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終末は二人で  作者: 一二三 五六七
1/32

Prologue.

 森林を裂くように伸びる朽ちた長い道。


 はるか昔にはこの道が都市と都市、人と人とを結ぶ重要な動脈となって、人間社会に血液とも言うべき何かを流し続けていたのだろうか?


 人間達の栄枯盛衰えいこせいすいを可視化したようなこの道で、俺は対峙する女性型アンドロイドに照準を合わせながら、どうやってこの場を切り抜けるかを考えていた。


 いくつかの案は即座に示された。俺一人だけならそう難しい問題ではない。


 しかし、“車内にいるエリカの無事を確保しながら”という条件が付加されただけで、全ての案は破綻する。


 俺のAI(自我)は導き出された数々の妙案全てを拒絶し、条件付きでの再検討を思考回路に要求した。


「そろそろ同行してもらえますか?」


 エデンと名乗る女性型アンドロイドが言った。


「お断りだ」


 俺が冷たく言い放つと、エデンは即座に腰元から銃を取り出し、表情1つ変えることなくトリガーを引いた。


 対アンドロイド用のピアシングガンは獰猛な咆哮を上げ、放たれた貫通弾が俺の右肩に襲いかかる。


 俺は上体を軽く動かして弾丸を避けた。そして、エデンのジェネレーター(動力源)が存在する胸に狙いを定めると、返礼代わりの弾丸を1発放った。


 それを見透かしていたかのようにエデンが射線上から体を引くと、目標を失った弾丸は緑の茂みへと消えていった。


 エデンはゆっくりと元の姿勢に戻ると、再び俺の顔へと視線を戻した。


「相変わらず、容赦ないですね――」


 俺はその言葉を聞き終わることなくエデンに向かって走り出した。


 アンドロイドを相手にこの距離から弾丸を打ち込んだところで、全てかわされてしまうことは火を見るよりも明らかだった。


 弾はあと2発。なんとかしてエデンに隙を作らせなければならない。


 エデンは距離を詰める俺に慌てる素振りも見せず、腰からもう1丁の拳銃を抜き放つと、2丁の銃で複数の部位を狙い始めた。


 連続する発砲音と共に多数の弾丸が俺を目掛けて飛来する。


 右肩と左膝、右膝と左肘、右肘と左(すね)……いや、足首。次々と射出される凶弾をかわしながら、俺はエデンまでの距離を縮めていった。


 両脚を狙った弾丸を避け、もう手が届きそうな場所まで接近すると、俺はエデンの胸に銃を突きつけた。しかし、トリガーを引く直前にエデンの右腕が一閃すると、伸ばした俺の腕は簡単に払いのけられてしまった。


 放たれた弾丸が森の中へと消えていく刹那、足元に照準を合わせるエデンの左手が俺の視界に映り込んだ。


 銃声と同時に右脚に衝撃が伝わる。


(撃たれた、いや……)


 俺は咄嗟とっさに膝を地につけた。


 放たれた銃弾は俺の右膝を捕えていたが、僅かに引いた足と丈夫な保護版のお陰で、弾丸は膝関節を破壊することなく保護板をえぐりながら地面へと撃ち込まれていた。


 片膝をつく俺をエデンは冷徹に見下ろし、勝ち誇ったように口を開いた。


「もう、逃げられませんよ」


 俺はエデンを睨みつけたが、すぐに視線を下ろし右手の銃を力なく落とした。


 エデンは俺が抵抗を諦めたと思ったのか、2丁の銃口を空へと向けると、これ以上攻撃の意思がないことを示した。


「――逃がしたほうが賢明だったな」


 俺は小さくつぶやいた。


 そして弾かれるように立ち上がると、体を密着させながらエデンの両手首をつかみ、両手に最大限の握力をかけた。


 特殊鋼でできた関節を握りつぶすことは容易ではないが、少しでも機能不全を引き起こせればそれで十分だった。


(だま)すなんて……ひどい人ですね」


 エデンが無表情に俺を見つめながらつぶやくと、握力を奪われた彼女の両手からは2丁の拳銃が滑るように落ちていった。


 俺は右手を離すと、すかさずエデンの腹部に貫手を放つ。それは服と有機質の皮膚を貫き、人工筋肉を裂きながら彼女の体内に深々と突き刺さった。


 傷口からは鮮血が逃げるように噴出し、地面を朱色に染めていく。しかしそれは有機部品の維持と人間の目を欺くために流れる血液であり、エデン本体に損傷を与える類のものではなかった。


 俺はそのまま力任せに腕を押し込み、やがて手の先は肋骨の内側にまで達した。


 エデンは不思議と抵抗する意思を見せず、ただ一言、「またやられてしまいました……」とささやいた。


 ジェネレーターに繋がる電力線の束を指先で確認すると、俺は一気にそれを引きちぎった。


 エデンはもたれかかりながら俺の体に体重を預けると、抱きつくように背中へと両腕を回した。


 俺は最後の悪足掻わるあがきに警戒したが、その後、エデンが動くことは無かった。



 体内から腕を引き抜きながら密着するエデンを押し退けると、支えを失った彼女は血溜まりの中へと自重に任せて倒れ込んでいった。


 抜き取った右手は血液でべっとりと濡れており、皮膚が所々擦り切れ、内部の骨格が露出していた。


 このままではエリカが怖がるだろうと思い、俺は倒れているエデンの服を少し破ると、止血帯代わりに手首へと巻き付けた。


 それからコートのポケットから黒い革手袋を取り出すと、損傷した右手に被せておいた。



「エリカ、もう出てきても大丈夫だ」


 背後に止まっている白のピックアップトラックに呼びかけると、助手席側のドアから小さな女の子がおずおずと姿を現した。


「……やっつけた?」


「ああ」


 エリカは俺の足元に倒れているエデンを確認すると、全力でこちらに駆け寄ってきた。


「死んじゃったの?」と、エリカが俺の脚にしがみつきながら言った。


 俺は回答に困った。こいつのジェネレーター自体はまだ機能している。だが動力線を復旧しない限りこいつが動くことはないだろう。


(これは死んだと言えるのだろうか?)


 理屈を重ねて説明したところで、今のエリカに理解できるとは思えない。


 俺は「眠っているだけだ」と答えた。


 エリカは血まみれで倒れるエデンを黙って見つめていた。


 こいつが動き出すことはもうないだろうが、数日もすれば新たなエデンが何事も無かったかのように俺達の前に現れるだろう。


 エデンとは自我であり、量産される彼女の機体全てが同一の記憶を共有している。


 つまり、どれだけこいつらを破壊しようとも、俺はエデンの追跡から逃れることはできない道理だ。


 それでも、一度機体の機能を停止させれば数日間はエデンの影に煩わされずにすむ。


 俺は落ちている銃から弾丸を回収すると、森の中の目に付き辛い場所にエデンの体を運んだ。



 後始末を終えると俺はエリカに声を掛け、トラックの方へと向かった。


「疲れてないか?」


 エリカに肉体的な疲労が無いことは分かっていた。どうしてこんな言葉が口をついて出たのかは分からない。


「へーき」


 少し後ろに離れていたエリカが駆け足で俺の横に並び、小さな右手で俺の左手をつかんでくる。


 俺はその手を握り潰さないように、しかし、しっかりと握り返した。


 エリカはうれしそうに笑っていた。



 俺はエリカと共にトラックへと乗り込むと、再び西に向かってアクセルを踏み込んだ。


 助手席に座るエリカは窓の外を流れる無数の木々を眺めながら、何かの歌を口ずさんでいるようだった。


 俺はこの子を守り続けると自分に誓っていた。しかし、なぜこの子の存在がこんなにも俺のAIに干渉してくるのだろう?


 答えが出せないまま保留し続けていた疑問に、俺は再び向き合ってみようと考えた。


 そのためには俺自身の成り立ちから思い出してみる必要がありそうだ。



 事の始まり、最古の記録は……

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