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終末は二人で  作者: 一二三 五六七
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Memory28. 奇怪でも

 その場の誰もが喋ろうとはしなかった。


 時折吹き付ける強風が朽ちた天文台にぶつかり、まるで風化していく我が身を嘆くかのようにビュウビュウと音を立てる。


 荒涼としたこの場所で悲し気な音色に浸りながら、俺はローガンの思い出に心を重ねるように、初めて見る天文台へ思いを馳せていた。


 

「ローガン、エリカのことだが……」


 俺はゆっくりと話を切り出した。そして、ブルーレイクでの一部始終をローガンに伝えた。



 話しを終えるとローガンは深いため息をつき、自分のトラックの荷台に寄りかかった。


「……エリカを見かけたときは目を疑ったが、そういうことだったのか……これが神の導きってんなら、本気で神様ってヤツに感謝しねぇといけねぇな」


「同感だな」


 俺は人間の信仰する“神”という存在が今一つ理解できなかったが、ローガンがあの場所に居合わせた幸運が神とやらの采配であるならば、それがどんなモノであれ感謝せざるをえないと心から感じていた。


「――とにかく事情は分かった。エリカのことは俺に任せておけ」


 そう言うと、ローガンはエリカに笑顔を投げかけた。


 その笑顔に心地よい安堵感を覚えた俺は、神がどういった経緯でこの偶然を用意してくれたのかを知りたくなった。


「それで、ローガンはなぜあの場所に? 色々と事情があると言っていたが」


「あぁ、そうだったな」


 一瞬、ローガンは顔を曇らせると、改まった表情で俺の方を向いた。


「……フェイリア、俺はお前を追ってきたんだ」


「俺を? なぜ?」


「クラウスから聞いたよ。……お前、ノアが持ち出そうとしたイージス製のアンドロイドらしいな」


 俺は言葉を失った。


「あぁ、クラウスのヤツを恨むなよ。あいつは俺が事情を知っていると思い込んで口を滑らせただけなんだ」


「待ってくれ、その話はあくまで仮説の一つにすぎない」


「いや、事実だ」


「なぜ断定できる?クラウスが調べた限り、それを裏付けるような記録は見つからなかったはずだ」


「……確かにな。ノアがどうやってお前を社外に持ち出したのかは知らんが、全くうまくやったもんだ。さすがはゼネラルマシンズの諜報員といったところか」


 ローガンは再びトラックの荷台に寄りかかると、抜けるような青空を見上げた。


「調べてみたらな、まだソフトウェアがインストールされていない旧式のアンドロイド機体が倉庫から1体消えてたんだ」


「……どういうことだ?」


「部品をちょろまかしてアンドロイドを一体仕上げようにも、現行機は部品レベルで厳しく在庫管理がされてるからな。それで管理の甘い旧型の不良在庫を狙ったんだろう。それに完成品を丸々パクっちまえば、わざわざパーツをかき集める必要もねぇから一石二鳥ってわけだ」


 俺は複雑な思いを抱きながら淡々と語られる事実に聞き入った。


「後は盗んできた旧型の骨材をイージスに付け替えて、システムをインストールすれば一丁上がりってとこか。――正直、なぜノアがリスクを負ってまでアンドロイドを一体仕上げたのかは分からん。サンプルが必要なら骨の1本もあれば事足りたはずだしな……」


 そこまで話すとローガンは真剣な目で俺を見つめた。


「フェイリア、お前自分の骨を見たことがあるよな?――赤黒くて、金属というよりは宝石のような質感をしていなかったか?」


 その言葉に俺はジオとクジョウが交わしていた言葉を思い出していた。


「――心当たりがあるようだな」


 ローガンは再び天を仰いだ。


「それにな、通常のアンドロイドが至近距離から対アンドロイド用のピアシング弾を食らって無事でいられるわけがねぇだろ。胸部に余程分厚い装甲があるっていうなら話は別だが、とてもそうは見えねぇ――フェイリア、お前の体には間違いなくイージスが使われている。そして、俺は腐ってもファインメタルの研究室長だ。どんな理由があれイージスの流出を黙認する訳にはいかねぇ」


「俺は――どうなるんだ?」


「……本社に連れ帰り、イージス材を回収する」


「記憶も消されるのか?」


「あぁ、そうだ。だが、通常の骨材を使って必ず再起動させてやる」


「……記憶を消された時点で、それはもう俺ではない」


「……まぁな」


「ローガン、お前ならエリカを託しても大丈夫だろう。それは俺も信じている。だが、俺もおいそれと消されるわけにはいかない」


「どうしてだ?」


「エリカと共に生きる。そう決めたからだ」


「……そうか」


 ローガンは少し嬉しそうな顔をしながら目を伏せると、左手をズボンのポケットに入れた。


 次の瞬間、受信機が謎の外部信号を受信すると、俺が知りえない緊急メッセージが電脳内の回路を駆け巡った。


 俺の意思に関係なく謎の制御コードがジェネレーターに送信され、その後、何の通信も無いままジェネレーターはその出力を低下させていった。


 俺はすぐさま電力の供給先を緊急時用のバッテリーへと切り替え、少しでも消費電力を押さえるために頭部機能以外を低電力稼働へと移行させた。


(どうなっている……?)


 想定外の事態に俺は混乱した。


「……スーパーバイザ(特権)モードでジェネレーターの停止命令を送信した」


 うつむきながらローガンは静かに言った。


「フェイリア、お前はこれまで本当によくエリカを守ってくれた。どれだけ感謝の言葉を重ねても足りないくらいだ」

 

 会話の雰囲気に違和感を感じたエリカが心配そうに俺を覗き込んだ。


「フェイリア?」


 だが、今の俺はエリカを安心させるため、その頭を撫でることすらままならなかった。


「お前に一切の非がねぇことは分かってる。お前は企業間のつまらんいざこざに巻き込まれちまった被害者だ。……謝罪の言葉も見つからねぇ……」


「ローガン……」


「……許してもらえるとは思ってねぇ。最後の瞬間まで俺を恨み続けてくれ。――だが、エリカは俺が責任を持って守っていく。それだけは信じてくれ」


 悲痛な表情を浮かべながら、声を絞り出すようにローガンは言った。


 俺は彼を恨むつもりは無かった。ただ、仕方のないことなのだと考えた。


(エリカとの別れは受け入れがたいが、託せる相手がこの男ならば……エリカは大丈夫だろう)


 俺はエリカの顔を見つめると、笑顔で別れの言葉を伝えようとした。



「――あいつら、また来たみたいだよ」


 唐突にアクシアがローガンに告げた。


 下の道を見ると、ゼネラルマシンズの3体が乗ってきたものと同じ灰色のオフロード車が、この場所を目指して走ってくる様子が見えた。


「しつこい連中だ……」


 ローガンは灰色の車を眺めながら忌々しそうに言った。


「アクシア、フェイリアとエリカを白いトラックに乗せろ」


「はーい」


「ポンコツ共を始末したら出発だ」



 トラックの助手席に乗せられた俺は、顔だけを窓側に向け外の様子を眺めていた。


 ローガンとアクシアはトラックのそばを離れ、大男達を迎え撃つために円形広場の方へと向かっていた。


「フェイリア、どこか壊れちゃったの?」


 すぐ横に座るエリカが不安そうに話しかけた。


「……あぁ、……ちょっと体が動かなくなってな。心配するな、ローガンが直してくれる」


「そっか。じゃぁ、あのおじさんの家に行くの?」


「……そうかもしれないな」


「あのお姉さんも一緒かな?」


「どうだろうな」


「一緒だといいなー」


 そう言うと、エリカは俺の膝の上へじゃれつくように倒れ掛かった。


(どう伝えればエリカは納得してくれるだろうか?)


 俺は最良の言葉を探しながら、視線を再び窓の外に向けた。


 間もなくオフロードカーが高台の上に姿を現した。オフロードカーはアクシア達の前まで接近すると、目の前の2人とにらみ合うようにその場で停止した。


 フロントガラス越しに搭乗者を確認したとき、俺は目を見張った。運転席に座るその姿は明らかにあの大男ではなかったからだ。


 車のドアが開くと、中から酷く汚れた衣装を身につけた女性が姿を現した。


 車から下りたのはエデンだった。


「誰だ……お前?」


 アクシアの背後に控えていたローガンが怪訝な顔で問いかけた。


「NRNタイプ1B2-6.9.1。シリアルナンバー7」


 エデンに答える間を与えることなくアクシアが言った。


「どうやらニューロン社製の100系アンドロイドみたいだね。でもこの型式は……データベースから照合できないよ?」


「ニューロンだと?」


 ローガンは眉根を寄せながらつぶやいた。


「何で大崩壊前の軍事用アンドロイドが……100系ってことは汎用型CQC(近接戦闘)モデルか……ニューロンの100系は確か第7世代の170番台で打ち止めのはずだぞ。どういうことだ?」


「そんなこと知らないよ」


 エデンはローガン達のやり取りを気にすることもなく、アクシアに近寄り語りかけた。


「フェイリアはどこですか?」

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