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終末は二人で  作者: 一二三 五六七
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Memory 7. 至昂のイズート

 俺は数人の手を借りてジオの小屋へと運び込まれた。


 両膝とも関節部品こそ破損していたが、幸いにも大腿骨だいたいこつ脛骨けいこつの結合部位は無傷であった。


 これなら夜までには修理できるだろうと言いながら、ジオは不思議そうに俺の体を見回し始めた。


「やられたのは膝だけか?」


「ああ。――それがどうかしたのか?」


「いやな、クジョウの話だと相手はアンドロイド用のピアシングガンを使ってたんだろ?そんなモノを使いながら、なんで動力部を狙わなかったのかが不思議でな」


「エデンは俺を誰かに会わせるつもりだったようだ。だから逃げられないように膝を狙ったんだろう」


「誰かに会わせる?一体誰に?」


「分からない。だが、相手も俺のことを知らないようだ」


「なんだそりゃ?」


 ジオは運び込まれて床に置かれたままのエデンを見た。


「しかし、顔の形状まで同一の機体とはな。普通は製造段階で若干変化をつけるはずなんだが……何か理由でもあるのか?」


「理由は分からないが、そこに飾られている機体のシリアル違いの同一機体と見て間違いない。しかも、記録とAIは機体間で共有されているような口ぶりだったな」


「まさか集中管理型システムか?……しかし、ニューロン自体が存在しない現在、一体誰がそんな面倒なものを運用してるんだ?」


「分からない」


「“分からない”しか言わんな、お前は」


 ジオは今一つに落ちない表情のまま、雑多に積み上がった鉄くずの中からいくつかの部品類を拾い出し、放り投げるようにテーブルの上に並べていった。


 「まったく、クジョウの奴まで大事な頭をぶっ壊しおって……まぁいい、直すついでに膝関節の保護版をもっと丈夫な物に交換しといてやる。それとあとは――」


 ジオは独り言のように何かをつぶやきながら奥にある旋盤を動かし始めた。


 歌うように唸り始める旋盤の音が聞こえ始めたころ、俺は先ほどエデンと交わした会話を思い返していた。


(俺を待っているヤツがいる。でもそいつは俺を知らない……どういうことだ?)


 俺は奇妙な謎かけに頭を悩ませた。しかし、そんなことよりも気掛かりだったのはエデンの最後のセリフだった。


(恐らく“エデン”はまた来るだろう……まさか本気でこの集落を壊滅させるつもりなのか?)


 床に転がる壊れた機体に目を向けながら、俺は正体の分からぬエデンという存在に言い知れぬ不安を感じていた。


 

 そんなとき、俺は入り口のドアが少し動いたことに気がついた。ところがドアはそれ以上大きく開くことはなく、誰かが入ってくる様子もなかった。


 不思議に思った俺がドアを注視していると、僅かな隙間から誰かがこちらを覗き込んでいるのが見えた。


 誰かはすぐに分かった。


「エリカか?」


 俺が声を掛けると、エリカは鉄のドアを両手で押し開けて小屋の中に入ってきた。


「フェイリア、いたい?」


 エリカは俺のそばに駆け寄ると、心配そうにそう言った。


「俺は機械だから痛みは無い。だから心配するな」


 そう言って俺はエリカの頭を撫でた。それでもエリカは今にも泣きそうな表情で破損した俺の脚部を見つめている。


「ジオがすぐに直してくれるから大丈夫だ」


「エリカ、一人で先にいっちゃダメでしょ!」


 再びドアが開くと、長いスカートをなびかせながらイズートが中に入ってきた。


「あーあ、派手にやられちゃったわね。大丈夫?」


「今日中には修理が終わりそうだ」


 イズートはエリカに近づくと、その肩に軽く手を乗せた。


「フェイリアがまた怪我をしたって言ったらこの子、どうしてもお見舞いに行くって言ってね」


「そうか、心配かけたな」


「エリカ、フェイリアの修理は時間かかりそうだから、今日はウチでご飯食べてきな?」


 イズートがそう言うと、エリカは言葉を待つように俺の顔を見た。


「そうさせてもらえ。――手間を掛けてすまないなイズート。直り次第迎えに行くからそれまでいいか?」


「はいはい。まかせてちょーだい。それじゃエリカ、修理の邪魔になるから帰るよ」


 イズートは名残惜しそうなエリカの手を引きながら小屋を出ていった。



 俺が迎えに行ったときエリカは他の子ども達と一緒に布団で眠っていた。俺はイズートに礼を言うと、そっとエリカを抱き上げ家をあとにした。


 俺はエリカを抱き抱えながら、明かりの無い夜道を暗視を頼りに歩き始めた。


 広場に差し掛かった辺りで遠方からの明かりが横目に差し込み、俺は御殿の方へと目を向けた。


 1,2階はすっかり夜の闇に飲み込まれ、所々に小さく明かりがともるだけだったが、広間のある3階の窓からは夜を押し返すような明かりが煌々(こうこう)と漏れ出していた。


 あの広間は主に集落の重役達が会議に使用していると聞いたことがある。暗闇に抗いながらも、今日の一件についてお偉方同士で話し合いでもしているのだろうか?


 俺は視線をエリカに移すと、再び家路についた。



 翌朝、エリカの朝食が終わると、俺達はいつものようにイズートの家へと向かった。


 ジオのおかげで膝の調子はすっかり良くなっていたが、やはり人工皮膚はまだ完全に定着してはいなかった。


 ジオからは急激に膝を動かさないよう釘を刺されていたが、俺はエリカに余計な心配をかけまいと平静を装いながら歩いた。


 いつものように広場を歩いていると、御殿の方からイズートの声が聞こえたような気がした。


 俺が御殿の方に顔を向けると、御殿の入り口ではイズートが数人の人間に囲まれながらクジョウと何かを話しているようだった。


 イズートは大声で何かを訴えているようであり、その声には怒気が混じっているように感じられた。


 俺達は急いでイズートの元へと向かった。


「だから、そんな馬鹿な話って無いでしょ!」


「落ち着けイズート!まだ決まったわけじゃない。それに俺もお前と同じ気持ちだ」


 クジョウは激高するイズートを必死になだめているようだった。


「どうしたんだ?」


 俺は2人の話に割り込んだ。


「フェイリア!クジョウはね、あんたをこの集落から追い出すつもりなんだよ!」


 興奮するイズートをよそに、俺に大きな動揺は無かった。その選択肢は当然予測できるものだったからだ。


「だから、そんなことは言ってないだろ!少し落ち着けイズート!」


 そう言うとクジョウは苦笑いをしながら俺とエリカを見た。


「騒がしいところを見せてすまんな。突然イズートが押しかけてきてこの騒ぎだ」


「クジョウ俺は――」


「お前は何も気にしなくていい。これまで尽くしてきてくれたお前を見捨てたりはしない。俺に任せておけ」


「でも、あの女がこれ以上被害を広げる前にフェイリアを追い出すって、私は聞いたよ!」


「……どこで聞いたか知らんが、そういう意見が出ているのも事実だ」


「ほら見なさい!なんだかんだ言って結局は――」


「イズート」


 俺はイズートを見ながらその発言を遮った。


「何よ!あんただって少しは――」


 イズートは俺の方を向くと、足元で困惑しているエリカの姿に気づき言葉を飲み込んだ。


「クジョウ、俺のことは気にしなくていい。ここに住む全員のことを第一に考えてくれ。――俺はお前の出した決定に従う」


「フェイリア……」


 クジョウは真っ直ぐな目で俺を見つめた。


「行こうイズート。今日もエリカのことを頼む」


 今だ怒りが収まらない様子のイズートを連れ、俺達は御殿をあとにした。

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