ」


「見た目や人とは違うところで判断しないのだね」


「うん……でもね、これは内緒よ?わたくしの乳母は誰よりも綺麗だと思うの」






 兄がふと窓から外を眺めると、雨はすっかり止んでいて、大きな虹がかかっていたのだった。





 全てが丸く収まったあとも、はるか西方の大国が兵を派遣し攻め込んできたり、生まれ変わりということで姫が悶々と悩んだりするのだけれど、それはまた後の話。




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