05
マリーは、勝ち誇って告げる。
「貴女の能力の弱点、それはね……いくら『相手の嫌いな物を作り出す』能力でも、『自分も嫌いな物は作れない』ってことなの。私、実はずっと不思議に思ってたのよ。貴女がどうして瑠衣の嫌いなカエルばっかり作って、私の嫌いなミミズは一度も作らないのかしら、って……。でもそれは、作らなかったんじゃなくて、作れなかったのね? それが、貴女にとって『どうにもできないくらいに怖い物』だったから……それを作ってしまったら、貴女もさっきの瑠衣みたいに恐怖で取り乱してしまうから……」
「そ、それは……」
うろたえているセーラ。その反応は、マリーの言葉が完全に図星で、正しいということを証明していた。しかし、それでも『悪役お嬢様』の二つ名を持つ彼女が、そう簡単に負けを認めるはずはなかった。
「そ、それが、どうしたっていうのよっ⁉ そんなことが分かったからって、この、無敵のワタシに勝ったことにはならないでしょう!」
そう言って、また自分の能力でカエル攻撃を繰り出そうとした。
しかし。
「瑠衣……この本を、あの子に思いっきり投げつけなさい」
マリーは落ち着いた様子で、さっき見つけた本棚の本を指差して、瑠衣に指示する。
「……⁉」
瑠衣は、その本を見て全てを理解する。そして「はいっ!」と大きな声で返事をして、その本……「ミミズの生態大解剖」という名前の図鑑を――フルカラーのミミズの写真が載ったページを開いて――セーラに投げつけた。
「うあぁぁぁぁーっ!」
「ひ、ひぃぃっ!」
マリーの淑女能力によって強化された右手で投げた図鑑は、ものすごいスピードで飛んでいく。自分の大嫌いなミミズの写真を見せられて体が硬直してしまっていたセーラには、それを避けることができない。ミミズの見開きページがセーラの顔を挟む形でクリーンヒットして、彼女を後ろに吹っ飛ばした。
「うげっ⁉」
「きゃんっ」
後方に吹き飛ばされたセーラはそばにいた小鳩も巻き込んで、図書室の壁に激突。そして、二人揃って気絶してしまった。
「あ、あわわわ……」
「え? え? こ、これって……」
自分たちの相手がノックダウンしている姿に、あっけにとられている瑠衣。そんな彼女に、マリーは微笑みかける。
「瑠衣……私たちが、勝ったのよ」
「か、勝った……? 私……たちが……? 小鳩ちゃんに……勝っ、た……?」
だんだん瑠衣にも、その実感が湧いてくる。
これまでさんざんクラスメイトたちに虐められ、弱さを思い知らされてきた自分が、その根本原因とも言える小鳩に、勝った。
もちろん。
自分一人では、どうやったってそんなことは出来なかっただろう。自分が小鳩に勝つ事ができたのは、マリーがいてくれたおかげだ。
「う、うう……ううう……マリー……さん……」
喜びと、感動と、その他のよく分からない複雑で強い感情がごちゃまぜになった瑠衣は、それに突き動かされるようにマリーに向かって走っていく。
「マ……マリーさぁーーーーんっ!」
そして、高ぶる感情のままに彼女に抱きつこうとした。
もちろんマリーも、それに対して応えるように……いつのまにか拾っていたらしいカエルの一匹を、駆け寄ってくる瑠衣の顔に向かって押し付けていた。
「う、うぎゃーっ⁉ ちょ、な、な、何するんですかぁーっ⁉」
顔に付着したカエルを必死に取り払おうとしている瑠衣に、マリーは高圧的に言う。
「貴女、何を勘違いしているの? 私は、貴女の主の淑女。貴女は、私のメイドに過ぎないのよ? 立場をわきまえなさい!」
「そ、そんな……マリーさん? わ、私はただ……」
「それから、戦闘中はそれどころじゃなかったから指摘出来なくて、ずっとイライラしていたのだけど……『マリーさん』じゃなくて『マリー様』、でしょう? 貴女、この私のメイドのくせに、敬語もまともに使えないの?」
「え? え? だ、だって、小鳩ちゃんなんて、自分のお嬢様のことを『セーラちゃん』とか言ってたし……『マリーさん』くらいは、別に……」
「よそはよそ! 私は私よっ!」
「え、えぇぇぇぇ……」
マリーの態度には慣れてきたつもりの瑠衣だったが……改めて、彼女のその傍若無人さを思い知らされる。ただ、それに対する怒りや戸惑いは、もうとっくになくなっている。あるのは、あまりに自分とはかけ離れた彼女に対する呆れ、そして……そんな彼女に不思議と惹かれてしまっている気持ちだった。
そんなわけで。
何の変哲もない普通の女子高生だったはずの古本瑠衣は、マリーと契約したことで彼女――『傲慢お嬢様』――のメイドとして、それからも様々なお嬢様たちとの戦いに巻き込まれていくことになるのだが…………そのときの彼女が、まだそれを理解しているはずもないのだった。