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終末は二人で  作者: 一二三 五六七
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Memory 8. 私利ながら

 俺はエリカをイズートに預けると、ゲートを抜けて工事現場へと向かった。


「おーい、フェイリア」


 背後から呼ぶ声が聞こえ俺は振り返った。そこには駆け寄ってくるイツとムッツの姿があった。


「昨日も災難だったな。お前、あの女に惚れられてるんじゃねぇの?」


 俺に追いついたイツは笑いながら言った。


「“惚れる”というのは相手を刃物で斬りつけたり、銃で膝を撃ち抜いたりすることなのか?」


 俺が呆れながらそう答えると、イツは肩に手を回しながら「彼女なりの愛情表現かもな」と無責任に笑った。


「でもあの女、フェイリアを連れて行こうとしてるんだろ?よく分からないけど大変だなぁ」


 ムッツの言葉に、俺は「あぁ」としか答えようがなかった。


 この2体はエデンの目的が俺であることを知っているようだったが、そのために集落を無差別に襲撃するかもしれない、ということまでは知らない様子だった。もし知っていたら、いくら気のいいイツとムッツでもこんな拍子の抜けたような会話はできまい。


 俺がここに居続ければ、いずれはこの2体にも被害が及ぶかもしれない。無邪気に接してくるイツとムッツを見ながら、俺は憐情と罪悪感とが入り混じった何か苦々しい感情を覚えた。



 その日、俺はエリカが眠るのを確認すると静かに家を出た。


 月の見えない暗い夜道を1人歩きながら、俺は見慣れた風景を深く記録に刻み込むように御殿への道を1歩1歩踏みしめていった。


 間違いなくエデンは再び襲来するだろう。


 理由はどうあれ、俺のことが原因でこれ以上集落に迷惑を掛けるわけにはいかない。それに俺をかばうことによって、クジョウの立場が集落内で悪化することも避けたかった。



 3階の窓からは今夜も明かりが漏れ出していた。俺は入り口で退屈そうにしている男にクジョウへの取り次ぎを頼んだ。


 男は重要な会議中だから明日にしろと言ったが、俺が真剣な顔で「集落の存続に関わる重要な話がある」と言うと、訝しがりながらも御殿の中へと入っていった。


 少しして男が戻り、3階へ行けと言った。俺はいつものように礼を言うと広間へと向かった。



「こんな夜分にどうした?」


 広間の中央を見ると、環状に固められた机を囲うように集落の重役達が座っていた。皆一様に疲れたような顔つきだったが、中には険しい眼差しで俺の方を見ている者もいた。


「会議中にすまない。どうしても伝えなければならないことがあってな」


「なに、話がなかなか進まないから休憩しようとしていたところだ。――それで、重要な話とは?」


「明日の朝、ここを出ていこうと思っている」


「……何?」


 どこかぼんやりとしていたクジョウの目に生気が宿った。


「理由は分からないがエデンが俺を狙っていることは知っての通りだ。しかも、そのためにはこの集落に手をだすこともいとわない様子だ」


「だからこうしてあの女の対策会議をしているところだ。余計な気を回す時間があったらエリカの相手でもしてやれ」


 クジョウは険しい表情で俺に言った。


「クジョウ聞いてくれ。あんたは自分でも正体が分からないこんな俺に居場所と仕事を与えてくれた。本当に感謝している。ここの住人達も同じだ。労働用の機械であるはずの俺にみんなが人間のように接してくれた」


「当たり前だ。ここで住むからには人間もアンドロイドもない。みんな協力して生きていく仲間だ」


「だからこそ、俺は自分のことでここのみんなに迷惑をかけたくない」


「迷惑がどうした?!誰だって大なり小なり周りに迷惑をかけて生きてる!」


 感極まったようにクジョウは立ち上がり、大声を上げた。


「俺達は協力し合って生きているのであって、利用し合って生きてるわけじゃねぇ!自分が困ったときは助けてもらうが、他人の厄介事は御免こうむるなんてのはここじゃ通用しねぇし、俺がさせねぇ!――いいか?仲間の抱える問題は仲間全員で解決していく。協力ってのはそういうことだろうが」


 クジョウの話しぶりは、俺だけではなく、この広間にいる者全員に自身の思いを訴えかけているようだった。

 

「しかし今回の件は迷惑の規模が大きすぎる」


「規模がなんだ!同じことを何度も――」


「クジョウ」


 俺はクジョウの話しを遮った。


「お前はここのリーダーだ、だからこそ冷静にここに住む全員の利益を考えてくれ。あいつは旧式とはいえ軍事用アンドロイドだ。本気で暴れだしたら俺達の手には負えないだろう。仮に仲間の犠牲を払うことで撃退に成功したとしてもそこで終わりじゃない。俺がここにいる限り、あの女はきっと何度でもやってくる」


 クジョウはやり場のない気持ちを抑えながら黙っているようだった。


「――クジョウ、俺1人が出ていくことで解決するならば、俺は喜んでそうしたい」


 俺は誰も恨んでいないことを伝えようと、笑顔を作りながら言った。


 しばしの沈黙が広間を支配した。クジョウは悲しげな目で俺をひと睨みすると、再びその場に腰を下ろし机に向かった。


「――みんな、聞いての通りだ。フェイリアの勇気ある決断のお陰で我々を悩ませていた問題にも決着がつきそうだ」


 クジョウが集まった重役達にそう告げると、場には小さなざわめきが起こった。中には異議を申し立てる者もいたが、大多数のなだめるような声に圧殺されてその語勢も次第に弱まっていく。


 それまで周囲に立ち込めていた重苦しい雰囲気は急激に弛緩していった。


 次の瞬間、広間に凄まじい衝突音が響き、その場に居合わせた全員が冷や水を浴びせられたように喫驚きっきょうした。


 音の発生源はクジョウだった。クジョウは表情を隠すようにうつむいたまま、固く握りしめた拳を机に叩きつけていた。


「……解散」


 クジョウは内に籠った感情を押し殺しながら静かにそう言った。



 重役達が広間から出ていくと、俺とクジョウだけがその場に残っていた。


 張りつめたような静けさの中で時間だけが刻々と過ぎ去り、俺もクジョウも昆虫標本のようにその場に刺し止められていた。



 どれほどの時間が経っただろうか、突然クジョウが静かに口を開いた。


「今まで集落のために尽くしてきてくれた男を切り捨てなければならん俺の気持ち……お前に分かるか?」


「……すまん」


「……いや、謝るのは俺の方だ。とても謝りきれんがな……」


 クジョウはうつむいたままだった。


 机の方に目をやると、先ほど叩きつけた握り拳の下からは薄っすらと血がにじんでいた。


「クジョウ、1つ頼みを聞いてくれないか」


「……何だ?」


「エリカのことなんだが、あの子を一緒には連れていけない。どうか、ここで育ててやってほしい」


「そんなことは心配するな。エリカは俺が責任をもって引き受ける。……立派に育ててやるさ」


「……ありがとう」

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