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第5話:エミリスタの選択

「……お、お主は! そ、そんな恥ずかしいことを、よくもぬけぬけと!」

「えっ? 恥ずかしいことかな? 僕はただ、一緒にいたいと思っただけなんだけど」


 僅かに頬を赤らめているエミリスタとは対照的に、ラクスはコテンと首を横に倒しながら疑問顔を浮かべている。


「……ん?」

「いや、エミリスタとなら気兼ねなく話もできて、力を取り戻したら再戦もできて、一緒にいる方がいいんじゃないかなって思ったんだけど?」

「……そ、それだけの理由、なのか?」

「それだけって、僕にとっては大事な理由なんだけど?」


 いたって真面目に答えているラクスだったが、エミリスタからすれば告白されたと勘違いしてしまったこともあり、直後には顔を真っ赤にして大声をあげた。


「~~!? ふ、ふざけるなよ、貴様ああああっ!!」

「えぇっ!? ど、どうして怒っているんだよ!」

「知らん! 自分の胸に手を当ててよく考えてみるんだな! ふんっ!」


 そう口にしながらそっぽを向いてしまったエミリスタを見て、ラクスはどうしたらいいのか分からず困惑してしまう。

 彼があたふたしているのを横目に見ていたエミリスタだったが、勇者に斬られてから今日に至るまでずっと一人だったこともあり、最終的には誰かと一緒にいたいという思いが勝ってしまった。


「……はあぁぁ~。分かった、一緒に行こう」

「……えぇっ!? い、いいのかい、エミリスタ!」

「いいも何も、そのためにここまで足を運んでくれたのだろう? そんなお主を無下に扱うわけにもいかんだろう」

「…………あ、ありがとう! 本当に嬉しいよ!」

「どわあっ!? は、離さんか、このバカ者!」


 エミリスタが認めてくれたことがよほど嬉しかったのか、ラクスは満面の笑みを浮かべながら彼女を抱きしめた。

 一度勘違いしてしまったからか、エミリスタはここでも顔を真っ赤にしていたが、今回は彼女があたふたする番だった。


「あはは、ごめんよ。でも、本当に嬉しかったんだ。ありがとう、エミリスタ」

「ふ、ふん! 我にとってもメリットがあるから受けてやるだけで、お主のためではないからな!」

「分かってるよ」


 柔和な笑みを浮かべたままのラクスを見ながら、エミリスタは自分の気持ちを落ち着かせるために別の話題を口にした。


「そ、それよりもだ。お主、大陸全土で指名手配されているのであろう? 大丈夫なのか?」

「まあ、逃げる分には問題ないけど、街で宿を借りたりとかはなるべく避けて移動していたかなぁ」

「どこか腰を落ち着けられる場所もないのか?」

「指名手配犯だよ? そんなところ、あると思うかい?」

「まあ、ないであろうなぁ。魔大陸もこのありさまだし、生き残っているだろう魔族も人族への憎悪を募らせていることだろう。はてさて、どうするべきか……」


 腕組みをしながら考え込んでいるエミリスタを見ながら、ラクスは今更ながらの質問を口にする。


「……なあ、エミリスタ」

「なんじゃ?」

「一緒に行ってくれると言ってくれたところであれなんだけど、魔王が英雄と一緒に行動してもいいのかい? さっきの話じゃないけど、生き残っている魔族もいるんだろう?」


 一緒に行こうと言ってくれたエミリスタの気持ちは嬉しいが、この提案はラクスの我がままのようなものだ。

 そんな彼の我がままのせいで、生き残っている魔族を蔑ろにしていいはずがない。

 彼女は魔王、魔族の王なのだ。


「実のところ、我は人族との争いに疲れておったのだ」

「あぁ、その気持ちは僕も分かる。どうして種族が違うだけでこうも争うのかなぁ」

「そうなのじゃよ! 魔族も人族も、手を取り合って生きていくことはできたはずであろう! それがどうしてここまで関係がこじれてしまったのか……いや、それも過ぎた話か」


 頭を抱えようとしたエミリスタだったが、今ではどうでもいい話かと自分の中で結論付けると上げかけた腕をそのまま下ろした。


「とにかく、我はこれ以上魔王という立場に縛られるのはごめんなのじゃ。故に、お主と共に行くことを選んだのじゃよ」

「そっか……うん、その方がいいよね」


 エミリスタの選択がとても嬉しく、ラクスは自然と笑みを浮かべていた。


「それとじゃな……我のエミリスタ・フォント・ダークという名前も、お主のラクス・マギラエンという名前も、あまりに有名になり過ぎておる。そこだけでも変えて行動するべきではないか?」

「名前を変えるのかい?」

「うむ。王都や大都市に向かうことはほぼないじゃろうが、もしかすると小さな村などには足を運ぶこともあるやもしれん。そこで警戒もせず本名を口にすることもないじゃろう」


 彼女の言葉に納得したラクスだったが、偽名など一度も考えたことがなかったせいもあり、新しい名前は何がいいかと本気で思案し始める。


「うーん、ラクス・マギラエンだから……ラクス……ラギス……マクス……マギス……マギスかな」

「決定が早くないかのう!?」

「こういうのはあまり悩み過ぎるのもよくないかなって」


 だが、一分もしないうちにあっさりと偽名が決まったことでエミリスタは驚きの声をあげた。


「エミリスタはエミリーでいいんじゃないかな?」

「ほとんど本名ではないか!」

「本名に近いからこそ、本人だとは思われないんじゃないかな?」


 そして、あまりに安直なエミリスタの偽名にも声を荒らげたのだが、ラクスは本気でそう思っているのか笑みを崩すことなくまっすぐに彼女を見つめていた。


「…………だぁ~、もう! それでいいのじゃ! 我は今日からエミリーじゃ!」

「ありがとう! それと、その喋り方も直した方がいいと思うよ?」

「喋り方は無理じゃ! 全く、提案しておいてなんじゃが、面倒な奴じゃのう、お主は!」


 こうして二人は名前を新たに、マギスとエミリーとして共に旅をすることになったのだった。

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