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04

 ……。


「あ、あれ……?」


 『契約』を完了し、マリーと瑠衣は正式な淑女とメイドになった。つまり、敵お嬢様のセーラと同じように、マリーも何らかの『淑女(レイディ)能力』を使えるようになったということだ。

 しかし、どれだけ待っていても周囲に何の変化も起こらなかったので、瑠衣は少し拍子抜けしてしまった。


「え、えと……マリーさん? ど、どうしたんですか? 私たち、さっき『契約』して……不思議な能力を使えるようになったんじゃ……なかったでしたっけ? これから、二人のお嬢様たちの、本格的な異能力バトルが始まるんじゃあ……?」

「ええ」

 マリーは、何でもない様子で答える。

「私、もう能力は使ったわ。瑠衣、自分の右手を見てみなさい」

「え? 右手……って? ふ、ふわぁ⁉」

 それまで周囲ばかり見ていたせいで、気づかなかったのだ。瑠衣はそこで初めて自分の姿を見て、ようやく「自分の身に起きていた変化」に気付いた。

 いつもどおりの自分の学生服の長袖の右腕が、手元から肩にかけて引きちぎれてボロボロになっている。さらには、その結果露出してしまった自分の肌の周囲を、紫色のオーラのような光が包み込んでいたのだった。


「ええええぇぇぇー⁉」

 驚きで絶叫する瑠衣。マリーは、そんな彼女の姿に対してやはり何でもない様子だ。

「『自分のメイドに力を与える』能力……名前は『極上の使用人(メイド・イン・ヘブン)』。……それが、さっきの『契約』によって使えるようになった私の淑女(レイディ)能力らしいわね。つまり、貴女の右手は今、私の能力によって強化されたのよ」

 頭の中に浮かんでいる文字を読むかのように、そんなことをつぶやくマリー。淑女が淑女能力に目覚めると、その名前や使い方が自動的に分かるというルールなのだろう。

「こ、このオーラみたいなものが、マリーさんの、能力……? わ、私が、強化された……? そ、そ、そ、そんなこと言われたって……」

 すぐには信じられない瑠衣。特に深く考えもせずに、すぐ近くの図書室の壁に向けてオーラに包まれた右手を軽く突き出してみた。

 次の瞬間……。


 ガッシャーンッ!

 瑠衣の右手が振れた頑丈そうなコンクリート壁が、まるでサクサクのビスケットを叩いたかのように崩れ落ちてしまった。


「す、すごい……」

 その現実味のない光景に、瑠衣は興奮した様子でマリーのもとに駆け寄った。

「す、すごいですよっ、この力! 普段はザコザコな私が、こんな力を手に入れることが出来るなんて……! こ、これが、マリーさんの能力なんですねっ⁉ 本当に、すごいですっ!」

「ええ、そうなの。私って、本当にすごいのよ。覚えておいてね?」

 あまりにも偉そうなマリーの言葉も、今の瑠衣には気にならない。

「ほ、本当に、すごいですっ! マリーさんにこんな力が加われば、もう怖い物なしですねっ⁉ いやー、良かったです。安心しました! ……じゃ、じゃあ、いつまでも私が持っていてもしょうがないですし。このすごい力は、マリーさんにお返ししますので。どうぞどうぞ、あとはお嬢様お二人でバトルでもなんでも……へ、へへへ」

 と、下っ端感まるだしで、紫色のオーラをまとう自分の右手をマリーに差し出す。

 しかしマリーはそんな瑠衣に、こう言った。

「あら、何言ってるの? 貴女が戦うのよ?」

「へ?」

 その言葉の意味が分からず、キョトンとする瑠衣。

 一方のマリーには、全く迷いはない。セーラたちの方をビシィッと指さして、こう宣言した。

「さあ、瑠衣! 私が与えたその力で、あの子たちを打ちのめしなさいっ!」

「い、いやいやいやいやっ! 何でそうなるんですかっ⁉ これは、お嬢様たちの戦いですよねっ⁉ だから、マリーさんが自分を強化して……」

「それはできないわ。私の能力は、あくまでも自分のメイドを強化するだけ。自分を強化することはできないの。でもまあ、それは何も問題ないわね。だって、そもそも戦闘なんて野蛮な行為は、貴女たちのような下々(しもじも)の者の仕事なのだから。高貴な私は、貴女たちの醜い争いを高みの見物しているのが性に合っているわ。……さあ、分かったら瑠衣、いつまでもグズグズしてないで、さっさと行きなさいっ! 貴女は私のメイドなんだから、私が命令したら電光石火の速さでそれに従ってればいいのよ!」

「だ、だから無理ですってばっ! そんな、漫画やアニメの使い魔とか召喚モンスターじゃないんだから、戦いとかやったことのない私が、言われたからって『はいそーですか』って、すぐに動けるわけが……」

「瑠衣、十万ボルトよっ!」

「いや、そんなの出ませんよっ⁉ 私、どこぞの電気ネズミですかっ⁉」


 と、二人が妙な漫才をしていたところで、

「はあ、何よそれ? 『メイドを強化する』だけ? ……ふんっ、とんだザコ能力じゃないの! 驚いて損したわっ!」

 敵お嬢様のセーラが、また能力でカエルを作り出して、瑠衣を攻撃してきた。


 ケロケロ……。


「ひ、ひぃっ⁉」

 それに気づくなり、すぐさま近くの本棚の後ろに隠れてしまう瑠衣。そのブザマな姿はさっきまでと全く同じで、マリーの能力で強化されていることなんて、まるで関係ない。

「あ、こら、瑠衣! 貴女ねっ⁉」

 マリーは、また自分たちに向かってくるカエルたちを蹴散らしながらも、そんな情けない瑠衣を叱咤する。

「せっかく私が与えてあげた力を、無駄にするつもり⁉ そんなところで隠れてないで、早くその力を使って……」

「む、無理ですよぉっ!」

 しかし、瑠衣は動けない。

「や、やっぱり、怖い物は怖いですよっ! ど、どれだけ、すごい力があっても……どれだけ、お嬢様を守りたいって思いがあっても……」

「……瑠衣」

 泣き顔で、大きく首を振っている瑠衣。

「誰にだって、苦手な物が……どうにもできないくらいに怖い物があるんですからぁっ!」

 彼女はそう叫んで、あとはしゃがみこんで小さくなってしまった。

「オーッホッホッホ! やっぱりその程度の能力じゃあ、このワタシの足元にも及ばなかったわねっ!」


 しかし、そこで……。


「ああ、そうか……」

 マリーの表情が、変わった。

「最強のワタシに目をつけられたことが、アンタたちの運のツキだったわねっ! オーッホッホッホッホーッ!」

 二人の様子に勝利を確信したセーラは相変わらずの残念な高笑いを続けつつ、また能力で次々とカエルを作り出している。

「ふ、ふふ……そう、よね。そうだったのよね……」

 そんなセーラのことも。周囲を飛び回るカエルたちのことも、もうマリーは気にしていない。

 マイペースに、自分の周囲に並ぶ図書室の本棚を見回して……すぐ近くにちょうど自分の目当ての本(・・・・・)を見つけて、また「ふふふ……」と妖しく微笑んだ。


「瑠衣、もう大丈夫よ」

「え……?」

 主の言葉に、震えていた瑠衣が顔をあげる。

「そろそろ、この戦いを終わりにできそうだってこと」

「マ、マリー……さん?」

「オーッホッホッホッホーッ! やっと、諦める気になったってことねー⁉」

「え、降参? 降参するのー?」

 騒ぎ立てる敵ペアのセーラと小鳩。そんな彼女たちを、哀れむような表情で見下すマリー。

「降参? いいえ、違うわ。貴女たちを倒す、算段がついたって言ってるのよ。だって私、さっきの瑠衣の言葉で気付いちゃったんだもの……貴女の能力の、弱点に」

「は、はあっ、弱点⁉ そ、そんなものがこの無敵のワタシにあるはずが……」

 反論しようとするセーラを遮り、彼女はそこで、自信たっぷりに宣言した。

「仕方ないわね。まだ分からないのなら、教えてあげるわ。……さあ、答え合わせ(クライマックス)の時間よ」


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